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僕は認める
しおりを挟む僕は自宅の玄関であわあわと慌てていた。
皇会長が僕の家族に丁寧に挨拶をしてくれて、嬉しいなぁと思っていたら急に周りの温度がグンと下がった。
顔を上げれば、苦しむお兄ちゃんと眉間に皺を寄せた皇会長の姿。βの僕でも感じるほどの強い威圧がたぶん二人の間で放たれている。
どうしよう…早速、喧嘩しちゃうの…?
とあわあわしていたら急に空気が元に戻った。ほっと息をついていたら、
「すみません。急な威圧で思わず防衛手段に出てしまいました。大丈夫でしたか」
皇会長が申し訳なさそうな顔をしてそう言った。
「…強いんだね。流石、皇さんと言ったところか」
お兄ちゃんはまだ苦しそうにしながらひと息ついて言う。
その時、僕の頭は流石って何?ってなった。皇会長が素敵でかっこいい人っていうのは分かるけど、何か含みを持った言い方が僕はなぜか気になった。
隣を見上げれば、皇会長はまだ眉間に皺を寄せている。
二人の間に漂う不穏な気配を察知してお父さんが宥める様に言った。
「まぁ、まぁ。ひとまずはお上がりください。狭い家で申し訳ないんですが」
そうしてようやく、僕と皇会長は家に上がることが出来た。
皇会長をリビングに案内した後、お茶出しもそこそこに、顔合わせが始まった。
僕の隣には皇会長が座って、正面にはお父さん、斜め前にお兄ちゃんの順で席に着いて三人が話しているんだけど、僕はそわそわしてしまって落ち着かない。
皇会長が我が家にいる事もそうだけど、皇会長が側にいる時はずっとお膝の上だったからか、隣に居ることに不満を感じてしまう。恥ずかしがっていた僕の心とは裏腹に、身体は皇会長のお膝の上を定位置だと認識してしまったみたいだ。
でも流石に家族の前だし…と我慢しようとしても身体が疼いてしまう。
うぅ、とひとり唸っていると、
「雷、おいで」
皇会長が優しい顔と甘さを含んだ声で自分の膝を叩いて、おいでのポーズをしてきた。いつもなら強引にさせられるのに今は誘うだけ。
僕がしたい事だったと認めるのは未だ恥ずかしいのに身体は正直で。やっぱり僕はそこが好きなんだって。
僕は誘われるがままに、吸い寄せられるように皇会長のお膝の上に横向きに乗った。
定位置に着くとほっと安心してしまう。でもやっぱり恥ずかしくて、抗議の意味も兼ねて皇会長の胸元にグリグリと額を押し付けた。お昼ご飯の時はもう恥ずかしくないけど、家族の前は流石に羞恥心がある。
「ぐぅっ…!」
一瞬皇会長から唸り声がしたと思ったら、お兄ちゃんが突然言った。
「…完敗です。皇さん、雷をどうぞよろしくお願いします」
何か争っていたんだろうか…。そして皇会長が勝った…?
「私からも雷のこと、よろしくお願いします」
お父さんもにこやかに言う。
なんかよくわからないけど、認めてくれたってことで良いんだよね?
僕は嬉しくなって、皇会長に言った。
「僕もお願いしたいです。皇会長、これからも僕のこと、離さないでくださいね」
「あぁ、もちろんだ。ずっと一緒にいような、雷」
皇会長は力強く頷いて、僕の左手を取って薬指に唇を落としてそう言った。
その意味に気付いた僕はさらに嬉しくなってぎゅっと皇会長に抱きついた。
僕の知らない事はたくさんあるけど、皇会長とずっと一緒なんだって思ったら嬉しさがブワリと込み上げたんだ。嬉し涙も出てきたけど、皇会長の胸元にグリグリして隠した。
そうしてぎゅーぎゅー抱きついていたら、
「皇さん、今日は泊まっていってください。今後のお話も少し気になることがありますので。雷も離れたくないようですし…」
お父さんが急にそう言い始めた。
えっ、と驚く間もなく、皇会長が答えた。
「是非ともそうさせていただきます」
そして僕だけに聞こえる声で、
____一緒に寝ような。
そう甘く低く囁いた。
僕は一瞬にしてボンって音を立てる勢いで顔を真っ赤にした。そして、
「ひえぇ…!」
喉からよく分からない悲鳴が出た。
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