平凡な三つ子は平凡に暮らす...はずだった

月兎

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1章 なんだかんだで城へ

出会い~ラン・アルテント〜

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「馬が来たぞー!」

 酒屋のおっちゃんが大きな声で叫んだ。

 うわぁ、ワクワクするなぁ!どんな人なんだろ?王族が来るって聞いた時は正直怖いと思ったけど、今はワクワクが上回っている。
 その気持ちは同じなのか、レンとロンも、どこかソワソワしている。







 馬の蹄の音が大きくなってきた。ワクワクがだんだんと大きくなっていく。
 それはただ王族に会えるというだけではない。リンとリリィが声を掛けられるのではないかと考えていたからだ。

 リンとリリィが声を掛けられなかったのは、ただ単に人が多すぎたからではないか…と考えた僕達は、彼女達の髪を綺麗に結い上げたのだ。

 こんなに可愛くて綺麗な妹と幼馴染みを無視できるはずない。絶対に声を掛けるはず!
 僕は確信していた。










 馬が街に入ってきた。僕達は道の端に退き、片膝を付いて頭を下げた。
 チラッと見ると、先頭に3頭、後ろに3頭の、計6頭だった。

 意外と少ないんだなと思いながら、先頭の馬に乗っている人たちを見ると...


   イ、イケメンだー!


 歳は僕達と同じくらいだった。
 なのに、なんだろう?この世界観の違いは!?

 僕達は、長い髪も相まって、女の子に間違えられるほど、かっこいいとはかけ離れた顔立ち。
 だからかっこいい人に憧れていた。
 けど、本当にかっこいい人を見ると、「あ、無理だ。」と思うんだなと気付いた。
 僕が敗北感から項垂れていると、

「大丈夫?」

「体調悪い?」

と、レンとロンが気遣ってくれた。いかん。心配をかけてしまった。

「大丈夫。ただ、その、敗北した気がして...」

「あぁ、そういうね」

「それ僕も思ったー」

あ、2人もそうだったんだ。だんだんと顔が曇って...
 
そんな僕達に、馬が近付いてきた。ヤバッと思い、慌てて頭を下げた。(早く通り過ぎてくれー)と思いながら待っていると、蹄の音が止まった。そして、

「そこの似たような格好の3人。頭を上げよ。」

 と、誰かに言った。
 隣の母さんが、ハッとなにかに気づいたようで、慌てて僕を小突いてきた。

「お前達だよ!」

「え?何が?」

「話しかけられてるの、あんた達!」

「マジで!?」

 慌てて2人にも

「話しかけられてるの僕達だって!早く頭上げなくちゃ!」

 3人同時に頭を上げた。それも勢いよく。
 王子達を見ると…


   イ、イケメンだー!(2回目)


 思わず頭を下げたくなってしまうほどの美貌(しかもかっこいい方)にまたしても敗北した気がした。
 しかし王子たちは何故か呆けた顔をしている。
 ?なんだろう?何、この感じ。ハッ!まさか、

「王族である我の命令も聞かず、謝罪の言葉も無いとは...いいご身分だなぁ?」

と思われているのでは!?早く謝らないと!

「す、すみません!まさか自分たちが呼ばれているとは思わなくて...」

「い、いや、いいんだ!頭を上げてくれたなら、それで...」

 ?なんか、顔が赤い?大丈夫かな?

 王子たちの顔が揃って赤くなっていた。3人揃って風邪とか、街どころか世界中がパニックだよ...
 とか考えていたら、突然、

「お前達、名前は?」

と聞かれた。今度は早急に答えなければ!

「は、はい!私がラン・アルテントです。こっちから順にレン・アルテント、ロン・アルテントです。」

 ホッ。何とか冷静に答えられた。安心していると、

「お前達、城へ来い。」

 と言われた。


    ポカーン


 え?今、なんて言われた?城へ来い?それってもしかして...!?


   何か罰せられる!?


 何かしてしまっただろうか?僕の顔は今、青ざめているだろう。
 隣を見ると、レンもロンも青ざめていた。これは聞いて見なければ!
 勇気を出して聞いてみた。

「わ、私達、なにかしてしまいましたでしょうか…?城に呼ばれたのは、罰する為でしょうか…?」

  
   き、聞いてしまったー!


 王族に対し、失礼極まりないのは分かっている。
 でも、何も知らずに命が奪われるのは嫌だ。失礼だろうがなんだろうが、聞きたい。
 
すると、王子たちが明らかに動揺した。先程まで喋っていた王子が慌てて

「ち、違うぞ!?ただお前達を気に入ったからだ!嫁にしたいと思ったから...」


『よ、嫁!?』


 今度は僕達が驚いた。
 嫁!?いやいや、確か王族は異性と結婚するはず...そうか!僕達を女の子だと思っているんだ!訂正しないと!

「失礼ながら、私達は男ですが...」

「?分かっているぞ?」

 分かっていたー!それじゃ何故?

「王族は異性と結婚するんじゃ...」

「絶対ではない」

「でも...」

 ここは譲れない。
 もしかしたら甘い言葉で誘って、後で罰せられる可能性だってある。
 さっきすぐに頭を上げなかったから、それで罰せられるのかも...

 隣を見ると、レンが口パクで(がんばって!)と言っているのが分かった。ここは長男として頑張らなければ!

「これは命令だ。今夜使いの者を寄越す。それまでに準備するように。」


   め、命令...


これは逆らえない。王族の命令は絶対。逆らったら本当に消される。

「は、はい...」

と言うと、王子たちは満足気微に微笑み、踵を返して行ってしまった。王子たちが見えなくなったのを確認すると...

「ど、どうしよう母さん!」

「俺達、罰せられるの!?」

「僕、まだ生きてたいよー!」

 僕達の母さんコール。
 それに対し母さんは、

「とりあえず準備しなさい。罰せられるって決まったわけじゃないんだから」

 と言った。もしかして、本当に嫁にするために...?


母さん、リンとリリィに手伝ってもらって、支度を済ませた。


 心の準備も出来ぬまま、夜が来てしまった…

「あぁ、憂鬱だ...」

 僕は無意識に呟いていた。
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