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001 美祈 side
しおりを挟むズン、ズン、ズンズン! ズンズンッ!!
「んもうッ、なんなのよアイツは! ずぇったいに、許してなんてあげないんだからねッ!」
そいつの名前は石城正太郎(いしきしょうたろう)ていうの。同じ学年の同じクラスで同じグループ班になる扱いの、私より背が小さく生意気なあの少年の顔が思い浮かぶとそのたびにイライラとさせて、私を職員室へと狩り立たせたそもそもの原因なのである。
あいつの姿が不意に視界へ入る度に、イラリとするレベルにまでとうとうなってしまった。もうこのままでは私の学生ライフがこのストレスのせいで、今後ずっと面白みがないものとなってしまう。それを私は我慢ができない。
私は向原美祈(むかいはらみき)、ついこの前にお誕生日を迎えて14歳になったばかりの、この春に光南中学校に入校したての新一年生。新しいクラスメイトたちにいち早く馴染んではこれからの学生ライフに期待を膨らませていた矢先に、僅か1か月後にして事態がこうにも暗転するだなんてとても酷いとは思わない?
一般の生徒たちがむやみやたらと立ち寄ろうとはしなかった職員室に私はようやくに着いた。昼の学校給食を早めに済ませた私はその扉の前へとやってきていたが、そこに立ち止まってようやくに落ち着きさを取り戻して、ここに来るまでは勢いだけで行動していたことにはたと気がついた。
これから自分が職員室のドアを開けて担任の先生がいるのであろう机まで歩いていくことに、だいそれたことをしているのかもと今更に気がついてしまった私は、急な緊張感に襲われて早鐘が鳴るが如くに心臓が大きな鼓動でドクンドクンとし始めた。
それでも持ち前の負けん気の強さで扉に手を伸ばしていたけど、その手はカタカタと震え手のひらにじっとりと油汗をかいていることに気がついた私は、慌ててハンカチを取り出してその手を拭って胸に手を当てては大きな深呼吸を繰り返した。
するとこれが次第に落ち着きを取り戻す様子となった。うんうん、私は感情をうまくコントロールできた。私が入部した演劇部の呼吸法がこのときに役に立ってくれたことに感謝をしよう。うん。これならもういけるかも。
私はもう一度だけ大きく息を吸って、今度は冷静に落ち着いてその扉へ再び手をかけようかとしたそのときに、私の背後にいた男子が不意に声をかけてきた。
「ねえ、向原さん」
ドクンッ!
あーんもうやだ、せっかくに落ち着いた私の心臓がまた騒がしくなって台無しになってしまったわ。私はイライラとした感情を押し殺しながら自分の首を発生源のその男子に向けた。
「向原さん、やはりお昼休みの職員室に入るのはやめておくべきかなと思うんだ。せっかくにここへ来たけど人がいない放課後にでもまた、改めて出直しをしたほうがいいと僕は思うんだけど」
その男子は私が教室から連れ出してきていた、私たちの班グループの班長の黒田くんだった。今回の件では班グループの問題と無関係ではなかったからだ。私は体をクルリと向けてから黒田くんにこう言った。
「お昼休みの時間に職員室へ行くことは朝のうちから黒田くんと約束をしていたわよね。それをこの土壇場になって止めるのは何かそれにふさわしい理由があるの? それとも黒田くん、この期に及んでからまさか臆病風にでも吹かれてしまったわけ?」
「やや、これは心外だな。日本男子たるものそんな臆病風に吹かれることなんて絶対にないよ! 、、、ただそのう、職員室に入室するのは僕にも思うことがありまして、、、ほら、事情がよくわからない周りの他の先生たちからは僕たちはどう見られているのだろうって。その行動には奇異な目で見られたりすることもあると思うんだ、、、だから僕の内申点の評価にちょっぴりと傷がつくのかもしれないと思っただけで。向原さんもそれが気になってしまったんだろ?」
まあ、まあ、まあ、まあッ!
言うにことかいてこの自己保身術!
これにはすっかりとあきれてしまったわ!!
「黒田くん、私はたしかに扉の前でためらってしまったわ。でもそれは職員室に入る緊張感のせいで他人の目を気にする怯えではないの。黒田くんが私と職員室に入りたくないというのならそれでもかまわないけど、その場合はうちの無能な班長殿は職員室を前にして帰ってしまいました、とでも言ってやるんだから!」
「やや、なにもそんなに怒ることはないじゃないか、、、ちぇッわかったよ、僕も班長としての責任があるし、向原さんについて行くことにするよ」
黒田くんはブツブツとこのように言ってから私の前から二、三歩を後ずさる。
あらこれはとてもいい気分だわ。火野小学校時代のことがつい思い出されしちゃうじゃない。
オッホッホッホッホ、、、
て、イッたたたたああツッ!
「黒田くん、ミキのヒステリックな言動に嫌な思いをしてごめんなさい。ミキはもう少し落ちついてちょうだいな。あなたそのまま職員室に入っても、それでは担任の先生と落ち着いて話すことさえできなくなるわよ」
愉悦を浮かべていた私の脇腹を思いっきりつねった彼女は黒田くんとの仲介フォローに割って入っていた。さすが長年に渡って私の参謀をしていた彼女らしい。彼女も今回の職員室行きに同行をたって出た連れ添い人だった。
ただ身内にも手加減を一切してくれないのはいただけないわ。つねったところがあざになったりしてはいないのかしら?
彼女の名前は市山恵美(いちやまめぐみ)。私の小学生のとき以来の付き合いがある友人なのだ。
先日にあったばかりの体力測定検査では、中学1年生女子の平均値以上の身長差を持つ私と比べて標準以下、片や天然のくせっ毛でまとまりのない天然パーマになる私の髪と、肩までサラサラと流れるシルクのようなストレートヘアーのメグ、その外見があまりにも対照的に見える私たちが親友であるのは不思議なことだった。
「まずはミキを落ちつけないと。うーんとそうね、、、ミキ、ちょっと耳を貸して、、、今のミキっておとといに終わった私のツキノモノのときと非常によく似ているわよ」
「キャアァ! キャア、キャアッ!! ちょッとメグぅ! あなた、黒田くんがいるすぐ側でなんて話題をゆうのよ! まさかあなた気がおかしくなったりしていないのよね?」
「これは冗談なの。メンゴ、メンゴ、、、さあミキはこれで落ち着いた? それともまだもうひとつ、ふたつくらいは話す?」
「もうたくさんだわ。メグのびっくり発言に驚ろいて落ち着きを取り戻すことができたから、、、よし、これから職員室へ乗り込むわよ」
「ええ、がんばってねミキ」
ニコリとしたメグの横にいた黒田くんのほうをチラリと覗うと、二人の会話が聞こていなかったのか、不思議そうな顔で二人の顔を訝しんでいた。
ホッ。
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