御主人様は痴漢で変態です!

TUCHINOKO

文字の大きさ
上 下
20 / 57
一年目 春

⑨ バイクを降りた理由

しおりを挟む
二人共、浴室から出て、出掛ける為の用意をしていました。

彼は、土曜日から下着も含めて着替えをしていません。

私、それが気になって・・・不潔だし、誰かに臭いなんて思われたら、彼が可哀想だし、私のプライドがそれを許せるはずは無く

「 幸志郎、これに着替えてね。
着てたのは、また、洗うから私に頂戴」

って、洗濯したての下着を渡しました。

「 え!・・・ゴメン、ありがとう・・・なんか今、心が震えたわ」

「 震えたって、何故よ?
上着は・・・変えがないから・・・ゴメンね・・・寒くない?」

「 母親以外で、こんなに優しい気遣いをして貰った記憶が無いからね。
寒くないと思うけど・・・なんで君が謝るの?・・・車だよね?」

って、言って、洗濯済みの下着を着て、笑顔を見せる彼。

私は、ポニーテールに、カジュアルスタイルの服装で、ナチュラルメイクにしていました。

「 あのね・・・私、実は駅に自転車を取りに行かないとダメなの」

「 あ~・・・じゃぁ・・・車はダメだね・・・取り敢えず駅方向に歩いて行こうか?
それで、途中ででも食べれる所があったら、そこで食べたら良いかな?」

「 うん・・・でも、歩いたら30分近く掛かるのよ、寒くない?」

「 寒くないよ。
それに、帰りは俺が漕ぐから2ケツで帰ったら?」

「 2ケツっ・・・て???」

「 あ、あれ?2ケツって言わない?二人乗り」

「 二人で・・・2ケツ・・・あは!おっかし~あはははは!」

「 いや、普通に言うでしょ?」

「 二人で2ケツ・・・って・・・あはは!」

「 もう・・・笑ってろ!」

「 あはは!」

って、私、おかしくって爆笑してしまいました。

彼は、少し拗ね顔でした。

私の部屋を出て、二人で並んで歩きます。

もう、日が暮れ始めていて、日没間際の夕日が二人の長い影を作って・・・それが・・・少し恥ずかしくて・・・でも彼は、私の手を取って歩いて行きます。

それに引っ張られるようにして歩く私は、いい歳して彼と手を繋いでいるのが恥ずかしくて、俯いて顔をあげる事が出来ませんでした。

「 幸志郎・・・ここ歩くの始めてでしょ?」

「 ああ、そうだよ」

「 駅への道、知ってるの?」

「 いや・・・間違ってる?・・・勘なんだけど」

「 ううん、合ってる」

「 だろ!」

こんな、何気ない会話をしながら、彼と歩きます。

途中で、すれ違ったJK二人組が、私達をじっと見ていて、通り過ぎても振り返って見ているのが判って、それが恥ずかしくて、顔が真っ赤になっていたと思います。

今朝からの彼との事が、私の頭の中で走馬灯のように思い出されて・・・それを道行く人達に見透かされてるようで・・・まともに顔を上げられませんでした。

途中で、川の土手の桜並木に差し掛かりました。

「 おー!すげ~桜並木やん!」

「 ・・・お花見・・・ここに来たかったの」

「 まだ、三分・・・五分咲きかな・・・次の週末ぐらいが見頃かなぁ?」

「 うん・・・そうね」

「 美幸、今度の週末は僕と過ごせるの?」

「 うん・・・私・・・余程の事が無い限り、週末は暇してるから」

「 じゃぁ、これからの週末は、基本的に僕と一緒って事でOK?」

「 うん・・・一緒・・・がいい」

って、会話しながら、私が手を引っ張って、桜並木へ向いて曲がりました。

駅には遠回りになるけど、彼と歩きたかったのです。

彼も、それを自然と受け入れてくれて・・・私、川の土手には誰も居なかったので、彼の腕に腕を絡めて、寄り添うようにして歩きました。

桜並木を五十メートル程歩くと、川を渡る小さな橋があって、桜並木はまだ続きますけど、駅に行かなくてはいけないので、その橋を渡って対岸を元の道へと戻ります。

橋の真ん中ぐらいで、彼が辺をキョロキョロと見回して立ち止まると、すっと私にキスをしました。

それをしっかりと受け止めて

「 橋の上って、丸見えじゃない?」

「 いいさ・・・見たい奴には見せておけば」

「 じゃあ、なぜ周りを気にしたの?」

「 さすがに、あまりに近くに人が居ると・・・君の地元だし、マズイかなって」

「 でも・・・したくなった?」

「 ああ・・・桜並木に見せてやりたくなった・・・本当は君を抱き締めて、もっと情熱的にしたかった」

私、それを聞いて、彼の肩に手を置いて、少し引き付けて・・・背伸びしてキスを返しました。
それも、長~いキスを。

彼は、それを受けて、私をギュ!って抱き締めて、そのキスを止めようとしなくて・・・夕日の中で二人の影が長く一つになっていたと思います。

突然

「 おおっと!」

って、知らない声がして・・・二人共、慌ててキスを止めて声の方を見やると、ラプラドールを連れた四十代後半と思しき男性が橋の入口で、驚いた顔をしてリードを引っ張って進もうとするラプラドールを制していました。

幸志郎が、慌てて私を抱き締めるのを止めて、手を取って早足で、その男性とラプラドールの横をすり抜けました。

「 お、お待たせして、すいません!」

って、彼はすり抜けざまに男性に謝罪していました。

私は、恥ずかし過ぎて、顔を伏せて彼に引っ張られるままに、その場を離れる事しか出来ませんでした。

早足で、桜並木を通り抜け、土手から元の道へと出ました。

少し歩いて

「 やっぱり、ちょっとマズかったかな?・・・ハハッ!」

って、彼が笑います。

「 でも・・・嬉しかったよ・・・幸せ過ぎて心が壊れちゃいそうな程・・・震えてた」

って、返すのが、その時の私には精一杯な程、感動していました。

駅に到着して、自転車を受け取って、駅ビルの中のレストラン街へ行こうかと、私は思ってたのですが

「 美幸、今夜も『 槌の子』行こ」

「 えっ!また?」

「 うん・・・慣れてる所で落ち着いて食べて、寛ぎたい気分なんだ」

「 うん・・・いいよ」

って事で、『 槌の子』へ行きました。

『 槌の子』で

「 いらっしゃいませ!」

って、花さんの声。

「 こんばんは」

って、彼が先に入って挨拶します。

私は、彼に着いて俯いて

「 こんばんは」

って、小さな声で挨拶しました。

やっぱり・・・なんとなく恥ずかしくて、前を向けませんでした。

「 あ、瀬田君・・・美幸ちゃんね、何処でも好きな所に座って」

って、言われて、彼が窓際の二人テーブルを選んで座りました。

「 ここ、テーブル小さいのに、良いの?」

って、花さんがメニューを持って来て言いました。

「 ええ、本当ならカウンターに座るべきだと思うんですけど、ちょっと、ゆっくりしたい気分なんで、これから混むかもしれないけど、ここで良いですか?」

って、彼が花さんと話しをしています。

店内を見渡すと、四人席のテーブルも二つ埋まってて、日曜日の夕方の『 槌の子』にしては、混み気味でした。

彼は、先日のグルメ雑誌に載った事を覚えていて、でも、私達の想いもあって、その妥協案を選択したのです。

「 気を使わせて、ゴメンなさいね」

って、花さんが答えています。

私、黙って、メニューを見るふりをして、顔を伏せていました。

幸志郎は、ハンバーグステーキにライスのセット、私は、同じ物のレディースサイズに、コーンスープを二つ注文しました。

私、料理を待ってる間も、店の中を見るどころか、彼の顔さえ見れなくて・・・ずっと窓の外を見ていました。

時間は18時半ぐらいで、もう外は日が暮れて、街灯で人通りが分かる程度になっていました。

「 美幸・・・静かだね、どうかした?」

私、彼のその言葉に、外も見て居られなくなって、俯いて

「 ・・・ううん・・・何も無い・・・普通だよ」

「 普通?・・・じゃないよ、どうしたの?」

「 ・・・恥ずかしいの・・・」

「 なにが?」

「 その・・・さっきまで・・・その・・・幸志郎と・・・してたの・・・・・・皆に見透かされてるみたいで・・・恥ずかしい」

「 そ、それは、考え過ぎでしょう」

「 幸志郎は・・・一昨日に来たばかりで、そんなに皆と顔を合わせて来たわけじゃないもの。

私は、一年間、多い時は週四ぐらいで通ってたのよ。
花さんなんか、勘が鋭いし・・・もう・・・貴方と結ばれたって、絶対にバレちゃうわ」

「 今頃、そんなこと言ったって・・・遅いやん」

って、彼が言ったところに花さんが、コーンスープを持って来ました。

「 はい、お待たせしましたー。
コーンスープね」

って、言ってテーブルに置いていきます。

私も、いつもの癖で、それを助ける為に、テーブルの上を整理していました。

「 美幸ちゃん・・・今日は、静かなのね」

「 えっ!そ、そんなこと無いです!
い、いつも通りです!」

って、私、思わず大きな声で答えちゃって、いつも通りじゃ無い事がバレバレです。

花さんは、そんな私を伺うように見やった後、目を細めて微笑を浮かべて

「 美幸ちゃん、大丈夫よ・・・肩の力を抜いて・・・ゆっくりして行って。
ねぇ、瀬田くん、そうよね?」

そう言われた彼が、花さんと目を合わせて

「 は、はい・・・そ、そ、そうですね」

って、顔を真っ赤にして、焦って答えて、テンパってる目を私に移して、固まってしまいました。

「 ふふふ・・・ごゆっくり」

って、言って、花さんは私の肩に優しく手を置いてから、何故か嬉しそうに戻って行きました。

「 花さん、もう御見通しやん」

って、彼、参ったって表情を半分手で隠すようにして、テーブルに肘を着いて言いました。

「 だから・・・花さんには、分かっちゃうって言ったの」

「 参るわ・・・でも、まぁ、君も僕も大人だから・・・真剣に付き合って行けば当たり前の事で・・・今だけだよ、恥ずかしいのは」

「 ・・・うん」

「 それに、花さん、肩の力を抜いて、ゆっくりしてって言ってたから、君を気遣ってくれてるんだよ。

その言葉に、甘えとこう」

「 うん・・・」

私、頷きながら、そう答える事しか出来ませんでした。

「 それに・・・花さん、最後に僕に、君をしっかり護れよ!って言ってた気がする」

「 えっ!そう?」

「 眼がそう言ってた」

「 ホントに?」

「 ああ・・・君は、とても好かれてて、大切に思われてるんだな」

「 花さんは・・・ここで長く客商売してて、常連客なら表情とか雰囲気で、その時の心がなんとなく分かっちゃうって言ってたの。
幸志郎と再会して、私の心が不安と期待で落ち着かなかった時も、すぐにバレてたから」

「 そっか・・・でも、暖かい人だよな。
美幸に対しての接し方で分かるよ」

って、コーンスープを飲みながら話していると、ハンバーグステーキ等、残りの注文が運ばれて来ました。

ここのハンバーグは、ビーフ100%で、そこに濃厚なデミグラスソースをベースにした特性ソースがかかっていて絶品なのです。

幸志郎は、その美味しさに驚いて

「 これ、めっちゃ旨いやん。
もう一つ、イケちゃうよ、マジで!」

って、絶賛で、アッという間に完食です。

さらに、追加でドライカレーを食べて

「 この店は、危険やな・・・デブになる。
食欲、爆発してもうた」

って、満足そうに話して笑います。

私も、彼のその表情に笑顔になってました。

食後に、二人でコーヒーを注文すると、花さんが

「 これも、どうぞ~・・・余り物で、もう今日中に食べないと駄目な奴で悪いんだけど、食べれるなら食べて」

って、アッブルパイをご馳走してくれました。

さらに、コーヒーが・・・

「 お!・・・コレ?」

って、彼が一口飲んで気が付きました。

私も、一口飲んで、その違いに気が付きました。

普通に、ホットコーヒーを頼んだから、最安ブレンドのはずなのに、明らかに甘みと香りが際立っていて

(コレがコーヒーなの?)

って、言うほどに美味しいのです。

彼が、席を立ってカウンターまで行って、マスターと何か話を始めました。

その間に、花さんが私の所に来て

「 幸せそうね」

「 ・・・はい」

「 美幸ちゃん、綺麗で美人さんで大人びて見えるから、経験多そうに見えてたんだけど・・・本気の恋は初めて?」

「えっ!?・・・はい・・・自分から好きだと思えたのは彼が初めてです」

「 そう・・・それで・・・それだけ雰囲気変わっちゃうのねぇ」

「 えっ!私、どこかオカシイですか?」

「 ううん、オカシイんじゃなくて、優しさに溢れてるって感じで、より魅力的だと思う。
今までは、いつも完璧で綺麗だけど、どこか冷たそうで、固そうで、取っ付き難い感じだった。
打ち解けてしまえば、そんな事は無いんだけど、なかなか声を掛けづらい雰囲気があったのよ。
本当の貴女はそうじゃないのに、本当の自分を見せないようにしているみたいだった。

でも、今は、本当の美幸ちゃんで居れてる感じで、私はその方が良いと思う」

「 ・・・彼と居ると・・・不思議と気持ちが落ち着くんです。
それが、そうさせているのかも知れません」

「 でも、良かった・・・彼も良さそうな人だし・・・でも、恋愛は始まったばかりなんだから、これからが大変なのよ。
頑張ってね!」

「 はい、ありがとうございます。
頑張ります!」

って、話してたら彼が帰って来て

「 コレ、マスターの奢りだって、教えてくれへんけど、たぶんグラム三千円ぐらいの豆やわ。
俺、昔、コーヒーに凝ってた時期があって、コレは高いって、すぐに分かって・・・味わって飲まないと勿体ないわ」

「 えぇっ!グラム三千円って?・・・そんなコーヒーって有るの?」

「 ある所には有るんだな、これが」

「 凄い・・・こんなの奢ってもらって良いのかな?」

「 なんか、マスター、凄く機嫌が良いみたいで・・・気にせずに飲んでってさ」

と言われて、アップルパイと絶品コーヒーに舌づつみを打っていると、前の道をバイクが数台、集団で通り過ぎて行きました。

彼が、それに視線を走らせて、何かを考えている様子です。

そうしていたら、また、何台かのバイクが集団で通過して、彼は、それもまた目で追っています。

「 幸志郎は、もうバイクには乗らないの?」

「 あぁ、もうそんな歳じゃないからね」

「 でも、乗ろうと思えば乗れるんだよね?」

「 うん・・・乗れるけど・・・なぜ?」

「 え~と・・・ね、今日、幸志郎の身体を・・・見て、大怪我したって言ってたのに傷跡無いし・・・五体満足に身体も動かせてそうだし・・・乗れそうなのに乗らないんだなって思ってたの」

「 美幸は乗って欲しいの?」
「 ううん、私は別に・・・でも、さっきから貴方、バイクが通る度に目で追ってて、好きなんだなって」

「 好きだけど・・・もう社会的に乗れる歳ではないでしょう。
俺みたいな奴は、バイクに乗ると限界を見たがるんだよ。
それで転けて、怪我して、仕事が出来なくなったら、たちまち会社に迷惑掛けるからね」

「 大怪我をしたのって本当なの?
それで、バイクを辞めたって?」

「 ああ・・・傷跡が無いのが不思議なんだ?
バイクのレーサーの怪我って、専用のレーシングスーツってのを着てるから、ほとんどが打撲なんだよ。
で、それが酷いと骨折って事になるんだよね。
で、傷が残るとしたら、骨折して手術した場合がほとんどなんだ。

和樹は、左の鎖骨と上腕を同時に骨折して、手術が必要で、全治三ヶ月って事だったけど、結局、少し左肩に障害が残ったんだよね。
だから、奴のソコには手術跡がキッチリ残ってるよ。

俺は、左の腰から太腿にかけての筋肉が、激しい打撲で麻痺して、でも骨折はしてなくて、手術も必要無くて、これも全治三ヶ月だったんだ。
だから、僕には傷跡は無いんだよ」

「 障害も残らなかったのに、バイク好きなのに、両親に泣き付かれたからって、幸志郎の性格でよく辞めれたね」

「 え~、俺の性格って、そんなに頑固?」

「 ううん、そうじゃ無いけど・・・思い込むとなかなか忘れられないタイプでしょ?
私の事、凝り性って言ってたけど、幸志郎も凝り性だもの。
それに・・・周りからはヒーロー扱いされる程だったのに・・・そんなに簡単に辞めれるのって不思議で・・・生死を彷徨うような酷い怪我だったのかな?って」

「 ふぅ~・・・ん」

彼は、この時、深い溜息をついて暫く何かを考えて・・・そして、話し出しました。

「 美幸はさ、頭良くて、俺の事、よく見てるよな。。。
どう取り繕っても、それをすると嘘になるから、美幸に嘘は付きたく無いから、本当の事を正直に話すね」

「 な、なに?・・・ちょっと怖いんだけど・・・」

「 まぁ、怖い話じゃ無いよ。
僕がバイクを降りたのには、もう一つの理由があるって話」

「 えっ!・・・怪我以外の理由って事?」

「 うん・・・実は・・・」

彼は、そこからバイクを辞めた本当の理由を小声で話し出しました。

「 僕が大怪我をする10ヶ月前に和樹が怪我をして、年が変わって、その年の鈴鹿の夏のレースに和樹は出れないってなって、他の人とペアを組んで出場する事になったんだ。

その時から、なんとなく嫌な気はしてたんだよね。

何か有るんじゃないかって。

その当時、僕は親からの援助はあったけど、それだけじゃ足りないから深夜のバイトもやってて、そのバイト先に俺たち深夜組と入れ替わりで上がる組の中に、一人の女の子が居てね・・・まだ17歳なんだけど、高校中退でバイトしてた子で、俺、その子に凄く懐かれてて、バイトが終わっても家に帰らずに、ずっと事務所に居て、俺が暇になると傍に来て、別に何するわけでも無いのに、ずっと金魚のフンみたいにくっ付いてて・・・まぁ、例によって、その子も家に居場所が無いって話で、俺も、無理に帰れって言えなくて、暫くそういう状態が続いてたんだ。

俺から見たら、妹みたいな存在だったんだけど、六月ぐらいから彼女が明らかに距離を詰めて来はじめて・・・俺が「 俺と付き合いたいの?」って聞いたら、やっぱりそうで・・・で、付き合う事になったんだ。

で、ある日、彼女の様子が落ち込んでて、理由を聞いても答えなくて・・・で、抱いて欲しいって言うから、彼女を初めて抱いて・・・でも、17なのに凄く慣れてて・・・奥イキまでするんだよね。
その時は、それが奥イキなんて分からなかったけど、すぐにその意味も知ったんだけど・・・その彼女を不審に思って、問い詰めたんだ。

そしたら、小学六年の時に、母親の再婚相手にレイプされて、それから求められ続けて、それにずっと応じて来てたって打ち明けられて・・・ただ、一年前に母親にその事が知れて、母親はその男とは離婚したんだけど、それから母親と彼女も仲が悪くなって、しかも、今でもその男に呼び出されて、抱かれ続けてるって話しで・・・なぜ今でも???って聞いたら、お金を借りてるって事だった。

で、その日も、バイト前に呼び出されて、抱かれて来て・・・今は僕の存在が有るのに・・・それが耐えられないって言うんだ。

その話に俺は、少し腹が立ってしまって「 俺と付き合うなら、俺専用になってくれ!」って「 その男に借金があっても断れるはずだ」って言ったんだ。

彼女、その事を約束して、付き合いは続いたんだけど、鈴鹿の夏まで10日ぐらいになった時に、昼バイトの高校生が三人、深夜にバイト先に遊びに来て、雑談し始めて、俺もそして和樹も深夜のシフトに入ってて、ちょうど暇な時間帯だったからその話を聞いてたら、彼女が一回五千円でヤラせてくれるって話が出て来て、もうその三人共、それでヤラせて貰ったって話で、よく聞いてると、彼女のベットの上での仕草とか癖とかイキ方まで話に出て来て、それが俺の知ってる彼女そのもので、これは本当の話だって確信したんだ。

バイト先で、和樹だけが彼女と俺が付き合ってるのを知ってて、和樹は俺を気遣ってくれたけど、俺はもう彼女を許せなくて、バイト明けに彼女を呼び出して話を聞いたら、元の義父とも、お金を貰って寝てたって、他にも靡きそうな相手を片っ端から五千円で誘って、沢山の人に抱かれて来たって話をされて・・・道理で17なのに慣れてるはずだよ。。。

俺への想いの事を聞いたら、「 お金を取らずにヤラせてあげたでしょ」って言われたよ。
そして「 私、エッチが大好きなの、アレをしてたら嫌な事も忘れられるし、30分程で五千円だよ、辞められないでしょ?」

って言われて、で、その日に俺は彼女との関係を終わらせたんだけど、俺の中で彼女への情が断ち切れてなくて、その精神状態でサーキットへ行って、そのままマシンに乗って走って・・・そして、大転倒・・・大怪我して、レース前にマシンを壊してチームにも迷惑かけて・・・で、俺はその時に、バイクを裏切った事に気が付いたんだ。

今まで、全てにおいてバイクが優先で、だから他の奴とは違う、マシンと心を通じ合わせる事か出来て、一つになれることが出来て、だからこそ俺は速いんだって思ってたのに、その時の俺は、彼女の事が頭から離れずに、それを引き摺ってマシンに乗って・・・そりゃ一体感もへったくれも無くて当たり前で・・・そんな俺をバイグが許してくれるハズも無くて・・・俺はバイクを裏切ってたんだ。
怪我が治っても、周りから天才とか言われてても、一度裏切った俺が、再びバイクに乗る事は、バイクが心底好きだっただけに出来なかった。
一ヶ月程考えてたけど・・・結局、降りる事にしたんだ。

これが、僕がバイクを降りた、もう一つの理由。

だから、もう二度とバイクには乗らない」

私、この話を聞いても、あまりショックは有りませんでした。
何故かと言うと、もうここまでに幸志郎の女性関係の話は幾つも聞いて来てて、慣れて来ていたからだと思います。

ただ、彼の優しさを利用して裏切って、彼のバイクの道を閉ざす切っ掛けになったその女性の事が許せませんでした。

「 傷付いた・・・よね?」

「 ・・・そりゃ、当たり前だろ」

「 辛かったよね?」

「 あぁ・・・でも、それを引き摺ってマシンに乗ったのは、俺の責任だから・・・それについては誰にも文句は言えない」

「 でも、彼女は・・・とても不幸な人よね。
幸志郎と歩めるチャンスだったのに・・・それを自分から捨てたんだもの。
貴方を傷付けた事は許せないけど、同時に彼女は、自分で自分の幸せへの切符を投げ捨てたんだわ。

今、どうしてるのかしらね?」

「 分からないな、それ以降、まったく会ってないし、連絡先も知らないからね」

「 でも、天才って言われてたのに・・・勿体ない」

「 まぁ・・・仕方ない・・・よ」

「 幸志郎って、意外と人を見る目が無いのかなぁ?」

「 元がワルだし、人間不信だから、相手にもそれが分かるんじゃ無いのかな・・・って最近は思うようになった」

「 もう・・・馬鹿なの?」

「最近、 誰かさんに、よくそう言われるけどね」

「 あはは!
でも・・・正直に話してくれて、嬉しかった。
ありがとう。
私、貴方の人間不信が治るように、頑張るからね」

「 え~・・・そんなのどうやって治すつもりなん???」

「 それは・・・秘密」

「 あ~、俺は正直に話したのに、裏切るのかよ?」

「 私は、正直に話すって約束してないもの。
それに・・・貴方の人の良さに腹が立ったわ」

「 え~・・・ごめん」

「 もう、昔の事だから、許してあげるけど・・・私だけは信じてね、信頼してね。
私は、貴方を裏切らない」

「 うん・・・分かった。
もう信頼してるけどね」

「 そうぉ?

ふふっ・・・ありがとう」

ふと、時間を見ると20時近くになってました。

「 そろそろ、帰る?」

「 うん・・・明日から仕事だもの、幸志郎も帰らないといけないし」

「 それなんだけど・・・今夜も泊まったら駄目かな?」

「 えっ!私は良いけど、明日、どうするの?」

「 美幸、朝、何時に起きるの?」

「 五時頃だけど」

「 じゃぁ、一緒に起きて、すぐに帰るよ」

「 そう・・・忙しく無い?しんどくない?」

「 君と、少しでも一緒に居たいし、いつも六時に起きるから、それでも全然、余裕だよ」

「 そう・・・うん・・・私も、同じ想いだけど・・・・・・もう、週末婚みたい」

って、私、言ってから恥ずかしくなって、顔が熱くなって、幸志郎の顔を見て固まってしまいました。

会計をしていると

「 あ、そうだ!マスター、二人乗りって、2ケツって言いますよね?」

って、幸志郎が聞きました。

「 はぁ?・・・ああ、2ケツって言うよ」

「 ほらぁ、言うだろ」

って、ドヤ顔で私を見る彼を見て、それが面白くて

「 まだ、引き摺ってたの?馬鹿じゃない???あはははは!」

って、爆笑してしまいました。

彼は、また拗ね顔でした。

そして、花さんとマスターにニヤニヤと笑いながら見送られて、私、もの凄く恥ずかしくて、アッカンベーして店を出ました。

禁止されてますけど、自転車に二人で乗って、彼が漕いで少し走りました。

けど、自転車が壊れそうな程、タイヤが凹んでて

「 これは・・・無理だな」

って、彼の判断で2ケツは諦めました。

仕方ないので、二人で歩いて、彼が自転車を押してくれて、帰りました。

部屋に帰って、すぐにお風呂を沸かします。

「 幸志郎・・・先にお風呂入って」

「 えっ!さっきシャワー浴びたやん?」

「 駄目よ、明日から仕事なんだから、ちゃんとお風呂に入って、頭も身体も綺麗にしないと!」

「 美幸から入ったら?」

「 私、やる事あるから、幸志郎が先に入って」

「 そうなの?じゃぁ、言われた通りにするね」

私は、その話が終わるか終わらないかって時には、アイロンを掛ける用意をしていました。

そして、部屋を出る前にといれておいた、洗濯物の中から、彼のワイシャツを取り出して、アイロンを掛け始めました。

「 美幸・・・マジでアイロン掛けてくれるの?
帰ったら、他にもワイシャツ有るし、そんなに急がなくても大丈夫だよ」

「 当たり前です!
貴方の仕事着なんだから・・・私が用意したのを着ていて欲しいから」

「 ありがとう、なんか・・・応援されてる気分だよ」

「 私も、貴方から力を貰うから、お互い様よ」

「 えっ・・・俺からって何か有ったっけ?」

「 ふふっ・・・ここに有るもん」

って、私、胸元のキスマークの所に手を置きました。

「 あ、それか・・・でも・・・それはスグに消えるからなぁ・・・」

「 これで、十分よ」

「 ・・・とりあえず・・・はね」

お風呂の用意が出来たので、彼が入ります。

私は、四枚のワイシャツのアイロンを終わらせて、それを綺麗に畳んで紙袋に入れて、持たせて帰る準備を整えて、そして、自分のブラウスにもアイロンを当て始めました。

彼がお風呂から上がって、私を見て

「 僕のワイシャツ、もう終わったの?」

「 うん・・・大きいだけで、デザイン的には凝ってないし、形状記憶だから、楽だったよ。
その紙袋に入ってるから、明日、忘れずに持って帰ってね」

「 うん・・・ありがとう」

そして、自分の服のアイロンを終わらせて、私も入浴します。

洗面所で服を脱いでいると

「 美幸?」

「 はぁい?」

「 ここの本棚の本、見ても良い?」

「 うん・・・良いけど・・・」

そう言って、私はしっかりとメイクを落として、身体の隅々までチェックしながら洗います。

今朝からの彼との事を思い出して・・・自分の身体も愛おしくなって・・・中でカレの物を受けた事を思い出して・・・下腹部に手を置いて・・・

(いつかは、ここに彼の子供を宿す時が来るのかな???)

なんて、考えて・・・ぼっ!と顔が熱くなったりしていました。

入浴を終えて、バスローブに髪にタオルを巻いた姿で部屋に戻ると、彼がリビングテーブルの前に座って、何やら大きな本を広げているのが目に止まりました。

(!!!)

「 あ!それ駄目!!!」

私、そう言って、慌ててそれを手で隠そうとしました。

でも、彼にそれを止められて

「 もう、遅いけど・・・三周目だし」

「 え~・・・忘れてた」

「 あはは・・・でもビックリしたよ。
美幸が赤ちゃん抱いてるのかと思った。
それに、途中の大きな顔のアップ写真、てっきり美幸だと思ったよ。
でも、よく見ると、美幸の方が、少し顎の線が細い感じがする・・・でも、お母さんとソックリなんだな」

「 うん・・・私は母とよく似てるの。
だから、それも祖母には気に食わなかったのよ」

「 いや、でも、お母さんは美幸ほど胸は無いよね。
どちらかと言えば、完全なスレンダータイプだよね?」

「 そうなの。
この胸は父方の血だと思う。
それも、大嫌いな祖母のね。
祖母って、もう70半ばなのに、腰なんて曲がってなくて、シャキッとしてて、背も高いし胸も有って・・・かなりの美形なの。
本当に、良家のお祖母様って感じの人なの」

「 でも、お父さんの写真はあるのに、祖父母もお兄さんも、一枚も写真が無いみたいだけど?」

「 だって、一緒に暮らしてなかったから、撮ってないし、それに兄は別だけど、祖父母は・・・私のアルバムには残したく無いから」

「 そう・・・か、そうだな、これは美幸のアルバムだからな。
それで良いよ。
で、ここからが萌えるわ~中学、高校って、メッチャ可愛いなぁ!
めちゃくちゃ美少女やん!
そりゃ、スカウトされて当然やわ」

「 あ~ん・・・そこ見ないで~」

「 体育祭も文化祭も、目立ってたろ?」

「 どうなのかなぁ・・・見た目は悪くないかも知れないけど・・・その頃が一番、心が荒んでいたから・・・取っ付き難いって思われてたと思う」

「 これ、高校の時の文化祭だよね?
メイド姿・・・似合い過ぎで可愛過ぎやろ?」

「 もう、幸志郎ってそんなのばっかり見てるー!」

「 いやいや、こんな子が居たら、俺なら一日、そこで過ごしちゃうよ」

「 もう~馬鹿ァ?
でもね、私、スグにメイド姿は止めなきゃならなくなって、その姿は一時間程度しかしなかったのよ」

「 なんで?」

「 その年はクラスの女子が凄くノリの良い子達が集まってて、メイド服も結構セクシーに出来てるでしょ?
それに綺麗な子も多かったから、凄く人気が集中してね、廊下に人集りが出来て・・・凄い事になったの・・・怪我人が出て・・・で、目立つ子はメイドになるの禁止になったのよ」

「 ホンマや・・・美幸と一緒に写ってる子も、イケてる子が多いわ。
この集合写真見てても・・・綺麗な子ばかり・・・」

「 学校でも言われてたの、担任も美人だったから、3-Bは美形ばかりを集めた、マネキンクラスって」

「 マネキンかぁ・・・上手い言い方だな」

「 も、もういいでしょ?返して!」

「 高校時代から後が、ほとんど無いけど・・・?」

「 あ、それは、モデルを始めてからは、自分のアルバムの方が増えなくて・・・時々、大学のイベントで撮ったのだけ」

「 ここに、俺も写ってる」

「 ダンスイベントの時の・・・私達のカメラ担当が撮ってくれてた中の一枚。
それだけ、二人だけで撮れてたの」

「 で、この子だよね? 原田 瞳って」

「 ・・・そう、幸志郎がメモを渡した子に間違いない???」

「 うん、間違いない。
この顔、しっかり覚えてる」

「 もう・・・思い出したく無い・・・その写真、捨てようかな」

「 でも、美幸の過去を見てれ、楽しいかったよ。ありがとう」

「 もう・・・見せる気なんて無かったのに・・・」

「 まぁ、そう言わずに、また見せてよね」

「 嫌です!」

「 なんでぇ?」

「 幸志郎のも見せてくれたら、私のも見て良いけど、私のだけなら嫌です」

「 げっ!俺の~?男のアルバムなんて、見ても面白く無いだろ~?」

「 そんな事無いわよ、幸志郎の子供の頃とか見たい」

「 実家から取り寄せないといけないなぁ」

「 え~・・・持ってないの?」

「 男なんて、アルバムなんか気にしてないからね。
にしても、このメイド姿はイケてるよなぁ」

「 もう、返して!」

って、私がアルバムに手を伸ばすと、その手を彼に取られて、グッと引き付けられて、気が付くと抱きしめられてて・・・そして・・・キスをされました。(つづく)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

社員旅行は、秘密の恋が始まる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:189

空白の場所

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:830pt お気に入り:182

天国か地獄

BL / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:369

無関係だった私があなたの子どもを生んだ訳

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,912pt お気に入り:9,793

新社会人、痴漢にあう!

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:31

黒い春 (BL)

Oj
BL / 連載中 24h.ポイント:519pt お気に入り:44

処理中です...