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第三部(貴族学校入学編)
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学校長先生の挨拶のあと、ファーストダンスが始まる。セレスト殿下とサラの踊る姿は、想い合う恋人同士のようで見ているこちらが幸せな気持ちになるほど、楽しそうだった。
ちらとユウカ嬢を窺うとギリギリと音がしてきそうなほど歯を食いしばっているように見えた。彼女は今、何を思っているのだろうか。
「アニー」
「アレク様! 話して大丈夫なのですか?」
「少しなら。いつも綺麗だが、今日はいつも以上に美しいな。俺の瞳の色と同じドレスを身に纏ってくれて嬉しい」
「ありがとうございます」
以前の人生では、こんな風に褒めてくれることはなかったけれど、今は会うたびに綺麗だとか可愛いだとか似合っているだとか飾らない言葉で伝えてくれる。キリッとしていなきゃいけないのに嬉しくて、ついつい顔が緩んでしまう。
「今日はできる限り俺かオスカーの目の届く範囲にいてくれ。あとウィリアムもしくはルーカス殿とは常に一緒にいるように。女性しかいられない場所に行く時はリリーを伴って、俺かオスカーに声を掛けてからで頼む」
「分かりました。あの今日は……彼女への対策で?」
「そうだ。何をするか分からんからな。入学式の日には君に濡れ衣を着せようとしたようだし、警戒しておいて損はない」
「私の、ために?」
「当たり前じゃないか。俺は君を守りたいんだ」
抱き着きたい衝動に駆られたけれど、そこはグッと我慢してお礼を言うだけに留めた。私の婚約者はなんて素敵な人なんだろうか。
「盛り上がっているところ悪いが、もうファーストダンスが終わる。兄上は早く持ち場に」
「ウィリアム、くれぐれも……」
「分かってる。俺もルーカスも十分注意するよ」
「頼んだぞ。それじゃあ、アニー。色々言ったが、パーティーを楽しんで」
「えぇ、ありがとうございます」
去って行くアレクの背中すらも格好良い。ふとウィリアムを見ると呆れた顔をしていた。
「なによ」
「いや。どんだけ兄上が好きなんだよと思ってな」
「うるさいわね。素敵なんだから仕方ないでしょ」
「はいはい。……よし、じゃあ踊るぞ」
ウィリアムと私がフロアに出ると、それに5組ほどが続いた。セレスト殿下とサラはもう一曲続けて踊るようだ。二曲続けて踊るのは婚約者だけに許されているので、サラが体調不良とはいえ一曲で終わらせたくなかったのではないかなと思った。
演奏が始まり、リリーとルーカスも少し離れたところで踊り始めた。私が公爵家でウィリアムとダンスを習う時、ルーカスとリリーも横でついでに習っていたことがあったから違和感は無い思う。
私とウィリアムなどはダンスのペアを組んでもう10年近い。相手の癖も何もかも知り尽くしていて、ウィリアム以上に踊りやすい人はいない。アレクも持ち前の運動神経でリードは上手いのだが、やっぱり長年の積み重ねの方が勝る。
「ウィリアム、聞いてみたかったのだけど、あなたリリーのことをどう思ってるの?」
「知り合ったばかりの頃は、お互いに牽制し合ってたというか……まぁ敵のような存在だったんだが。今は同じ志を持つ仲間って感じか? 馬が合うというか、本質が似てるというか」
「恋愛感情は……?」
「今はそういう気持ちは無いな。先は分からないが。でも必ず良い関係になれると思ってる」
「そう。良い関係になれるというのならそれに勝ることはないけれど……どうしても、あなた達の婚約が私のせいのように思えてしまって……」
「アニーのせいという言い方は間違ってる。アニーのためにというのはもちろんあるが、それ以上に俺もリリーも自分のためでもある。おそらく俺もリリーもお互い以上のパートナーはいないだろう」
「そう……?」
本当に、そうなのかしら。私が行動を変えなければ、ウィリアムは今と全く人生を歩んでいた。私は私のために、アレクのために行動し続けてきた。それを後悔はしないけれど、ウィリアムの人生までも変えてしまったことがウィリアムにとってプラスの変化だったのか、それは分からない。
「俺は、今の自分が気に入ってる。下らない意地や見栄で、自分のしたいことを我慢せずに生きるって楽なんだよな。それに、そういう俺を家族やお前が認めて、受け入れてくれているし、リリーもこういう俺だからこそ結婚相手にと望んでくれている。だから、今以上の生き方は無いと思うんだ」
ウィリアムが笑う。そこに嘘は一つもなくて、私はうっかり泣いてしまいそうになった。私の勝手で変わってしまった人生だけど、ウィリアムが選んだ人生でもある。そう思えて安堵した。
ちらとユウカ嬢を窺うとギリギリと音がしてきそうなほど歯を食いしばっているように見えた。彼女は今、何を思っているのだろうか。
「アニー」
「アレク様! 話して大丈夫なのですか?」
「少しなら。いつも綺麗だが、今日はいつも以上に美しいな。俺の瞳の色と同じドレスを身に纏ってくれて嬉しい」
「ありがとうございます」
以前の人生では、こんな風に褒めてくれることはなかったけれど、今は会うたびに綺麗だとか可愛いだとか似合っているだとか飾らない言葉で伝えてくれる。キリッとしていなきゃいけないのに嬉しくて、ついつい顔が緩んでしまう。
「今日はできる限り俺かオスカーの目の届く範囲にいてくれ。あとウィリアムもしくはルーカス殿とは常に一緒にいるように。女性しかいられない場所に行く時はリリーを伴って、俺かオスカーに声を掛けてからで頼む」
「分かりました。あの今日は……彼女への対策で?」
「そうだ。何をするか分からんからな。入学式の日には君に濡れ衣を着せようとしたようだし、警戒しておいて損はない」
「私の、ために?」
「当たり前じゃないか。俺は君を守りたいんだ」
抱き着きたい衝動に駆られたけれど、そこはグッと我慢してお礼を言うだけに留めた。私の婚約者はなんて素敵な人なんだろうか。
「盛り上がっているところ悪いが、もうファーストダンスが終わる。兄上は早く持ち場に」
「ウィリアム、くれぐれも……」
「分かってる。俺もルーカスも十分注意するよ」
「頼んだぞ。それじゃあ、アニー。色々言ったが、パーティーを楽しんで」
「えぇ、ありがとうございます」
去って行くアレクの背中すらも格好良い。ふとウィリアムを見ると呆れた顔をしていた。
「なによ」
「いや。どんだけ兄上が好きなんだよと思ってな」
「うるさいわね。素敵なんだから仕方ないでしょ」
「はいはい。……よし、じゃあ踊るぞ」
ウィリアムと私がフロアに出ると、それに5組ほどが続いた。セレスト殿下とサラはもう一曲続けて踊るようだ。二曲続けて踊るのは婚約者だけに許されているので、サラが体調不良とはいえ一曲で終わらせたくなかったのではないかなと思った。
演奏が始まり、リリーとルーカスも少し離れたところで踊り始めた。私が公爵家でウィリアムとダンスを習う時、ルーカスとリリーも横でついでに習っていたことがあったから違和感は無い思う。
私とウィリアムなどはダンスのペアを組んでもう10年近い。相手の癖も何もかも知り尽くしていて、ウィリアム以上に踊りやすい人はいない。アレクも持ち前の運動神経でリードは上手いのだが、やっぱり長年の積み重ねの方が勝る。
「ウィリアム、聞いてみたかったのだけど、あなたリリーのことをどう思ってるの?」
「知り合ったばかりの頃は、お互いに牽制し合ってたというか……まぁ敵のような存在だったんだが。今は同じ志を持つ仲間って感じか? 馬が合うというか、本質が似てるというか」
「恋愛感情は……?」
「今はそういう気持ちは無いな。先は分からないが。でも必ず良い関係になれると思ってる」
「そう。良い関係になれるというのならそれに勝ることはないけれど……どうしても、あなた達の婚約が私のせいのように思えてしまって……」
「アニーのせいという言い方は間違ってる。アニーのためにというのはもちろんあるが、それ以上に俺もリリーも自分のためでもある。おそらく俺もリリーもお互い以上のパートナーはいないだろう」
「そう……?」
本当に、そうなのかしら。私が行動を変えなければ、ウィリアムは今と全く人生を歩んでいた。私は私のために、アレクのために行動し続けてきた。それを後悔はしないけれど、ウィリアムの人生までも変えてしまったことがウィリアムにとってプラスの変化だったのか、それは分からない。
「俺は、今の自分が気に入ってる。下らない意地や見栄で、自分のしたいことを我慢せずに生きるって楽なんだよな。それに、そういう俺を家族やお前が認めて、受け入れてくれているし、リリーもこういう俺だからこそ結婚相手にと望んでくれている。だから、今以上の生き方は無いと思うんだ」
ウィリアムが笑う。そこに嘘は一つもなくて、私はうっかり泣いてしまいそうになった。私の勝手で変わってしまった人生だけど、ウィリアムが選んだ人生でもある。そう思えて安堵した。
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