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希望と絶望
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往来の人通りがある場所で、その事件は起きた。
「ハハっ、運命だって? こんな呆気なく終わるものが運命だなんて笑っちゃうよ!」
男が高笑いしている。その手には街頭に照らされて反射する鋭く尖った刃が刃物があった。その刃から半分に至る所まで鮮血が滴っている。
フィアはついさっき出会ったばかりの運命の番に恐る恐る目を向ける。見れば、先程まで頬を染めて嬉しそうに綻んでいた表情が今は血の気が引いたように青褪めていた。
呻く声で何かを呟いた直後に抱きつくようにして倒れ込んできた彼の背中から、生暖かい濡れた感触がした。
その震える手には真っ赤な液体がべっとりと付着していた。鉄の匂いが運命の番のレモンカクテルのように酸味を含んだ甘やかな香りを消していく。そして、薄い布越しに伝わっていた温もりが、徐々に消えていった。
「ぁ、ぁ、ぁ、……ぁぁあああ!」
事切れたように動かない運命の番に、何かが急速に身体から抜け落ち、失う喪失感がフィアを襲った。
天を仰ぎ、叫んだ。涙がどっと溢れ落ち、オメガ特有のそれがより強く、全てを出し切るかのようにぶわりと項から放出される。
フィアの身体からは運命の番を繋ぎ止めようとしているのか、誘惑香がしきりに放たれていた。
発情期よりも強く香るその匂いは、ベータをも襲い、性衝動を誘発する。事の顛末を道の端で傍観していた人々が咄嗟に鼻を押さえてその場から足早に立ち去っていく。
人命救助よりも騒ぎに巻き込まれるのを嫌うその行動を、誰一人として咎める者はいなかった。
やがて叫ぶ力も無くなったフィアは、急速な身体と心の変化についていけずに意識が遠のいていく。
「あ~、なんであの時こうしなかったんだろう。ボクってばバカだなぁ~。恋人の目を醒ませばよかったんだ。こいつらのようにボクの恋人にひっついてさ、運命って喚いてる奴を消せばよかったんだ……ハハハっ、がんばったのに……好かれようとがんばっ、たのに……、なんでっ、ボクじゃない、の……? なんで、アイツを選ぶの……っ」
一人哀れにボロボロと涙を流す男の声をどこか遠くで聞きながら、番に覆い被さるようにして倒れ込む。急速に遠ざかっていく視界に、フィアは意識を手放した。
▽▽▽
「……ここは……どこだ?」
瞼を開くとそこは、見慣れない空間だった。少なくとも、頑健な体を持つアルファには縁がない場所。
清潔な白い布の上に横たわっている彼は、視線を彷徨わせた。見えるのは真っ白な天井と左端にある液体がぶら下がった鉄の棒だけ。
「ヴッ……!」
もっとよく見渡そうと上半身を起こそうとした途端、男の身体に激痛が走った。突き刺すような痛みが腹部から生じる。
ふとその時、意識を失う前の記憶が蘇った。
(あの日俺は……仕事帰りに出会ったんだ。俺のオメガに)
————その日出張でこの地を訪れていた男は、仕事帰りに何か料理でも食べて帰ろうと検索して出てきた店の近場でタクシーから降り、店を探して細い路地を歩いていた。
その道中で、僅かだが本能が刺激される良い匂いが風に乗って彼の元まで運ばれて来た。その匂いを嗅ぐや否や考えるより先に身体が動いて、匂いの元へと駆けた。
長いこと走り続けてようやく辿り着いた先で一目見て分かった運命の番に、互いの本能が導くまま抱き合った。その直後、叫ぶ声が背後から聞こえて振り向くと、仄暗い瞳をした知らない男がすぐそこまで迫っていた。次の瞬間、腹の皮膚を何が貫く衝撃に見舞われた。血がドボドボと流れ出る感覚を感じ、遠のく意識のなか、運命の番に最後の力を振り絞り、「逃げろ」。そう伝えて意識を失った。
そして目覚めて今に至る。
「っ、あの子は!? 無事なのか!?」
酷く痛む腹に呻きながら男が番の無事を確認しようと起き上がり、寝具から降り立とうとした。
が、その瞬間ドアをノックする音がした。
「失礼します。あぁ、良かったです。お目覚めになられたのですね、レイヴン様」
裾の長い白衣を着た医師と思しき人物が、男を見て安堵したように言った。
そして個室だろう病院の一室に入ってくると、今にも飛び出していきそうな彼の肩に手を置いて固く唇を結び、一息置いて口を開いた。
「落ち着いて質問に答えて下さい。一緒に運び込まれた男性は貴方の番、それに間違いはありませんか?」
深刻な表情で話す医師にレイヴンは渇いた喉を潤わそうとゴクリと唾を飲み込んだ。
「会ったばかりでまだ噛んではないが、あの子が俺の番で違いない。運命だから彼も拒まないだろうが……ん? ちょっと待て、彼も運び込まれたのか? 付き添いではなく?」
「ええ、貴方と一緒にこの病院に搬送されました。彼の命に別状はありませんでした。ですが、とある反動があったためか、意識を失った状態で今もなお目覚められておりません」
——命に別状はない。
そう聞いた瞬間、レイヴンは安堵の息を漏らした。
「無事で良かった。とある反動とはなんだ? 今から彼の顔を見に行きたいのだが、面会は可能か?」
矢継ぎ早に質問をする彼に、医師は悩ましげな顔をしたのち、意を決したように静かにゆっくりと話を続けた。
「単刀直入に言います。貴方の運命の番はいなくなりました」
そう言って医師は腹に力を入れて唇を噛む。それは、今から襲いくるであろう衝撃に耐えるためだった。
そして直後、レイヴンの身体からアルファが発する威嚇フェロモンが飛び出し、鈍器で全身を殴られるような衝撃が医師を襲った。
「おい!どういうことだ! あの子が運命の番である俺を拒否したとでも言うのかっ!」
「ぅ……!ぐっ、落ち着いて下さい! いなくなったのは貴方から逃げたのでも亡くなったのでもありません!」
「ならなんだと言うんだ!」
レイヴンの怒りは収まらず、更に強く威嚇フェロモンをあたりに撒き散らした。
医師もアルファだが、アルファとしての力は遥かにレイヴンの方が強く、喉を締め付けられるような苦しみで声が出ない。
「ぅ、はぁ、……あ、なたは、心肺が停止、した状態っ、でし、た……」
「俺は幽霊だと、そう言いたいのか? ふざけたことを」
レイヴンの返事には答えず、医師は続けた。その顔は苦しげに歪められ、汗が吹き出ている。
「ぃ、いいえっ……! あなた、はっ、ぅ、死の、淵か、ら蘇っ、たんですっ……!」
「……は? 俺は一度死んだのか?」
思わぬ言葉にレイヴンは目を見開いて医者を見やった。怒りよりも困惑が勝ったのか、威嚇フェロモンが鳴りを顰める。
弱まった威圧に締め付けられていた喉が解放された医師は深く息を吸った。
「分かりやすく言えば、そうです。奇跡的に貴方は帰還しました。しかし、その間に貴方と番の方の繋がりが途絶えてしまったようなのです」
そう言われたレイヴンは、己の身体を今一度見る。腹部に痛みはあるがその他は至って健康で、あの日から何日眠っていたのか知らないが頭も非常に冴え渡っている。生きた証である記憶も人格も、従来のまま保たれている。地に足だって着いているし、床には二人分の影が伸びている。だからこそ、お前は一度死んだなどと言われても実感はなかった。
しかし、真剣にレイヴンの目を見据えて話す医師の言葉に嘘は感じられない。レイヴンは実感もないまま、一先ずは信じることにした。
「要は、俺が死んだと勘違いした彼が繋がりを切ったということか? そんな事が出来るとは聞いたことがないな。彼の意識が戻らないのは運命の番を失ったことで精神に異常をきたしたのが原因……それで合ってるか?」
「いえ、実際に繋がりを一方的に切ったのかは不明ですが検査で番の方から一切のフェロモンが検知されなくなった為、我々はそう考えています。おそらく彼は今、オメガの機能が停止……もしくは失われた状態にあります。そして今もなお眠られているのは精神や脳にダメージを負った為であると思われます。幸い、命まで落とさずに済んだのは番う前でまだ絆が築かれていかったからでしょう。断言が出来ないのは、こういった事象は何分初めてで前例がなく、曖昧な部分の多いアルファとオメガの特異な繋がりが深く関わっているためです」
申し訳ありません、と医者は頭を下げる。
「……話は分かった。あの子が生きてくれているだけでいい。一先ず、会わせてくれないか」
「分かりました。確認を取ってまいりますので少々お待ち下さい」
レイヴンの願い出た言葉に医師は頷いて部屋から退室した。
部屋に一人残されたレイヴンは考える。
オメガがフェロモンを放出するのは番を欲しているため。それが失われたのは即ち、運命であっても番は不要になったとも言える。彼が俺という番を拒絶していたようには思えないが、言い知れぬ不安は希望すらも塗り潰していく。
レイヴンはじくじく痛む腹部に手を当てた。
刺された痛みを思い出して、それをあの子が味わったかもしれないと思うだけで胸が強く締め付けられた。
運命の番とは、相手の事を想うだけでこんなにも自分の事のように辛いのだとレイヴンは知った。繋がりが切れて運命ではなくなっているのなら、一人の人間にこうも左右はされまい——レイヴンはそう独りごちた。それに、
「俺が目を覚ましたのなら、あの子も目覚めているかもな」
運命の番は二人いて初めて成り立つものだ。片方だけがその痛みを背負うのは些か不公平ではないか————。
レイヴンはそう考えて不安を振り払うように頭を振り、あの日以来初めて目にする番に心を躍らせた。
▽▽▽
ーーーーーーーー作者のどうでもいい独り言。
Q.なんで場面転換を表す記号が◇じゃなくて▽なの?
——A. 病院っぽくていいかなって(^з^)-☆
あ、書きたいな~って思って、突貫工事で書いている作者ですどうも。
なぜ書き始めたかについては次回の余白で説明しますので、気になった方はそちらだけでも覗いてみてください。
作者はもう寝ます。おやすみなさい(_ _).。o○
また明日、お会いしましょう。
「ハハっ、運命だって? こんな呆気なく終わるものが運命だなんて笑っちゃうよ!」
男が高笑いしている。その手には街頭に照らされて反射する鋭く尖った刃が刃物があった。その刃から半分に至る所まで鮮血が滴っている。
フィアはついさっき出会ったばかりの運命の番に恐る恐る目を向ける。見れば、先程まで頬を染めて嬉しそうに綻んでいた表情が今は血の気が引いたように青褪めていた。
呻く声で何かを呟いた直後に抱きつくようにして倒れ込んできた彼の背中から、生暖かい濡れた感触がした。
その震える手には真っ赤な液体がべっとりと付着していた。鉄の匂いが運命の番のレモンカクテルのように酸味を含んだ甘やかな香りを消していく。そして、薄い布越しに伝わっていた温もりが、徐々に消えていった。
「ぁ、ぁ、ぁ、……ぁぁあああ!」
事切れたように動かない運命の番に、何かが急速に身体から抜け落ち、失う喪失感がフィアを襲った。
天を仰ぎ、叫んだ。涙がどっと溢れ落ち、オメガ特有のそれがより強く、全てを出し切るかのようにぶわりと項から放出される。
フィアの身体からは運命の番を繋ぎ止めようとしているのか、誘惑香がしきりに放たれていた。
発情期よりも強く香るその匂いは、ベータをも襲い、性衝動を誘発する。事の顛末を道の端で傍観していた人々が咄嗟に鼻を押さえてその場から足早に立ち去っていく。
人命救助よりも騒ぎに巻き込まれるのを嫌うその行動を、誰一人として咎める者はいなかった。
やがて叫ぶ力も無くなったフィアは、急速な身体と心の変化についていけずに意識が遠のいていく。
「あ~、なんであの時こうしなかったんだろう。ボクってばバカだなぁ~。恋人の目を醒ませばよかったんだ。こいつらのようにボクの恋人にひっついてさ、運命って喚いてる奴を消せばよかったんだ……ハハハっ、がんばったのに……好かれようとがんばっ、たのに……、なんでっ、ボクじゃない、の……? なんで、アイツを選ぶの……っ」
一人哀れにボロボロと涙を流す男の声をどこか遠くで聞きながら、番に覆い被さるようにして倒れ込む。急速に遠ざかっていく視界に、フィアは意識を手放した。
▽▽▽
「……ここは……どこだ?」
瞼を開くとそこは、見慣れない空間だった。少なくとも、頑健な体を持つアルファには縁がない場所。
清潔な白い布の上に横たわっている彼は、視線を彷徨わせた。見えるのは真っ白な天井と左端にある液体がぶら下がった鉄の棒だけ。
「ヴッ……!」
もっとよく見渡そうと上半身を起こそうとした途端、男の身体に激痛が走った。突き刺すような痛みが腹部から生じる。
ふとその時、意識を失う前の記憶が蘇った。
(あの日俺は……仕事帰りに出会ったんだ。俺のオメガに)
————その日出張でこの地を訪れていた男は、仕事帰りに何か料理でも食べて帰ろうと検索して出てきた店の近場でタクシーから降り、店を探して細い路地を歩いていた。
その道中で、僅かだが本能が刺激される良い匂いが風に乗って彼の元まで運ばれて来た。その匂いを嗅ぐや否や考えるより先に身体が動いて、匂いの元へと駆けた。
長いこと走り続けてようやく辿り着いた先で一目見て分かった運命の番に、互いの本能が導くまま抱き合った。その直後、叫ぶ声が背後から聞こえて振り向くと、仄暗い瞳をした知らない男がすぐそこまで迫っていた。次の瞬間、腹の皮膚を何が貫く衝撃に見舞われた。血がドボドボと流れ出る感覚を感じ、遠のく意識のなか、運命の番に最後の力を振り絞り、「逃げろ」。そう伝えて意識を失った。
そして目覚めて今に至る。
「っ、あの子は!? 無事なのか!?」
酷く痛む腹に呻きながら男が番の無事を確認しようと起き上がり、寝具から降り立とうとした。
が、その瞬間ドアをノックする音がした。
「失礼します。あぁ、良かったです。お目覚めになられたのですね、レイヴン様」
裾の長い白衣を着た医師と思しき人物が、男を見て安堵したように言った。
そして個室だろう病院の一室に入ってくると、今にも飛び出していきそうな彼の肩に手を置いて固く唇を結び、一息置いて口を開いた。
「落ち着いて質問に答えて下さい。一緒に運び込まれた男性は貴方の番、それに間違いはありませんか?」
深刻な表情で話す医師にレイヴンは渇いた喉を潤わそうとゴクリと唾を飲み込んだ。
「会ったばかりでまだ噛んではないが、あの子が俺の番で違いない。運命だから彼も拒まないだろうが……ん? ちょっと待て、彼も運び込まれたのか? 付き添いではなく?」
「ええ、貴方と一緒にこの病院に搬送されました。彼の命に別状はありませんでした。ですが、とある反動があったためか、意識を失った状態で今もなお目覚められておりません」
——命に別状はない。
そう聞いた瞬間、レイヴンは安堵の息を漏らした。
「無事で良かった。とある反動とはなんだ? 今から彼の顔を見に行きたいのだが、面会は可能か?」
矢継ぎ早に質問をする彼に、医師は悩ましげな顔をしたのち、意を決したように静かにゆっくりと話を続けた。
「単刀直入に言います。貴方の運命の番はいなくなりました」
そう言って医師は腹に力を入れて唇を噛む。それは、今から襲いくるであろう衝撃に耐えるためだった。
そして直後、レイヴンの身体からアルファが発する威嚇フェロモンが飛び出し、鈍器で全身を殴られるような衝撃が医師を襲った。
「おい!どういうことだ! あの子が運命の番である俺を拒否したとでも言うのかっ!」
「ぅ……!ぐっ、落ち着いて下さい! いなくなったのは貴方から逃げたのでも亡くなったのでもありません!」
「ならなんだと言うんだ!」
レイヴンの怒りは収まらず、更に強く威嚇フェロモンをあたりに撒き散らした。
医師もアルファだが、アルファとしての力は遥かにレイヴンの方が強く、喉を締め付けられるような苦しみで声が出ない。
「ぅ、はぁ、……あ、なたは、心肺が停止、した状態っ、でし、た……」
「俺は幽霊だと、そう言いたいのか? ふざけたことを」
レイヴンの返事には答えず、医師は続けた。その顔は苦しげに歪められ、汗が吹き出ている。
「ぃ、いいえっ……! あなた、はっ、ぅ、死の、淵か、ら蘇っ、たんですっ……!」
「……は? 俺は一度死んだのか?」
思わぬ言葉にレイヴンは目を見開いて医者を見やった。怒りよりも困惑が勝ったのか、威嚇フェロモンが鳴りを顰める。
弱まった威圧に締め付けられていた喉が解放された医師は深く息を吸った。
「分かりやすく言えば、そうです。奇跡的に貴方は帰還しました。しかし、その間に貴方と番の方の繋がりが途絶えてしまったようなのです」
そう言われたレイヴンは、己の身体を今一度見る。腹部に痛みはあるがその他は至って健康で、あの日から何日眠っていたのか知らないが頭も非常に冴え渡っている。生きた証である記憶も人格も、従来のまま保たれている。地に足だって着いているし、床には二人分の影が伸びている。だからこそ、お前は一度死んだなどと言われても実感はなかった。
しかし、真剣にレイヴンの目を見据えて話す医師の言葉に嘘は感じられない。レイヴンは実感もないまま、一先ずは信じることにした。
「要は、俺が死んだと勘違いした彼が繋がりを切ったということか? そんな事が出来るとは聞いたことがないな。彼の意識が戻らないのは運命の番を失ったことで精神に異常をきたしたのが原因……それで合ってるか?」
「いえ、実際に繋がりを一方的に切ったのかは不明ですが検査で番の方から一切のフェロモンが検知されなくなった為、我々はそう考えています。おそらく彼は今、オメガの機能が停止……もしくは失われた状態にあります。そして今もなお眠られているのは精神や脳にダメージを負った為であると思われます。幸い、命まで落とさずに済んだのは番う前でまだ絆が築かれていかったからでしょう。断言が出来ないのは、こういった事象は何分初めてで前例がなく、曖昧な部分の多いアルファとオメガの特異な繋がりが深く関わっているためです」
申し訳ありません、と医者は頭を下げる。
「……話は分かった。あの子が生きてくれているだけでいい。一先ず、会わせてくれないか」
「分かりました。確認を取ってまいりますので少々お待ち下さい」
レイヴンの願い出た言葉に医師は頷いて部屋から退室した。
部屋に一人残されたレイヴンは考える。
オメガがフェロモンを放出するのは番を欲しているため。それが失われたのは即ち、運命であっても番は不要になったとも言える。彼が俺という番を拒絶していたようには思えないが、言い知れぬ不安は希望すらも塗り潰していく。
レイヴンはじくじく痛む腹部に手を当てた。
刺された痛みを思い出して、それをあの子が味わったかもしれないと思うだけで胸が強く締め付けられた。
運命の番とは、相手の事を想うだけでこんなにも自分の事のように辛いのだとレイヴンは知った。繋がりが切れて運命ではなくなっているのなら、一人の人間にこうも左右はされまい——レイヴンはそう独りごちた。それに、
「俺が目を覚ましたのなら、あの子も目覚めているかもな」
運命の番は二人いて初めて成り立つものだ。片方だけがその痛みを背負うのは些か不公平ではないか————。
レイヴンはそう考えて不安を振り払うように頭を振り、あの日以来初めて目にする番に心を躍らせた。
▽▽▽
ーーーーーーーー作者のどうでもいい独り言。
Q.なんで場面転換を表す記号が◇じゃなくて▽なの?
——A. 病院っぽくていいかなって(^з^)-☆
あ、書きたいな~って思って、突貫工事で書いている作者ですどうも。
なぜ書き始めたかについては次回の余白で説明しますので、気になった方はそちらだけでも覗いてみてください。
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