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5章
作戦前日
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モンスター討伐作戦の前日、ランジに紹介された宿屋で朝早く目覚めたハヤトは、早朝の街をブラブラと歩いて考え事をしていた。
「明日の夕方前には、被害の多く出ている町の東側の街道を、王都ファーランに向かって1時間程進む予定か……大丈夫かな……オレはちゃんと戦えるのかな……」
ハヤトの記憶だけであった頃は、ゴブリンやコボルドと戦っても、恐怖や不安など微塵も感じなかった。
だが、伊勢隼人の記憶が思い出されてからは、不安と恐怖を感じる。ハヤトとしての記憶もある為、戦い方が解らない訳ではないのに。理由はひとえに、現代人故にだろう。
そう、現代の日本人は剣を持って戦う事など無いし生き物を殺す事もないからだ、もちろん、虫などは別だが。
「記憶の中にある戦い方通りやれば、きっと大丈夫なはずだ……そうだ、まずは戦い方の復習をしておこう!魔法?らしき物の使い方は解る、威力や効果範囲も……けど、実際に使って見ないと、伊勢隼人の方では初めての経験だからな……訓練所みたいな物はあるのかな?けど、まだ時間が早いのか……仕方ない、一度宿屋に戻って朝ご飯を食べてからにするか」
そう呟くと、ハヤトは自分が泊まっていた宿に戻る。そして、宿屋の主人に話をし、コインを一枚受け取ってハヤトは向かいにある食堂へと向かった。このコイン(食事が無料になるコイン)もギルドの特別依頼を受けた者のみに用意される細やかな特権の一つである。
道を挟んでギルドの前に建つ食堂に向かい店の中に入ると、これから冒険に向かうであろ何組かのパーティーがテーブルを囲んで朝食をとっている。その中にブルームーンのパーティーがいることに気付いた。
「やあ、おはようございます。貴方は……確かハヤトさん……でしたよね?」
そう言ってブルームーンのリーダー、ハリルが話し掛けてきた。
「ああ、おはようございます」
笑顔が爽やかな、好青年だ。
「ハヤトさんは、一人なのにブロンズランクなんですね。と言う事は実力はシルバーランクに匹敵かも知れませんね。」
「そうなんですかね? オレはホルト村からエルマの町までしか行動した事がないので、自分の実力が冒険者として、どの位なのか分からないんですよ。こうして、他の冒険者の方達とも仕事をした事がないですし」
「そうなんですか。私達は、これから町にある兵士訓練所に行って戦闘時の模擬訓練を行おうと思っていますが、ハヤトさんも一緒にどうですか? モンスターの群れが来た時にドラゴンファングの加勢に共に向かう事になっていますから、ある程度、お互いの実力を知っておくためにも良いと思うのですが」
「良いんですか!もちろんご一緒させて下さい」
ハヤトは、自分も訓練所に行きたいと思っていた為、ハリルの提案を快諾した。
食事を済ませた後、ブルームーンのメンバー四人と一緒に町にある兵士訓練所に赴き、係員に訓練をしたいと話して訓練場の一画を借りる。
「ハリルさん、少しだけ時間を下さい。ちょっと確認したい事があるので……」
「わかりました。では、我々はあちらで訓練を始めていますので」
「了解です」
ハリル達が、離れるのを確認してハヤトは、まずは自分の剣を確認する。
ハヤトの時には気にならなかったが、結構凹みがあり、刃こぼれもしている。
「あんまり良くはないか……まぁこう言う西洋風の剣は、切ると言うより殴りつけると言った方が良いくらいの物だから……まーこんなもんか……」
ハヤトは取り敢えず納得する。それよりも今、一番大事なのは魔法(らしき力)である。
使い方は解っているのだが、理解が出来ない。そして、ハヤトの記憶では、魔法を使う時に、心の声のような物が聞こえるという事が解っている。
「まずは試してみるか……」
そう言って、人のいない方へ手の平を向け、魔法を発動する時、ハヤトが言っていた言葉を発する。
「ファイア」
「ピピピ…手のひらにて炎を生成…発動します」
そう声が聞こえた瞬間……手のひらから炎がほとばしり、前面の壁が燃え上がった為、ハヤトは驚愕する。
「どう言う事だよこれは……」
声の主は解った……それ自体には特に疑問を感じない……声の正体は「AI搭載型医療用ナノマシンによる骨伝導音声」だからだ……だが、医療用ナノマシンに炎を生成する機能なんて無いはずだし、そんな機能があるなんて事も聞いた事が無い。
「どう言う事だ! SEL-A(セラ)!」
ハヤトはAIに登録している名前を小声で呼んだ。
そして、脳に直接声が聞こえる。
「はい。事故後、直ちに自己スキャンを開始しましたが、医療機能の制御に障害が発生していました。それと同時に、隼人様の身体スキャンを実施したところ、右腕上腕部からの切断と下半身下部に重度の火傷及び、右足の粉砕骨折が見られました。
その為、隼人様の生命維持が必要であると判断し、緊急再起動を実施。医療機能の制御に障害があるまま再起動を実施した為、制御機能が完全に消滅し本来、医療用AIの能力上限として設定されている0.2%の制限がデリート、現在は隼人様の任意で私のスペックの最大40%まで機能を使用できるように変更しています」
「制御機能が完全に消滅? いや、制御機能が消滅したってのは解ったけど、どうして炎が出せるんだよ?」
ハヤトが、さらに問いかける。
「隼人様の身体再生時に、周りにあった鉱石や植物を分子分解し、使用したところ、鉱石の中に異常な成分を検知しましたが、分析の結果、有害では無いと判断した為、身体再生に使用しました。その後の身体スキャンで、その鉱石がこちらでは、最も希少価値の高い鉱石(フレアライト)を微量に含んでいる事が判明、そのフレアライトのみを抽出し、それを踏まえて分析するも、さらに解析不能の成分を含有している事が解りました。そのなんらかの成分が作用し、体内で炎・水・電気を作り出す事が可能になりました」
「なんだか解らない物を取り込むなよ…………まーけど、それが魔法の正体か……
確か、村長がオレを最初に発見した場所は雷王様の洞窟だって言ってたけど、それに何か関係してるのか……この世界じゃ魔法が普通に使えるようだから、魔力を帯びた鉱石や、植物だったのかも知れないな……」
ハヤトは一人で壁の方を向いてぶつぶつと何かを呟いている。
地球では、こんな奴はただのアブナイ奴だが、こっちの世界では魔法の詠唱でもしているのかと思われる為、特に気にされない。
「セラ、通常0.2%しか使っていなかった機能って事だけど、さっきの炎はどの位の能力を使ったんだ?」
誰でも気になる部分だろう。ハヤトがセラに問い掛ける。
「先程の炎程度では、通常能力の範囲内です。」
「えっ! そうなの? じゃあ40%の能力で炎の力を使ったら、どの位の威力になるんだ?」
「40%の能力で発動した場合、直径数十メートル程の火球が生成されます」
「数十メートル! ってそんな大きさの火の玉が出来たら、オレ自身もタダではすまないじゃないか!」
「大丈夫です。火球を生成したと同時にハヤト様を守る為、電気による磁場を生成し、輻射熱を火球側へ送り返し、その風を利用して火球を移動させています」
「なるほど……」
よく解らないが、取り敢えずは大丈夫なんだろう……
「他にはどんな事が出来るんだ?」
「はい、炎の他に電気を生成出来ることから、電気を収束させ、荷電粒子砲を撃つ事が出来ます。それ以外にも、生成した水の周りに磁場を作ることにより、水球や水温調節によって発生する竜巻、電気の出力を上げ、雷に匹敵する程の電気を作り出す事も可能です。それ以外では、もともとの能力も高める事が可能です」
「荷電粒子砲って……マジか……で、もともとの能力強化って……例えば?」
「治癒能力や、身体強化能力です」
ハヤトは、以前トロールを真っ二つにした事を思い出した。
「要するに科学の力でとんでもない事が出来るって事か。……治癒能力も、身体能力も40%増しまでいけるのか?」
「いいえ、少し違います。40%と言うのは私の機能の40%です。ですので、40%の機能を使用した場合、隼人様の治癒能力と身体能力は、通常時の20倍程度になると思われます」
「治癒能力ってのはピンとこないけど、身体能力が20倍か……凄いな……」
とその時
「ハヤトさん、どうかしたのですか? 大丈夫ですか?」
ハリルが心配そうに話し掛けてきたので、ハヤトは慌てて返事をする。
「あ! すいません大丈夫です。少し考え事をしていて……」
「そうでしたか。では、打ち合わせをしましょう」
そう言われて、ハリル達ブルームーンのメンバーと突入時の配置や、お互いのカバー等を確認しあった。
「ハヤトさん、そろそろ切り上げて昼食にしましょう」
いつのまにか、太陽が真上に来ている。
「そうですね、分かりました」
そう言って5人は朝食を食べた、宿屋前の食堂に戻った。
「いや~やはりハヤトさんは凄いですね。魔法も使えるのに剣術も相当な腕前、驚きました……そして、心強いです。ゴールドランクのゴールドクロウとハヤトさんがいれば、きっと勝てます」
「ありがとうございます。明日は力を合わせて頑張りましょう」
そう言って、ハヤトはブルームーンのメンバーと別れ、武器や防具を取り扱っている、店へと向かった。
武器を買い換える事にしたのだ。
今、使っている両刃の剣は、ここのギルドに冒険者として、登録しにきた日に購入した安価な鉄製の剣で凹みや刃こぼれが深刻な状態まで来ている。
それ以上に、伊勢隼人の記憶が戻った事が、大きな理由だ。
セラの機能の理解によって能力の強化をした時に、この剣では保たないと思ったからである。
「切れて、突ける様な剣はないかな……できれば日本刀の様な刀がいいんだけど。以前来た時は日本の記憶が無かったから、大量生産されて比較的に安い鉄製のこの剣を買ったけど、この一カ月冒険者として稼いだ資金もある程度あるし、ちゃんとした武器を見るか」
武具屋に着いて、店の中を見回すと、それ程品揃えが多い訳ではないが以外に良さそうな武器や防具も置かれている。
「いらっしゃいませ~」
女性の愛想の良い声が奥から聞こえる。
「ゆっくり見てって下さいな」
「ありがとう」
そう言ってハヤトは、武器を選び出す。
「一番高価な武器で、金貨50枚か……」
今、ハヤトの全財産は、今回の依頼の前払い金の金貨5枚、もともと持っていた金貨5枚と銀貨1枚、銅貨5枚。
詳しい貨幣価値は分からないが、おおよそ、日本円に直すと金貨一枚が一万円、銀貨一枚が千円、銅貨一枚が百円程度と思って貰えれば大体の想像がつくだろう。
一カ月程、ギルドの仕事をしてきたが、それ程使えるお金が無いのだ。
理由は簡単である、村での生活費で消費した事と、何より受けた依頼の報酬が安いのである。
「当然か~、村と町の間で、警備補助とスライムなんかの低級モンスターと鹿や猪みたいな獣しか討伐してこなかったからな~ ……どうしようか……生活費も残しておかないといけないから、使えるのは金貨5枚位かなぁ」
「色んな武器があるけど、方刃の剣はやはり、シミターのような物しか無いな…これじゃ、切ることは出来ても突く事ができないか……」
「何をお探しですか?」
「あー武器を見に来たんですが……」
「どんな武器ですか?」
「えーっと、簡単に言うとシミターのような方刃の剣なんですが、細身で切って突く事も出来るような物を探してるんですよ。」
「うーんウチの店にあるシミターは切る事は出来ても、突くと言う使い方はね~…レイピアは刺突武器だけど、切ることはできないし…」
そう、どれを見ても切る事を重視されている為、薄いのだ。
これでは、剣による防御ができない。
けれどこの世界では、片手剣は基本的に盾と併用するものだからそれが当たり前なのだろう。
「お客さん、どうしますか?物にもよりますが、作る事も出来ますよ?」
「金貨5枚位で作れますか?」
「そうですねぇ、鉄製ならば金貨5枚以内で作りますよ」
「じゃあ、形を説明しますので、お願いします」
ハヤトは、刀の形を羊皮紙に描き詳しく説明したが、その間、店員の女性は刀の形に感心していた。
「では、7日程かかりますが大丈夫ですか?」
「分かりました、お願いします」
そう言ってハヤトは店を後にした。
「じゃあ、あと7日はこの剣をもたさないとなぁ……明日は、討伐作戦なのに大丈夫かな…………」
そんな事を考えながら、日の傾いた町中を宿屋に向かって歩いた。
「明日の夕方前には、被害の多く出ている町の東側の街道を、王都ファーランに向かって1時間程進む予定か……大丈夫かな……オレはちゃんと戦えるのかな……」
ハヤトの記憶だけであった頃は、ゴブリンやコボルドと戦っても、恐怖や不安など微塵も感じなかった。
だが、伊勢隼人の記憶が思い出されてからは、不安と恐怖を感じる。ハヤトとしての記憶もある為、戦い方が解らない訳ではないのに。理由はひとえに、現代人故にだろう。
そう、現代の日本人は剣を持って戦う事など無いし生き物を殺す事もないからだ、もちろん、虫などは別だが。
「記憶の中にある戦い方通りやれば、きっと大丈夫なはずだ……そうだ、まずは戦い方の復習をしておこう!魔法?らしき物の使い方は解る、威力や効果範囲も……けど、実際に使って見ないと、伊勢隼人の方では初めての経験だからな……訓練所みたいな物はあるのかな?けど、まだ時間が早いのか……仕方ない、一度宿屋に戻って朝ご飯を食べてからにするか」
そう呟くと、ハヤトは自分が泊まっていた宿に戻る。そして、宿屋の主人に話をし、コインを一枚受け取ってハヤトは向かいにある食堂へと向かった。このコイン(食事が無料になるコイン)もギルドの特別依頼を受けた者のみに用意される細やかな特権の一つである。
道を挟んでギルドの前に建つ食堂に向かい店の中に入ると、これから冒険に向かうであろ何組かのパーティーがテーブルを囲んで朝食をとっている。その中にブルームーンのパーティーがいることに気付いた。
「やあ、おはようございます。貴方は……確かハヤトさん……でしたよね?」
そう言ってブルームーンのリーダー、ハリルが話し掛けてきた。
「ああ、おはようございます」
笑顔が爽やかな、好青年だ。
「ハヤトさんは、一人なのにブロンズランクなんですね。と言う事は実力はシルバーランクに匹敵かも知れませんね。」
「そうなんですかね? オレはホルト村からエルマの町までしか行動した事がないので、自分の実力が冒険者として、どの位なのか分からないんですよ。こうして、他の冒険者の方達とも仕事をした事がないですし」
「そうなんですか。私達は、これから町にある兵士訓練所に行って戦闘時の模擬訓練を行おうと思っていますが、ハヤトさんも一緒にどうですか? モンスターの群れが来た時にドラゴンファングの加勢に共に向かう事になっていますから、ある程度、お互いの実力を知っておくためにも良いと思うのですが」
「良いんですか!もちろんご一緒させて下さい」
ハヤトは、自分も訓練所に行きたいと思っていた為、ハリルの提案を快諾した。
食事を済ませた後、ブルームーンのメンバー四人と一緒に町にある兵士訓練所に赴き、係員に訓練をしたいと話して訓練場の一画を借りる。
「ハリルさん、少しだけ時間を下さい。ちょっと確認したい事があるので……」
「わかりました。では、我々はあちらで訓練を始めていますので」
「了解です」
ハリル達が、離れるのを確認してハヤトは、まずは自分の剣を確認する。
ハヤトの時には気にならなかったが、結構凹みがあり、刃こぼれもしている。
「あんまり良くはないか……まぁこう言う西洋風の剣は、切ると言うより殴りつけると言った方が良いくらいの物だから……まーこんなもんか……」
ハヤトは取り敢えず納得する。それよりも今、一番大事なのは魔法(らしき力)である。
使い方は解っているのだが、理解が出来ない。そして、ハヤトの記憶では、魔法を使う時に、心の声のような物が聞こえるという事が解っている。
「まずは試してみるか……」
そう言って、人のいない方へ手の平を向け、魔法を発動する時、ハヤトが言っていた言葉を発する。
「ファイア」
「ピピピ…手のひらにて炎を生成…発動します」
そう声が聞こえた瞬間……手のひらから炎がほとばしり、前面の壁が燃え上がった為、ハヤトは驚愕する。
「どう言う事だよこれは……」
声の主は解った……それ自体には特に疑問を感じない……声の正体は「AI搭載型医療用ナノマシンによる骨伝導音声」だからだ……だが、医療用ナノマシンに炎を生成する機能なんて無いはずだし、そんな機能があるなんて事も聞いた事が無い。
「どう言う事だ! SEL-A(セラ)!」
ハヤトはAIに登録している名前を小声で呼んだ。
そして、脳に直接声が聞こえる。
「はい。事故後、直ちに自己スキャンを開始しましたが、医療機能の制御に障害が発生していました。それと同時に、隼人様の身体スキャンを実施したところ、右腕上腕部からの切断と下半身下部に重度の火傷及び、右足の粉砕骨折が見られました。
その為、隼人様の生命維持が必要であると判断し、緊急再起動を実施。医療機能の制御に障害があるまま再起動を実施した為、制御機能が完全に消滅し本来、医療用AIの能力上限として設定されている0.2%の制限がデリート、現在は隼人様の任意で私のスペックの最大40%まで機能を使用できるように変更しています」
「制御機能が完全に消滅? いや、制御機能が消滅したってのは解ったけど、どうして炎が出せるんだよ?」
ハヤトが、さらに問いかける。
「隼人様の身体再生時に、周りにあった鉱石や植物を分子分解し、使用したところ、鉱石の中に異常な成分を検知しましたが、分析の結果、有害では無いと判断した為、身体再生に使用しました。その後の身体スキャンで、その鉱石がこちらでは、最も希少価値の高い鉱石(フレアライト)を微量に含んでいる事が判明、そのフレアライトのみを抽出し、それを踏まえて分析するも、さらに解析不能の成分を含有している事が解りました。そのなんらかの成分が作用し、体内で炎・水・電気を作り出す事が可能になりました」
「なんだか解らない物を取り込むなよ…………まーけど、それが魔法の正体か……
確か、村長がオレを最初に発見した場所は雷王様の洞窟だって言ってたけど、それに何か関係してるのか……この世界じゃ魔法が普通に使えるようだから、魔力を帯びた鉱石や、植物だったのかも知れないな……」
ハヤトは一人で壁の方を向いてぶつぶつと何かを呟いている。
地球では、こんな奴はただのアブナイ奴だが、こっちの世界では魔法の詠唱でもしているのかと思われる為、特に気にされない。
「セラ、通常0.2%しか使っていなかった機能って事だけど、さっきの炎はどの位の能力を使ったんだ?」
誰でも気になる部分だろう。ハヤトがセラに問い掛ける。
「先程の炎程度では、通常能力の範囲内です。」
「えっ! そうなの? じゃあ40%の能力で炎の力を使ったら、どの位の威力になるんだ?」
「40%の能力で発動した場合、直径数十メートル程の火球が生成されます」
「数十メートル! ってそんな大きさの火の玉が出来たら、オレ自身もタダではすまないじゃないか!」
「大丈夫です。火球を生成したと同時にハヤト様を守る為、電気による磁場を生成し、輻射熱を火球側へ送り返し、その風を利用して火球を移動させています」
「なるほど……」
よく解らないが、取り敢えずは大丈夫なんだろう……
「他にはどんな事が出来るんだ?」
「はい、炎の他に電気を生成出来ることから、電気を収束させ、荷電粒子砲を撃つ事が出来ます。それ以外にも、生成した水の周りに磁場を作ることにより、水球や水温調節によって発生する竜巻、電気の出力を上げ、雷に匹敵する程の電気を作り出す事も可能です。それ以外では、もともとの能力も高める事が可能です」
「荷電粒子砲って……マジか……で、もともとの能力強化って……例えば?」
「治癒能力や、身体強化能力です」
ハヤトは、以前トロールを真っ二つにした事を思い出した。
「要するに科学の力でとんでもない事が出来るって事か。……治癒能力も、身体能力も40%増しまでいけるのか?」
「いいえ、少し違います。40%と言うのは私の機能の40%です。ですので、40%の機能を使用した場合、隼人様の治癒能力と身体能力は、通常時の20倍程度になると思われます」
「治癒能力ってのはピンとこないけど、身体能力が20倍か……凄いな……」
とその時
「ハヤトさん、どうかしたのですか? 大丈夫ですか?」
ハリルが心配そうに話し掛けてきたので、ハヤトは慌てて返事をする。
「あ! すいません大丈夫です。少し考え事をしていて……」
「そうでしたか。では、打ち合わせをしましょう」
そう言われて、ハリル達ブルームーンのメンバーと突入時の配置や、お互いのカバー等を確認しあった。
「ハヤトさん、そろそろ切り上げて昼食にしましょう」
いつのまにか、太陽が真上に来ている。
「そうですね、分かりました」
そう言って5人は朝食を食べた、宿屋前の食堂に戻った。
「いや~やはりハヤトさんは凄いですね。魔法も使えるのに剣術も相当な腕前、驚きました……そして、心強いです。ゴールドランクのゴールドクロウとハヤトさんがいれば、きっと勝てます」
「ありがとうございます。明日は力を合わせて頑張りましょう」
そう言って、ハヤトはブルームーンのメンバーと別れ、武器や防具を取り扱っている、店へと向かった。
武器を買い換える事にしたのだ。
今、使っている両刃の剣は、ここのギルドに冒険者として、登録しにきた日に購入した安価な鉄製の剣で凹みや刃こぼれが深刻な状態まで来ている。
それ以上に、伊勢隼人の記憶が戻った事が、大きな理由だ。
セラの機能の理解によって能力の強化をした時に、この剣では保たないと思ったからである。
「切れて、突ける様な剣はないかな……できれば日本刀の様な刀がいいんだけど。以前来た時は日本の記憶が無かったから、大量生産されて比較的に安い鉄製のこの剣を買ったけど、この一カ月冒険者として稼いだ資金もある程度あるし、ちゃんとした武器を見るか」
武具屋に着いて、店の中を見回すと、それ程品揃えが多い訳ではないが以外に良さそうな武器や防具も置かれている。
「いらっしゃいませ~」
女性の愛想の良い声が奥から聞こえる。
「ゆっくり見てって下さいな」
「ありがとう」
そう言ってハヤトは、武器を選び出す。
「一番高価な武器で、金貨50枚か……」
今、ハヤトの全財産は、今回の依頼の前払い金の金貨5枚、もともと持っていた金貨5枚と銀貨1枚、銅貨5枚。
詳しい貨幣価値は分からないが、おおよそ、日本円に直すと金貨一枚が一万円、銀貨一枚が千円、銅貨一枚が百円程度と思って貰えれば大体の想像がつくだろう。
一カ月程、ギルドの仕事をしてきたが、それ程使えるお金が無いのだ。
理由は簡単である、村での生活費で消費した事と、何より受けた依頼の報酬が安いのである。
「当然か~、村と町の間で、警備補助とスライムなんかの低級モンスターと鹿や猪みたいな獣しか討伐してこなかったからな~ ……どうしようか……生活費も残しておかないといけないから、使えるのは金貨5枚位かなぁ」
「色んな武器があるけど、方刃の剣はやはり、シミターのような物しか無いな…これじゃ、切ることは出来ても突く事ができないか……」
「何をお探しですか?」
「あー武器を見に来たんですが……」
「どんな武器ですか?」
「えーっと、簡単に言うとシミターのような方刃の剣なんですが、細身で切って突く事も出来るような物を探してるんですよ。」
「うーんウチの店にあるシミターは切る事は出来ても、突くと言う使い方はね~…レイピアは刺突武器だけど、切ることはできないし…」
そう、どれを見ても切る事を重視されている為、薄いのだ。
これでは、剣による防御ができない。
けれどこの世界では、片手剣は基本的に盾と併用するものだからそれが当たり前なのだろう。
「お客さん、どうしますか?物にもよりますが、作る事も出来ますよ?」
「金貨5枚位で作れますか?」
「そうですねぇ、鉄製ならば金貨5枚以内で作りますよ」
「じゃあ、形を説明しますので、お願いします」
ハヤトは、刀の形を羊皮紙に描き詳しく説明したが、その間、店員の女性は刀の形に感心していた。
「では、7日程かかりますが大丈夫ですか?」
「分かりました、お願いします」
そう言ってハヤトは店を後にした。
「じゃあ、あと7日はこの剣をもたさないとなぁ……明日は、討伐作戦なのに大丈夫かな…………」
そんな事を考えながら、日の傾いた町中を宿屋に向かって歩いた。
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世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
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気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
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