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一年目 春

⑤~ 波風

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次の日、車内ではいつも以上に幸志郎を抱き締めて居ると、彼もいつも以上に強く抱き締めてくれて、でも、彼のは大きくなってて、それが私の下半身から伝わって来て、列車の揺れで、それがギューギューと押し当てられて・・・昨夜は私の精神状態もあったし、日曜日にたっぷりと愛し合った事もあって、彼と一つになる事は無かったからなのか、それとも前日の精神的ショックが何らかの影響を与えていたのか、私の身体はそれでスイッチが入ってしまって、膝から力が抜けて立ていられなくなる程で・・・彼に完全に抱き抱えられて、支えられての通勤になりました。

もう、私は息が上がってしまって、吐息が漏れまくりで、彼もそれに気が付いて、マズイと思ったのか、何とか当たらないようにと試行錯誤しましたが無理で、最終的には、キツく私を抱き締めてくれていました。

苦しい程に、ギュッと密着させて・・・彼の体温と香りに包まれながら、甘え倒しての通勤でした。

まぁ、超満員電車なので、意識しなくても密着はするし、立っている事も出来るのですが、私が彼を抱き締めていたので、彼は私の気持ちが落ち着けばと思って、腕にいつも以上に力を込めて抱き締めていてくれたのでした。

本当は、もう会社なんて行きたく無かったんですけど・・・そういう訳にもいきません。

名残惜しかったけど、何とか気持ちを整理して、彼と別れて出社しました。

女子更衣室に行くと、昨日の私の一件で先輩方々も含めて会話が盛り上がっていて

「森山~、昨日、最悪な目にあったんだって???」

って、秘書課女子の中で、一番のリーダー格の先輩が聞いて来て、事の次第を話すと、更衣室に居た先輩達全員が、私を囲むように話出して、それぞれに他の不満等も飛び出して、更衣室は大盛り上がりになって、いつの間にかそれに梨沙も参加してて・・・皆で朝礼の時間が過ぎて主任が呼びに来るまで、暴走してしまいました。

でも、意外だったのは、秘書課女子の方々って、皆さん容姿端麗で高学歴の方ばかりで、しかも、常に見られていると言う意識を持って居られるせいか、近寄り難いような凛とした雰囲気を醸し出して居られるので、ほとんどの先輩から、私は良く思われて無いように感じていたのですが・・・。

誰彼構わず喋る中での大まかな会話の内容は

「森山、大変だったね」

「すいません、こんなに問題になってしまって」

「何言ってんの、皆、貴女の味方よ」

「そうよ、皆、貴女を認めてるし、可愛い後輩って思ってる人ばかりなんだから、そういう時は周りを頼ったら良いのよ」

「えっ、でも迷惑じゃ???」

「迷惑な訳ないでしょ。
皆、貴女の仕事ぶりを見てて、助かってるし感謝してるんだよ」

「はぁ・・・そうなんですか?」

「そう、槇村も含めて、去年の新人は当たりだったってね」

「え~、私も???」

って、梨沙。

「そうよ、森山なんて、朝の清掃当番では、いつもデスクから何からピッカピカにしてあるし、ゴミ箱だって、ちゃんと総て捨ててあるし、自分が掃除当番じゃ無くても、ゴミとか目に付いたら、目立たない様に捨ててくれたり、他のカウンターに行っても、同じように細かな気遣いをしてくれてるの、皆、知ってるのよ。

梨沙だって、その場の雰囲気をすぐに読み取って、出しゃばらず、でもちゃんとフォローやヘルプしてくれるでしょう。

あれも、常に周りへの気遣いが出来てないと出来ない事なのよ。

それに、二人とも、何があっても嫌な顔一つせずに動いてくれるし、いつも頑張ってる。

以前は、自分の事以外は、けっこう皆、知らん振りだったの。

でも、貴女達二人が入ってから、皆、そういう所が無くなって来て、貴女達の影響を少なからず受けててね、秘書課の雰囲気、凄く良くなったのよ。

主任も、それに気付いてて、そう言ってたし、私達も同じ気持ちなんだから」

「マ~ジですか?」

「まぁ~ね、槇村、でもその、マ~ジですか?ってのは、止めようね。
いくらプライベートだからって、もうちょっとお淑やかに。
重要な場面で、ポロッと出ないか心配になるから」

「あっ!すいません」

「でも、それが槇村なんだけど」

って、皆さんが笑って、女子更衣室がこんなに盛り上がるのは、入社以来初めての事でした。

皆さんに元気付けられて、好かれてるんだって嬉しい発見もあって、とても楽しい朝でした。

で、少し遅れての朝礼でしたが、波風さんの姿は有りませんでした。

主任は居るのに、どうしたのかな?って思って、朝礼後に主任に聞きに行くと、人事部に呼ばれているとの事。

昨日の私との一件と、勤務途中での無断退社について、人事部で色々と問題になっているようです。

当然、これには主任から人事部への報告とそれに伴うクレームがあったからで、主任は

「あの野郎、勝手に帰って・・・キレたわ!」

って、怒り心頭でした。

私達が、通常業務に就いて暫くすると、主任が波風さんを伴って正面受付へと現れました。

私が、来客の御相手をしていた時で、気が付くのがちょっと遅れてしまって、お客様を案内し終わって振り返ると、私のすぐ背後に波風さんが立っていたのです。

私、驚いて、声は出なかったけど、たじろぎながら受付用のバインダーを胸の前に掲げて盾のようにして、少し距離を取るようにして、睨んでしまいました。

それに気が付いた主任が

「波風!」

って、強い口調で呼びました。

けど、それを無視してそのままの波風さん。

すると、梨沙がサッと私と波風さんの間に割って入って

「ほら、主任に呼ばれてるでしょ!」

って、少し小声で言って、私を守ろうとしてくれました。

それでも、私を見詰めたままで動こうとしない彼に、私は主任の方へ行くようにと人差し指で弾くように指図すると、それに反応して、渋々ながら主任の方へと去って行きました。

それからは、主任が波風さんと正面受付のメンバーに入って、私は東側のカウンターへと移動しました。

本来なら主任は、秘書課室で他の部からの翻訳依頼や、会議予定の連絡等々の業務に追われるはずでしたが、波風さんを受け持つ事になってしまって、受付カウンター業務から先輩二人が主任の代わりを勤める事になりました。

昼休憩になって、梨沙と一緒に昼食を取っていると、波風さんが現れました。

私に近付いて来るのを、梨沙が立ち上がって防ぐと、それを押し退けるようにして私へ近付こうとします。

そこへ、秘書課の先輩達が数名立ち上がって、梨沙と一緒に並んで加勢してくれました。

「貴方、森山に近寄らない方がいいわよ。
これ以上、問題を起こすとタダでは済まないから」

って、先輩の一人が言うと

「僕には、そんな処分は出来ないはずですよ。
それに、森山さんの誤解なんです。
ちゃんと、僕を知ってもらえば、好きになってくれるはずですから」

「馬鹿なの?
今は、昼休憩なの。
つまり、プライベートな時間なの。
今後一切、仕事以外で私達に近付かないでもらえる!?」

って、梨沙がかなりの大声で、社食内なのに、キツく言いました。

それに、他の男性社員達も気付き出して、同じ秘書課の男性の一人が波風さんに近付いて、耳元で何かを囁きました。

けれど、それにも反応を示そうとしない波風さん。

すると、そこに人事部の課長も居られて、席を立ち上がって波風さんの前に立つと

「波風くん、ちょっと来て貰えるかな?」

と、波風さんに強く言いました。

それに伴って、人事課長と一緒に居た数名の男性達も立ち上がって、波風さんを取り囲むように立ちました。

そして、波風さんは彼等に囲まれるようにして、社食から連れて行かれました。

私、この一部始終を見ながら、でも、波風さんの執拗な執念みたいなものを感じて、鳥肌が立って震えていました。

でも、気を取り直して、私を守ろうと協力して貰った皆さんに御礼を言って、午後の業務に入りました。

すると直ぐに梨沙から内線が掛かってきて

「美幸、こっちに瀬田さん来てるよ」

「えっ?」

「そっちって伝えたから、そっちに行くと思うけど・・・今、波風が応対してるの」

「えっ、なんで?」

「瀬田さんから波風に近付いたのよ、で、挨拶して、そのまま波風が受付してる」

「・・・え、えっと・・・そっちに行った方が良いかな?」

「何か話してる・・・男同士でね・・・でも、瀬田さん・・・表情が険しい・・・怖いくらい。
来ちゃダメでしょ。
波風居るし、瀬田さんにはちゃんとメモ渡したから、大丈夫だよ」

「そ、そう?」

「待ってなよ」

「う、うん・・・ありがとう」

って、内線を切りました。

暫くすると、幸志郎が東カウンターへとやって来ました。

そして

「すいません、特殊繊維課って、何階でしたっけ?
ちょっとド忘れしてしまって・・・案内お願い出来ますか?」

って、頭を掻きながら、恥ずかしそうな表情で言いました。

それに、私は即座に立ち上がって

「は、はい、御案内致します。コチラです!」

って、カウンターを飛び出しました。

他の先輩達が少し驚いたような雰囲気でしたが、それに

「少し、行ってきます」

って言って、彼とエレベーターへ。

エレベーターに乗ると彼が

「人の少ない階はない?」

「えっ・・・と・・・」

って、私は考えて会議室だけが集中している20階のボタンを押しました。

そして

「どうして?」

「元々、近いうちに来なければいけなかったんだ。
で、昨日に聞いた波風って野郎も見ておきたくてね。
だから、予定を早めたんだ」

「もう、言っといてくれれば・・・」

「今朝になって予定を変えたから、言う暇なかった。
コミュニケーションアプリ(今後、コミュアで)では、メッセージ入れたけど」

「えっ?確認してなかった」

「だろうね・・・既読にならなかったし」

ここで、20階に到着して、二人で降りて

「ごめんなさい、お昼休憩とかしか確認出来ないし・・・今日も色々とあって、確認するの忘れてて」

「いいよ、別に・・・それより大丈夫?」

「うん、今は違うカウンターにして貰って、離れてるから」

「そっか・・・アイツが波風なんだな。
ヘラヘラしやがって」

「怒ってるの?」

「ああ、昨日からね」

「えっ?昨日は、そんな素振りなんて見せなかったのに」

「君に怒ってる訳じゃ無いし、君がショックを受けてて、相当落ち込んでるだろうと思ってたし、まぁ、その通りだったしね。
そんな君を支えて慰めて癒せるのって、俺の知る限り・・・俺だけだから」

「あはっ!凄い自信ね」

「でも、当たってるだろ?」

「うん・・・当たってる」

「俺にとっても、君はそういう存在だから、たぶん、同じだろう?ってね」

「うん・・・ありがとう」

「にしても、ふざけた野郎だ」

「受付で、話してたって聞いたけど」

「ああ、受付の態度も、ふざけてて印象最悪!」

「えっ!そうなの?」

「接客してるって意思が欠落してる。
その分、横に居た歳上の女の人は、めちゃくちゃ気を使ってくれたけど、アイツはダメだな」

「あ、それ主任よ。
私達の直属の上司なの。
あの人が、波風さんを私から遠ざけてくれてるの」

「そっか・・・それは感謝だな。
アイツ、三葉の社長の血縁だって?
ムカつくわ!」

「そうなの、だから会社も無下に出来なくて」

「本当なら、今すぐにでも、ボコボコにしてやりたい」

「相当、怒ってるのね」

「前に言ったろ、俺は、自分の女を他の奴に触られるだけでも嫌だって。
独占欲の塊だから、その分、それをやった奴は許せない。
君に近付かせない為にも、方策を考えないとな」

「私達も、皆で何とかしなきゃって、考えてるから大丈夫よ」

「いや、こういうのはちゃんとケリが着くまで安心出来ないよ。
こっちでも対応を考えとかないとな」

「うん・・・ありがとう。
もう、行かないとね」

「そうだな、じゃ、行ってくる」

「うん・・・頑張って」

と、私は彼と別れて東カウンターへと戻りました。

そのまま、何事も無く時間は過ぎて、16時頃に幸志郎は東カウンターから帰って行きました。

そして、それから暫くは、この体勢のままの日々が過ぎて行きました。(つづく)
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