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皇会長のお泊まり
しおりを挟むそれから夕食を一緒に食べてデザートに皇会長が持ってきてくれた手土産のケーキを食べた。初めは流石に貰えないって遠慮してたんだけど、いつもみたいにお膝の上に問答無用で乗せられて"あ~ん"って目の前に差し出されたら条件反射で食べてしまった。
……美味しいケーキに罪はないから仕方ないよね。
ちなみに急なお泊まりで着替えの服とか用意がなくてどうしようかと困っていたら秘書みたいな人が来て、新品の服とか必要な物を皇会長に渡していった。皇会長は身体が大きくて僕の服は着られないから。ピチピチの服を着た皇会長を見てみたい気もするけど。
だから、別の意味でもほっと安心した。たとえ親や兄弟でも僕以外の人の服を着てほしくなかったから。意外と僕、嫉妬深いんだってその時初めて知った。
僕は先にお風呂に入った。
身体と髪を洗って湯船に浸かると、さっきまでのことが夢のように思えてきた。ふわふわして足が浮いてる、そんな感覚。
…でも夢じゃないんだよね。
皇会長は"ずっと一緒に"って言ってくれた。皇会長は嘘をつく人じゃない。過ごした時間は短いけど、僕にはわかる。だから僕は不安を抱えてても素直に嬉しいって喜べたんだ。
皇会長の言う"ずっと"がいつまでを示しているのかわからない。高校を卒業して、大学に通って社会人になっても一緒に居てくれるのかな……なんて期待する。
でも、その反面、皇会長にもいつか唯一の人が現れてしまうんじゃないかって不安が常につきまとう。
もう目の前で大切な人を失うのは耐えられない。
お風呂から出てリビングに行くと、何やら三人で話し込む姿が見えた。何となく邪魔しちゃいけない感じがして、僕はキッチンに向かう。
冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。一気に飲み干していると、皇会長が物凄い勢いでこっちに近づいてくるのが見えた。
え、なにっ…?
驚いていると突然タオルで髪を拭かれる。
「うわっ!」
「雷、髪はちゃんと乾かさないと風邪を引く。ほら、ドライヤーするからこっちにおいで」
皇会長は僕の手を取ってソファに僕を座らせた。皇会長の手にはドライヤーがあって、そしてそのまま有無を言わさずに僕の髪を乾かし始めた。
……いつの間にドライヤー持って来たんだろう。
なんていう僕の疑問は、優しい手つきで撫でるように動く皇会長の手と、心地の良い温かさの熱風ですぐに霧散した。
皇会長が僕の頭を撫でると凄く安心するけど、今はお腹いっぱいの状態で身体がお風呂上がりでほかほかしてるから安心するとすぐに眠くなる。
「うぅん…」
瞼がとろりと落ち始めてあくびが出る。
するとそれに気がついた皇会長が、
「俺が風呂から上がるまで待っててくれるか?一緒に寝よう」
そう言った。
僕は皇会長と一緒に寝たい。そう思って眠くて働かない頭で「うん」って頷いた。
そして僕はいつの間にかソファの上で寝てしまった。
____温かい。気持ちい…
ほのかに石鹸の香りがする。うぅん、この匂い邪魔っ!
もっと近くで……スンスン。
えへへ、この匂いだぁ。
僕、この匂いすきぃ。グリグリ。
「っ……!」
むぅ~、何で離れるの!
「……い」
ダメっ!
「ら…い…」
……?
誰かが僕を呼ぶ声がする。僕の大好きな人の声。いつも優しく、時には甘く呼んでくれる声。
その声に呼ばれて、瞼を開けると目の前には僕の大好きな人がいた。
「雷、眠いところ悪いな、起こして。今度は一緒に寝よう。雷の部屋に行くから俺に掴まって」
「…うん。えへへ、いっしょにねるー」
まだ覚醒しきらない寝ぼけた頭で返事をする。
ん、って抱っこをせがむように腕を伸ばす。
「ぐっ…!……ハァ、普段は恥ずかしがるのに眠いと素直で甘えん坊になるんだな」
「俺にはそんな事してくれた事ないのにぃ…く、悔しいっ!」
「雷は本当に皇さんが好きなんだねぇ」
そんな三人の声は寝ぼけていた僕の耳には届いてこなかった。
僕は身体がふわりと浮かぶ感覚と共に大好きな匂いと温もりに包まれて、嬉しくなって。鼻を近づけてスンスンって嗅いで、えへへって笑った。
「ぐぅっ……!天使かっ!いや、小悪魔だっ。こんな生殺しはヤバいだろう…っ」
唸り声の後にそんな呟きが聞こえたけど、僕の頭はまだ働かなくて意味までは理解できなかった。
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