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序章
異世界に転生しました 03
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そんな貞操の危機が赤子の身に起こるはずもなく、メルと名付けられた僕は順調に育ち、5歳になった。
両親や周りのカップル達の幸せそうな顔を見ていたら、いつの間にか男同士で愛し合うことも当たり前のことだと思うようになっていた。
元々、同性愛に忌避感は持っていなかったから、今ではもう、好き同士で幸せならそれが一番だと思っている。
鏡の前に立つと柔らかな髪質の明るい茶髪に緑の瞳を持った5歳児が映る。ぱっちり二重の目はまあるくクリクリしていて、ぷよぷよとしたほっぺにまんまるの顔はまだ幼く、両親の面影はまだ見当たらない。
緑の瞳は風属性の証だ。
女神様の力なのか、言語能力に全く問題のなかった僕は5年の間に両親が持っていた本を読み漁り、あらゆる知識を吸収していった。
新しい知識を取り入れることはゲームのようで楽しくて、僕は興味が絶えなかった。
専門書のような難しい本まで読む、そんな僕を知ってか、両親は冒険の傍ら行く先々で様々な本を買ってくれた。
「そろそろ、メルも鍛えようか」
「え?鍛えるって何を?」
「魔物と戦えるようにね。俺達の旅は危険がいっぱいでしょ?連れ回しといて言う言葉じゃないんだけど、俺達だけでメルを守るにも限界があるし。だから身を守る術として、魔術とか戦闘術を俺と父さんでみっちり叩き込むよ、いいね?」
背筋にゾクゾクと悪寒が走る。今すぐ逃げ出してしまいたかったが断れない圧力を感じて、精一杯首を縦に振る。
「覚悟してね。厳しくするから」
そう言って悪役さながらに、綺麗にニコリと笑う母さんは、本当にスパルタだった。
母さんからは魔術を学ぶ。母さんはΩで魔力量が多く、魔術を扱うのに長けている。蜂蜜色の瞳で、ごく少数しかいないと言われる光属性だ。光属性は唯一、癒しの魔術を使える。
属性が違ってもコツは同じだから学ぶことは多い。
僕は風属性だから様々な風を魔術で起こして戦う。例えば、攻撃なら鋭く細い風圧を起こし、防御なら自分の周りを球体で覆うような風を起こす。
体を動かし続けながら体内に流れる魔力に意識を向け、魔術式を展開し詠唱。同時に魔力を展開した魔術式に流し込み発動させる。
【初級術式:風 エアスラッシュ】
無意識に術式を展開できるまで、そして発動に必要な魔力を最小限に抑えられるまで何度も繰り返す。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁぁ……
もう本当に勘弁してぇぇ!!と泣きじゃくって、泣き落としをするくらい母さんは容赦がなかった。
でもそのおかげで、短い時間で魔術の威力や精度は最初とは比べ物にならないほど跳ね上がり、弱い魔物なら意識せずとも急所を狙って倒せるようになった。
父さんからは近接における戦闘術を学ぶ。父さんはβで魔力量はかなり少ない。その為必然的に剣を使った近接戦闘になる。
先ずは護身術や体術を学び、体に動きを覚え込ませる。体が慣れてきたら模擬剣を持ち、繰り出される技を避けながら急所を狙い定め動く。
父さんは母さんほど厳しくはなかったが、指摘が的確で、優しい言い方で容赦なく正論が飛んでくるので体は大丈夫でも精神的にダメージが凄かった。これなら怒号が飛んでくる方がマシだ。
でも、前世の社畜根性で耐え抜いた。理不尽な押し付けなんて日常茶飯の上司よりも遥かに良心的だ。
だって、父さんも母さんも厳しくするのは僕のためだって、わかってるから。
家族3人で冒険者の両親と共に各地を旅しながら時折魔物退治をして、ドロップした魔石やアイテムを売り、資金を調達しながら毎日を楽しく過ごし10歳の誕生日を迎えた頃、父さんと母さんから誕生日プレゼントを貰った。
貰ったのは柄に透き通るような緑色の大きな魔石とその下に輝く金色の小さな魔石が埋め込まれた短剣。先端は鋭く尖っており、全体的に細身の造りで子供の僕でも軽くて扱いやすく、手にしっかりと馴染む感覚があった。
「「10歳の誕生日おめでとう、メル」」
「ありがとう!父さん!母さん!すごい僕にしっくりくる。えへへ、僕のための剣だね!!僕、宝物にする!」
「くくっ、宝物にしたらプレゼントした意味がないだろ?ちゃんと使えよ」
「そうだよ、メル。俺達の厳しい特訓に耐えたんだ。頑張ってついてきてくれてありがとね。メルはもう、立派な一人前だよ」
緑と金色の魔石には風と光属性の魔術の威力や効果を底上げする術式が組み込まれていた。
光属性…使えるって言ってないのに…
そんな僕の心に浮かんだ疑問を母さんは答えてくれた。
「当たり前だよ。俺を誰だと思ってるの?メルの母親だからね。陰でこっそり、傷ついた子供や大人達を癒してたこと、知ってるよ。父さんも気がちゃんとメルのこと、見てたよ」
「ねぇ、メル。俺達の元に生まれてきてくれてありがとね。こんなにも真っ直ぐに優しく育ってくれてありがとう」
僕から欲しがって買って貰った物じゃなくて、二人が僕のことを思って考えてプレゼントしてくれたその想いがどうしようもなく嬉しくて。
ずっと僕を見ていてくれたことが嬉しくて。
母さんの癒しの光のような、心も温かくなる愛情たっぷりの優しい言葉が嬉しくて。
涙が溢れて止まらなくて、でも心は温かく満たされて幸せで。鼻を啜って瞳に涙をいっぱいためて、ぐずぐずになりながら、僕に惜しみない愛を注いでくれた最高の両親に満面の笑みで
「僕も…っ!二人の子どもに生まれてうれしい!僕を産んでくれて、愛してくれて、ありがとう!!!」
そう伝えて、久しぶりに3人で川の字になってベッドに入った。
ずっと涙が止まらない僕を、父さんと母さんは左右からピッタリくっついて大きな温かい手であやしてくれたんだ。
両親や周りのカップル達の幸せそうな顔を見ていたら、いつの間にか男同士で愛し合うことも当たり前のことだと思うようになっていた。
元々、同性愛に忌避感は持っていなかったから、今ではもう、好き同士で幸せならそれが一番だと思っている。
鏡の前に立つと柔らかな髪質の明るい茶髪に緑の瞳を持った5歳児が映る。ぱっちり二重の目はまあるくクリクリしていて、ぷよぷよとしたほっぺにまんまるの顔はまだ幼く、両親の面影はまだ見当たらない。
緑の瞳は風属性の証だ。
女神様の力なのか、言語能力に全く問題のなかった僕は5年の間に両親が持っていた本を読み漁り、あらゆる知識を吸収していった。
新しい知識を取り入れることはゲームのようで楽しくて、僕は興味が絶えなかった。
専門書のような難しい本まで読む、そんな僕を知ってか、両親は冒険の傍ら行く先々で様々な本を買ってくれた。
「そろそろ、メルも鍛えようか」
「え?鍛えるって何を?」
「魔物と戦えるようにね。俺達の旅は危険がいっぱいでしょ?連れ回しといて言う言葉じゃないんだけど、俺達だけでメルを守るにも限界があるし。だから身を守る術として、魔術とか戦闘術を俺と父さんでみっちり叩き込むよ、いいね?」
背筋にゾクゾクと悪寒が走る。今すぐ逃げ出してしまいたかったが断れない圧力を感じて、精一杯首を縦に振る。
「覚悟してね。厳しくするから」
そう言って悪役さながらに、綺麗にニコリと笑う母さんは、本当にスパルタだった。
母さんからは魔術を学ぶ。母さんはΩで魔力量が多く、魔術を扱うのに長けている。蜂蜜色の瞳で、ごく少数しかいないと言われる光属性だ。光属性は唯一、癒しの魔術を使える。
属性が違ってもコツは同じだから学ぶことは多い。
僕は風属性だから様々な風を魔術で起こして戦う。例えば、攻撃なら鋭く細い風圧を起こし、防御なら自分の周りを球体で覆うような風を起こす。
体を動かし続けながら体内に流れる魔力に意識を向け、魔術式を展開し詠唱。同時に魔力を展開した魔術式に流し込み発動させる。
【初級術式:風 エアスラッシュ】
無意識に術式を展開できるまで、そして発動に必要な魔力を最小限に抑えられるまで何度も繰り返す。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁぁ……
もう本当に勘弁してぇぇ!!と泣きじゃくって、泣き落としをするくらい母さんは容赦がなかった。
でもそのおかげで、短い時間で魔術の威力や精度は最初とは比べ物にならないほど跳ね上がり、弱い魔物なら意識せずとも急所を狙って倒せるようになった。
父さんからは近接における戦闘術を学ぶ。父さんはβで魔力量はかなり少ない。その為必然的に剣を使った近接戦闘になる。
先ずは護身術や体術を学び、体に動きを覚え込ませる。体が慣れてきたら模擬剣を持ち、繰り出される技を避けながら急所を狙い定め動く。
父さんは母さんほど厳しくはなかったが、指摘が的確で、優しい言い方で容赦なく正論が飛んでくるので体は大丈夫でも精神的にダメージが凄かった。これなら怒号が飛んでくる方がマシだ。
でも、前世の社畜根性で耐え抜いた。理不尽な押し付けなんて日常茶飯の上司よりも遥かに良心的だ。
だって、父さんも母さんも厳しくするのは僕のためだって、わかってるから。
家族3人で冒険者の両親と共に各地を旅しながら時折魔物退治をして、ドロップした魔石やアイテムを売り、資金を調達しながら毎日を楽しく過ごし10歳の誕生日を迎えた頃、父さんと母さんから誕生日プレゼントを貰った。
貰ったのは柄に透き通るような緑色の大きな魔石とその下に輝く金色の小さな魔石が埋め込まれた短剣。先端は鋭く尖っており、全体的に細身の造りで子供の僕でも軽くて扱いやすく、手にしっかりと馴染む感覚があった。
「「10歳の誕生日おめでとう、メル」」
「ありがとう!父さん!母さん!すごい僕にしっくりくる。えへへ、僕のための剣だね!!僕、宝物にする!」
「くくっ、宝物にしたらプレゼントした意味がないだろ?ちゃんと使えよ」
「そうだよ、メル。俺達の厳しい特訓に耐えたんだ。頑張ってついてきてくれてありがとね。メルはもう、立派な一人前だよ」
緑と金色の魔石には風と光属性の魔術の威力や効果を底上げする術式が組み込まれていた。
光属性…使えるって言ってないのに…
そんな僕の心に浮かんだ疑問を母さんは答えてくれた。
「当たり前だよ。俺を誰だと思ってるの?メルの母親だからね。陰でこっそり、傷ついた子供や大人達を癒してたこと、知ってるよ。父さんも気がちゃんとメルのこと、見てたよ」
「ねぇ、メル。俺達の元に生まれてきてくれてありがとね。こんなにも真っ直ぐに優しく育ってくれてありがとう」
僕から欲しがって買って貰った物じゃなくて、二人が僕のことを思って考えてプレゼントしてくれたその想いがどうしようもなく嬉しくて。
ずっと僕を見ていてくれたことが嬉しくて。
母さんの癒しの光のような、心も温かくなる愛情たっぷりの優しい言葉が嬉しくて。
涙が溢れて止まらなくて、でも心は温かく満たされて幸せで。鼻を啜って瞳に涙をいっぱいためて、ぐずぐずになりながら、僕に惜しみない愛を注いでくれた最高の両親に満面の笑みで
「僕も…っ!二人の子どもに生まれてうれしい!僕を産んでくれて、愛してくれて、ありがとう!!!」
そう伝えて、久しぶりに3人で川の字になってベッドに入った。
ずっと涙が止まらない僕を、父さんと母さんは左右からピッタリくっついて大きな温かい手であやしてくれたんだ。
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