3 / 6
―Ⅲ―
しおりを挟む
次に目が覚めたとき、僕は自分がどこにいるのか分からなかった。
「ほぇ・・・?」
寝ぼけ眼で薄暗い部屋の天井を見上げ、やけに重い身体を起こすと、周りを見廻す。
どうやら、照明の色と明るさが違うだけで『特別指導教室』には違いないようだ。
「おや、目が覚めた?」
「へ・・・・・」
背後からかかった声に、ぼうっとしたまま振り返る。
「おはよう。身体は大丈夫かい?」
そこには、あの『教師役』―――歩さんの御主人様(仮定)―――が、横たわる歩さんの傍らにいた。
「あっ・・・おはよぅ、ごじゃいます・・・」
寝ぼけて廻らない口で、反射的に挨拶を返す。
「ほんと、大丈夫?」
「あ~~~~~、え~~~~~、とぉ・・・」
言われて、徐々に昨日の事が思い返される。
「昨夜はかなりハードだったから・・・辛いようだったら・・・」
「ああっ!貴方、歩さんの御主人様!!」
「へっ?」
僕の突然の大声に、面喰ったように目を瞬かせる。
「って、ああ・・・ごめんなさい!」
考えずに口走った事に気付いて、慌てて謝る。
「・・・・・君、歩から訊いたの?」
「え~~~っと、・・・・・はい。済みません」
妙な気まずさを感じて、重ねて謝った。
「あ~~~いや、気にしないで。ここでは別に隠す必要もないし・・・」
「えっと・・・・・じゃあホントに、歩さんの御主人様?」
遠慮がちに訊いた僕に、彼は頷いた。
「相沢 航(あいざわ わたる)だ、宜しく」
「・・・宜しくお願いします」
推測が当たっていた事に、そこはかとない満足感を覚える。
“これで、(仮定)って付けなくていいんだな・・・”
などと、下らないことを考えていると、航さんが申し訳なさそうに眉を下げた。
「それより、昨日は巻き込んじゃってごめんね。こんな機会あまりないから、歩もやけに燥いじゃったみたいで」
「あ、いえ、気にしないでください。・・・なんていうか、その・・・貴重な体験をさせて戴きました・・・」
〝昨日は〟と言われて、プールからの一連の事を思い出した僕は、若干顔を赤らめながらもそう答えた。
「そう言ってもらえると助かるよ。こういった『趣味』の無い人を巻き込んで、気が引けてたからね」
「あはは・・・・・それで、歩さんは大丈夫ですか?」
一向に目を覚まさない歩さんを見やって、心配になった僕が尋ねると、航さんは気恥ずかしそうな顔をした。
「あ~~~、さっきはああ言ったけど、歩だけじゃなく、僕も結構気分が高揚してたから、夕食時間まで潰して『調教』してたんだよね。ハードだったかも・・・」
「えっと・・・それって、どんなことするんですか?」
〝調教〟と言う言葉にゴクリと唾を飲みながら、僕は興味本位で尋ねてみた。
「ん?・・・そうだなぁ、縄で縛ったり枷で拘束したりして、ローターやバイブで焦らしたり、浣腸したりと色々・・・かな、その時によって変えるからね、・・・興味ある?」
「あ~~~その、痛いのとかはちょっと・・・。ただ、普段あまり係わらない世界だから、気になって・・・」
「ははは・・・、まあ、こういう嗜好は僕達の中でも少数派だからね、普通の人にこんな話したら引かれるし・・・。ただ、僕も歩も流血プレイとか、ハードなのは好みじゃないから、痛い事はあまりしないなあ・・・、せいぜいスパンキングとか蝋燭くらいまでかな・・・?」
若干引きながらも、興味が勝った僕は更に重ねて聞いてしまう。
「すぱん・・・って何?」
「スパンキング。日本語で言うと尻叩きだよ」
“尻叩き!”
今まで、SMなんて別世界の事だったので、少なからずショック―――この場合は、カルチャーショックだが―――を受けてしまう。
「それで、プールで別れてからずっと・・・その、ちょ、『調教』を・・・?」
何故か吃ながら訊く僕に、航さんは苦笑した。
「ああ、ここには小さいけど『調教室』があるからね」
「『調教室』!!」
その言葉に、開いた口が塞がらなく―――比喩表現ではなくホントに―――なってしまう。
「興味ある?・・・よかったら、後で見せてあげるよ?」
「!!」
含みの有りそうな目で、そう訊いてくる航さんに、僕は一拍置いてブンブン首を振っていた。
「けけけ、結構です。・・・もし部屋に連れ込まれたら、二度と出てこれなさそうだし・・・」
後半は聞こえない程の小声で言って、辞退する。
「ふふ・・・、素質ありそうなのにね」
「!!」
蛇に睨まれたカエルの心境だろうか、肉食獣の獲物になったような気持ちになって、僕は急いで話題の転換を図った。
「・・・にしても、歩さん凄いですね、プールで僕への悪戯から咄嗟に、あんなプレイを思いつくなんて・・・」
そんな思惑を知ってか知らずか、僕の言葉に航さんは呆気に取られた顔をした。
「何言ってるんだい。凄いのは君の方さ」
「へっ、僕?」
何のことかと思っていると、航さんは苦笑い混じりに続ける。
「どうして、僕の事に気付いたのか分からないけど、歩の思惑にない反撃を思いつくなんて、たいしたものだよ」
「・・・・・いや、あれは直感と成り行きで・・・・・」
本当に只の閃きだったので、航さんに言われて気恥ずかしくなった僕は、モゴモゴと言い訳めいた釈明をする。
「しかも、あの後の『お仕置き』プレイで、あそこまでしちゃうとは・・・」
「あぅ、・・・あれはただ、雰囲気に流されて・・・それで・・・」
プールでの件がまざまざと脳裏に甦り、耳まで赤くして答える声が尻窄みになってしまう。
「ううん・・・」
とそこで、歩さんが小さく声を上げて、身動ぎをした。
「おっ・・・」
「あっ・・・」
「うう・・・ふぁあぁ・・・ん・・・んん、・・・あ・・・おはよう、航さん・・・」
寝ぼけ眼全開で航さんを認めると、間延びした声で朝の挨拶をする歩さん。
「ああ、おはよう。身体は大丈夫か」
「・・・・・・・・・・・おもい」
言われて、暫くもぞもぞ動いたかと思うと、ポツリとそう言って動かなくなる。
「ははは・・・まあ、仕方ない。昨日はハードだったからな・・・」
肩を竦めて首を振る航さんが、歩さんの肩に手を掛ける。
「ほら起きて・・・」
「ふあ~~~あぁ・・・、ん・・・うん・・・、あれぇ・・・マコトぉ?・・・おはよぉ・・・」
揺すられて、再び瞼を開いた歩さんの瞳に僕が映った。
「あの・・・歩さんって、朝いつもこんな感じなんですか?」
「ああ、朝が弱くてね。機嫌が悪い訳ではないからいいけど、立って歩きながら寝ているような感じだよ」
ここで見る、歩さんの活発なイメージとは異なる様子に、意外な一面を見たような気になる。
「へぇ・・・。あと、意外です。普段は名前呼びなんですね」
「はいぃ?」
言われたことが判らない、と言うような顔して、僕の顔を見返す航さんに、率直な疑問を投げかける。
「いえ。・・・以前読んだ、官能小説だか成年向けの漫画だったかで、こういった主従関係では、呼び方を厳しく躾けるとか、なんとか・・・」
「ああっ、そういう事か」
合点がいった、と言う顔をして航さんが頷いた。
「あんまりそう言う事を徹底すると、普段の生活で困る事があるから。・・・なんせ、どこかのお屋敷のあるじ様って訳じゃないから」
「なるほど・・・」
まあそうだろう、普段どういった生活しているかは知らないが、会社や店先で『御主人様』呼びなんかしたら、なんだと思われるだろう。
「だから、二人っきりの時とかプレイ中以外は、普通に名前で呼び合ってるんだ」
照れくさそうにそう言って、歩さんを起しにかかる。
「こらこら、二度寝するんじゃない・・・。起きてシャワーでも浴びてきなさい」
「う~~~~~」
唸る(?)歩さんに手を貸す航さんの台詞に、今度は僕が声を上げた。
「ええっ!?こんな状態でですか?」
なんせ、全身に浴びたザーメンと、その他の体液が乾いて、服も顔も身体も髪さえも、かぴかぴになっているのだ。
こんな姿で校舎内を歩いたら―――しかも動画で記録までされたら―――性的な意味とは別に汚いし色々恥ずかしい。
「あ~~~、大丈夫だよ。こちらにも役員用のシャワーが有るし、こっちの校舎はこの部屋と『調教室』以外にはカメラ無いから」
「え・・・・・、あ・・・・・、そう、なんだ・・・・・」
その言葉に、拍子抜けしたように気分になる。
「マコトくんが『生徒指導室』で脱いだ服も預かってるから、取り敢えずシャワー浴びて、着替えなよ。『授業』は午後からにすればいいさ・・・」
「あ、はい・・・・・」
狐に抓まれたというのかなんというか、なんだか不思議な気持ちにさせられた僕は、歩さんと共に航さんに案内され、シャワールームに向かったのだった。
僕と歩さんが、いつもより時間をかけて―――髪に着いた、かぴかぴザーメンが中々落ちなかった―――シャワーを浴びて出てくると、航さんが食事を用意していてくれた。
午前10時――――――。
シャワーを浴びてから、時間経過と共に徐々にしゃっきりしていく、歩さんの様子を興味深く観察しながら食事を済ませ、二人して更衣室へと向かう。
「マコト、今日の午後の『授業』って・・・・・」
「うん、障害物走」
出席しなかった、本日の午前中は前日と同じ内容だったが、午後の『授業』は特別だった。
話にしか聞いたことはなかったが、長期休暇などで人が多く集まるときだけ行われる、特別なイベント・・・いや、『授業』なのだそうだ。
「歩さんは、僕より前からここに来てたんですよね。参加した事は?」
「ないよ。今回が初めて・・・航さん・・・」
そこまで言って、コホンと咳払いをすると先を続ける。
「・・・もとい、〝ご主人様〟は見てたらしいんだけど、何も教えてくれないんだ・・・・・」
「へぇ~、・・・・・ところで歩さん、なんで言い直したの?」
ギクッと音がしそうな勢いで肩を揺らした歩さんが、肩越しに目を向けたその頬が、何故か赤くなっている。
「・・・・・〝ご主人様〟として紹介出来たのって、マコトが初めてだから・・・・・」
「えっと・・・・・どゆこと?」
思わず素で訊き返してしまう。
「・・・だから、・・・マコトには僕が、・・・ご、ご主人様の〝奴隷〟だって言えるから・・・」
耳まで真っ赤にして顔を逸らす歩さんに、僕は盛大に“?”を浮かべた。
「・・・え・・・っと・・・・・・」
言うまでも無い事を、なんで今更・・・と考えた時、僕はハッとした。
最近でこそ、LGBTやトランスジェンダーなど、認知されるようになってきたが、少し前まで大半の同性愛者は、自分の性嗜好を言う事はできなかったし、今でも憚られているのが現状だ。
だから、胸を張って(?)言う事のできる相手がいる―――相手が出来る―――というのは、それだけで嬉しい事なのかもしれない・・・。
そう思い至り、なんとなくだが気持ちが分かるのと同時に、ちょっと意地悪をしたくなってしまう。
「うんうん、そうだね。・・・歩さんは、ご主人様のど・れ・い、だよね」
「!!」
立ち止まり、盛大にビクンッと身体を跳ねさせた歩さんが、照れ隠しの〝ツン〟を見せてくれるんじゃないかと期待した僕は、ぷるぷるぷるっと身体を震わせるのを見て、不審に思って前に廻り込む。
そこには、顔を赤くして自分で自分を抱き締める歩さんがいた。
「・・・マコト・・・の、・・・ばか・・・」
昨日も穿いていた、えんじ色のブルマの前を大きくもっこりさせ、ブルマの生地にハッキリ分かる染みを作って、涙目になる歩さん。
「ひょっとして、歩さん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
そう訊いた僕に、歩さんは黙って頷いた。
“なんて敏感なの!”
と内心、悲鳴を上げる。
それともこれは、言葉責めで絶頂ってしまったという事だろうか・・・?だとしたら、流石は〝奴隷〟といったところである。
たった一言で、こうなるとは思っていなかった僕は、気まずさ半分同情半分と言った気持ちで、あゆむさんの肩を抱くようにして更衣室へと入って行った。
まだ午前の『授業』中で、誰もいない更衣室に一安心して、リネン用の棚からバスタオルを取ってくると、歩さんと二人でシャワールームに入る。
余韻が続いているのか、時折身体を痙攣させる歩さんから、体操服とブルマを脱がす。
「んんっ」
生地がペニスに擦れたのだろうか、短い喘ぎを漏らす歩さんを、ブースのひとつに入れると、僕は洗面台に向かった。
“うわっ”
脱がす時に見ていたが、昨夜もトコロテン射精をしたはずなのに、ブルマの裾から滲み出て太ももを伝う程のザーメンに、内側一面べっとりだ。
それを水道水で洗い流して、脱衣所の片隅に何台かある、洗濯乾燥機に放り込む。
それから、更衣室に取って返すと、自分のロッカーから昨日着ていた服を持ってきて、隣の洗濯機に放り込むと、アメニティの洗剤とその他を入れて、スイッチを入れる。
目の前で動き出す、二台の洗濯機を確認すると、脱衣所の壁際に置かれたベンチに座り込んだ。
“ああ、びっくりした・・・”
予想外の事態に慌てたが、更衣室が近かったせいで助かった。
正確なところ、何故ああなったのかは分からないが、歩さんと航さんの関係に依るものだとしたら、少し羨ましくなってしまう。
“いいな・・・・・”
ぼんやりそんな事を考えながら、脱衣所を見廻した僕は、脱衣籠のあるスチールラックに置かれた袋に気が付いた。
“ああ、そういえば航さんが、言ってたな・・・”
〝『障害物走』に参加―――『女の子役』は基本、全員参加―――する『生徒』は、更衣室に用意された運動着を着用して、遊戯室に集合する事〟
午後の『授業』について、幾つか航さんが言っていた事を思い出す。
“これが、そうかな・・・?”
好奇心から、スチールラックに歩み寄ると、そこにはチャック付きの半透明の袋が、七つ置かれていた。
中身がうっすら透けるその袋には、一つ一つに名札が付いている。
“優子さんに雅、郁ちゃんに歩さんとマサミさん?も来てるんだ、後は知らない名前だな・・・・・っと、これが僕のか・・・・・”
他の人のを開ける訳にはいかないが、自分のなら良いだろうと、チャックを開けて中身の『運動着』を取り出す。
アイスブルーとでも言うのだろうか、白に近いブルーのそれは、今では見なくなった、ノースリーブのいわゆる陸上用レーシングレオタードと呼ばれるものだった。
サイドに白い真っ直ぐ太めのラインが通り、途中に斜めにストライプが3本配された、何処かで見た事のあるデザインは、縫製はしっかりしてるが、メーカーロゴもないところを見るとレプリカだろうか?
その証拠に正規品とは明らかに違い、生地が薄く当て布が無かった。
“こんなの着たら、ちょっと汗を掻いただけで、すごい事に・・・・・”
ゴクリと喉を鳴らし、『運動着』を裏返した僕は、その瞬間〝ピシッ〟と音をたてて凍りついた。
“・・・・・これって・・・・・!?”
歩さんが30分立っても出てこない。
“・・・・・まさか、具合が悪くなったんじゃ!?”
心配になってシャワーブースの前まで行くと、僕は中に呼びかけた。
「歩さん!大丈夫!!」
声を掛けつつ、シャワーブースの扉をノックする、とその弾みか僅かに開く。
「歩さん!」
その瞬間、隙間から手が伸びて僕の腕を取ると、ブースの中に引っ張り込まれた。
「なっ・・・・・わぷっ!」
出しっぱなしのシャワーを正面から浴びて、目潰しを食らった僕は、その一瞬に壁に押し付けられた。
いわゆる壁ドンだ。
「な、なにっ!」
「お・か・え・しっ・・・!」
言葉と同時に唇を奪われた。
「んんっ!」
すかさず侵入してきた何かに舌を絡み取られる。
“んぷっ!んんっ!!”
壁に押し付けられ、シャワーでぐしょ濡れになった体操服は重くなり、ポリエステル製の白ブルマは瞬く間に透けてゆく。
と同時に、ペニスに刺激が走った。
「んむっ!ああっ!ふむっ!・・・・・」
反射的に空いた片手で、歩さんの腕を掴んで抑えようとするが、口の中とペニスを同時に嬲られ、上手くいかない。
「んんっ・・・ぷはっ!歩さん、な・・・んむ・・・・・」
何するの・・・と言いかけたのを遮って、歩さんの舌が絡みつく。
「んあ!・・・んぷっ!・・・あぁん!・・・んむっ・・・あっ!・・・」
執拗で巧みな舌遣いと、ペニスを嬲られる刺激に晒された僕の身体は、しばらく抗ったあと徐々に力が抜け始める。
やがて僕の身体から完全に力が抜けると、歩さんはすかさずもう一方の手をお尻に廻した。
「やぁっ!んぐっ!」
ブルマの裾から手を差し込み、いとも容易く菊門に指を伸ばすと、そのまま弄り始める。
「歩さぁん・・・やめてぇ・・・なんでぇ・・・ふぅっ!」
軽く息を弾ませ声を震わせる僕を、歩さんが睨め上げた。
「言ったでしょ、おかえしだって」
「ああっ!・・・・・赦し・・てぇ・・・ごめんな・・・さぁ・・・」
「ゆ・る・さ・な・い」
意地悪な笑みを浮かべて、そう宣言した歩さんの手に、魔法のように張り形が現れる。
「・・・えっ!・・・なっ、・・・ど・こから・・・!?」
先程、シャワーブースに入った時は、全裸で手ぶらだった筈である。
「ふふっ・・・、さっきあっちでシャワー浴びてる時にね。ご主人様が持ってきて、僕に仕込んでくれたの・・・・・、ローターとかじゃないから音しなかったし、気付かなかったでしょ?」
「あふっ!・・・じゃあ・・・」
休むことなく続く愛撫に、小さく喘ぎながら目を見張る。
「そ、・・・今まで僕のアナルに収まってたんだ、・・・これで、虐めてあげる!」
言いつつ僕の太腿をなぞる、ディオルドの先端が妙に滑る。
「・・・え?」
「ふふっ、気付いた?これはバイブじゃなく、射精ディオルドって言ってね、中にローションとか液体を入れることが出来るんだ・・・だから」
言って軽く握ったディオルドの先端から、白濁した液体が滲み出してくる。
「ああっ!・・・やぁっ!」
昨夜、歩さんの菊門に仕込まれていた物よりは細身だが、血管浮き出るリアルなディオルドは凶悪だ。
その凶器のように見えるディオルドから、力の抜けた身体で逃れようとするが、無駄な足掻きだった。
ブルマの裾をずらし、僕の菊門を剥き出しにすると、歩さんは躊躇なくディオルドを当てがう。
「ひゃっ!」
途端、菊門の中に、にゅるりとした液体の感触がしたかと思うと、その周りに円を描くように塗り込める。
「あ、ゆむ・・・さん、やめてぇ・・・!」
「だぁめ!」
腰を振って逃れようとする僕に、歩さんは一声上げると一気に貫いた。
「ひぐっ!」
電撃のような刺激が、背筋をのぼり脳天まで貫く。
「ひぃん!ひゃぁぁぁ!」
そのままグラインドを開始したディオルドが、一突き毎に角度を変えて、僕の菊門を蹂躙する。
「ひゃぁん!あんっ!ああっ!ひぃ!ひぃん・・・・・!」
「どお、マコト、気持ちいい?・・・ほらっ!」
いつの間にか背後に回った歩さんが、片手で乳首を捏ね廻しながら、ディオルドを突き込む。
「っ!!・・・・・・」
と、突如ゴリッと言う感触と共に今までと違う刺激が走り、僕は仰け反った。
「前立腺こすられて気持ちいいでしょ・・・、ほらほら・・・・・」
「あっ!ああっ!・・・ひゃっ!ひいぃぃぃ・・・・・!」
一突き毎に腰の奥から走る痺れに喘ぐ。
そうしてどれほどの時間、嬲られていたのだろうか?
「ひぃぃぃぃ・・・!だ・・・め・・・」
昇りつめる寸前に、不意にディオルドの動きが止まった。
「・・・へ・・・!?」
後もう一息と言う処で止んだ刺激に、僕は蕩けた視線を歩さんに向ける。
「ふふっ・・・・・お・あ・ず・け・・・・・まだ、午後の『授業』もあるんだからね」
「・・・しょんなぁ・・・」
寸止め生殺しとはこのことであろうか、股間の切なさにブルブルっと身を震わせる。
「それより、前をみて・・・・・」
「ほぇ・・・・・」
言われるがままに前を向くと、いつの間にかシャワーの止まったブースの、全開になった扉から、雅・優子さん・郁ちゃん・マサミさん・他一名が、覗き込んでいて、僕は一気に目が覚めた(?)。
“!!”
「まったく、午前の『授業』サボって、何してるかと思えば・・・」
「あら、まあ」
「すごいですぅ~」
「マコトくん・・・」
「・・・・・・」
自らの醜態―――痴態?嬌態?―――を自覚するなり、爆発したみたいに顔を真っ赤にした、その時だった。
菊門に挿入されたままだった、ディオルドから何かが迸る。
「ひゃん!」
「「「「「!?」」」」」
突然の叫びに、覗き込んでいた全員がビクッとなる。
「ふふっ・・・とりあえず、お終い・・・」
周りの反応を愉しむように、そう言って最後の悪戯を終えると、歩さんは僕の菊門からディオルドを引き抜いた。
「あひっ!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
そんな僕と歩さんを見て、4人が呆れたような、羨むような複雑な顔をする。
「そんなの挿入ってたんですかぁ~~~」
「郁も、挿れてみる?」
急に言われた郁ちゃんが、虚を突かれた様な顔をした後、全力で首を振る。
「変態・・・・・」
「そんなこと言って、雅も羨ましそうな顔してるわよ?」
「なっ、優子さん!」
ほんのり頬を染め、チラチラとディオルドを見ている雅を、優子さんがからかっている。
「マコトくん、立派な『女の子役』になって・・・・・」
そしてマサミさんは、何故だかお姉さん目線だ。
と、そんな喧騒に紛れて、歩さんが釘を刺してくる。
「あ、そうそう、マコト、言うまでも無いけど自分でペニクリ触っちゃダメだよ。・・・・・自分の手で絶頂ったら、校則違反で罰を受けるから」
言われて〝そういえば〟と思い出す。
―――この『学院』では自慰禁止。菊門か他者の手以外、自らの手で絶頂った場合、懲戒室送りになる―――
最初にここへ来た日に、そんな説明をされていた。
“・・・ああんっ、もうっ、切ないぃ・・・”
その事実に、下半身に残る切ない疼きが、僕の腰をモジモジさせた――――――。
昼食の後、指定された『運動着』に着替えた僕は、他の『女の子役』と共に遊戯室に行くと、驚いたことに室内には『男の子役』が一人いて、全部で八人の参加者が集まった。
まあ、『男の子役』の中にも「受け」は沢山いるらしく、登録してあれば参加できるのだと、マサミさんが教えてくれたので納得する。
“・・・・・それにしても!”
それはともかく、僕は自分に割り当てられた『運動着』に、困惑し恥ずかしさに身悶えていた。
何故かと言えば、渡された陸上用レーシングレオタードは、股の切れ込みはハイレグではないものの、お尻丸出しのTバックスタイルだったからだ。
先程確認した時は、それでも全員同じなら恥ずかしくても、我慢できるかもと思ったのだが、それは大間違いだった。
Tバックスタイルは自分一人で、あとは歩さんともう一人がハーフバック、四人がフルバックスタイルとなっていた。
“なんで、僕だけ?”
そう思った僕は、ちょうど遊戯室にいた『教師役』を見つけて近づいた。
「・・・あの~、すいません。ちょっと、お聞きしたいんですけど・・・」
「なんですか?」
後ろ手にお尻を両の掌で隠しつつ、声を掛けた僕に振り返った『教師役』の男は、気安い感じで返事をする。
「・・・なんで、僕の『運動着』だけ・・・その、こんなのなんでしょう?」
「〝こんなの〟って何がだい、ハッキリ言ってくれないと分からないよ?」
見れば分かるのに、わざわざそう言って僕の羞恥心を煽ってくる。
「あ、あの、・・・・・だから、なんでTバックスタイルなんでしょう・・・?」
自然と小声になる僕に、『教師役』の男は柔和な―――しかし、含みの有る―――笑みを浮かべる。
「ああそれは、女生徒の参加者の中で、君の成績がワースト1だった、ペナルティだよ」
「ええっ・・・!?」
何でもない事のようにそう言って、男は続ける。
「尚、ワースト2・3の者はハーフバック。それより成績の良かった者は・・・分かるね?」
「・・・・・はい」
突きつけられた事実に、目の前を暗くしながら辛うじて答える。
しかし辱しめは始まったばかりだった。
「では、隠すのをやめて、皆にしっかり見られるように。いいね」
「あぁ・・・・・・。はい」
皆に聞こえるように、良く通る声で言われた僕は、観念して手を退ける。
と、廊下で見物していたギャラリーから、どよめきとも感嘆とも取れる声が上がる。
“もぅっ!・・・・・見られ・て・・・・”
先程のシャワールームでの一件で、もやもやする身体にもどかしさが募る。
「では席に着きなさい、間もなく障害物走のミューティングを始める」
「・・・はい・・・」
言われて、ギャラリーの視線を浴びつつ、遊戯室に用意されている、『女の子役』用のスタンディングチェアに腰掛ける。
座るというより、立ったまま寄りかかるスタイルの椅子は、座面が透明なアクリル板でできているので尻を隠す事は出来ず、立っている時とは趣の異なる、いやらしい光景を見せる事になってしまう。
そして、当然の事ながら、その様子は遊戯室に6台設えられたモニターに、一定時間で人物を切り替えながら、リアルタイムで映し出されている。
因みに『男の子役』のスタイルは、『女の子役』と同じデザインと色合いのユニタードだ。
タンクトップと一分丈のスパッツを繋いだ様な一体型の『運動着』は、『女の子役』用のモノと同じ生地で出来ているらしくとても薄手だ。
しかも、下着のラインが見えないことから、ノーパンで着用しているらしい。
「ではまず、説明の前に、今から配るものを着用して下さい」
そんな事に気を取られていると、『教師役』が一人一人に、手甲と靴下のようなモノを渡してくる。
“???”
手渡されたうちのひとつは、頑丈な薄い皮で作られた手甲というより、ガントレットのようなモノだ。
前腕全てを覆うような作りで、三本のベルトとバックルに小さな二つのD環が付いている。
もう一つの靴下のようなモノは、黒いソールのない足袋のような、非常に高いストレッチ性のあるモノだ。
足裏一面に柔らかい樹脂のようなモノが覆い、足首周りをコヅメで留める仕様は、履いてみると足にぴったりとフィットしてズレそうも無い。
それら二つを、言われた通り着用したのを確認すると、『教師役』の男は話し始めた。
「それでは、これより障害物走の説明をはじめます」
『教師役』の言葉と共に、モニターのひとつが画像を切り替える。
その画面には、障害の名前が並んでいた。
① 網潜り
② 山登り
③ 輪潜り
④ 飴玉探し
⑤ 一本橋
⑥ 棒運び
⑦ 尺八
殆どは、小学生の頃に運動会で行った、馴染みのある障害物競走の種目だったが、一つだけ見慣れないものがあった。
“・・・尺八って、まさか・・・?”
なにやら嫌な予感がして、周りを見廻すと歩さんや優子さんと目が合う。
二人も同じ事を考えているのだろうか、優子さんは眉根を寄せ、歩さんは舌先をちょろっと出して唇を嘗めた。
そんな風に目顔でアイコンタクトをしている内にも、説明は続いていく。
「言っておきますが、この障害物走は競争ではありません。なのでタイムも計りませんし、着順も決めません。ただ完走を目指してもらいます」
〝確かに、最初から障害物走って言ってたしなぁ~〟などと呑気な事を考えていると、続く言葉に不穏なものが混じった。
「尚、途中リタイアをした者には、ペナルティがあるので注意してください」
その言葉に、声は無かったが、場が〝ざわっ〟とする。
「さてそれでは、次に個々の障害について説明します。まず最初は・・・・・」
淡々と続く説明は、網潜り・山登りまでは普通だったが、その次あたりから妖しくなってくる。
「次の輪潜りですが、障害物の前に介助者がいますので、その人に背を向け手を後ろに廻して、互い違いに組んで下さい」
その言葉と共に、モニターに腕をどうするかが、映し出される。
「その後、介助者が腕を拘束しますので、これ以降の障害は、最後の種目までこのまま行ってもらいます」
「「「「「「「!?」」」」」」」
今度こそ、参加者たちがハッキリと〝ざわざわ〟し始める。
しかし、『教師役』はそんな事は、意にも介さず説明を続ける。
「その次の飴玉探しですが、実際に探してもらうのは、こちらのトローチです」
言って実物を掲げるが、小さくて僕の位置からは良く見えない。
と、画像が切り替わって、件のトローチが大写しになる。
「これを、地面に置いたこちらのトレイの中から、口だけを使って拾ってもらいます」
そこで、トレイの画像が追加され、なにやら液体の中に沈むトローチに、更にいやな予感がする。
「拾ったトローチは、必ず噛み砕いて嚥下してください。それが済んだら、障害の傍らにいる者に確認してもらってから、次の障害に向かってもらいます」
すると、次の障害の映像に切り替わった。
異常に低い平均台のようなモノが映るその画像を背に、『教師役』の説明が続く。
「見ての通り、次の一本橋は低いので、落ちても怪我の心配はありません。また落ちた場所から、再度一本橋に乗ってくれれば良いので、何度落ちてもとにかく渡りきって下さい」
その映像に、尻もちをついたら、結構痛くないだろうかと心配になる。
「その後、次の棒運びですが、ここでも介助者がいますので、手渡される棒を・・・口で咥えてもらいます」
何か、説明に良く聞こえない部分があったが、そんな事を問い質す前に、次の言葉にそんな事は吹っ飛んでしまった・・・・・・。
そうして、一連の説明が済むと、出走順が発表された。
最初は郁ちゃんと『男の子役』の子。
2番目は、雅と優子さんで3番目は、マサミさんと歩さん。
そして、最後の4番目が僕ともう一人の『女の子役』だった。
この時初めて、僕はこの『女の子役』の名前を知った。
玲(レイ)―――三上 玲一(みかみ りょういち)―――くんは、僕より一つ下の、肩口までも無い地毛かウィッグか、分からないワンレングスの髪が特徴だ。
「初めまして、僕は佐久間 マコトよろしく」
「・・・よろしく・・・、三上 レイです・・・」
必要最低限の事しか喋らない、感情が表に出にくい無口っ子と言う感じだ。
「・・・レイくんは、ここに来る様になってから、どれぐらい経つの?」
なんとなく間が持たなくて、取り敢えず聞くと、暫しの間があった。
「・・・・・最初から・・・・・」
「?」
言っている意味が分からず、盛大に頭の上に〝?〟を浮かべる。
「えっと・・・どゆこと」
またしても、素で訊き返してしまう。
「・・・・・ここが、設立・運営された最初から・・・・・」
「・・・てことは、先輩って事になるのかな?」
「・・・・・歳は貴方が上・・・・・」
「・・・えっと・・・」
なんだか遣りにくいな、と思いながら更に言葉を重ねる。
「レイくんは、この障害物走に出た事あるの?」
「3回目・・・・・」
言葉少ないレイくんの返事に驚く。
更衣室で皆と合流してから話を聞いたが、マサミさんと優子さんがそれぞれ一回ずつ、参加した事有るという。
なので、詳しい事を訊こうとしたのだが、二人とも〝やれば分かるわ・・・〟〝経験って大事よね・・・〟などと言うばかりで、それ以上は何も言ってくれなかったのだ。
「ええっと・・・・・じゃあ、レイくんは大先輩って事ですよね?障害物走ってどんな感じなんですか?」
そんなに経験しているという事は、詳しい話が聞けるんじゃないかと、勢い込んで尋ねた僕に、レイくんは。
「百聞は一見に如かず・・・・・」
と言うのみだ。
「・・・・・はぁ・・・・・あの~、他言無用とかって言われているの?」
「・・・・・・・・」
皆にはぐらかされてばかりなので、気になって訊くがレイくんは首を振るだけだった。
「ほぇ・・・?」
寝ぼけ眼で薄暗い部屋の天井を見上げ、やけに重い身体を起こすと、周りを見廻す。
どうやら、照明の色と明るさが違うだけで『特別指導教室』には違いないようだ。
「おや、目が覚めた?」
「へ・・・・・」
背後からかかった声に、ぼうっとしたまま振り返る。
「おはよう。身体は大丈夫かい?」
そこには、あの『教師役』―――歩さんの御主人様(仮定)―――が、横たわる歩さんの傍らにいた。
「あっ・・・おはよぅ、ごじゃいます・・・」
寝ぼけて廻らない口で、反射的に挨拶を返す。
「ほんと、大丈夫?」
「あ~~~~~、え~~~~~、とぉ・・・」
言われて、徐々に昨日の事が思い返される。
「昨夜はかなりハードだったから・・・辛いようだったら・・・」
「ああっ!貴方、歩さんの御主人様!!」
「へっ?」
僕の突然の大声に、面喰ったように目を瞬かせる。
「って、ああ・・・ごめんなさい!」
考えずに口走った事に気付いて、慌てて謝る。
「・・・・・君、歩から訊いたの?」
「え~~~っと、・・・・・はい。済みません」
妙な気まずさを感じて、重ねて謝った。
「あ~~~いや、気にしないで。ここでは別に隠す必要もないし・・・」
「えっと・・・・・じゃあホントに、歩さんの御主人様?」
遠慮がちに訊いた僕に、彼は頷いた。
「相沢 航(あいざわ わたる)だ、宜しく」
「・・・宜しくお願いします」
推測が当たっていた事に、そこはかとない満足感を覚える。
“これで、(仮定)って付けなくていいんだな・・・”
などと、下らないことを考えていると、航さんが申し訳なさそうに眉を下げた。
「それより、昨日は巻き込んじゃってごめんね。こんな機会あまりないから、歩もやけに燥いじゃったみたいで」
「あ、いえ、気にしないでください。・・・なんていうか、その・・・貴重な体験をさせて戴きました・・・」
〝昨日は〟と言われて、プールからの一連の事を思い出した僕は、若干顔を赤らめながらもそう答えた。
「そう言ってもらえると助かるよ。こういった『趣味』の無い人を巻き込んで、気が引けてたからね」
「あはは・・・・・それで、歩さんは大丈夫ですか?」
一向に目を覚まさない歩さんを見やって、心配になった僕が尋ねると、航さんは気恥ずかしそうな顔をした。
「あ~~~、さっきはああ言ったけど、歩だけじゃなく、僕も結構気分が高揚してたから、夕食時間まで潰して『調教』してたんだよね。ハードだったかも・・・」
「えっと・・・それって、どんなことするんですか?」
〝調教〟と言う言葉にゴクリと唾を飲みながら、僕は興味本位で尋ねてみた。
「ん?・・・そうだなぁ、縄で縛ったり枷で拘束したりして、ローターやバイブで焦らしたり、浣腸したりと色々・・・かな、その時によって変えるからね、・・・興味ある?」
「あ~~~その、痛いのとかはちょっと・・・。ただ、普段あまり係わらない世界だから、気になって・・・」
「ははは・・・、まあ、こういう嗜好は僕達の中でも少数派だからね、普通の人にこんな話したら引かれるし・・・。ただ、僕も歩も流血プレイとか、ハードなのは好みじゃないから、痛い事はあまりしないなあ・・・、せいぜいスパンキングとか蝋燭くらいまでかな・・・?」
若干引きながらも、興味が勝った僕は更に重ねて聞いてしまう。
「すぱん・・・って何?」
「スパンキング。日本語で言うと尻叩きだよ」
“尻叩き!”
今まで、SMなんて別世界の事だったので、少なからずショック―――この場合は、カルチャーショックだが―――を受けてしまう。
「それで、プールで別れてからずっと・・・その、ちょ、『調教』を・・・?」
何故か吃ながら訊く僕に、航さんは苦笑した。
「ああ、ここには小さいけど『調教室』があるからね」
「『調教室』!!」
その言葉に、開いた口が塞がらなく―――比喩表現ではなくホントに―――なってしまう。
「興味ある?・・・よかったら、後で見せてあげるよ?」
「!!」
含みの有りそうな目で、そう訊いてくる航さんに、僕は一拍置いてブンブン首を振っていた。
「けけけ、結構です。・・・もし部屋に連れ込まれたら、二度と出てこれなさそうだし・・・」
後半は聞こえない程の小声で言って、辞退する。
「ふふ・・・、素質ありそうなのにね」
「!!」
蛇に睨まれたカエルの心境だろうか、肉食獣の獲物になったような気持ちになって、僕は急いで話題の転換を図った。
「・・・にしても、歩さん凄いですね、プールで僕への悪戯から咄嗟に、あんなプレイを思いつくなんて・・・」
そんな思惑を知ってか知らずか、僕の言葉に航さんは呆気に取られた顔をした。
「何言ってるんだい。凄いのは君の方さ」
「へっ、僕?」
何のことかと思っていると、航さんは苦笑い混じりに続ける。
「どうして、僕の事に気付いたのか分からないけど、歩の思惑にない反撃を思いつくなんて、たいしたものだよ」
「・・・・・いや、あれは直感と成り行きで・・・・・」
本当に只の閃きだったので、航さんに言われて気恥ずかしくなった僕は、モゴモゴと言い訳めいた釈明をする。
「しかも、あの後の『お仕置き』プレイで、あそこまでしちゃうとは・・・」
「あぅ、・・・あれはただ、雰囲気に流されて・・・それで・・・」
プールでの件がまざまざと脳裏に甦り、耳まで赤くして答える声が尻窄みになってしまう。
「ううん・・・」
とそこで、歩さんが小さく声を上げて、身動ぎをした。
「おっ・・・」
「あっ・・・」
「うう・・・ふぁあぁ・・・ん・・・んん、・・・あ・・・おはよう、航さん・・・」
寝ぼけ眼全開で航さんを認めると、間延びした声で朝の挨拶をする歩さん。
「ああ、おはよう。身体は大丈夫か」
「・・・・・・・・・・・おもい」
言われて、暫くもぞもぞ動いたかと思うと、ポツリとそう言って動かなくなる。
「ははは・・・まあ、仕方ない。昨日はハードだったからな・・・」
肩を竦めて首を振る航さんが、歩さんの肩に手を掛ける。
「ほら起きて・・・」
「ふあ~~~あぁ・・・、ん・・・うん・・・、あれぇ・・・マコトぉ?・・・おはよぉ・・・」
揺すられて、再び瞼を開いた歩さんの瞳に僕が映った。
「あの・・・歩さんって、朝いつもこんな感じなんですか?」
「ああ、朝が弱くてね。機嫌が悪い訳ではないからいいけど、立って歩きながら寝ているような感じだよ」
ここで見る、歩さんの活発なイメージとは異なる様子に、意外な一面を見たような気になる。
「へぇ・・・。あと、意外です。普段は名前呼びなんですね」
「はいぃ?」
言われたことが判らない、と言うような顔して、僕の顔を見返す航さんに、率直な疑問を投げかける。
「いえ。・・・以前読んだ、官能小説だか成年向けの漫画だったかで、こういった主従関係では、呼び方を厳しく躾けるとか、なんとか・・・」
「ああっ、そういう事か」
合点がいった、と言う顔をして航さんが頷いた。
「あんまりそう言う事を徹底すると、普段の生活で困る事があるから。・・・なんせ、どこかのお屋敷のあるじ様って訳じゃないから」
「なるほど・・・」
まあそうだろう、普段どういった生活しているかは知らないが、会社や店先で『御主人様』呼びなんかしたら、なんだと思われるだろう。
「だから、二人っきりの時とかプレイ中以外は、普通に名前で呼び合ってるんだ」
照れくさそうにそう言って、歩さんを起しにかかる。
「こらこら、二度寝するんじゃない・・・。起きてシャワーでも浴びてきなさい」
「う~~~~~」
唸る(?)歩さんに手を貸す航さんの台詞に、今度は僕が声を上げた。
「ええっ!?こんな状態でですか?」
なんせ、全身に浴びたザーメンと、その他の体液が乾いて、服も顔も身体も髪さえも、かぴかぴになっているのだ。
こんな姿で校舎内を歩いたら―――しかも動画で記録までされたら―――性的な意味とは別に汚いし色々恥ずかしい。
「あ~~~、大丈夫だよ。こちらにも役員用のシャワーが有るし、こっちの校舎はこの部屋と『調教室』以外にはカメラ無いから」
「え・・・・・、あ・・・・・、そう、なんだ・・・・・」
その言葉に、拍子抜けしたように気分になる。
「マコトくんが『生徒指導室』で脱いだ服も預かってるから、取り敢えずシャワー浴びて、着替えなよ。『授業』は午後からにすればいいさ・・・」
「あ、はい・・・・・」
狐に抓まれたというのかなんというか、なんだか不思議な気持ちにさせられた僕は、歩さんと共に航さんに案内され、シャワールームに向かったのだった。
僕と歩さんが、いつもより時間をかけて―――髪に着いた、かぴかぴザーメンが中々落ちなかった―――シャワーを浴びて出てくると、航さんが食事を用意していてくれた。
午前10時――――――。
シャワーを浴びてから、時間経過と共に徐々にしゃっきりしていく、歩さんの様子を興味深く観察しながら食事を済ませ、二人して更衣室へと向かう。
「マコト、今日の午後の『授業』って・・・・・」
「うん、障害物走」
出席しなかった、本日の午前中は前日と同じ内容だったが、午後の『授業』は特別だった。
話にしか聞いたことはなかったが、長期休暇などで人が多く集まるときだけ行われる、特別なイベント・・・いや、『授業』なのだそうだ。
「歩さんは、僕より前からここに来てたんですよね。参加した事は?」
「ないよ。今回が初めて・・・航さん・・・」
そこまで言って、コホンと咳払いをすると先を続ける。
「・・・もとい、〝ご主人様〟は見てたらしいんだけど、何も教えてくれないんだ・・・・・」
「へぇ~、・・・・・ところで歩さん、なんで言い直したの?」
ギクッと音がしそうな勢いで肩を揺らした歩さんが、肩越しに目を向けたその頬が、何故か赤くなっている。
「・・・・・〝ご主人様〟として紹介出来たのって、マコトが初めてだから・・・・・」
「えっと・・・・・どゆこと?」
思わず素で訊き返してしまう。
「・・・だから、・・・マコトには僕が、・・・ご、ご主人様の〝奴隷〟だって言えるから・・・」
耳まで真っ赤にして顔を逸らす歩さんに、僕は盛大に“?”を浮かべた。
「・・・え・・・っと・・・・・・」
言うまでも無い事を、なんで今更・・・と考えた時、僕はハッとした。
最近でこそ、LGBTやトランスジェンダーなど、認知されるようになってきたが、少し前まで大半の同性愛者は、自分の性嗜好を言う事はできなかったし、今でも憚られているのが現状だ。
だから、胸を張って(?)言う事のできる相手がいる―――相手が出来る―――というのは、それだけで嬉しい事なのかもしれない・・・。
そう思い至り、なんとなくだが気持ちが分かるのと同時に、ちょっと意地悪をしたくなってしまう。
「うんうん、そうだね。・・・歩さんは、ご主人様のど・れ・い、だよね」
「!!」
立ち止まり、盛大にビクンッと身体を跳ねさせた歩さんが、照れ隠しの〝ツン〟を見せてくれるんじゃないかと期待した僕は、ぷるぷるぷるっと身体を震わせるのを見て、不審に思って前に廻り込む。
そこには、顔を赤くして自分で自分を抱き締める歩さんがいた。
「・・・マコト・・・の、・・・ばか・・・」
昨日も穿いていた、えんじ色のブルマの前を大きくもっこりさせ、ブルマの生地にハッキリ分かる染みを作って、涙目になる歩さん。
「ひょっとして、歩さん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
そう訊いた僕に、歩さんは黙って頷いた。
“なんて敏感なの!”
と内心、悲鳴を上げる。
それともこれは、言葉責めで絶頂ってしまったという事だろうか・・・?だとしたら、流石は〝奴隷〟といったところである。
たった一言で、こうなるとは思っていなかった僕は、気まずさ半分同情半分と言った気持ちで、あゆむさんの肩を抱くようにして更衣室へと入って行った。
まだ午前の『授業』中で、誰もいない更衣室に一安心して、リネン用の棚からバスタオルを取ってくると、歩さんと二人でシャワールームに入る。
余韻が続いているのか、時折身体を痙攣させる歩さんから、体操服とブルマを脱がす。
「んんっ」
生地がペニスに擦れたのだろうか、短い喘ぎを漏らす歩さんを、ブースのひとつに入れると、僕は洗面台に向かった。
“うわっ”
脱がす時に見ていたが、昨夜もトコロテン射精をしたはずなのに、ブルマの裾から滲み出て太ももを伝う程のザーメンに、内側一面べっとりだ。
それを水道水で洗い流して、脱衣所の片隅に何台かある、洗濯乾燥機に放り込む。
それから、更衣室に取って返すと、自分のロッカーから昨日着ていた服を持ってきて、隣の洗濯機に放り込むと、アメニティの洗剤とその他を入れて、スイッチを入れる。
目の前で動き出す、二台の洗濯機を確認すると、脱衣所の壁際に置かれたベンチに座り込んだ。
“ああ、びっくりした・・・”
予想外の事態に慌てたが、更衣室が近かったせいで助かった。
正確なところ、何故ああなったのかは分からないが、歩さんと航さんの関係に依るものだとしたら、少し羨ましくなってしまう。
“いいな・・・・・”
ぼんやりそんな事を考えながら、脱衣所を見廻した僕は、脱衣籠のあるスチールラックに置かれた袋に気が付いた。
“ああ、そういえば航さんが、言ってたな・・・”
〝『障害物走』に参加―――『女の子役』は基本、全員参加―――する『生徒』は、更衣室に用意された運動着を着用して、遊戯室に集合する事〟
午後の『授業』について、幾つか航さんが言っていた事を思い出す。
“これが、そうかな・・・?”
好奇心から、スチールラックに歩み寄ると、そこにはチャック付きの半透明の袋が、七つ置かれていた。
中身がうっすら透けるその袋には、一つ一つに名札が付いている。
“優子さんに雅、郁ちゃんに歩さんとマサミさん?も来てるんだ、後は知らない名前だな・・・・・っと、これが僕のか・・・・・”
他の人のを開ける訳にはいかないが、自分のなら良いだろうと、チャックを開けて中身の『運動着』を取り出す。
アイスブルーとでも言うのだろうか、白に近いブルーのそれは、今では見なくなった、ノースリーブのいわゆる陸上用レーシングレオタードと呼ばれるものだった。
サイドに白い真っ直ぐ太めのラインが通り、途中に斜めにストライプが3本配された、何処かで見た事のあるデザインは、縫製はしっかりしてるが、メーカーロゴもないところを見るとレプリカだろうか?
その証拠に正規品とは明らかに違い、生地が薄く当て布が無かった。
“こんなの着たら、ちょっと汗を掻いただけで、すごい事に・・・・・”
ゴクリと喉を鳴らし、『運動着』を裏返した僕は、その瞬間〝ピシッ〟と音をたてて凍りついた。
“・・・・・これって・・・・・!?”
歩さんが30分立っても出てこない。
“・・・・・まさか、具合が悪くなったんじゃ!?”
心配になってシャワーブースの前まで行くと、僕は中に呼びかけた。
「歩さん!大丈夫!!」
声を掛けつつ、シャワーブースの扉をノックする、とその弾みか僅かに開く。
「歩さん!」
その瞬間、隙間から手が伸びて僕の腕を取ると、ブースの中に引っ張り込まれた。
「なっ・・・・・わぷっ!」
出しっぱなしのシャワーを正面から浴びて、目潰しを食らった僕は、その一瞬に壁に押し付けられた。
いわゆる壁ドンだ。
「な、なにっ!」
「お・か・え・しっ・・・!」
言葉と同時に唇を奪われた。
「んんっ!」
すかさず侵入してきた何かに舌を絡み取られる。
“んぷっ!んんっ!!”
壁に押し付けられ、シャワーでぐしょ濡れになった体操服は重くなり、ポリエステル製の白ブルマは瞬く間に透けてゆく。
と同時に、ペニスに刺激が走った。
「んむっ!ああっ!ふむっ!・・・・・」
反射的に空いた片手で、歩さんの腕を掴んで抑えようとするが、口の中とペニスを同時に嬲られ、上手くいかない。
「んんっ・・・ぷはっ!歩さん、な・・・んむ・・・・・」
何するの・・・と言いかけたのを遮って、歩さんの舌が絡みつく。
「んあ!・・・んぷっ!・・・あぁん!・・・んむっ・・・あっ!・・・」
執拗で巧みな舌遣いと、ペニスを嬲られる刺激に晒された僕の身体は、しばらく抗ったあと徐々に力が抜け始める。
やがて僕の身体から完全に力が抜けると、歩さんはすかさずもう一方の手をお尻に廻した。
「やぁっ!んぐっ!」
ブルマの裾から手を差し込み、いとも容易く菊門に指を伸ばすと、そのまま弄り始める。
「歩さぁん・・・やめてぇ・・・なんでぇ・・・ふぅっ!」
軽く息を弾ませ声を震わせる僕を、歩さんが睨め上げた。
「言ったでしょ、おかえしだって」
「ああっ!・・・・・赦し・・てぇ・・・ごめんな・・・さぁ・・・」
「ゆ・る・さ・な・い」
意地悪な笑みを浮かべて、そう宣言した歩さんの手に、魔法のように張り形が現れる。
「・・・えっ!・・・なっ、・・・ど・こから・・・!?」
先程、シャワーブースに入った時は、全裸で手ぶらだった筈である。
「ふふっ・・・、さっきあっちでシャワー浴びてる時にね。ご主人様が持ってきて、僕に仕込んでくれたの・・・・・、ローターとかじゃないから音しなかったし、気付かなかったでしょ?」
「あふっ!・・・じゃあ・・・」
休むことなく続く愛撫に、小さく喘ぎながら目を見張る。
「そ、・・・今まで僕のアナルに収まってたんだ、・・・これで、虐めてあげる!」
言いつつ僕の太腿をなぞる、ディオルドの先端が妙に滑る。
「・・・え?」
「ふふっ、気付いた?これはバイブじゃなく、射精ディオルドって言ってね、中にローションとか液体を入れることが出来るんだ・・・だから」
言って軽く握ったディオルドの先端から、白濁した液体が滲み出してくる。
「ああっ!・・・やぁっ!」
昨夜、歩さんの菊門に仕込まれていた物よりは細身だが、血管浮き出るリアルなディオルドは凶悪だ。
その凶器のように見えるディオルドから、力の抜けた身体で逃れようとするが、無駄な足掻きだった。
ブルマの裾をずらし、僕の菊門を剥き出しにすると、歩さんは躊躇なくディオルドを当てがう。
「ひゃっ!」
途端、菊門の中に、にゅるりとした液体の感触がしたかと思うと、その周りに円を描くように塗り込める。
「あ、ゆむ・・・さん、やめてぇ・・・!」
「だぁめ!」
腰を振って逃れようとする僕に、歩さんは一声上げると一気に貫いた。
「ひぐっ!」
電撃のような刺激が、背筋をのぼり脳天まで貫く。
「ひぃん!ひゃぁぁぁ!」
そのままグラインドを開始したディオルドが、一突き毎に角度を変えて、僕の菊門を蹂躙する。
「ひゃぁん!あんっ!ああっ!ひぃ!ひぃん・・・・・!」
「どお、マコト、気持ちいい?・・・ほらっ!」
いつの間にか背後に回った歩さんが、片手で乳首を捏ね廻しながら、ディオルドを突き込む。
「っ!!・・・・・・」
と、突如ゴリッと言う感触と共に今までと違う刺激が走り、僕は仰け反った。
「前立腺こすられて気持ちいいでしょ・・・、ほらほら・・・・・」
「あっ!ああっ!・・・ひゃっ!ひいぃぃぃ・・・・・!」
一突き毎に腰の奥から走る痺れに喘ぐ。
そうしてどれほどの時間、嬲られていたのだろうか?
「ひぃぃぃぃ・・・!だ・・・め・・・」
昇りつめる寸前に、不意にディオルドの動きが止まった。
「・・・へ・・・!?」
後もう一息と言う処で止んだ刺激に、僕は蕩けた視線を歩さんに向ける。
「ふふっ・・・・・お・あ・ず・け・・・・・まだ、午後の『授業』もあるんだからね」
「・・・しょんなぁ・・・」
寸止め生殺しとはこのことであろうか、股間の切なさにブルブルっと身を震わせる。
「それより、前をみて・・・・・」
「ほぇ・・・・・」
言われるがままに前を向くと、いつの間にかシャワーの止まったブースの、全開になった扉から、雅・優子さん・郁ちゃん・マサミさん・他一名が、覗き込んでいて、僕は一気に目が覚めた(?)。
“!!”
「まったく、午前の『授業』サボって、何してるかと思えば・・・」
「あら、まあ」
「すごいですぅ~」
「マコトくん・・・」
「・・・・・・」
自らの醜態―――痴態?嬌態?―――を自覚するなり、爆発したみたいに顔を真っ赤にした、その時だった。
菊門に挿入されたままだった、ディオルドから何かが迸る。
「ひゃん!」
「「「「「!?」」」」」
突然の叫びに、覗き込んでいた全員がビクッとなる。
「ふふっ・・・とりあえず、お終い・・・」
周りの反応を愉しむように、そう言って最後の悪戯を終えると、歩さんは僕の菊門からディオルドを引き抜いた。
「あひっ!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
そんな僕と歩さんを見て、4人が呆れたような、羨むような複雑な顔をする。
「そんなの挿入ってたんですかぁ~~~」
「郁も、挿れてみる?」
急に言われた郁ちゃんが、虚を突かれた様な顔をした後、全力で首を振る。
「変態・・・・・」
「そんなこと言って、雅も羨ましそうな顔してるわよ?」
「なっ、優子さん!」
ほんのり頬を染め、チラチラとディオルドを見ている雅を、優子さんがからかっている。
「マコトくん、立派な『女の子役』になって・・・・・」
そしてマサミさんは、何故だかお姉さん目線だ。
と、そんな喧騒に紛れて、歩さんが釘を刺してくる。
「あ、そうそう、マコト、言うまでも無いけど自分でペニクリ触っちゃダメだよ。・・・・・自分の手で絶頂ったら、校則違反で罰を受けるから」
言われて〝そういえば〟と思い出す。
―――この『学院』では自慰禁止。菊門か他者の手以外、自らの手で絶頂った場合、懲戒室送りになる―――
最初にここへ来た日に、そんな説明をされていた。
“・・・ああんっ、もうっ、切ないぃ・・・”
その事実に、下半身に残る切ない疼きが、僕の腰をモジモジさせた――――――。
昼食の後、指定された『運動着』に着替えた僕は、他の『女の子役』と共に遊戯室に行くと、驚いたことに室内には『男の子役』が一人いて、全部で八人の参加者が集まった。
まあ、『男の子役』の中にも「受け」は沢山いるらしく、登録してあれば参加できるのだと、マサミさんが教えてくれたので納得する。
“・・・・・それにしても!”
それはともかく、僕は自分に割り当てられた『運動着』に、困惑し恥ずかしさに身悶えていた。
何故かと言えば、渡された陸上用レーシングレオタードは、股の切れ込みはハイレグではないものの、お尻丸出しのTバックスタイルだったからだ。
先程確認した時は、それでも全員同じなら恥ずかしくても、我慢できるかもと思ったのだが、それは大間違いだった。
Tバックスタイルは自分一人で、あとは歩さんともう一人がハーフバック、四人がフルバックスタイルとなっていた。
“なんで、僕だけ?”
そう思った僕は、ちょうど遊戯室にいた『教師役』を見つけて近づいた。
「・・・あの~、すいません。ちょっと、お聞きしたいんですけど・・・」
「なんですか?」
後ろ手にお尻を両の掌で隠しつつ、声を掛けた僕に振り返った『教師役』の男は、気安い感じで返事をする。
「・・・なんで、僕の『運動着』だけ・・・その、こんなのなんでしょう?」
「〝こんなの〟って何がだい、ハッキリ言ってくれないと分からないよ?」
見れば分かるのに、わざわざそう言って僕の羞恥心を煽ってくる。
「あ、あの、・・・・・だから、なんでTバックスタイルなんでしょう・・・?」
自然と小声になる僕に、『教師役』の男は柔和な―――しかし、含みの有る―――笑みを浮かべる。
「ああそれは、女生徒の参加者の中で、君の成績がワースト1だった、ペナルティだよ」
「ええっ・・・!?」
何でもない事のようにそう言って、男は続ける。
「尚、ワースト2・3の者はハーフバック。それより成績の良かった者は・・・分かるね?」
「・・・・・はい」
突きつけられた事実に、目の前を暗くしながら辛うじて答える。
しかし辱しめは始まったばかりだった。
「では、隠すのをやめて、皆にしっかり見られるように。いいね」
「あぁ・・・・・・。はい」
皆に聞こえるように、良く通る声で言われた僕は、観念して手を退ける。
と、廊下で見物していたギャラリーから、どよめきとも感嘆とも取れる声が上がる。
“もぅっ!・・・・・見られ・て・・・・”
先程のシャワールームでの一件で、もやもやする身体にもどかしさが募る。
「では席に着きなさい、間もなく障害物走のミューティングを始める」
「・・・はい・・・」
言われて、ギャラリーの視線を浴びつつ、遊戯室に用意されている、『女の子役』用のスタンディングチェアに腰掛ける。
座るというより、立ったまま寄りかかるスタイルの椅子は、座面が透明なアクリル板でできているので尻を隠す事は出来ず、立っている時とは趣の異なる、いやらしい光景を見せる事になってしまう。
そして、当然の事ながら、その様子は遊戯室に6台設えられたモニターに、一定時間で人物を切り替えながら、リアルタイムで映し出されている。
因みに『男の子役』のスタイルは、『女の子役』と同じデザインと色合いのユニタードだ。
タンクトップと一分丈のスパッツを繋いだ様な一体型の『運動着』は、『女の子役』用のモノと同じ生地で出来ているらしくとても薄手だ。
しかも、下着のラインが見えないことから、ノーパンで着用しているらしい。
「ではまず、説明の前に、今から配るものを着用して下さい」
そんな事に気を取られていると、『教師役』が一人一人に、手甲と靴下のようなモノを渡してくる。
“???”
手渡されたうちのひとつは、頑丈な薄い皮で作られた手甲というより、ガントレットのようなモノだ。
前腕全てを覆うような作りで、三本のベルトとバックルに小さな二つのD環が付いている。
もう一つの靴下のようなモノは、黒いソールのない足袋のような、非常に高いストレッチ性のあるモノだ。
足裏一面に柔らかい樹脂のようなモノが覆い、足首周りをコヅメで留める仕様は、履いてみると足にぴったりとフィットしてズレそうも無い。
それら二つを、言われた通り着用したのを確認すると、『教師役』の男は話し始めた。
「それでは、これより障害物走の説明をはじめます」
『教師役』の言葉と共に、モニターのひとつが画像を切り替える。
その画面には、障害の名前が並んでいた。
① 網潜り
② 山登り
③ 輪潜り
④ 飴玉探し
⑤ 一本橋
⑥ 棒運び
⑦ 尺八
殆どは、小学生の頃に運動会で行った、馴染みのある障害物競走の種目だったが、一つだけ見慣れないものがあった。
“・・・尺八って、まさか・・・?”
なにやら嫌な予感がして、周りを見廻すと歩さんや優子さんと目が合う。
二人も同じ事を考えているのだろうか、優子さんは眉根を寄せ、歩さんは舌先をちょろっと出して唇を嘗めた。
そんな風に目顔でアイコンタクトをしている内にも、説明は続いていく。
「言っておきますが、この障害物走は競争ではありません。なのでタイムも計りませんし、着順も決めません。ただ完走を目指してもらいます」
〝確かに、最初から障害物走って言ってたしなぁ~〟などと呑気な事を考えていると、続く言葉に不穏なものが混じった。
「尚、途中リタイアをした者には、ペナルティがあるので注意してください」
その言葉に、声は無かったが、場が〝ざわっ〟とする。
「さてそれでは、次に個々の障害について説明します。まず最初は・・・・・」
淡々と続く説明は、網潜り・山登りまでは普通だったが、その次あたりから妖しくなってくる。
「次の輪潜りですが、障害物の前に介助者がいますので、その人に背を向け手を後ろに廻して、互い違いに組んで下さい」
その言葉と共に、モニターに腕をどうするかが、映し出される。
「その後、介助者が腕を拘束しますので、これ以降の障害は、最後の種目までこのまま行ってもらいます」
「「「「「「「!?」」」」」」」
今度こそ、参加者たちがハッキリと〝ざわざわ〟し始める。
しかし、『教師役』はそんな事は、意にも介さず説明を続ける。
「その次の飴玉探しですが、実際に探してもらうのは、こちらのトローチです」
言って実物を掲げるが、小さくて僕の位置からは良く見えない。
と、画像が切り替わって、件のトローチが大写しになる。
「これを、地面に置いたこちらのトレイの中から、口だけを使って拾ってもらいます」
そこで、トレイの画像が追加され、なにやら液体の中に沈むトローチに、更にいやな予感がする。
「拾ったトローチは、必ず噛み砕いて嚥下してください。それが済んだら、障害の傍らにいる者に確認してもらってから、次の障害に向かってもらいます」
すると、次の障害の映像に切り替わった。
異常に低い平均台のようなモノが映るその画像を背に、『教師役』の説明が続く。
「見ての通り、次の一本橋は低いので、落ちても怪我の心配はありません。また落ちた場所から、再度一本橋に乗ってくれれば良いので、何度落ちてもとにかく渡りきって下さい」
その映像に、尻もちをついたら、結構痛くないだろうかと心配になる。
「その後、次の棒運びですが、ここでも介助者がいますので、手渡される棒を・・・口で咥えてもらいます」
何か、説明に良く聞こえない部分があったが、そんな事を問い質す前に、次の言葉にそんな事は吹っ飛んでしまった・・・・・・。
そうして、一連の説明が済むと、出走順が発表された。
最初は郁ちゃんと『男の子役』の子。
2番目は、雅と優子さんで3番目は、マサミさんと歩さん。
そして、最後の4番目が僕ともう一人の『女の子役』だった。
この時初めて、僕はこの『女の子役』の名前を知った。
玲(レイ)―――三上 玲一(みかみ りょういち)―――くんは、僕より一つ下の、肩口までも無い地毛かウィッグか、分からないワンレングスの髪が特徴だ。
「初めまして、僕は佐久間 マコトよろしく」
「・・・よろしく・・・、三上 レイです・・・」
必要最低限の事しか喋らない、感情が表に出にくい無口っ子と言う感じだ。
「・・・レイくんは、ここに来る様になってから、どれぐらい経つの?」
なんとなく間が持たなくて、取り敢えず聞くと、暫しの間があった。
「・・・・・最初から・・・・・」
「?」
言っている意味が分からず、盛大に頭の上に〝?〟を浮かべる。
「えっと・・・どゆこと」
またしても、素で訊き返してしまう。
「・・・・・ここが、設立・運営された最初から・・・・・」
「・・・てことは、先輩って事になるのかな?」
「・・・・・歳は貴方が上・・・・・」
「・・・えっと・・・」
なんだか遣りにくいな、と思いながら更に言葉を重ねる。
「レイくんは、この障害物走に出た事あるの?」
「3回目・・・・・」
言葉少ないレイくんの返事に驚く。
更衣室で皆と合流してから話を聞いたが、マサミさんと優子さんがそれぞれ一回ずつ、参加した事有るという。
なので、詳しい事を訊こうとしたのだが、二人とも〝やれば分かるわ・・・〟〝経験って大事よね・・・〟などと言うばかりで、それ以上は何も言ってくれなかったのだ。
「ええっと・・・・・じゃあ、レイくんは大先輩って事ですよね?障害物走ってどんな感じなんですか?」
そんなに経験しているという事は、詳しい話が聞けるんじゃないかと、勢い込んで尋ねた僕に、レイくんは。
「百聞は一見に如かず・・・・・」
と言うのみだ。
「・・・・・はぁ・・・・・あの~、他言無用とかって言われているの?」
「・・・・・・・・」
皆にはぐらかされてばかりなので、気になって訊くがレイくんは首を振るだけだった。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説


【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる