スカートめくりの破天荒なヒーローがいる! 男性向け

ズッコ

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003 美祈  side

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日直当番で誰しも体験することになる、朝夕に多くの先生方がドタバタと忙しなく動いているイメージのあった職員室。ところがお昼休みの時間にメグから背中を押されるようにして入った職員室は、ここが同じ場所とは信じられないほどに、いまは人気のない故の無音と静寂の只中にあることが不思議でならなかった。


お昼休みに大半の先生がいなくなることは全くの誤算で、この先に訪れるはずだった担任の先生の不在に一抹の不安を覚えたけど、そうかといって普段から見ているあのグータラな先生が昼休みに限って活動的に動く生態を想像はしにくく、この職員室にいまも居残っている様子を見られることがない気がしないでもない。


ええと。ベージュ色をした黒い二本の縦線が入った上下のジャージ姿、、、それか、くたびれて色が褪せた赤いTシャツが目印の、、、まだ二十代の後半なのに頭の髪の毛が寂しくなっている、、、あ! いたいた! 見つけたわ!



その先生はいつも座っている自分の机の椅子に、新聞を顔に被せて脱力した寝姿を私たちに見せていた。国谷先生は28歳の英語教師で、私たちのクラスを受け持っている担任の先生だ。ピシッとしたスーツ姿の正装を見せたのは入学式の1日目だけで、次の日からはいつもと変わりのないジャージ姿に、だらしなく伸びた靴下にサンダルを履いたスタイルをしていた。


国谷先生を発見すると私は気合を入れるために深呼吸したあと、職員室の扉の前から一気に歩き始めて国谷先生の元へと一直線でやって来て、剣呑な顔をして開口一番でこう伝えた。



「国谷先生、ご相談をしたくてここに来ました。いま先生のお時間を少しばかりいただいてもよろしいですか?」


「お、、、? 誰だと思ったら向原か。むむ、今日のおまえの顔はムスリとしていて嫌な予感がするな。まあそれはそうとしていいから話してみろ」


先生は新聞を折りたたむと、それを丁寧に机の脇へと置いてから両手の指を絡めて膝の上に置いた。私はこれから話すことに多少の緊張をしながら口を動かした。



「先日に班員となった石城くんのことです。この頃の石城くんは私の指示などを徹底して無視するようになって本当に手に負えないんです。口を開けば『うるさい、ブス』なんて言う始末ですから。同じ班員としてもうやっていけません。どうか班員のトレードを早期にお願いします」



国谷先生は“寿司”と大きく書かれた湯呑みを手に取ると、冷めていたお茶をズズーと飲んで言った。


「班を決めてからまだ1ヶ月間にもならないぞ。仲がとても悪いからといって諦めてしまうというのは早くはないか。向原は石城と仲良くしようと努力はしたのか?」


「努力になんの意味がありますか! 班行動に逆らってばかりの石城くんに仲良くなんてできっこありません! それに先生だっておわかりになるはずです! 私たちの班にはもうすでに問題児がいるのですから!」



「あ、その、、、大変に言い過ぎました」


問題児だなんて言葉を口に出してはいけないことだった。メグは私の失言に黙ってみつめていた。黒田くんも同様にこちらを見ている。



「だいたいの事情はわかった。石城もたしかに悪いが、おまえもそれに意固地になるなよ。班行動をしろといった目的もそこにあるんだ。まあ実害が出てないのならそれでいい。当面の問題は問題児とやらのほうだな。班長の黒田、お前はそいつが誰だかわかるのか」


「向原さんが我が班内で問題児と言う該当者が誰のことを指しているのかは定かではありません。しかし僕から見て女子は1つにまとまりきっていないことは明らかですね」


「よく把握してるじゃねえか。向原はこの問題児を持て余しているらしいぞ。だったら班長のお前が助け舟を出してやることはできないのか」


「よしてください。僕は男子をまとめているだけでせいいっぱいなのですから。石城くんを僕の班に押し付けたときに、女子の側まで面倒を見ることはできなくなりますって、予め国谷先生には言いましたよね」


「ああそういや、黒田がそんなことをたしか言っていたっけな。お前に石城を預けていたなら、それはまあしゃあないことだわな」


「ええ、しかたのないことです」





そこがこの班の問題になる。班長の黒田くんは男子の側を、副班長の私は女子の側をまとめるといったルールが自然と出来上がっていたのだった。そして現在の男子間と女子間には、普通に埋まることがない相互不信となる深い溝が生じていた。



ああ。こんなことなら、あのときの班員選びを黒田くんに任せたりせずに、もっと緊張感を持って臨んでいたのに。もしもこの場にそのときの私がいたとしたら平手打ちをしてやりたいと思っていた。
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