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本編〜出会い編〜
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ラウルの家に泊まる日の夜、俺に遠慮して床で寝ると言い張るラウルを説き伏せて、一緒にベッドで寝ることに成功した。
風呂に入った直後で番の証である甘い匂いの他に、ほのかな石鹸の香りがする。
尻尾を身体に巻き付けて細いラウルを壊してしまわぬよう、力を加減して抱き締める。
背後から見える白い首筋がうっすら桃色に染まり、上気させた肌がなんとも男の情欲を唆る。
ぴたりと寄り添う身体からは緊張しているのか、少し堅い空気を感じる。
遥かに自分よりも小さな身体をした愛しい番にすぐにでも手を出して一晩中啼かせたい欲が顔を覗かせるが、理性を掻き集めて思い止まる。
俺のものに一刻も早くしたいという焦りはあるが、ラウルの心も手に入らなければ意味がない。
番とは愛し、愛される存在だ。俺はラウルからの愛情も欲しい。欲張りだなと自嘲してしまうが、相手が愛しい番なのだから仕方がない。
だけど、少しくらいは許してくれ。
「風呂で匂いが消えたな。マーキングしていいか?」
「……お願い、します」
「明後日の遠征で一ヶ月ここには来れないからしっかり匂いつけるぞ」
白くて細いうなじに舌を這わせる。
ちゅちゅっとリップ音を立たせて時折強く吸い付くと赤い痕が付いた。前回つけた痕のにも重ねて付けておく。
「……っ、ん……」
マーキングをしているとラウルからか細く震える声が聞こえた。
「……ぃ……ゃだ……」
身体を丸めて、小さく震えている。
「……ラウル? すまない、痛かったか?」
「ち、ちがう。そうじゃないんです……自分でもこんなことは初めてで、わからないんです」
ラウルは首を一生懸命に横に振って否定しながら静かに涙を零した。
今までに見たことがないほどの取り乱した姿を見て、背中をさすることしか出来ない自分に不甲斐なさを感じると共に、番の心を乱すものに腹の奥底から湧き上がる仄暗い感情を覚える。
誰がラウルを苦しめている?
何を怖がっているんだ。
どうか、俺に教えてくれ。
お前のことは全て知りたいんだ。
まるで懇願するかのように暫くの間強く抱き締めていると、ラウルが俺の方に身体ごと振り向いた。
目は少し赤く腫れているが涙はもう止っている。
そして何かを決心したような強い意志を宿した瞳で俺を仰ぎ見た。
「僕はずっと一人で生きてきました。虐げられることを恐れて翼を隠して、身を隠すように森の奥でひっそりと生きてきた。これからも、誰とも接することなく一人寂しく死んでいくのだと思っていました。……僕はクロウスさんに出会うまでは、寂しいなんて思ったことはなかったんですよ? 僕の凍った心を溶かしたのはクロウスさんです。たとえそれが刷り込みによる思い違いでも構わない。僕は……クロウスさんが好きです」
ラウルは俺の手を両手でぎゅっと握りしめて言葉を続ける。
「あなたとやること全てが楽しくて、一緒にいると鼓動が早くなるんです。見慣れたはずの景色が輝いて見えるんです。一ヶ月会えないと聞いて、凄く胸が苦しくなりました。クロウスさんに会える日を楽しみにしてたのに会えないなんて……寂しくてどうにかなってしまいそうです」
僕をこんなふうにさせた責任、取ってくれますか……?
少し不安げに首を傾げてそう言うラウルが可愛くて愛おしくてどうにかなりそうだ。
「フッ、ようやく言ってくれたな。俺は初めて会ったあの日、お前に惚れたんだ。献身的な姿も危なっかしさも寛容で包み込むような優しさも綺麗な灰色の羽も……ラウルを知る度に惚れ直してる。懐に飛び込んで来るのをずっと待ってたんだ。…………ラウル、好きだ。俺の、ただ一人の番。唯一だからじゃない、お前だから好きなんだ。嫌だって言っても一生離してやれないからな。覚悟はいいか?」
「っ……ふっ、ぐすっ……僕が貴方の番…? ほんとうに?」
「あぁ、本当だ。ラウルから番にだけ感じる甘い匂いがする。俺を誘う甘美な匂いだ」
「嬉しい……っ! 僕もクロウスさんが好きです。あのっ、クロウスさんはかっこいいし凄い人で、街でよく綺麗な人や可愛い人に声掛けられてますけど……よそ見したら許しませんからね。僕だけを見ててくださいね?」
「あぁ、安心して俺に囚われてろ。俺の目にはお前しか映ってねえし映らねぇ。これからも」
ぎゅっと強く抱き締めてくる愛おしい番の腰に腕を回して抱き上げる。
驚いた表情をするラウルの耳元に唇を寄せる。
「ずっと我慢してたんだ。朝まで離してやらないけど、いいよな?」
耳元でそう囁くと、ラウルは顔を真っ赤にしてコクコクと可愛く頷いた。
◇◇◇
それからは、空気が湿り太陽が雲に隠れる日は僕がどこを飛んでいても、雨雲に紛れ込んでも必ず見つけてくれる大好きな人がいる。彼は空を見上げて眩しそうに目を細めながら微笑ましそうに見守っている。
これも、僕に許された大切な唯一の時間。
風呂に入った直後で番の証である甘い匂いの他に、ほのかな石鹸の香りがする。
尻尾を身体に巻き付けて細いラウルを壊してしまわぬよう、力を加減して抱き締める。
背後から見える白い首筋がうっすら桃色に染まり、上気させた肌がなんとも男の情欲を唆る。
ぴたりと寄り添う身体からは緊張しているのか、少し堅い空気を感じる。
遥かに自分よりも小さな身体をした愛しい番にすぐにでも手を出して一晩中啼かせたい欲が顔を覗かせるが、理性を掻き集めて思い止まる。
俺のものに一刻も早くしたいという焦りはあるが、ラウルの心も手に入らなければ意味がない。
番とは愛し、愛される存在だ。俺はラウルからの愛情も欲しい。欲張りだなと自嘲してしまうが、相手が愛しい番なのだから仕方がない。
だけど、少しくらいは許してくれ。
「風呂で匂いが消えたな。マーキングしていいか?」
「……お願い、します」
「明後日の遠征で一ヶ月ここには来れないからしっかり匂いつけるぞ」
白くて細いうなじに舌を這わせる。
ちゅちゅっとリップ音を立たせて時折強く吸い付くと赤い痕が付いた。前回つけた痕のにも重ねて付けておく。
「……っ、ん……」
マーキングをしているとラウルからか細く震える声が聞こえた。
「……ぃ……ゃだ……」
身体を丸めて、小さく震えている。
「……ラウル? すまない、痛かったか?」
「ち、ちがう。そうじゃないんです……自分でもこんなことは初めてで、わからないんです」
ラウルは首を一生懸命に横に振って否定しながら静かに涙を零した。
今までに見たことがないほどの取り乱した姿を見て、背中をさすることしか出来ない自分に不甲斐なさを感じると共に、番の心を乱すものに腹の奥底から湧き上がる仄暗い感情を覚える。
誰がラウルを苦しめている?
何を怖がっているんだ。
どうか、俺に教えてくれ。
お前のことは全て知りたいんだ。
まるで懇願するかのように暫くの間強く抱き締めていると、ラウルが俺の方に身体ごと振り向いた。
目は少し赤く腫れているが涙はもう止っている。
そして何かを決心したような強い意志を宿した瞳で俺を仰ぎ見た。
「僕はずっと一人で生きてきました。虐げられることを恐れて翼を隠して、身を隠すように森の奥でひっそりと生きてきた。これからも、誰とも接することなく一人寂しく死んでいくのだと思っていました。……僕はクロウスさんに出会うまでは、寂しいなんて思ったことはなかったんですよ? 僕の凍った心を溶かしたのはクロウスさんです。たとえそれが刷り込みによる思い違いでも構わない。僕は……クロウスさんが好きです」
ラウルは俺の手を両手でぎゅっと握りしめて言葉を続ける。
「あなたとやること全てが楽しくて、一緒にいると鼓動が早くなるんです。見慣れたはずの景色が輝いて見えるんです。一ヶ月会えないと聞いて、凄く胸が苦しくなりました。クロウスさんに会える日を楽しみにしてたのに会えないなんて……寂しくてどうにかなってしまいそうです」
僕をこんなふうにさせた責任、取ってくれますか……?
少し不安げに首を傾げてそう言うラウルが可愛くて愛おしくてどうにかなりそうだ。
「フッ、ようやく言ってくれたな。俺は初めて会ったあの日、お前に惚れたんだ。献身的な姿も危なっかしさも寛容で包み込むような優しさも綺麗な灰色の羽も……ラウルを知る度に惚れ直してる。懐に飛び込んで来るのをずっと待ってたんだ。…………ラウル、好きだ。俺の、ただ一人の番。唯一だからじゃない、お前だから好きなんだ。嫌だって言っても一生離してやれないからな。覚悟はいいか?」
「っ……ふっ、ぐすっ……僕が貴方の番…? ほんとうに?」
「あぁ、本当だ。ラウルから番にだけ感じる甘い匂いがする。俺を誘う甘美な匂いだ」
「嬉しい……っ! 僕もクロウスさんが好きです。あのっ、クロウスさんはかっこいいし凄い人で、街でよく綺麗な人や可愛い人に声掛けられてますけど……よそ見したら許しませんからね。僕だけを見ててくださいね?」
「あぁ、安心して俺に囚われてろ。俺の目にはお前しか映ってねえし映らねぇ。これからも」
ぎゅっと強く抱き締めてくる愛おしい番の腰に腕を回して抱き上げる。
驚いた表情をするラウルの耳元に唇を寄せる。
「ずっと我慢してたんだ。朝まで離してやらないけど、いいよな?」
耳元でそう囁くと、ラウルは顔を真っ赤にしてコクコクと可愛く頷いた。
◇◇◇
それからは、空気が湿り太陽が雲に隠れる日は僕がどこを飛んでいても、雨雲に紛れ込んでも必ず見つけてくれる大好きな人がいる。彼は空を見上げて眩しそうに目を細めながら微笑ましそうに見守っている。
これも、僕に許された大切な唯一の時間。
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