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013 瞳 side

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「ふう。これで、よしと。もういいわよ」


「、、、おう。ありがとな」


救急箱から消毒液を取り出して患部に塗布して絆創膏をつけ終わるまで、私が手当の作業をしている最中、彼女はだまって素直に応じてくれていた。


「それと後、痛くなってきたところとかはないの?」


「うん、いま体に痛みを感じるところはここだけだと思う、、、それよりもお前さ、さっきからずっとその格好は、さすがに風邪をひくんじゃないのか?」


“え、、、あ、いやだ、あたしったら、今のいままで水着をずっと着ていたことを、すっかりと忘れていたんだわ”


濡れた水着のままで家の中にずっといたことにハッとなった私は、ここ事に至って自分の失態について初めて気がついた。


いまも着ている水着からは、ポタリ、ポタリと濡れ出してくる水滴が。


「これ、ええと、どうしよう、どうしたらいいのかわからない、、、あっそうだわ、お風呂!」


私はそう思い立つと一直線でお風呂場へと駆け込んで、お水をたっぷりと含んでいるはずの水着を、恐る恐るに脱ぎ始めた。


バチャーンッ!


思っていた通りに、水着を絞ってもいないのに脱いだ水着の底からは、水がまとまってこぼれてきてしまっていた。水着の中には水がたくさんにたまっていたんだ。


「そういえば、あの娘の世話をしていた場所の辺りって、、、あっマズいわ!」


私は急いでお風呂場から脱衣所へ戻ると、お風呂用に配置してあった乾いたタオル数枚分をかき集めて、彼女がいるはずのもときた場所にまた急行をした。


「ごめんなさい! あの、ちょっとどいてて!」


みるとそれはたしかに、私がさきほどまでいたはずの場所には水たまりを描いていた。私はその水がシミを作らないようにせっせとていねいに拭いた。


「、、、さあ終わったわ。あ、ごめんね、とても慌ただしくなっちゃって」


ここまで彼女を放っておいたことにチクリと心が痛んだ私は謝ると、彼女はなぜだかその顔を横に向いて目を合わせずにいた。あれれ、どうしちゃったんだろう?



「うー、、、お前その、、、さっきから、ハダカだぞ」


拭き取りをすることに頭がいっぱいで焦っていた私は、彼女に言われてみて自分の姿をまじまじと見ると、着るものも着ないで大慌てで彼女の所へとやって来てしまったようだ。


「いやだ、ちょっと恥ずかしいよね。でも同じ女の子なんだし、見られても恥ずかしくもないわよね」


私は少しだけ気まずくなりながらも、彼女に気遣ってそう畳み掛けてみたのだけど、それを聞くと彼女の顔はみるみるうちに真っ赤となってしまい、


「なッ! お前、俺のことをいままで!」


「フアアッ、、、おあふ。おや、なんだなんだ、やけにやかましいな、、、ってあれえ、瞳のお客様なのか。いつのまにきてたんだ?」


そのときになってようやくに、これまで高イビキを搔いて呑気に寝ていたお父さんが、お腹をボリボリとしてノソノソと熊が歩くかのように、こちらに向かってゆっくりとやってきていた。



「あ、お父さんね、ちょうどよかったわ。この娘って帰る家がどこなのかわからなくてこのご近所をさ迷っていたのよ。消防団のこの辺の詳しい地図がたしかあったでしょ、あれで詳しく教えて、あ、、、っふあっ、、、ハックシュンッッ!」


「お、大丈夫か。夏の風邪というのは拗らせるととくにやっかいなんだぞ、、、っておいおい、よくみたらなんで瞳はハダカなんだ。あーあー、ここはもういいから、瞳はとっとと着替えてくるんだ」


「はぁい、お父さん、、、クチュン」












「ありがとうございます、、、」


「ああ。その紙に書いてあげた地図でまた帰り道がわからなくなったら、そこに書かれた電話番号に連絡をしてくれたらいい」


「わかりました、、、それじゃ、どうも」


彼女はペコリとお辞儀をすると、キィキィギコギコと揺れる子供用の小さな自転車を漕いで立ち去った。



「、、、ハア。あんな小さな自転車でこんな遠路はるばるになる道を、よくもまあやってきたものだなあ。いまどきの男の子だってそういやしないぞ」


お父さんがとても感心をしたようにして、顎に手を笏ってうなり声をあげていた。


「そういえば、あの娘ってどこからやってきたの?」


「聞いてビックリしたぞ。ほら以前に車を出して家族で行ったことがある駅前の商店街があるだろ。なんとあそこからだよ。お父さんがのんびりと散歩で歩いても、かるく30分はかかる距離だな。子供の自転車なら、うーん、1時間近くはかかっているかな?」


「へえ、そうなの。でも自転車なんだから速いのでしょ?」


「小学生の低学年向けだからたいして速力も出ないナンチャッテの自転車さ。ギアもついてはいないしな。あの娘の歳じゃ、さぞかし大冒険だったのだろうな」


「ふうん。あたし自転車って、なんだかもっととても速い乗り物なのかと勘違いをしていたわ」


「ハハハ、本格的な自転車ならたしかに瞳の言うとおりだな。それを乗りこなすのには、瞳にはまだまだ手足の成長の伸びが足りていないよ。ロードバイクのようにもっとも速い自転車を学びたいのなら中学校に入ってからさ。あの娘も将来は、ロードバイクの運転や自転車旅行をしている口なのじゃないのかな」



お父さんは私の頭の上に、ポスンと優しく手を置いた。


「あら私ったら、肝心のあの娘の名前を聞くのを、うっかりと忘れてたわ」


「おや、お父さんもだよ。でも瞳とはきっと同い年だと思うんだ。あの娘の自転車はきちんと防犯登録があって、今年に購入した新車なんだ。防犯登録に書いてあった名前にはたしか、、、“小学一年生、石城”って書いてあったような」


「石城さんなのね。近くに住んでいたのなら、きっとお友だちにもなれたのにな」


「中学校に上がればまた会えるはずだよ。そのときにはまた改めて、お友だちにでもなればいいじゃないか」


「中学校かあ。あたしにはまだまだ遠い未来で実感がわかないわ。小学校にだって、まだ入ったばかりなのに」


「瞳が思うほどに、遠い未来ではないとお父さんはそう思うぞ。中学校までは成長をする時期はあっとゆうまだ。お父さんは少なくともそうだった」


グウウウーーーッ、ーッ、ーッ、


「お父さん、お腹の虫が派手に鳴っているわよ」


「あー、だってしかたがないだろ。なにせお昼ご飯も食べないで、誰かさんのプールの設営のために時間をかけていたんだからな。これは許してくれよ」


「クス。あ、あの娘、いまこちらに手を振ってくれたわ。わあ、もう見えなくなりそうよ」


「ああ、とても不思議で行動力のある娘さんだったな、、、さてとそれじゃあ、お母さんが帰ってくるまでに食べるものはあるか、なにか探してみるとするか」


お父さんはそう言って、グーグーと鳴るお腹を抱えて家の奥へと引っ込んでいく。私は自転車に乗った彼女を、姿が消えてなくなるまで見送ったのだった。
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