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一年目 春

⑧ 行ったり来たり

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私は、彼に凭れ掛かるようにして、甘えていました。。。

それまで抱えていたストレスが、彼に総てを話して、泣いて、そして、こうして甘えさせてもらっている事で、私の心から消え去って行くのが分かりました。

私の中にあった、暗い過去・・・そして、その影響で私は自分が何者なのか分からずに、自信を持てずに生きて来たのです。

ただ、両親が笑い者にならないように、その為に努力して来たのです。

けど、彼に出逢って、彼に一目惚れして・・・三年間、想い続けて奇跡的に再会して、彼と心が通じ合って、付き合える事になって・・・はじめて自分が生きていると実感する事が出来たのです。

(お父さん、お母さん、私、幸せになっても良いよね?)

と、心の中で語り掛けていました。

激しく昂っていた心も落ち着きを取り戻していました。


その時になって、私、今朝の自分の顔を確認してない事に気が付きました。

慌てて、幸志郎に

「 ねぇ・・・私・・・昨日、化粧を落としてから寝たなんて事、無いよね?」

「 当たり前でしょ、完全に酔い潰れてたんだから」

「 幸志郎・・・私の顔っておかしくなってないの?」

「 えっ?・・・朝の寝起きは、そんなに変じゃ無かったよ・・・寝ぐせは凄かったけど・・・」

「 ホントに?」

「 うん・・・寝起きはね」

「 ???えっ・・・じゃあ・・・今がヤバイって事?」

「 ・・・はは!・・・激しく泣いたから」

「 ・・・」

私、幸志郎からサッと離れて

「 洗面所は?」

って、彼に顔を向けずに聞きました。

既に遅いのですが、やはりこれが女心なのです。

「 その左の扉」

私は、返事もせずに洗面所に急いで入りました。

まるで、・・・ゾンビのようになっていました。

でも、化粧直しをしようにも、私のバッグがありません。

洗面所から

「 幸志郎、私のバッグ、知らない?」

「 あっ、車の中だよ多分」

「 ごめんなさい、それ、取って来て貰えます?」

「 はいよ」

って、彼は部屋を出て行って、5分程で帰って来て、バッグを渡してくれました。

とりあえず、クレンジングして・・・なんとか見れる程度にはメイクをしました。

「 幸志郎・・・あの、ありがと・・・今日って、昼間は何か予定とか有るの?」

「 いや、別に・・・ただ、君と二人で居たいってだけで、何も決めてないよ」

「 なら・・・幸志郎の部屋、片付けない?私も手伝うから」

「 あ、このダンボール、やっぱり気になる?」

「 うん・・・男所帯でも、どこかの倉庫みたいで、お客様が来ても上がって貰えないでしょ?」

「 客なんか、来ないよ・・・来るとしたら親友ぐらい・・・」

「 私は客じゃないの?」

「 えっ!客・・・っていうか・・・恋人でしょ」

「 じゃぁ、幸志郎は恋人を倉庫みたいな所に上げて平気なの?」

「 いや・・・そう言われれば・・・良くないよな」

「 だよね。
引越しして来て、まだ片付けられてないんでしょ?私が居るんだから、頼って欲しいなぁ~って」

「 良いの?」

「 うん・・・私、片付けるの得意なんだよ」

「 今から?まだ朝御飯も食べてないけど」

「 ごめん、一度、私の部屋に戻りたいの。
服も、このままじゃ駄目だし、ちゃんと身支度整えて来たいの」

「 送って行ったら良いんだね。
でも、朝御飯とかどうするの?」

「 えーと・・・取り敢えず、私の部屋の近くにコンビニが有るから、そこで何か買うのはどう?」

「 コンビニか・・・」

「 嫌なの?」

「 ここ最近、引越して来てから、片付かない事もあって、ほとんど毎日、コンビニ弁当を一個は食べてんだよね。
流石に、飽きて来てて・・・ごめん」

「 そうなんだ・・・身体に悪いじゃない・・・もう、意外と幸志郎って無精者だったりして」

「 いや、男なんてそんなもんだよ。
君が、凄すぎるの」

「 分かんない、私は普通です。
もう・・・とにかく、幸志郎も出掛ける用意して。
とりあえず、私を部屋まで送って、ちょっと時間掛かるけど、朝御飯はその後でも良い?」

「 うん、それで良いよ」

と、なって、ひとまず私の部屋に送って貰う事に。。。

彼の部屋は三階建ての小さなマンション???で、ワンフロアに一部屋しかなく、その最上階が彼の部屋なのです。

(???昨日、どうやって私を部屋まで運んだの???)

って、不思議になる程の狭くて急な階段しか無い建物です。

車に乗って、幸志郎に聞きました。

「 幸志郎、昨日、どうやって私を運んだの?」

「 お姫様抱っこして」

「 一人で?」

「 お姫様抱っこっだから・・・一人だよ」

「 誰かに手伝って貰ったとか?」

「 俺、自分の彼女に他の男が触れるのって、許せないタイプだから、有り得ないね」

「 そ、そうなんだ・・・重かったでしょ?」

「 全然、羽のように軽かったよ」

それを聞いて、私、思わず

「 嘘ばっかり」

って、笑いながら言いました。

「 いや、ホントに軽かったよ」

「 私、大きいから、モデル仲間の中でも重い方だったもん」

「 平気だって、ちょっとスポーツやってた男なら、大丈夫じゃ無いかなぁ・・・50キロぐらいでしょ?」

「 50・・・私、身長170なんだよ・・・50だったらガリガリだよ~」

「 そうか・・・そうだよな、俺185で78だから、170だと・・・60キロ越え???」

「 馬鹿!・・・有り得ないわよ」

「 えー、普通、女の人の身長と体重なんて、男は分かんないでしょ」

「 でも、三階まで、私を運んだのよね。。。凄~い」

「 そうかな???ってか、もうあんなに飲まないって約束してよ」

「 うん・・・約束するわ、幸志郎の前以外では飲まないって」

「 いや、飲んでも良いけど、自分を無くす程は駄目って事だから」

「 ううん、もう飲まない、貴方が飲めないんだから、私も飲まない」

「 いいのかよ、そんな事、約束して」

「 大丈夫よ!私、意思強いもん」

「 じゃ、僕が許可したらOKって事にしよう!」

「 うん・・・それで良いわよ」

こんな会話をしているうちに、私の部屋に到着しました。

車だと、10分程で到着です。(幸志郎の運転だからです。。。)

「 私の部屋に上がって」

「 え!いや、ここで良いよ」

「 朝御飯、作るから、上がって待ってて」

「 あ、そうなんだ、じゃ、仕方ないよね」

何故か遠慮する彼を部屋に招き入れました。

「 めっちゃ片付いてるなぁ・・・この部屋、美幸の香りがする」

「 私の香りって何よ~?」

とか、会話をしながら、とりあえずお米を洗って炊飯器にセットします。

「 そうだ、美幸って、何か香水とか着けてるの?」

「 何も着けてないわよ・・・一応、何本か持ってるけど・・・」

と、答えながら、浴室へ行きシャワーを浴びました。

そして、炊飯器のスイッチをONにして、身支度を始めました。

髪はポニーテールに、メイクは・・・仕事では使う事を禁止されている、キラキラファンデーションにブラウン系のチークを軽~く入れて、アイラインを強めにして、マスカラも盛りが強いのを選んで、仕事の時よりも眼力を際立たせて、リップも少し厚めに塗って、ツヤツヤプルプルに仕上げて・・・セクシーに見せてみました。

彼は、大切にって言ってますけど、痩せ我慢してるのは見え見えだったし、もう三年間も待ったのですから・・・私としては、今すぐでも良かったんです。

そんなに男性経験がある訳じゃ無いし、彼のサイズ的にも不安はあったんですけど・・・とにかく抱いて欲しかったんです。

彼に身体を見て欲しかったし・・・。

こんな風に思えるなんて、自分に驚きです。

だから・・・彼を、スポーツウェア姿でも誘惑してやろうと思ってました。

(ふふ、我慢出来るかしら)

って、鏡の中の自分と笑い合いながらメイクを終わらせました。

可愛く・・・でも、大人の女のセクシーさもミックスしたつもりです。

モデル時代にメイクさんから、メイクのいろはは教わっているので、自分をどう観せるか?って事には長けているつもりです。

スポーツウェアは、いつもジョギングに使っているコンプレッションウェアです。
完全に身体の線が見えてしまうスタイルだけど、とても動きやすいし疲れないし、身体を動かす時はコレに限ります。

支度を終えて、洗面所から部屋に出ると、私の姿を見た彼が

「 そ、それで行くの?」

「 うん、この上に薄いパーカーは羽織るよ」

「 ちょっと・・・目立ち過ぎなんじゃ」

「 でも、コレでいつもジョギングに行ってるよ」

「 アカンやろ!」

「 なにが???」

「 あのな、無防備過ぎるやろ!変質者とか普通に居るねんで!」

彼の声が大きくなって、本気で怒っていました。

「 ご、ごめん・・・」

「 誘ってんのか?何かあってからでは遅いんやで!!!」

「 ごめんなさい・・・」

私、幸志郎の剣幕に半泣きになってました。

それを見た幸志郎は、少しトーンダウンして

「 な、泣くな!ごめん、ちょっと言い過ぎた!・・・でも、普通、心配するやろ?」

「 でも、こういう格好の人、多いよ」

「 美幸は別や!分かってへんなぁ・・・」

「 何がよ」

「 美幸みたいなええ女は、そんな無防備やと、狙われるって言ってんねん。
人一倍、気を付けんと!」

「 じゃぁ・・・今度から走る時は、幸志郎に連絡するから、護りに来てよ」

「 俺は、暇人か?」

「 うふふ」

泣き掛けてたけど、彼の気持ちが伝わって来て、嬉しかったりして

(気を付けよう)

って、素直に思いました。

時間は11時頃になってて、もうお昼御飯と言ってもいい時間です。

冷蔵庫に鶏モモ肉を買って有るのを覚えてて、それを使って親子丼とお味噌汁を作る事を考えていたのです。

超簡単メニューですけど、お昼御飯にはちょうど良いですよね。

手早く用意しているのを、彼が見に来て

「 中学二年から、自分でやって来たんだっけ?・・・その綺麗なネイル見た時は、何もやってない子だなって思ったけど・・・包丁さばき、ヤバいほど上手いなぁ」

って、関心していました。

ご飯が炊きあがるのを待ってる間に、彼にコーヒーを持って行き、二人でソファーに座って色々と会話して、時々、会話が途切れて見詰め合うと、必ずキスをしてしまって、リップが完全に取れちゃいました。

親子丼とお味噌汁を、彼は絶賛してくれて、あっという間に食べてしまいました。

「 じゃ、つぎは俺の部屋?」

「 そうね・・・今夜は私の部屋で夕御飯でも良い?」

「 美幸がいい方で」

「 私の部屋なら、料理するのに不自由無いから」

「 あ、そうか、俺の部屋片付いてない」

「 うん、行ったり来たりで悪いけど」

「 それは、お互い様でしょ」

って、話をしながら、また車に乗って、彼の部屋へ。。。(つづく)
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