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未知の恐怖と安心
しおりを挟むあれからずっと皇会長のお膝の上に乗ったままで頭を撫でられ、時折戯れにちゅーされた。恥ずかしくてやめてほしいのに、すぐに離されるのが寂しくて。僕の心は忙しかった。
家に着いてからも皇会長は僕を抱きしめたまま「離れたくない」と言って暫く動かない。
不意に何故か首元をスンスン嗅がれた。そしてうなじをペロリと舐められた。
突然の生温かい感触に僕はビクッと固まってしまった。
舌がうなじを這う度に頭の遠くで赤くチカチカ光って肌が粟立つ。
僕の知らない何かが奥底から溢れる気がして、僕は皇会長に言う。
「皇、会長っ…それ、いやだ……」
「っ、すまない。震えるほど嫌だったのか……。雷が嫌ならもうしないと誓う」
皇会長はそう言って僕を正面から強く抱きしめた。優しくあやすように頭を撫でられ、好きな匂いに包まれて僕は少しずつ落ち着きを取り戻す。
「ん、もう大丈夫です。そろそろ家に帰らないと二人が心配しちゃう…」
「そうだな。引き止めて悪かった。今度、雷の家族を紹介してくれないか?挨拶したいんだ」
____雷の恋人として。
皇会長はそう言ってふわりと笑う。
こ、恋人…。そ、そうだよね。皇会長は僕を好きだと言ってくれて、僕も皇会長が好き。友人?から恋人になれたってことだよね。こんな素敵な人が僕の恋人…。
何だか胸がじ~んと暖かくなる。
そして、曖昧だった関係性に"恋人"という名前がついたことで、僕と皇会長を繋ぐものがはっきり見えた気がした。
僕は嬉しくなって込み上げた衝動のままに皇会長にぎゅっと抱きついた。
「えへへ、嬉しいです!大好きですっ、皇会長」
そしてそのまま皇会長の顔に近づいて、
____ちゅっ
初めて僕からちゅーをした。
もう何度もしているのに、凄くドキドキして全然慣れなくて。僕からした唇が合わさっただけのちゅーはいつも以上に甘く感じた。
皇会長の反応が少し怖くて俯いていたら、突然力強く抱きしめられて、
「ハァ…可愛すぎる。反則だろう。このまま家に連れて帰って服を剥いてどろどろに甘やかして啼かせたい」
よく聞こえなかったし意味もわからなかったけど、皇会長はそんなことを呟いた。
……僕、泣いた方がいいのかな…?
「ただいま~」
玄関を開けて声をかける。すると二つの足音が聞こえた。
「おかえり。早く手洗っておいで。もうすぐご飯できるよ」
「おかえり~。今日はちょっと遅かったね。お兄ちゃんに言ってくれれば迎えに行ったのに」
お父さんとお兄ちゃんがこうして毎日必ず出迎えてくれる。
僕の家族はこの二人だけだ。お母さんは僕が小さい頃に家を出て行ってしまった。理由は分からない。知りたいけど、僕は二人には聞けない。だって、お母さんの話をすると酷く辛そうな顔をするんだ。だったら僕は知らないままでいい。僕はそう思ってもう何も言わない。
「いいよ、大丈夫。皇会長に送ってもらったから」
僕はそう言って洗面所に向かった。
何故か驚いた顔をしていたお兄ちゃんが「は?皇…?誰そいつ」ってドスの効いた声で言ったのが聞こえた気がした。
僕のお兄ちゃん、ちょっと過保護だから何か聞かれるかも知れない。う~ん、どうしよう…どこまで話そうか…。
って思ってたけど、夕食の時間に結局皇会長とのことを洗いざらい吐くことになった。
……お兄ちゃんは怒ると怖いんだ。
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