灰色の天使は翼を隠す

めっちゃ抹茶

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本編〜出会い編〜

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「おい、そっちに行ったぞ!」

 倒しても倒してもキリがなく湧いてくる魔物に舌打ちしながら、灰色の尻尾を靡かせて剣を振るう。
 常人よりも優れた運動神経を遺憾なく発揮しながら戦場を駆け抜ける。

 せっかくの休みの日に第二部隊招集命令が上から出たと思ったら、都に出た魔物を人の寄りつかない場所まで誘導しながら討伐しろとのお達。
 ついてねえなぁ、と思いながらも隊員を集めて仕方なしに討伐に出て来た。

 魔物の出現は珍しいことじゃない。日常茶飯事だ。問題は、どこに出て何を狙っているのかに尽きる。
 強い魔物ほど攻撃性が高く、弱者を狙う傾向にある。人が集う都付近に出れば、当然ながら都に襲撃しに来る。
 瘴気が集まる森に出現することが殆どで、俺ら第二部隊はその討伐を担当している。だから今回のような事が起きるのは稀だ。

 過去に数回、今回のような事に遭遇したことがあるが、討伐はすぐに終わった。

 今までとは違う異質さに何か嫌な予感がする。

 都から遠く離れた街まで来た時強い風が吹き、一瞬ふわりと甘い匂いがした。
 魂から惹かれるような匂いに足が止まり、全ての意識が向く。

 その次の瞬間、目前まで迫った魔物の鋭い爪が振り下ろされた。

「しまっ……!」

 一瞬の油断が命取りとなった。
 腹に激痛が走る。

「チッ、ここでやられてたまるかよっ……!」

 番を一目見るまでは。

 奥歯を噛み締めて痛みを堪え、急所を狙って魔物にトドメを指す。
 断末魔の叫び声を聞きながら、最後の気力を振り絞ってかすかな匂いを辿って、おぼつかない足取りで歩く。



 どれほど歩いたのか、血の匂いに混じって匂う甘い香りが濃くなるにつれて俺の体力も限界を迎える。

 見渡す限り木しかない場所で、誰にも看取られず俺は死ぬのか。
 そんな思いが足をさらに重くする。

 とうとう、限界が来て地面に倒れ込んだ。

「……最期に一目見たかった……」

 俺の意識はそこで途絶えた。


◇◇◇

「大丈夫ですか?」

 鈴を転がすような、大人の男よりも少し高い声が聞こえる。
 澄んだ声の持ち主を見ようと、重い瞼を持ち上げた。

 そうして見えたのは、銀の髪に柔らかな温かみを感じるエメラルドの瞳をした、とても綺麗な美青年だった。


「……天使が、迎えに来たのか」


 少し幼い風貌はまるで天使を彷彿とさせるようで、俺を迎えに来てくれたのが彼なら悔いはないなと、そう思いながら俺は意識を手放した。



 次に目を開けると、木で作られた天井が見えた。
 体が柔らかな物に沈んでいる感覚とジクジクと痛む腹から考えるに、俺は誰かに助けられて生き延びたみたいだ。

 痛む腹を押さえながら起き上がれば、掛けられていた毛布と腹に巻きつけられた包帯が見える。
 身体の汚れは綺麗に落とされている。

 ぐるりと見渡せば、此処が一人で暮らしている木造家屋だとわかる。物は最小限ですっきりした印象を持つ。だけど何故だか温かみを感じる家だ。
 そして、甘い惹かれる匂いがそこらじゅうから漂ってくる。

 匂いの元を辿るように寝室から出てリビングに行くと、意識を失う前に見た天使がそこに居た。

 彼が、俺の番。
 危険を伴う職についていると残される相手が可哀想で番に憧れなんぞなかったが、番持ちの奴らが口煩く早く探せと言う意味を理解した。

 だが、同族なら一目見ただけでわかる番も異種族相手ならそうはいかない。嗅覚に優れた獣人ならばともかく、彼は獣人じゃない。匂いで俺が自分のただ一人の番だとは分からないだろう。

 慎重に事を進めなければ、逃げられる。
 そう考えながら俺は、彼に声を掛けた。


「助けてくれたのか。すまない、世話になった。この恩は必ず……」


 そう言っている途中で振り向きざまに彼の翼がふわりと動いた。

 伝承で語られる天使は真っ白な輝く翼を持つという。
 彼の翼は白から遠い灰色だが、丁寧に手入れされて整えられたそれは、とても艶やかで輝いて見えた。彼の容姿と相まってとても美しく、話しかけることさえ躊躇うほどだ。
 本当に神の使いなのではないかと疑ってしまう。

 思わず見惚れ、言葉を失ってしまった。

 そんな俺の様子を不安に思ったのか、慌てた様子でその綺麗な翼を隠そうとする。
 一体なぜ? そう思ったが、すぐに理由に思い至った。有翼種は羽の色を気にするんだったか。

 俺には隠さないでほしい。その一心で必死に弁明すると、彼は少し躊躇った後、隠すのをやめて少し困った顔をして笑った。

 誰かも分からない俺のような怪我人を助ける優しさを持ち、綺麗なのに可憐で少し幼さを残す番に俺は、この時すでに惚れていた。


◇◇◇
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