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13章

仲間へ

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 治療後、マリアは村長に「体力が戻るまでは、少し時間がかかるので、無理はせず身体を休めて下さい」と告げ、村長の家を後にし、ハヤトと二人で、ハヤトの家に向かっていた。

 村長の家を出てすぐ、ハヤトはマリアに先程の魔法に付いて尋ねる。

「なぁマリア、さっきの魔法って結構高度な魔法なのか? マリアはハイプリースト以上の称号を持っているのか?」

 当然の質問である。

 エルマの司祭が治せなかった村長の傷を1回の魔法で治してしまったのだから。

 ただ村長が、治療費の関係で高度な魔法治療を受けれなかった可能性も否定は出来ないが……

「そうですね。良い機会ですので、私の事を少しだけお話します」

「わかった。じゃあ家に着いてから聞こう」

「はい」

 そして、ハヤトの家に着いた2人は扉を開けて中に入る。

 元々、何もなかった部屋ではあるが、埃など溜まっておらず綺麗に掃除されていた。

「誰かが掃除してくれていたのかも……やっぱりポーラおばさんかな」

 ハヤトはポーラに感謝しつつ、部屋の隅に荷物を置き、真ん中に置いているテーブルの椅子に座り、立ったままのマリアにも同じテーブルの椅子に座るように促す。

「さて、さっきの続きを聞こうか」

「はい。まず、私には職業による称号はありません」

 ハヤトは少し驚いた。自分の様に突然この世界に飛ばされた者ならいざ知らず、元々この世界の住人であるマリアに職業による称号が無いなど普通は考えられないからだ。

 だが、その理由はこれからの話で語られることになる。

「私は幼い頃、馬車で移動中に盗賊達に襲われ、両親と妹を殺されました。
 運が良かったのか、生き残った私は町へ帰る為に森の街道を彷徨っていた時、レギオンに会い『仇を討たせてやる』と唆され、言われるままにサークレットを嵌め、そのままイーブス教徒になる為、教団の訓練施設の様な場所へ連れて行かれました。
 ですが、それ以降の記憶はほとんどなく、怒りと憎しみに支配され、ただ自分が何の罪もない人々を苦しめていたと言う事実しか認識していません……本当に罪深い事をしてしまいました……」

 マリアは目に涙を溜め、顔がみるみる曇って行く。

「なるほど、幼い頃から教団に居たせいで職業には着いていなかったのか。マリア、辛い事を思い出させてしまってすまない……」
 
 ハヤトは、そっとマリアの肩に手を掛ける。

「いえ、例えどんな理由であれ、無関係の人を巻き込んだ事実は変わりません。ですので、必ず罪は償います。償いきれるかは分かりませんが、その為にハヤト様に着いて来ているのですから……助けを求めている人がいるなら、私は私の力で出来る限り助けたいと思っています」

 涙を拭った瞳には強い意志が感じられる。

 ハヤトは、そんなマリアを見て、自分も出来るだけ力になろうと決心した。

「それから、先程村長様に対して使った魔法は回復魔法の1つで上位の治療魔法です。私の得意とする魔法の1つですが、未熟なせいも有り、それ程多用は出来ません。恐らく1日に数回程度です。それと、攻撃魔法ですが、こちらもある程度は使えますが、サークレットの魔力が無いので、あの時の様な威力は出せません……」

 もちろん、マリアの言う「あの時」とは、ハヤトと闘った時の事である。

「そうか、だがそれ程の魔法なら、これから出会う沢山の人を助ける事が出来るな。マリア頼りにしているぞ」

「はい! 精一杯頑張ります」

 マリアは何時もの顔に戻り、笑顔で返事をする。

「さあ、マリアそろそろ夕飯の支度をするか」

 日も傾いてきた為、2人は夕飯の準備に取り掛かる。

 ホルト村は人口250人程の村の為、簡素な宿屋と一軒の雑貨屋的な店があるだけで、レストランの様な店は無い。

 当然、宿屋に泊まれば夜と朝の食事は用意されるが、ハヤト達は、ハヤトの家に泊まる為、食事も自分達で用意しなくてはならない。

 そして、ハヤトがホルト村の主食であるパンを買いに行く為、家を出ようとしたその時。

 コンコンと扉を叩く音がして聞き慣れた声が聞こえる。

「ハヤト、マリアさん居るかい?私だよ、ポーラだよ。」

「ポーラおばさん? 今開けます」

 ハヤトは、村長に何かあったのかと心配になり、慌てて扉を開けると、そこには暖かそうな鍋と焼きたてのパンの入った籠を持ったポーラが立っている。

「ハヤト、マリアさん。さっきはありがとうね。これは細やかだけどお礼だよ。食べておくれ。本当は、一緒に食べたかったんだけど、主人がまだ起きれないからね~」

 村長は、容態こそ回復しているようだが、やはりまだ、起き上がる事が出来ないようで、また眠っているとの事だ。

「良いんですよ。おじさんが元気になってくれて本当に良かったです。おばさんも看病で疲れたでしょう。ゆっくりと休んで下さい。けど、この晩御飯は助かります。ありがとう!」

 そう言って、籠と鍋を受け取る。

「マリア、おばさんがパンとスープを持って来てくれたぞ」

 火を起こす為、竃の前で薪をくべていたマリアが、慌ててハヤトの側へやって来て、ポーラに感謝を述べる。

「おば様、ありがとうございます……良い匂い」

 マリアは、ハヤトから焼きたてのパンと鍋を受け取ると、スープが、冷めないよう、竃へと持って行く。

「ハヤト、綺麗で気立ての良いお嬢さんじゃないか。大事にしてあげなさいよ! じゃあね」

 ポーラはそう言うと、ハヤトの肩をポンポンと叩き、家を後にした。そしてハヤトまた、もその後ろ姿を見送りながら苦笑いをするのであった。

 ハヤトが部屋に顔を向けると、テーブルの上には既に先程貰ったパンとスープが用意されており、良い匂いが漂っている。

「マリア……オレ達はパーティーを組んでもう10日だよな? 流石にもう良いんじゃないか?」

 そう、テーブルの上に用意されている食事は1人分で、マリアは未だにハヤトの許可が無ければ、同じテーブルに座って食事をしようとはしない。これは、町のレストラン等でも同じである。徹底的に下僕なのだ。

「私は、ハヤト様の下僕です。お許しも出ていないのに、主と同じテーブルで食事を摂ることなど許されません」
 
「そうだ! マリア……マリアが今日助けてくれた村長は、オレがこの世界に来て1番世話になった人達で、言わばオレの親も同然だ。そんな人達を助けてくれたマリアには、大きな借りがてきた。これからは、マリアは下僕では無く、仲間として接する。だから、マリアもオレを仲間と思って行動してくれ」

「ですが……」

 マリアがまだ、納得していないようで、困惑した顔をする。

「マリア、命令だ」

「……分かりました……そこまで仰るなら……では、これから私は、仲間としてハヤト様に付き従います」

 何か違うような気もするが、取り敢えずハヤトもマリアも折り合いを付け、二人で食事をとる。

 

 そして、食事を終えマリアは後片付けを終わらせたが、ここで大きな? 問題が生じる。そう、ベッドが1つしかないのだ。だが、当然ここは男であるハヤトが床で寝て、ベッドはマリアに譲ろうとする……が、またここで一悶着始まる。

「マリアはベッドで寝てくれ。オレはここに藁を引いて寝るから」

 そう言って、ハヤトは藁を取りに外へ出ようとすると、マリアが慌てた様子でハヤトを引き止める。

「お待ち下さいハヤト様! ベッドはハヤト様がお使い下さい。私が床で休みますので」

「イヤイヤ、何言ってんだ。こう言う時は女がベッドで、男が床って決まってるんだよ」

「そんな決まりはありません!」

 もちろん、そんな決まりは無い……がハヤトは男として、野宿でも無いのに、女性を床に寝かすなどあり得ないと思っている。

 また、マリアはマリアで、いくら下僕ではなくなったと言っても、命の恩人であり、敬愛する主を床に寝かすなど、この世界の女としては絶対に許容出来ないのである。

 頑として言う事を聞かないマリアに、ハヤトは伝家の宝刀を切る。

「マリア、

 しかし、マリアも負けてはいない。

 「ハヤト様、私はもうハヤト様の下僕ではありませんので、その様な命令には従えません!」

「ムムム…………」

 返す言葉がない……こんな事なら下僕のままにしとけば良かったと、ハヤトは早速、後悔したがこんな事で何時迄もいがみ合っていても仕方がないので、ハヤトはマリアに告げる。

「わかった。じゃあオレは村長の家に泊めてもらうから、マリアはベッドで寝るんだぞ」

 そう言って、マリアの返事を待たずにハヤトは家を出た。

「ハヤト様!」

 扉の向こうからマリアの声が聞こえたが、ハヤトは聞こえないフリをしてそのまま薄暗くなってきた道を村長の家に向かって歩いた。

「まったく! 何なんだよ、マリアのヤツ…………けど初めてだな、マリアとケンカするのは……」

 ちょっと腹が立つ様な、何となく嬉しい様な複雑な感情を抱えたまま、村長の家の前に着き、ハヤトは扉をノックする。

「こんばんは」

「はーい どちら様」

 中からポーラの声が聞こえる。

「ハヤトです」

「はいはい、今開けるよ」

 扉が開くと、食事の後片付けをしていたのか、腕捲りをして腰の布で手を拭きながら、ポーラが出て来た。

「どうしたんだい?」

 ポーラはハヤトに問いかける。

「すいません。今夜だけ泊めてもらう事は出来ますか?」

 ポーラはキョトンとした顔でハヤトを見る。

「泊めるのは構わないけど……何でだい? ケンカでもしたのかい?」

「いえ、そう言う訳ではありませんが…。」
 
「まったく……仕方がないわね~、お入り」
 
「すいません……」

 ハヤトは、マリアの事が気がかりだったが、流石にマリアを床で寝かせるわけにもいかず、また年頃の女性と一晩同じ部屋で過ごすのもマズイと思ったのである。

(野宿なら何も思わないんだけどなぁ)

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