17 / 39
初めて知る心の痛み
しおりを挟む頭を撫でられてぼんやり夢見心地になっていた僕は、気が付けばいつの間にか生徒会室にいて、皇会長のお膝の上に座っていた。
「……!?」
昨日と同じ状況にぼんやりとしていた頭が覚醒する。
どうしてこうなった…!?
慌てて記憶を辿れば、生徒会室まで歩いた覚えはなくて。ゆりかごの中で温かくて爽やかなものに包まれているような感覚が蘇った。そのなかは凄く安心して、僕を包む何かに擦り寄って眠りについたところまでは、朧げだけど覚えてる。
そこからの記憶はなくて……そして今。
「~~~~!!」
声にならない悲鳴が出て、全身から血の気が抜けていく感覚がする。
パニックになった頭で必死に言葉を紡ぐ。
「ご、ごめんなさいっ!あ、あの、僕、何だか気持ち良くなっちゃって、それで寝てしまって……。僕、重かったですよね。で、あの…今も重いと思うので下ろしていただけると………」
謝っているうちに申し訳ないやら恥ずかしいやら情けないやらで感情がぐちゃぐちゃになって涙が込み上げてきて。それを見られないように俯いていると、髪を上から下へ優しく撫で付けられる感覚がした。
「大丈夫だ、落ち着け。雷は軽い。しっかり食事をとっているのか心配になるくらいだ。それに、気持ちが良いと雷に言われるのは俺にとって褒め言葉だ。雷が俺を信頼してる証だからな」
皇会長に撫でられていると不思議と心が凪いでいく。親とは違う温かくて大きな手。
その手の持ち主に"大丈夫"と言われると本当に大丈夫だと思える。
それが信頼するってこと……なのかな。
「……ありがとう、ございます。もう大丈夫、です。………あの、迷惑じゃなければ、もう少しだけこのままでもいい、ですか…?」
もう少しだけ撫でる手の温もりを感じていたくて。
勇気を出して、俯いていた顔を上げてお願いをした。
「ぐはっ__!」
皇会長から唸り声が聞こえたと思ったら、険しい顔で口に手を当てて顔を逸らされてしまった。密着していた体も肩をドンっと押されて離されてしまった。
撫でられていた手も僕の頭から外されている。途端に包まれていた温もりがなくなったことに寂しさを覚えた。
そして理解する。皇会長に拒絶されたんだって。
………やっぱり迷惑だったんだ。撫でられて嬉しかったのは僕だけ。皇会長は嫌だったんだ……
____悲しい
心がズキズキと痛み、また涙が込み上げてくる。
瞳に涙が溜まって、耐えきれなくなったものがぽろぽろと頬を伝って膝の上で固く握り込んだ拳に落ちる。
嗚咽を喉で噛み殺していると、
「…!な、なんで泣いているんだっ。どこか痛むのかっ?だっ、大丈夫だから、な?」
焦った皇会長の声が上から聞こえた。
心配してくれる気持ちは嬉しいけど、心はまだズキズキ痛んだまま。痛くて苦しくて、理性なんてどっかに行ってしまって。僕は込み上げる感情のまま、皇会長に聞いていた。
「だ、だって、迷惑…なんでしょ。僕の頭撫でるの、迷惑って思ってたん、でしょ……?い、嫌だったんでしょう…?僕は、僕は嬉しくて……もっと、ずっと、撫でてほしいって……思ってたのに…ぅぅ」
子供みたいに泣きじゃくっていたら、急にレモンのような爽やかな香りが僕を包み込んだ。
皇会長が僕を力強く抱きしめる。骨が軋むほど強く抱きしめられて鈍い痛みが走る。
でもそれが今は皇会長に求められてる気がしてひどく嬉しい。
もっと抱きしめてほしい。
強く抱きしめられながら頭を撫でられる。戻ってきた温もりに傷んでいた心は落ち着きを取り戻す。
その温もりが今度は離れて行かないように、その温もりに縋り付くように背中にギュッと腕を回して僕からも抱きついた。
皇会長とひとつになったような安心感で痛みが和らぎ、心が満たされる。
その瞬間、漠然と僕の居場所は"ここ"なんだと思った。ここが僕が一番安心できる場所。ここにいれば何も怖くない、この人が守ってくれるって。
暫くして僕が落ち着いた時、皇会長が声のトーンを落として真剣な声で言った。
「嫌じゃない。迷惑だと思ったことも一度もない。俺は雷を腕の中に閉じ込めて、撫でて甘やかしたいって常に思ってる。俺は雷を感じられて嬉しい。雷は俺とくっつくのは嫌か?」
「……!ううん、嫌じゃない!もっとくっつきたい、離れたくないって僕、思ってる」
「なら、何も問題はないな。雷は俺とずっと一緒にいて、俺に甘やかされていればいい。俺もその方が嬉しいからな」
そう言って綺麗に微笑んだ皇会長は僕の顎を掴み、目線を合わせて今度は妖しく微笑んだ。
色気を放った皇会長に胸が高鳴って、なぜか目が離せずにいると、だんだんと皇会長の綺麗な顔が近づいてきて……
____ちゅっ
唇に少し冷たい、柔らかな感触を感じた。
ぇ…な、なに……?
何が起こったのかわからずに固まってしまっていると、僕の頬をするりと撫でる感触がした。そこに優しさ以外のものが含まれている気がして、思わず皇会長を見ると、
「雷、好きだ」
揺るがない瞳の奥に炎を燻らせて、僕だけを瞳に映し真剣な声で皇会長はそう言った。
30
お気に入りに追加
1,299
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです

実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる