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出逢いは胸騒ぎと共に 【煌視点】
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【煌視点】
生徒会の仕事は多い。日常の常務に加えて恒例行事の段取りや準備まで全て生徒会で担うからだ。時期がくれば委員会が発足し大半の仕事は任せられるようになるが、それは一時的なもので行事が終われば解散する為にやはり指揮を取るのは生徒会だった。
多忙な日々は徐々に精神をすり減らす。特に今は夏の体育祭に向けて大詰めしているところであり、些細な事でも真剣に取り組まねばならない。
「ハァ……」
もう何度目かわからないため息をこぼした時、ドンッと廊下で大きな音がした。そして誰かの「ぁあ、紙が!」という悲痛な叫び声がした。
普段なら無視するだろうに、その時はなぜか彼の声を聞いて胸騒ぎがして、助けなければと思った。
使命感にも似た衝動に突き動かされペンを置き席を立つ。自分のあり得ない行動に内心動揺しながら顔に出ないように努めて冷静な表情を保つ。
「君、大丈夫か」
扉を開けると散らばった大量の紙と目の前に俯いて座り込んでいる生徒が目に入る。
彼はビクッと肩を振るわせ、俯いた顔をこちらに向けた。
一瞬、時が止まったかと思った。
目が合った瞬間、背筋に衝撃が走る。ビリっという感覚と共に胸に込み上げたのは得体の知れない熱い感情。知らない感情。
なのに何故か酷く懐かしい。
顔を上げた彼は泣きそうな顔をしていて、小さな唇は硬く結ばれ吊り目がちの大きい瞳は潤んでいる。小さな体を震わせ縋るような視線をこちらに向ける彼の姿は小動物を連想させ、可愛くも庇護欲が唆られる。
助けたい。
「これは全て君のか?拾うのは大変だろう。俺も手伝う」
「あ、ありがとうございます。でもこれは僕のじゃなくて生徒会の方に届けなくちゃいけない物で……なので大丈夫です」
そう言って彼は眉を下げたままふにゃりと笑う。
____可愛い
自分にもこんな感情を持つことがあったのかと驚く。
「なら問題ないな」
手早く散らばった書類を集める。
「問題ない…って、えと、どうして…」
困惑した彼に「あれだ」と"生徒会"と掲げられた扉の上にある札を指差す。
「ぇ…ここ、生徒会室の前だったの………ぅぅ、恥ずかしぃ…………」
そう呟いて彼はまた俯いてしまった。両手で顔を覆い、耳を真っ赤にした。
可愛い、愛でたい。
俺は彼をどうやって引き留めようか考える事に思考を寄せた。
彼が自ら進んで書類を運んだとは思えない。なら誰かから頼まれたのだろう。用事が済めば直ぐに此処から去ってしまう。
ひとまずこちらのテリトリーである生徒会室の中まで連れ込まなければ。
そこまで考え、羞恥心を煽らないように慎重に言葉を紡ぐ。
「ひとまず、書類を纏めて机の上に置くか」
「あ、はい。そうですね」
集めた書類を中央の大きな机の上に置く。
書類は後で確認すればいいとして、あとはどうするか…。
大量の書類を早く確認して仕事を終わらせたい気持ちもあるが、今はそれどころではない。
「手伝ってくれてありがとうございました。あの、僕が言うのもおかしいですけど、早くここから出た方がいいと思います。友人から生徒会室に近寄った人が危ない目に遭ったって、だからあまり近寄っちゃいけないって聞いたので……」
彼はブルっと身体を震わせている。
先程から気が付いていたが、どうやら彼は少し抜けているところがあるらしい。
俺が生徒会室から出てきたことに何ら疑問を感じていないみたいだ。それともただ忘れているのか。
その噂の真偽はあながち間違ってはいない。危ない目、というのは命に関わる事ではないが精神的に追い詰められる人がいるのは知っている。
生徒会としても学校側としてもこれらは到底看過出来る事ではなく、何とかしようと試みているのだが、よっぽど上手く隠れているのか、犯人の目星はついているが証拠が出てこない。犯人の実家が証拠を揉み消している線も考えられる。
ただ、本当に危ないと彼に伝えてしまえば彼が今後ここに来る事は二度とないだろう。それは阻止したい。
生徒会の仕事は多い。日常の常務に加えて恒例行事の段取りや準備まで全て生徒会で担うからだ。時期がくれば委員会が発足し大半の仕事は任せられるようになるが、それは一時的なもので行事が終われば解散する為にやはり指揮を取るのは生徒会だった。
多忙な日々は徐々に精神をすり減らす。特に今は夏の体育祭に向けて大詰めしているところであり、些細な事でも真剣に取り組まねばならない。
「ハァ……」
もう何度目かわからないため息をこぼした時、ドンッと廊下で大きな音がした。そして誰かの「ぁあ、紙が!」という悲痛な叫び声がした。
普段なら無視するだろうに、その時はなぜか彼の声を聞いて胸騒ぎがして、助けなければと思った。
使命感にも似た衝動に突き動かされペンを置き席を立つ。自分のあり得ない行動に内心動揺しながら顔に出ないように努めて冷静な表情を保つ。
「君、大丈夫か」
扉を開けると散らばった大量の紙と目の前に俯いて座り込んでいる生徒が目に入る。
彼はビクッと肩を振るわせ、俯いた顔をこちらに向けた。
一瞬、時が止まったかと思った。
目が合った瞬間、背筋に衝撃が走る。ビリっという感覚と共に胸に込み上げたのは得体の知れない熱い感情。知らない感情。
なのに何故か酷く懐かしい。
顔を上げた彼は泣きそうな顔をしていて、小さな唇は硬く結ばれ吊り目がちの大きい瞳は潤んでいる。小さな体を震わせ縋るような視線をこちらに向ける彼の姿は小動物を連想させ、可愛くも庇護欲が唆られる。
助けたい。
「これは全て君のか?拾うのは大変だろう。俺も手伝う」
「あ、ありがとうございます。でもこれは僕のじゃなくて生徒会の方に届けなくちゃいけない物で……なので大丈夫です」
そう言って彼は眉を下げたままふにゃりと笑う。
____可愛い
自分にもこんな感情を持つことがあったのかと驚く。
「なら問題ないな」
手早く散らばった書類を集める。
「問題ない…って、えと、どうして…」
困惑した彼に「あれだ」と"生徒会"と掲げられた扉の上にある札を指差す。
「ぇ…ここ、生徒会室の前だったの………ぅぅ、恥ずかしぃ…………」
そう呟いて彼はまた俯いてしまった。両手で顔を覆い、耳を真っ赤にした。
可愛い、愛でたい。
俺は彼をどうやって引き留めようか考える事に思考を寄せた。
彼が自ら進んで書類を運んだとは思えない。なら誰かから頼まれたのだろう。用事が済めば直ぐに此処から去ってしまう。
ひとまずこちらのテリトリーである生徒会室の中まで連れ込まなければ。
そこまで考え、羞恥心を煽らないように慎重に言葉を紡ぐ。
「ひとまず、書類を纏めて机の上に置くか」
「あ、はい。そうですね」
集めた書類を中央の大きな机の上に置く。
書類は後で確認すればいいとして、あとはどうするか…。
大量の書類を早く確認して仕事を終わらせたい気持ちもあるが、今はそれどころではない。
「手伝ってくれてありがとうございました。あの、僕が言うのもおかしいですけど、早くここから出た方がいいと思います。友人から生徒会室に近寄った人が危ない目に遭ったって、だからあまり近寄っちゃいけないって聞いたので……」
彼はブルっと身体を震わせている。
先程から気が付いていたが、どうやら彼は少し抜けているところがあるらしい。
俺が生徒会室から出てきたことに何ら疑問を感じていないみたいだ。それともただ忘れているのか。
その噂の真偽はあながち間違ってはいない。危ない目、というのは命に関わる事ではないが精神的に追い詰められる人がいるのは知っている。
生徒会としても学校側としてもこれらは到底看過出来る事ではなく、何とかしようと試みているのだが、よっぽど上手く隠れているのか、犯人の目星はついているが証拠が出てこない。犯人の実家が証拠を揉み消している線も考えられる。
ただ、本当に危ないと彼に伝えてしまえば彼が今後ここに来る事は二度とないだろう。それは阻止したい。
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