スカートめくりの破天荒なヒーローがいる! 男性向け

ズッコ

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010 正太郎 side

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「ふー食った食った、マンプクだあ」、「ゴハン、おご馳走さまでした」


俺と妹は二人だけになった食卓の席でそう言って、それから使用したお茶碗や食器などの片付けを始めて、台所の流し台に持っていくと水道を開いて洗い始めた。


ジャー、カチャカチャ、カチャカチャ


「もう5月にもなるってのに、今年はお店の人手が足りていないのかな?」


「ううん。なんでもアルバイトさんが、交通事故のせいで突然に抜けてしまったそうよ。バイクで伊豆のドライブ中に事故に遭ったらしくて。お店にお母さんが急に出ることになっちゃったわって、そうボヤいていたわ」


ジャー、カチャカチャ、カチャカチャ


「ふうん。昨日まではお母さんが普通にいたのに今日の食卓には姿を見かけなかったから、なんだかおかしいなあとは思ったんだ。そうしたらお父さんは?」


バタンッ(冷蔵庫を開ける音)


「町内会の会合に行ってるわ。今年の夏祭りは例年よりも盛大にするって、黒田くんのお父さんがお祭り実行部長の青年団長をしているお父さんに発破をかけたらしくて忙しいみたい。お父さんは会合が終わったら直接仕事に戻るそうよ」


ジャーーーキュ、キュッ


「まあいつもの通りってことだな。さてと沙織、こちらの洗い物はこれで全部片付け終わったぞ。なにか手伝うか?」


「ちょうどこちらも、冷蔵庫に片付ける残りの食品の整理がいま終わったわ。冷凍庫からアイスを持ってそちらにいくわね」


俺がタオルで手を拭いていると、妹は冷蔵庫から二本のアイスキャンディーを取り出してもってきていた。


「おつかれさま。はい、どうぞ」


「おう、ありがとう。俺はこれからテレビゲームをしばらくしたいんだけど、沙織もやらないか」


「やらない。お兄ちゃんとやるゲームって、最近はあのロボット対戦のものばかりなんだもの、正直飽きちゃったわ。今日あたしは雑誌を読むつもりなの」


ポスンッと妹はリビングにあるソファーに座って、手には見なれない雑誌をもってやってきた。


「珍しい雑誌だな。ファッション誌か。お前その雑誌をどうしたんだ?」


「お隣さんの香苗ちゃんに貸してもらったのよ。毎月代わる代わるに雑誌を買うことにしたの。だから今度はあたしが買って貸さなくちゃならないの」


ペラ、


「香苗ちゃんといったら久道の妹か。俺はもうあいつとは遊んでいないけど、お前と香苗ちゃんとは長く付き合っていたんだな。ってその表紙には小中学生の愛読書って書いてあるじゃないか。お前まだ5年生だろ」


「だってあたしもそろそろ中学生だもん。それに女の子はいまのうちから読んで恥をかかないように予習をしてるのよ」


ペラ、


「知ってたか。中学生なんていっても、まだわりと小学生の延長みたいなもんなんだぜ。まわりにいる同級生のやつらもそんな人間だらけだ」


ウイイイイン、ガチャガチャ、


「そうなの? でもそれは男子だけじゃないのかしら。お兄ちゃんはさ、中学生の同級生や上級生の中に、とくに気になる女子とかはいないの?」


「いないね。それに今はクラス全員の女子とは断交の真っ最中さ」


「全員なの? なんでクラスの女子全員とケンカしちゃうの? 一人や二人ならともかくさ。もうあきれるわね」


「俺が好きでケンカをしたわけじゃねーから。あいつがたまたまに、クラスの女子のボスだったってわけで」


「ああ、そーゆーことなのね。今回はケンカした相手が悪すぎたわね。その女子には素直に謝っちゃえばいいじゃないの」


「いやだね。あいつは気にくわねえ」


「でたあ。お兄ちゃんの“あいつが気に入らない”ってセリフ」


「本当に気にくわねえんだって。だいたいさ、同じ班員同士のくせに小沼を無視しやがるから俺も向原を無視し出したんだ。あいつが折れて小沼にふつうに話しかけるようになるまでは続けるぞ、ズルー、モゴモゴ」


「へえー、さすがはヒーローのお兄ちゃん。弱き者には肩を持つなんてね、ペロリペロリ」


「お前も対外になる内弁慶だな。もっと普段からそれくらいにクラスの人と話せればいいのにな。あ、それといいか、同じ中学校に入ったら俺の過去のことを言いふらすなよ。ヒーローは小学校で卒業したんだ、俺は、カリッカリッ」


「あたしのことを内弁慶ってゆーな、そこよけいなおせっかい。でもさ、ヒーローを卒業したというのなら、お兄ちゃんが今していることは手助けと違わないの? ねえ教えてよ、チュパ、チュパ」


「そっ、それはだな。いや、手助けってゆーか、そのあれだよ、ってああアアッ!」


ズガン、ガガーーーン!ッ!!


俺が操縦をしていたロボットは、画面の中で相手の攻撃を受けて、ド派手な爆発音を起こして沈んでしまった。


「くっそうッ、こんなとこで負けた!」


「小ボス相手にまさか負けちゃったの? お兄ちゃんってば、考え事をしてると、とたんに弱くなるわよね」


「うるせえな、気が散るとダメなんだよ」


「お兄ちゃんはひたすらに攻撃ばかりを続けているからダメなのよ。たまにでもいいから敵が大技の溜めをしているときにいったん引いて、防御することも大切って教えたばかりでしょ」


「グウっ。あーもうヤメだ、ヤメヤメ。だいたいロボット対戦なんて小学生向けのゲームは友達を呼んでもやらないし。俺もそろそろ卒業だな」


「プププ、そのゲーム、お兄ちゃんが先月にお小遣いをためて買ったばかりなんでしょ。さいきん私にまで勝てなくなったからって、卑屈になっちゃって」


「なんだとぉッッ! いわせておけばッ、それじゃあ勝負をするか!」


「いいわよ。お兄ちゃんの連敗記録をまた更新で塗り替えてあげる。でもただ勝つのも面白くもないし。お兄ちゃんがもし負けたら、また“お買い物を行ってくる”券の追加ね」


「お母さんに“お買い物をしてきてちょうだい”と言われたら、“俺が行ってくる”っ命令に従う券か。いいだろう、俺の真の隠された実力を、いまこそみせてやんよ!」


「これ、お兄ちゃんの命令券が貯まって回数券のつづら折にしてあるけど、これもう余白がなくなってるんだけど」


「そんな心配はいらねえ。なぜなら俺が、今日こそは勝つからな!」



そう言って兄妹の因縁のゲーム対決が始まった。そして俺は奮戦虚しくも妹に大惨敗を喫した。追加となる新たな回数券を作成したのは言うまでもない。
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