灰色の天使は翼を隠す

めっちゃ抹茶

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本編〜出会い編〜

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 燻んだ灰色をはためかせて緑の隙間を縫って空を飛ぶ。
 森を抜けて上空に出れば、僕の姿は空いっぱいに覆われた雨雲に紛れて見えなくなる。

 誰もいない空で少し湿った空気を切るように羽を広げて滑空する。

 これが、僕に許された唯一の時間。


◇◇◇

 都から外れた街の近くにある森に小さく佇む小屋のような家で、僕は一人で暮らしている。
 不便を感じることは多少あるけれど、自然に囲まれたのどかな生活が気に入っているから構わない。

 曇天の今日は、街に出て売りをする。昨夜までに作った日持ちする料理をカゴに入れて、翼が隠れるローブを羽織って森を歩く。

 街に出るまでは誰ともすれ違わないからとても気が楽だ。

 火が苦手な有翼種は料理をしない。外で食べるか出来合いのものを買って家で食べるのが一般的だ。
 両親に捨てられて村から追い出された僕は、幼い頃からずっと一人で暮らしてきた。初めは心細かったし、火が怖くてお湯を沸かすことさえできなかったけど、誰の助けもない環境では自分でやるしかなかった。
 そうして毎日繰り返すうちに火は怖くなくなった。自然と料理も覚えて、今では常連客がいるほどに上手くなった。
 生きることに精一杯で寂しいと感じる暇もなかった。


「となり、いい?」


 人通りの多い道で、隅っこに寄っていつものように売り物を並べていると、愛想の良さそうな綺麗な翼を持った若い女性が大きな荷物を持って隣に腰をかけた。


「私、最近村から出てきてさ、ここで番探してるんだけど、ここってあまり有翼種いないのかな? 出会わないんだよね」

「都ならたくさんいると思いますよ。ここは田舎ですし、都から遠いですから」

「やっぱりそうだよねえ。ここまで来るの大変だったけど、仕方ない。都に行くか~」


 面倒そうに言うけれど、彼女は朗らかに笑っている。期待に胸を膨らませる様子は輝いて見えた。
 ありがとね、と自作の干し肉とピクルスを買って彼女は足取り軽く去っていく。

「ありがとうございました」

 彼女の綺麗な翼を羨ましく思いながら、僕は次々と客を捌いていく。

 翼を持つ飛べる有翼種と翼のない飛べない人間、獣性を持つ獣人や竜人が集う都には、ただ一人の番を探して多くの人がやってくる。
 別種族に自分の番がいることがあるけれど、それはとても稀なこと。ほとんどは同種族に番がいる。

 人間以外の種族にとって番は己の片割れと云われていて、出会えなければ寂しさから心が徐々に凍り、本来の寿命の半分にも満たずに死んでしまうという。
 だから、ほとんどの人が成人を迎えた日に住んでいた村を出て、番を探す旅に出る。彼女もその一人なんだろう。

 先ほどの笑顔を思い浮かべながら、良き番に出会えますように、と心の中でお祈りする。

 僕が同族から忌み嫌われていていても、過去に受けた扱いを思い返しても、憎いなんて感情は今はもう湧いてこない。苦しいと思うだけ。
 成長と共に凪いだ心が荒波を立てることはもうない。

 僕の料理はありがたいことに多くの人から好かれている。見た目は普通だけど日持ちして味は美味しいと評判だ。
 今日もあっという間に用意していた分が売り切れしまった。

 露天を畳み、材料の買い出しに向かう。

 食材や足りない調味料を多めに買い込んで街を抜けて家に着けば、数日に渡る仕込みが待っている。

 何も変わらない日常。そうして僕の一日は終わっていく。


◇◇◇
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