平凡な三つ子は平凡に暮らす...はずだった

月兎

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3章 騒動

城へ行きましょう

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「郵便でーす」

 家に向けて放たれた声に応えるように、パタパタと足音が近付いていく。
 やがて玄関が開くと、一人の男性が出てくる。

「はい、ありがとうございます」

 そう言って手紙を受け取ったのは、レイン・アルテント。三つ子の母親である。

「手紙…?誰からだ?」

 裏を見ると、愛しい息子たちの名前が書いてあった。
 その名前を見て、思わず笑みがこぼれる。

「お、どうしたんだ?そんな嬉しそうな顔しちゃって」

 奥から出てきたのは、ルオネット・アルテント。レインの夫である。

「あの3人から手紙が来たんだ。忙しいだろうに…」

「手紙か!早く読もう!」

 2人で笑みをたたえながら奥に入ると、末っ子のリンが絵を書いていた。
 2人が部屋に入ってくるのを確認し、そしてレインの手に手紙が握られているのに気付き、途端に笑顔になる。

「わぁっ!お手紙?お手紙?ねぇ、リンにもある?」

 期待に膨らんだ瞳でこちらを見るリンに頷いてみせると、リンの顔はぱぁっと明るくなった。

「ね、ね!早く読んで!」

 リンの要望に応えるため、レインは椅子に座り、リン宛の封筒を開ける。
 中には、綺麗な押し花と手紙が1枚入っていた。
 手紙の内容を見ると、この押し花は先輩からの贈り物らしい。

「リン、これ。お兄ちゃんたちの先輩が、リンにプレゼントだって。お城の庭に咲いている花で作ったんだって。良かったね」

 そう言って押し花を渡すと、リンは嬉しそうに受け取った。

 そんなリンの様子を横目に、自分宛の手紙を開ける。中には手紙が2枚入っていた。
 1枚目は、お仕事についてや、職場の先輩との交流についてだった。
もう1枚を見ると、恋のお悩み相談だった。
 これにはどう反応すれば良いのか分からず、思わず苦笑してしまった。




 ルオネット宛の封筒には、手紙が1枚入っていた。
 その内容を読んでいくうちに、ルオネットの表情がどんどん険しくなる。
 その様子に気付いたレインが、心配そうに尋ねた。

「おい、ルー…?どうした?」

「あいつら…誘拐されたって…」

「え!?誘拐!?」

「いや、無事だったらしいが、無理矢理発情させられたらしい。もしかしたら、あいつらの仕業じゃないか…?」

「そんな…!」

 レインの顔がどんどん青ざめていく。
 そんなレインの頭を引き寄せて、ポンポンと撫でた。

「大丈夫だ。俺が教えた通りに撃退したらしい」

「でも…!」

「それじゃ、明日城に行ってみるか?」

 ルオネットの提案に、レインはぶんぶんと首を縦に振った。

「お父さん、お母さん、どうしたの?」

 両親を心配して、リンが声をかける。

「あぁ、大丈夫。なんでもないよ。それよりリン、明日、お兄ちゃんたちのところに会いに行こっか」

 その言葉に満面の笑みで頷くリンに、レインの表情も、幾分か柔らかくなる。

 リンに本当のことは言わなかった。
 言ったら多分、「お兄ちゃんたちはリンが守る!」と言って聞かないだろう。
 だからあえて言わなかった。

 ラン、レン、ロン…本当に大丈夫なんだろうか…

 レインは心配しながら、明日城に行くことを改めて決意した。
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