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本編〜出会い編〜
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しおりを挟む大きな灰色の耳と尻尾を持つ黒髪赤目の美形な獣人は、名をクロウス・ベルバスクと言った。
逞しい筋肉の均整のとれた身体を持つ彼は名だたる騎士が集まる騎士団の第二部隊長を勤めているという。
僕より六つ上の二十七歳という若さでそこまで出世するのは異例だそうで、都では人気があるらしい。特に人間からのアプローチが凄いんだとか。彼は謙遜するけど、それほどに強くて優秀なんだろうなと僕は思う。
そんな彼と出会って一ヶ月が過ぎた。
獣人は自己治癒能力に長けていて、一週間後には完全に傷が塞がっていた。
あれから彼は、休みの日や近くに討伐に来た際に僕の家に訪れるようになった。
来る度に手土産で珍しい食材や調味料をくれる。僕はそのお返しにそれらを使って料理を振る舞うようになった。
彼は大きな体に見合うだけの量を食べる。僕のご飯の量を見て少な過ぎると心配されたほどだ。
美味しいそうに食べてくれるから僕も作り甲斐があって嬉しくなる。
そんな風に彼と過ごす時間は思った以上に心地良くて、彼が来る日を待ち侘びる自分がいる。
だけど、最近は少し困ったことがある。
「ん、ここにおいで」
食後、ラグを敷いた上に胡座をかいて座る彼が、自分の膝を叩く。
僕は背を向けてその間に座り、彼の大きな胸に頭を預けた。するとお腹に腕が回り、優しくさわさわと撫でられる。
さらに時折耳に甘噛みされて、腰に甘い痺れを感じて疼くのにお腹を撫でられると安心しきってしまう。
初めて一緒に売りに出掛けた日から、変なやつに狙われないようにとクロウスさんは僕にこうしてマーキングをしてくれるようになった。
若干、マーキングに関係のない動きが混じっている気がするけれど、してもらっている立場だから文句は言えない。
それに、決して強制させられているわけでもないのに、どうしてか逆らえない。けれど嫌悪感は感じなくて、嫌じゃないから困るんだ。
「外、暗くなって来ましたけど大丈夫なんですか?」
夜の森は明かりが一切なくてとても暗い。いくら獣人といえども、迷わずに街に出れるとは思えない。
「あー……出来れば今日泊めてほしい。ちょっと煩い奴らが家に来るって連絡があって、見つかったら面倒事になるから。一晩でいいから頼む」
「いいですよ。クロウスさんなら何晩でも泊まってくれて大丈夫です」
「そんなこと言われると勘違いして襲って食べたくなるぞ? 我慢が効かなくなるから嬉しいことを言わないでくれ」
縋るようにギュッと抱き締める彼が少し可愛くて、思わずクスりと笑いが溢れた。
「僕を食べても美味しくないですよ。あまりお肉ついてないので」
「いいや、俺からすれば極上だから」
……据え膳まで待つか。
なんて声が聞こえた気がするけど、いくら待っても僕は太らないと思う。ご飯食べてもすぐにお腹いっぱいになっちゃうから。
「……お風呂の準備をしてくるのでそろそろ離してもらえませんか」
「一緒に入ってくれるなら離す」
彼はたまにそんな無茶振りをしてくる。
僕の肩に顔を埋めて甘える仕草をしながら言うものだから、危うく頷き掛けそうになる。
絆されかけているんだろうな、僕は。
「あの狭い一人用のお風呂にどうやって二人で入るつもりですか」
「ほう? ってことは、広かったら一緒に入ってくれるのか?」
お腹に回った腕に力が入り、少し上擦った声で聞かれる。
「……っ、入りません! お風呂の準備してきますっ」
墓穴を掘ったことに気がついた僕は、赤くなった頬を隠すように急いでその場を後にした。
後ろから喉を震わせてクックッと笑う声が聞こえて、揶揄われたことがわかって余計に羞恥心を掻き立てられた。
「……もうっ……」
それでも嫌じゃないから本当に困るんだ。
◇◇◇
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