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二人の初夜
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「はあー、疲れた」
月明かりが差し込む薄暗い部屋の中、ベッドメーキングされた大きな寝台にフィアは身を投げ出した。ぼふっと沈んだ身体はスプリングで跳ね返され、一瞬ふわりと浮き上がる。急ぎで行われた準備と壮大な式を無事終えた安堵と疲れがどっと押し寄せて、瞼を重くした。
「思った以上に大変だったな」
純白のジャケットを脱ぎながら、疲れなど微塵もない普段と変わらない顔で言うレイヴンに、フィアはジトリと目を向けた。
自覚があるらしく、わざと咳払いをしてレイヴンはフィアのいる寝台に身を乗り上げた。
「さて、寝るのにはまだ早いんじゃないか。なぁ?」
「うぅ……だけど今日はもう疲れたし、発情期だってまだ先なのに……んっ」
フィアの言葉を遮るようにレイヴンは唇を押し当てた。上唇と下唇で挟み込むと、甘く食んだり引っ張ったりしてその柔らかさをレイヴンは堪能し始めた。それだけでは飽き足らず、舌で硬く閉ざされた口をこじ開けかと思えば歯列をなぞる。
敏感な上顎を擦られるとフィアは脳がピリピリと痺れる感覚に襲われて、甘いくぐもった声を出した。
その感じ入る嬌声にレイヴンは煽られ、奥に仕舞われた舌を誘い出しては絡ませてジュッと強く吸った。
「んぁっ、はぁ、まって……もっと、ゆっくり……」
「すまない、一刻も早くフィアが欲しい」
慣れない行為に息が苦しくなったフィアは、頬を赤く染めて瞳を潤ませながらレイヴンの厚く逞しい胸を叩く。
レイヴンが唇を解放してやると、フィアは呼吸を荒くして苦言を呈した。
だが、初めて見るフィアの乱れた姿に、元より限界を迎えていたレイヴンは静止を聞かず纏っていた邪魔な服を脱ぎ捨てて、かろうじて引っ掛かるだけのシャツと下着だけになる。
しかしフィアもまた、普段は布に隠されている鍛え上げられた男性的な肉体に目を奪われて、鼓動が早まるのを感じた。
「ぁ、もうこんなに……」
目線を下げれば、触れてもいないのにレイヴンの中心は硬く勃ち上がっていて、布に濃い色の滲みを作っていた。フィアは自分がこうさせたのだと思うと、布越しでも分かるその大きさに後孔がじわりと濡れそぼった。
「フィアのおかげで俺はもう限界だ。こうなった責任は勿論取ってくれるよな」
逃がさないとでも言うようにレイヴンはフィアに覆い被さる。
白のネクタイを指一つで容易く緩めると、オメガの色香を抑えつける純白の、清廉潔白な服に手を伸ばした。
病み上がりなのを気遣ってか、レイヴンはフィアに触れようとはせず、今日まで清い関係のままであった。
オメガの機能が回復したとはいえ一年弱寝たきりだったフィアの身体機能が戻るには時間を要した。健康と言える状態になるまでも経過観察は必要で、暫くの間フィアは通院を繰り返していた。
そしてようやく医師のお墨付きを貰ったレイヴンは、式の準備を最短で執り行うと、初夜である今日をそれはそれは楽しみにしていたのだ。
長かった道のりにレイヴンは思いを馳せながらも、抵抗がないのをいいことにフィアに見せつけ期待を煽るように、ぷつりぷつりとボタンを丁寧に外し、ゆっくり一枚ずつ纏う布を剥いでいく。
「……どうやら、俺だけではないようだな」
最後の砦を剥ぐと、とろりと引く透明な糸が垂れた。フィアは恥ずかしさから火照る顔を腕で隠す。その隙間から覗く耳元は、茹る蛸のように真っ赤に染まっていた。
レイヴンは、己を求めて身を持て余す番に一層昂った様子で、ぺろりと己の唇の端を舐め取る。月明かりに照らされた口元が、てらてらと照る様はとても艶かしい。
両腕の隙間から狼が舌舐めずりをする様子を見ていたフィアは、雄の色気と身の危機を前に、燻っていた火種が急速に熱を持ち始めるのを感じた。
「だって……ようやくここに挿れてもらえるって思ったらきゅんきゅんして、熱くて……」
はあっ、と熱の篭った息を吐き、露わになった素肌に手を添えて下腹をさするフィアの後ろからは白い透明な蜜が溢れ出ている。
これからの未知の行為に思いを馳せて膨らんでいく期待は、フィア自身のか、それともオメガだからなのかはフィアにも分からなかった。
「っ、ただでさえ必死に抑えているというのにっ!」
ぐるりと背を返されたかと思えば、フィアの首元にある硬質な物に歯が当たる音がした。頸を守る首輪に、レイヴンは欲をぶつけるように噛み付いていた。
尖く発達した犬歯が幾度となく柔い皮膚に刺さりそうになるも、それを太く硬い物が許さない。
フィアは首の後ろに感じた滑りを帯びた熱と、アルファに噛まれる予感に腹の奥が疼くと、オメガ特有の香りがぶわりと放たれた。
「ぇ、あ、っ、なん、で……?」
「ハッ、俺が欲しくて発情期に入ったのか。可愛いなぁフィア」
ニヤリと口の端を持ち上げるレイヴンとは対照的に、フィアは当分先のはずである発情期の訪れに困惑を隠せない。助けを求めて後ろを振り返るも、レイヴンは格好の獲物を前にゴクリと喉を鳴らしていた。
狼を前にして早まっていく鼓動は期待か恐れか。フィアはその判断もつかぬまま、正直な身体に翻弄されていく。
フェロモンを絶えずあたりに撒き散らし、頸は火傷するほどに熱を持ち始めた。ぐるぐると渦巻く胎の疼きは増すばかりだった。
目を白黒させながらも甘い誘惑香を出し、色白の肌を淡く染めて前も後ろも濡れそぼちながらアルファを誘う愛しい番を前に、レイヴンは堪らない気持ちになる。
そして、衝動の赴くままにレイヴンは、フィアの身体に貪りついた。
「ん、ぁっ、そこ、っ、だ、めぇ」
ピンク色に色づいた、健気に勃ち上がる乳頭にかぶりつき口に含むと、レイヴンはそれを舌で転がし始めた。
一方の胸も指で突いたり弾いたりして絶えず刺激を送ると、フィアの腰に甘い痺れが溜まり、快感を逃そうとフィアは身体をくねらせた。
その乱れる姿を、意地悪にもレイヴンは咎める。
「腰が揺れているのにか?俺の腹に擦り付けるのは気持ちいいか?」
「ぁ、ち、ちがっ、そうじゃ、なくてっ」
指折りこの日を数えていたのは、なにもレイヴンだけではない。
元より期待し切っていたフィアの身体と心は、発情期と相まって瞬く間にフィアの理性を奪っていった。
フィアは秘所が見せつけるように足を開き、雄を求めてひくつく後孔を恥ずかしげもなく晒すと、くぱぁ、とナカを開いて見せた。
「ナカ寂しいから……こっちに、はやく、ほし、ぃ……」
そこは既に蕩け、くぱくぱと口を開けては熱くて硬いものを欲している。なおもだらりと蜜を溢し続けるその淫らな姿に、レイヴンは煽られ怒りすらも覚えた。
「っ、今までもこうして男を誘っていたんじゃないだろうなっ!」
「んぁぁあああ!」
フィアの膝裏を押さえつけると、レイヴンは天に向かって聳り立つほどいきり勃った男根を、勢いよく上から振り下ろした。
雄に媚びて熱く絡みつく襞を振り切りながら、どちゅ、どちゅっとレイヴンは腰を強く振り続ける。
「あぁっ、やぁ、んっ、ぁあ」
「フィアっ、フィア……っ!」
薄暗い部屋の中、互いの荒い息遣いと肌がぶつかる音、そして粘着質な水音だけが場を支配していた。
発情で熟れたフィアのナカは、誂えたようにレイヴンにぴったりで、すぐに果ててしまいそうなほど心地が良く、それがより一層レイヴンを不安にさせる。
俺の番で運命なのだと、脳髄まで痺れるような快感に実感を覚えながらも、与えられる快楽に乱れる番の姿を知る男がいると一度疑った頭は、なかなか振り払われてはくれなかった。
「俺だけを見てくれっ、俺だけだと言ってくれフィアっ……」
激しい抽送と絶えず送られてくる快感で行為のことしか考えられなくなっていたフィアは、頬を伝う冷たさでハッと我に帰る。
徐々に理性を取り戻し始めると、火照った肌を突き刺す冷たさは唇を噛み締めながらぼろぼろと溢す目の前の、愛おしい人の涙であることに気がついた。
快感は止んだものの、不安がるこどもみたいに縋り付くように絡めて強く握られていた手の力は、より一層強まった。
この人の弱った姿を見るのは二度目だな、などと悠長なことをフィアは頭の片隅で思う。こんな風に泣いて喚いて縋るその表情を瞳に映したのは初めてだけど。
いつも自信に満ち溢れて、大勢の人の上に立つアルファの中のアルファとも言える人が、自分にだけ情けない姿を晒してくれる事に、フィアは愛を感じた。
恥ずかしいのを我慢して意を決し、フィアはレイヴンを安心させようと正直に打ち明けた。
「レイヴンだけだよ。僕が好きになったのも、こういうことをするのも全部、レイヴンが初めて」
フィアはこれまでの人生を振り返る。
人に恋したことはなくとも、された経験なら実は幾らかある。告白はされたけど、少なからず僕にとってはただの友人でしかなかったし、期待に答えられるような気持ちも持ち合わせてなかった。だから、レイヴン以外でお付き合いをした人はいないのだけれど……——それを言ったら余計に不安がらせてしまいそうだ。
だけど、とフィアはレイヴンの眼を見ながら続けた。
「レイヴンはそうじゃないんだよね」
「う、それは……」
レイヴンが気まずそうに眼を逸らす。
そんな反応をされずとも、恋愛経験のないフィアから見てもレイヴンが大人の男性だということは初めから分かっていた。恋愛に興味はあれど乗り気にはなれなかったフィアにだって、少し過去が違えばもしかしたらそういった経験があったかもしれない。
フィアには想像もつかないが、オメガは性に奔放な人が多いと聞く。身体だけの関係もあったかもしれない。そう思えば、身も心も欲してくれるだけでフィアは嬉しかった。
気にしてないと言えば嘘になる。でも、忙しい中見舞いに来てくれて、心配だからとフィアのために豪邸まで建ててしまったアルファの愛を今、一途に受け止めているのは自分だという自負も同時に芽生えていた。
「でも、これからは僕だけにしてくれるんだよね?だったら……」
首元に指を這わせると、カチャリと音を立てて硬質なそれをその場で外した。遮られていた首元に、新鮮な空気が触れる。その何とも言えない心許なさを感じながら、レイヴンに背を向けた。
オメガが発情期に、その行動を取る意味はただひとつ。
「僕をレイヴンのものにしていいよ」
付ける本人にしか外せない首輪は、謂わばオメガを守る生命線。それをこちらが許可する形で言ったのは、フィアのちょっとした意地悪で、脅しでもあった。
不公平なことに、アルファは番を多く持つことが出来る。レイヴンを信用していないわけではない。でも、一生をアルファに明け渡すのはそれなりに不安も付き纏うのだとフィアは知った。
レイヴンの啜り泣く音がしてフィアは後ろを振り向く。八の字に下がった眉と涙を堪えようと固く結ばれた口元が目に入った。しかし、努力も虚しくレイヴンの瞳からは絶えず涙が溢れ返っている。濡れた眦は優しく細められていて、先ほどの辛そうな表情とは打って変わり、嬉し泣きというようだった。
「ああ当然だ。フィアだけを愛すると誓う」
運命の番に噛むことを許された悦びにレイヴンは浸ると、曝け出された白く柔らかな首元に口を大きく開き近づいた。
「ああああっ……!!」
次の瞬間、フィアに戦慄が走った。稲妻が背筋を貫くと痛みさえも快感に変わって瞼の裏がチカチカと光りだす。脊柱を伝い脳髄まで痺れる感覚に、フィアは悲鳴のような高い声を上げた。
雄を求めて辺りに散布されていた香りが和らぎ、ただ一人の雄だけを絡め取ろうと向けられる。そして、ナカにいる存在を確かめんと胎がきゅうきゅうと収縮し始めた。
それはまるで、自分のアルファをオメガの全てを持って受け入れ、愛でるようだった。
レイヴンもまた、己の存在意義が目の前の番であると、愛おしさがより一層募っていった。
「俺だけのフィア……!もう二度と離さない!俺だけの、運命の番」
レイヴンは名前を呼びながらフィアを両腕で抱き締めると、己の腕の中にいる存在を確認する。促されるまま最奥へ肉棒を叩きつけると、ラット特有の瘤のようなもので根元に蓋をして、孕まさんとばかりにグッと腰を押しつけた。
「んぁっ、なか、あつい……でてるぅ、赤ちゃん、できちゃ、う」
びゅうっと注がれる熱い飛沫を受け止めながら、フィアは自身の腹を見下ろした。ラットに入ったアルファはオメガを確実に孕ますため、大量の精を長い時間をかけて吐き出す。
いつの間にか腹には自身の白濁液が散らばっていて、平らなはずの下腹はぼっこりと膨らんでいた。
その様子を吐精しながら見ていたレイヴンは、塗り込むように腰を揺するとフィアの耳元で囁く。
「孕むまでなかに注いでやるから。朝まで頑張ろうな、子作り」
獲物を前にした狼の如く舌舐めずりをしながらも心底嬉しそうに言う声が、甘く蕩けて頭に直接響くようで。フィアもまた、昂った身体に思考が白く染まっていくのを感じながら、レイヴンの腰に足を絡めて愛おしい番の精を強請った。
「うんっ、もっとちょーだい」
愛しい番のおねだりにレイヴンの男根はすぐさま勃ち上がる。その硬く質量を増したもので抜ける寸前まで引き抜くと、後孔が雄を離すまいと締め付け、縁が赤く捲れ上がった。
それを目に焼き付けながら、再び最奥を目指してどちゅんっ、と一層より深く強く、腰を振り始めた。
隙間なくぴったりと収まるレイヴンのそれは、フィアの感じるところを余す事なく擦り上げていく。子宮の入り口をこつこつとノックされればナカがちゅぅっと吸い付いた。
熱に浮かされたフィアの瞳はとろりと蕩け、幸せそうに微笑んでいた。
全身で求められて、レイヴンは徐々に余裕を手放す。己の手で乱れるフィアに「全て俺で染まればいい」と、一度でも思ってしまえばタガが外れた。身体全体で逃げられないようにフィアを押さえつけると、甘い嬌声すらも欲して唇を塞いだ。
そうして自分色に染まっていく愛しい番に、レイヴンは溺れていった。
翌日、とある最上階にあるスイートルームに泊まっていたある客は、宿泊を延長すると食事の用意と「部屋には入ってくるな」という伝言だけを言い残し、一週間という長い間部屋から一度も出てくることはなかったという。
食事の用意を部屋の近くまで運んだホテルの従業員は皆、顔を赤く染め、耳を塞いでいたそうな。
▽▽▽
ーーーーーーーー作者のどうでもいい独り言。
書きたいことを詰め込んだら長くなってしまいました。視点がブレブレになってしまって申し訳ない限りです。
かっこよかったレイヴンが段々と情けなくなってしまったのは想定外でした笑
愛が重いほど不安は募るし、その愛が少しでも返ってきたら子供のようにはしゃいで笑う。レイヴンは本気の恋をしたら取り繕えなくなって、素の部分駄々漏れになるのではないかな?
そう考えた結果、単純で調子に乗りやすいアルファが出来上がってしまいました笑
まあ、これはこれでいいのではないですかね?元々、周りを引っ掻き回すタイプのようですし。
と作者は思っております。
ひと段落まで書き終えて作者は安心しきってしまったので、これにて一応完結とさせていただきます。
また二人を書きたくなったら番外編を書こうと思います。
それでは、また皆様にお会いできることを楽しみにしております。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
良い夢を(_ _).。o○
月明かりが差し込む薄暗い部屋の中、ベッドメーキングされた大きな寝台にフィアは身を投げ出した。ぼふっと沈んだ身体はスプリングで跳ね返され、一瞬ふわりと浮き上がる。急ぎで行われた準備と壮大な式を無事終えた安堵と疲れがどっと押し寄せて、瞼を重くした。
「思った以上に大変だったな」
純白のジャケットを脱ぎながら、疲れなど微塵もない普段と変わらない顔で言うレイヴンに、フィアはジトリと目を向けた。
自覚があるらしく、わざと咳払いをしてレイヴンはフィアのいる寝台に身を乗り上げた。
「さて、寝るのにはまだ早いんじゃないか。なぁ?」
「うぅ……だけど今日はもう疲れたし、発情期だってまだ先なのに……んっ」
フィアの言葉を遮るようにレイヴンは唇を押し当てた。上唇と下唇で挟み込むと、甘く食んだり引っ張ったりしてその柔らかさをレイヴンは堪能し始めた。それだけでは飽き足らず、舌で硬く閉ざされた口をこじ開けかと思えば歯列をなぞる。
敏感な上顎を擦られるとフィアは脳がピリピリと痺れる感覚に襲われて、甘いくぐもった声を出した。
その感じ入る嬌声にレイヴンは煽られ、奥に仕舞われた舌を誘い出しては絡ませてジュッと強く吸った。
「んぁっ、はぁ、まって……もっと、ゆっくり……」
「すまない、一刻も早くフィアが欲しい」
慣れない行為に息が苦しくなったフィアは、頬を赤く染めて瞳を潤ませながらレイヴンの厚く逞しい胸を叩く。
レイヴンが唇を解放してやると、フィアは呼吸を荒くして苦言を呈した。
だが、初めて見るフィアの乱れた姿に、元より限界を迎えていたレイヴンは静止を聞かず纏っていた邪魔な服を脱ぎ捨てて、かろうじて引っ掛かるだけのシャツと下着だけになる。
しかしフィアもまた、普段は布に隠されている鍛え上げられた男性的な肉体に目を奪われて、鼓動が早まるのを感じた。
「ぁ、もうこんなに……」
目線を下げれば、触れてもいないのにレイヴンの中心は硬く勃ち上がっていて、布に濃い色の滲みを作っていた。フィアは自分がこうさせたのだと思うと、布越しでも分かるその大きさに後孔がじわりと濡れそぼった。
「フィアのおかげで俺はもう限界だ。こうなった責任は勿論取ってくれるよな」
逃がさないとでも言うようにレイヴンはフィアに覆い被さる。
白のネクタイを指一つで容易く緩めると、オメガの色香を抑えつける純白の、清廉潔白な服に手を伸ばした。
病み上がりなのを気遣ってか、レイヴンはフィアに触れようとはせず、今日まで清い関係のままであった。
オメガの機能が回復したとはいえ一年弱寝たきりだったフィアの身体機能が戻るには時間を要した。健康と言える状態になるまでも経過観察は必要で、暫くの間フィアは通院を繰り返していた。
そしてようやく医師のお墨付きを貰ったレイヴンは、式の準備を最短で執り行うと、初夜である今日をそれはそれは楽しみにしていたのだ。
長かった道のりにレイヴンは思いを馳せながらも、抵抗がないのをいいことにフィアに見せつけ期待を煽るように、ぷつりぷつりとボタンを丁寧に外し、ゆっくり一枚ずつ纏う布を剥いでいく。
「……どうやら、俺だけではないようだな」
最後の砦を剥ぐと、とろりと引く透明な糸が垂れた。フィアは恥ずかしさから火照る顔を腕で隠す。その隙間から覗く耳元は、茹る蛸のように真っ赤に染まっていた。
レイヴンは、己を求めて身を持て余す番に一層昂った様子で、ぺろりと己の唇の端を舐め取る。月明かりに照らされた口元が、てらてらと照る様はとても艶かしい。
両腕の隙間から狼が舌舐めずりをする様子を見ていたフィアは、雄の色気と身の危機を前に、燻っていた火種が急速に熱を持ち始めるのを感じた。
「だって……ようやくここに挿れてもらえるって思ったらきゅんきゅんして、熱くて……」
はあっ、と熱の篭った息を吐き、露わになった素肌に手を添えて下腹をさするフィアの後ろからは白い透明な蜜が溢れ出ている。
これからの未知の行為に思いを馳せて膨らんでいく期待は、フィア自身のか、それともオメガだからなのかはフィアにも分からなかった。
「っ、ただでさえ必死に抑えているというのにっ!」
ぐるりと背を返されたかと思えば、フィアの首元にある硬質な物に歯が当たる音がした。頸を守る首輪に、レイヴンは欲をぶつけるように噛み付いていた。
尖く発達した犬歯が幾度となく柔い皮膚に刺さりそうになるも、それを太く硬い物が許さない。
フィアは首の後ろに感じた滑りを帯びた熱と、アルファに噛まれる予感に腹の奥が疼くと、オメガ特有の香りがぶわりと放たれた。
「ぇ、あ、っ、なん、で……?」
「ハッ、俺が欲しくて発情期に入ったのか。可愛いなぁフィア」
ニヤリと口の端を持ち上げるレイヴンとは対照的に、フィアは当分先のはずである発情期の訪れに困惑を隠せない。助けを求めて後ろを振り返るも、レイヴンは格好の獲物を前にゴクリと喉を鳴らしていた。
狼を前にして早まっていく鼓動は期待か恐れか。フィアはその判断もつかぬまま、正直な身体に翻弄されていく。
フェロモンを絶えずあたりに撒き散らし、頸は火傷するほどに熱を持ち始めた。ぐるぐると渦巻く胎の疼きは増すばかりだった。
目を白黒させながらも甘い誘惑香を出し、色白の肌を淡く染めて前も後ろも濡れそぼちながらアルファを誘う愛しい番を前に、レイヴンは堪らない気持ちになる。
そして、衝動の赴くままにレイヴンは、フィアの身体に貪りついた。
「ん、ぁっ、そこ、っ、だ、めぇ」
ピンク色に色づいた、健気に勃ち上がる乳頭にかぶりつき口に含むと、レイヴンはそれを舌で転がし始めた。
一方の胸も指で突いたり弾いたりして絶えず刺激を送ると、フィアの腰に甘い痺れが溜まり、快感を逃そうとフィアは身体をくねらせた。
その乱れる姿を、意地悪にもレイヴンは咎める。
「腰が揺れているのにか?俺の腹に擦り付けるのは気持ちいいか?」
「ぁ、ち、ちがっ、そうじゃ、なくてっ」
指折りこの日を数えていたのは、なにもレイヴンだけではない。
元より期待し切っていたフィアの身体と心は、発情期と相まって瞬く間にフィアの理性を奪っていった。
フィアは秘所が見せつけるように足を開き、雄を求めてひくつく後孔を恥ずかしげもなく晒すと、くぱぁ、とナカを開いて見せた。
「ナカ寂しいから……こっちに、はやく、ほし、ぃ……」
そこは既に蕩け、くぱくぱと口を開けては熱くて硬いものを欲している。なおもだらりと蜜を溢し続けるその淫らな姿に、レイヴンは煽られ怒りすらも覚えた。
「っ、今までもこうして男を誘っていたんじゃないだろうなっ!」
「んぁぁあああ!」
フィアの膝裏を押さえつけると、レイヴンは天に向かって聳り立つほどいきり勃った男根を、勢いよく上から振り下ろした。
雄に媚びて熱く絡みつく襞を振り切りながら、どちゅ、どちゅっとレイヴンは腰を強く振り続ける。
「あぁっ、やぁ、んっ、ぁあ」
「フィアっ、フィア……っ!」
薄暗い部屋の中、互いの荒い息遣いと肌がぶつかる音、そして粘着質な水音だけが場を支配していた。
発情で熟れたフィアのナカは、誂えたようにレイヴンにぴったりで、すぐに果ててしまいそうなほど心地が良く、それがより一層レイヴンを不安にさせる。
俺の番で運命なのだと、脳髄まで痺れるような快感に実感を覚えながらも、与えられる快楽に乱れる番の姿を知る男がいると一度疑った頭は、なかなか振り払われてはくれなかった。
「俺だけを見てくれっ、俺だけだと言ってくれフィアっ……」
激しい抽送と絶えず送られてくる快感で行為のことしか考えられなくなっていたフィアは、頬を伝う冷たさでハッと我に帰る。
徐々に理性を取り戻し始めると、火照った肌を突き刺す冷たさは唇を噛み締めながらぼろぼろと溢す目の前の、愛おしい人の涙であることに気がついた。
快感は止んだものの、不安がるこどもみたいに縋り付くように絡めて強く握られていた手の力は、より一層強まった。
この人の弱った姿を見るのは二度目だな、などと悠長なことをフィアは頭の片隅で思う。こんな風に泣いて喚いて縋るその表情を瞳に映したのは初めてだけど。
いつも自信に満ち溢れて、大勢の人の上に立つアルファの中のアルファとも言える人が、自分にだけ情けない姿を晒してくれる事に、フィアは愛を感じた。
恥ずかしいのを我慢して意を決し、フィアはレイヴンを安心させようと正直に打ち明けた。
「レイヴンだけだよ。僕が好きになったのも、こういうことをするのも全部、レイヴンが初めて」
フィアはこれまでの人生を振り返る。
人に恋したことはなくとも、された経験なら実は幾らかある。告白はされたけど、少なからず僕にとってはただの友人でしかなかったし、期待に答えられるような気持ちも持ち合わせてなかった。だから、レイヴン以外でお付き合いをした人はいないのだけれど……——それを言ったら余計に不安がらせてしまいそうだ。
だけど、とフィアはレイヴンの眼を見ながら続けた。
「レイヴンはそうじゃないんだよね」
「う、それは……」
レイヴンが気まずそうに眼を逸らす。
そんな反応をされずとも、恋愛経験のないフィアから見てもレイヴンが大人の男性だということは初めから分かっていた。恋愛に興味はあれど乗り気にはなれなかったフィアにだって、少し過去が違えばもしかしたらそういった経験があったかもしれない。
フィアには想像もつかないが、オメガは性に奔放な人が多いと聞く。身体だけの関係もあったかもしれない。そう思えば、身も心も欲してくれるだけでフィアは嬉しかった。
気にしてないと言えば嘘になる。でも、忙しい中見舞いに来てくれて、心配だからとフィアのために豪邸まで建ててしまったアルファの愛を今、一途に受け止めているのは自分だという自負も同時に芽生えていた。
「でも、これからは僕だけにしてくれるんだよね?だったら……」
首元に指を這わせると、カチャリと音を立てて硬質なそれをその場で外した。遮られていた首元に、新鮮な空気が触れる。その何とも言えない心許なさを感じながら、レイヴンに背を向けた。
オメガが発情期に、その行動を取る意味はただひとつ。
「僕をレイヴンのものにしていいよ」
付ける本人にしか外せない首輪は、謂わばオメガを守る生命線。それをこちらが許可する形で言ったのは、フィアのちょっとした意地悪で、脅しでもあった。
不公平なことに、アルファは番を多く持つことが出来る。レイヴンを信用していないわけではない。でも、一生をアルファに明け渡すのはそれなりに不安も付き纏うのだとフィアは知った。
レイヴンの啜り泣く音がしてフィアは後ろを振り向く。八の字に下がった眉と涙を堪えようと固く結ばれた口元が目に入った。しかし、努力も虚しくレイヴンの瞳からは絶えず涙が溢れ返っている。濡れた眦は優しく細められていて、先ほどの辛そうな表情とは打って変わり、嬉し泣きというようだった。
「ああ当然だ。フィアだけを愛すると誓う」
運命の番に噛むことを許された悦びにレイヴンは浸ると、曝け出された白く柔らかな首元に口を大きく開き近づいた。
「ああああっ……!!」
次の瞬間、フィアに戦慄が走った。稲妻が背筋を貫くと痛みさえも快感に変わって瞼の裏がチカチカと光りだす。脊柱を伝い脳髄まで痺れる感覚に、フィアは悲鳴のような高い声を上げた。
雄を求めて辺りに散布されていた香りが和らぎ、ただ一人の雄だけを絡め取ろうと向けられる。そして、ナカにいる存在を確かめんと胎がきゅうきゅうと収縮し始めた。
それはまるで、自分のアルファをオメガの全てを持って受け入れ、愛でるようだった。
レイヴンもまた、己の存在意義が目の前の番であると、愛おしさがより一層募っていった。
「俺だけのフィア……!もう二度と離さない!俺だけの、運命の番」
レイヴンは名前を呼びながらフィアを両腕で抱き締めると、己の腕の中にいる存在を確認する。促されるまま最奥へ肉棒を叩きつけると、ラット特有の瘤のようなもので根元に蓋をして、孕まさんとばかりにグッと腰を押しつけた。
「んぁっ、なか、あつい……でてるぅ、赤ちゃん、できちゃ、う」
びゅうっと注がれる熱い飛沫を受け止めながら、フィアは自身の腹を見下ろした。ラットに入ったアルファはオメガを確実に孕ますため、大量の精を長い時間をかけて吐き出す。
いつの間にか腹には自身の白濁液が散らばっていて、平らなはずの下腹はぼっこりと膨らんでいた。
その様子を吐精しながら見ていたレイヴンは、塗り込むように腰を揺するとフィアの耳元で囁く。
「孕むまでなかに注いでやるから。朝まで頑張ろうな、子作り」
獲物を前にした狼の如く舌舐めずりをしながらも心底嬉しそうに言う声が、甘く蕩けて頭に直接響くようで。フィアもまた、昂った身体に思考が白く染まっていくのを感じながら、レイヴンの腰に足を絡めて愛おしい番の精を強請った。
「うんっ、もっとちょーだい」
愛しい番のおねだりにレイヴンの男根はすぐさま勃ち上がる。その硬く質量を増したもので抜ける寸前まで引き抜くと、後孔が雄を離すまいと締め付け、縁が赤く捲れ上がった。
それを目に焼き付けながら、再び最奥を目指してどちゅんっ、と一層より深く強く、腰を振り始めた。
隙間なくぴったりと収まるレイヴンのそれは、フィアの感じるところを余す事なく擦り上げていく。子宮の入り口をこつこつとノックされればナカがちゅぅっと吸い付いた。
熱に浮かされたフィアの瞳はとろりと蕩け、幸せそうに微笑んでいた。
全身で求められて、レイヴンは徐々に余裕を手放す。己の手で乱れるフィアに「全て俺で染まればいい」と、一度でも思ってしまえばタガが外れた。身体全体で逃げられないようにフィアを押さえつけると、甘い嬌声すらも欲して唇を塞いだ。
そうして自分色に染まっていく愛しい番に、レイヴンは溺れていった。
翌日、とある最上階にあるスイートルームに泊まっていたある客は、宿泊を延長すると食事の用意と「部屋には入ってくるな」という伝言だけを言い残し、一週間という長い間部屋から一度も出てくることはなかったという。
食事の用意を部屋の近くまで運んだホテルの従業員は皆、顔を赤く染め、耳を塞いでいたそうな。
▽▽▽
ーーーーーーーー作者のどうでもいい独り言。
書きたいことを詰め込んだら長くなってしまいました。視点がブレブレになってしまって申し訳ない限りです。
かっこよかったレイヴンが段々と情けなくなってしまったのは想定外でした笑
愛が重いほど不安は募るし、その愛が少しでも返ってきたら子供のようにはしゃいで笑う。レイヴンは本気の恋をしたら取り繕えなくなって、素の部分駄々漏れになるのではないかな?
そう考えた結果、単純で調子に乗りやすいアルファが出来上がってしまいました笑
まあ、これはこれでいいのではないですかね?元々、周りを引っ掻き回すタイプのようですし。
と作者は思っております。
ひと段落まで書き終えて作者は安心しきってしまったので、これにて一応完結とさせていただきます。
また二人を書きたくなったら番外編を書こうと思います。
それでは、また皆様にお会いできることを楽しみにしております。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
良い夢を(_ _).。o○
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