平凡な三つ子は平凡に暮らす...はずだった

月兎

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1章 なんだかんだで城へ

寂しがり屋な甘えた王子様1~ラン・アルテント~

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 今日から本格的に仕事が始まる。エルさんもいない。少し不安だけど、頑張らなくちゃ!

   コンコン

 昨日と同じように支度をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
 僕はレンの髪を結っていたため、出れない。

「ロン、出てくれないか?」

「オッケー、まかしといてー」

 ロンがドアを開け、誰かを招いて戻ってきた。
 その人物は…

「おはようございます!エルさん」
 
「おはよう。今日からお願いね」

 昨日と同様、エルさんが僕達の様子を見に来てくれたらしい。

「まだ不安ですけど…頑張ります!」

「俺も!エルさんみたいには出来ないかもだけど…」

「僕もー」

 僕達はそれぞれ返事をした。正直に言うと、不安しかない。でも、そんなこと言ってられない。ここは普通の職場とは違う。違いすぎる。逃げ出すことなんて、出来ない。逃げ出したら?そりゃあ、首と胴体がサヨナラするよね。

「あ、エルさん。今日は食事どうします?」

「頂いていいかな?」

「勿論!」

「正直、食堂の味付けより好みなんだよね…」

「じゃあ、これから一緒に食べませんか?」

「え!?毎朝!?迷惑じゃない?」

「全然迷惑じゃないです!お世話になってるのに今まで何も出来てなかったから…」

「それじゃあ、お願いしようかな?」

『はい!』

 やったー!
 これからはエルさんと一緒に食べれる!



 「えー、今日から昨日やったことを全部1人でやってもらうんだけど…私から最後に、忠告があります。」

『忠告?』

「まずラン」

「はい!」

「イレーク王子様をあまり1人にしないこと。やむを得ない場合は、なるべく早く用事を済ませて、なるべく早く王子様の元へ戻ること」

「…?は、はい…」

1人にしない…?どういうことだ?寂しがり屋…とか?

「次にレン」

「はい!」

「クリーク王子様は、とにかく意地悪です。他人をからかうのが好きな御方です。でも、本人はその性格を嫌っている。要するに、素直になれないんです。なので、意地悪を言われても右から左に流す、質問されたら答えてあげる。いいですか?」

「はい…」

 うわぁ、レンが1番苦手とするやつじゃん、スルーって。優しいからなー、レンは。

「最後にロン」

「はいー」

「タナーク王子様は基本普通ですが、時々とても怖いです。雰囲気から言動から、とにかく怖くなることがあります。怖いこと言われたりしたら、とにかく何でもいいから答えてください。」

「答えないとー?」

「…もっと怖くなります…」

 エルさんの顔、怯えてない…?経験者は語る…?

「分かりましたー」

「それでは、それぞれ仕事に付いてください」

『はい!』

 そうして、僕達の仕事が始まった。



 はぁ、いつ来ても緊張するなぁ、ここ。
 イレーク王子様の部屋の前、今日は、引っ張ってくれるエルさんもいない。いつも一緒に働いてたレンもロンもいない。あー!うじうじしててもしょうがない!
 よし、行きますか!

   コンコン

「失礼します、イレーク王子様」

 よし、昨日注意されたこと、しっかり出来た。

「あぁ、おはよう!ラン」

 くっ!イケメンスマイルッ...!
 そうか、これから毎日見ないと行けないのか…やっていけるかな…?

「早速だが、茶を淹れてくれないか?ついでに今日の予定も」

「かしこまりました」

 いけないいけない、しっかりしなくちゃ!
 僕は我に返って、持ってきた紅茶のセットを…
 あ。

「わ、忘れた…」

 紅茶のセットを忘れた。キッチンに貰いに行かないと。

「?どうした?」

 僕の異変に気付いたイレーク王子が、不思議そうな顔で僕に尋ねた。

「す、すみません、イレーク王子様。紅茶のセットを忘れてしまいまして…すぐにとってきます!」

 ヤバい!早くしないと!走…るわけにはいかず、早歩きで扉に向かう。すると、

   パシッ…

 腕を掴まれた。そして、

「ぅ...わわっ!」

 引き寄せられ、バランスを崩す。そんな僕を受け止め、ふわっと抱きしめる。何事かと上を見上げれば…
 寂しそうな顔をするイレーク王子だった。

「イ、イレーク王子…様?」

「ずっとそばに居てくれるんじゃないのか…?」

 …?…あ!エルさんの言葉!確か、なるべく1人にしないとか何とか。でも、超高速で戻ってくればいいんだよね?

「すぐに戻りますので、お待ち頂けないでしょうか…?」

 なるべく笑顔で言った。
 すると、少し固まった後、笑顔になって、

「絶対だぞ」

 と言われた。

   ドキン…

 ?なんか、ドキドキする。イケメンだから?イケメンスマイルだからだな!

「それでは、行ってまいります」

僕は部屋を後にした。



 その後、すぐにキッチンに向かい、紅茶のセットを貰って帰った。
 いやぁ、我ながら超スピーディーだったんじゃない?

「失礼します、イレーク王子様」

 なるべく息を整えて部屋に入る。

「おかえり、ラン」

 なんか、上機嫌だな…イレーク王子。
 それから僕は、紅茶を淹れながら、予定の確認をした。




「…そして夕方の5時からは、夕食も兼ねた会議に出席予定です。この会議が終わると、本日の予定は全て終わりです」

 予定を確認し終えると、

「な、なぁ…」

 イレーク王子に声をかけられた。

「はい。何でしょう?」

「その、会議の後、部屋にいてくれないか…?」

「?はい。構いませんが…」

「ほんとか!」

「えぇ」

 王子の顔がパァっと明るくなる。そんなに嬉しいのか?言ってくれればいつでもいるけど…
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