勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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第三部(貴族学校入学編)

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「毒を売った人間は分かったんだ。だが、誰がその毒薬を買ったのかは結局分からなかった。来月の遠征ではっきりさせるつもりだ」

「え……っ、行くおつもりなんですか!?」

「もちろんだ。俺は皇太子殿下の専属騎士だし、剣術大会の出場者としても行かなければならない」

「もしまた……同じことが起きたらどうするんですか?」

「医療班所属の騎士と面識があって、正騎士になれた頃から解毒薬の充実に働きかけてきた。それに以前と同じ毒に対しては俺自身が解毒薬を常に携帯している。手袋を外した時には気を付けて過ごすつもりでいるし、心配しなくても大丈夫だ」

「でも……」

 サラが言っていた『ゲームの強制力』という言葉が頭をグルグルと駆け巡る。どんなに対策をしたつもりでも、ゲームの通りになってしまうのではないか。アレクは右腕を失い、騎士の道を断たれるのではないか。

「もしもまた利き腕を失うことになったとしても、アニーが隣にいてくれるなら十分だと思える。以前の人生もそうだったんだ。アニーとチェルシーがいてくれたら何もいらないと本気で思っていた。……それに騎士として生きられなくとも公爵にはなれる。父上に団長職はしばらく頑張ってもらって、俺が息子を鍛えることにするさ」

「息子……」

「少し前に子供がたくさん欲しいと言っていただろう? いつか息子が生まれて、騎士を目指すと言ってくれたら、その子が未来の騎士団長になる」

「アレク様……だけど私、不安なんです。本当にこのまま、幸せでいられるのかって」

「俺はどんな人生になろうが、君といられたら幸せだと言える。それくらい君を愛してる。以前も、今もずっとだ」

 アレク様に優しく抱き締められると、ザワザワしていた気持ちが少しずつ落ち着いていく。
 そうだ。抗うと決めたのだ。ゲームの通りになんてさせない。私は、悪役にならない。アドリアーナ・スタングロムのハッピーエンドを掴むんだ。

「ありがとうございます。私も、あなたのことが大好きです」

 しばらくそうしていると、アレクから身体を離した。目が合うと『まだ未成年の君に、これ以上はまずいな』と言って苦笑していた。

「さっきの、毒を売った人間が分かったという話に戻るんですが、その者は今は?」

「探しているんだが、今はまだ見つかっていない。如何にもという雰囲気の老婆なのだが、商売をする頻度も場所もバラバラで以前も話を聞くだけで苦労したんだ」

「老婆ですか」

「毒だけでなく、他にも如何わしい物を売っていてな。食べ物だったり、アクセサリーだったり、書物や剣、香水なんかもあったか」

「そんなものを老婆が……私の方でも少し伝手があるので調べてみます」

「くれぐれも危険なことだけはしないでくれよ? 君に何かあったらと思うと心配で堪らない」

「その言葉、そっくりそのままお返しします」

 わざわざ危険と分かっている遠征に行く人に言われたくない。わざと怒った顔を作って、アレクを睨んだ。

「そうだな。すまない。……アニー、教えて欲しいことがある。答えたくないなら構わないんだが、聞いてもいいか?」

「何でしょう?」

「君は、以前の人生でなぜ平民に落とされたんだ?」

 自分が悪いことをした。愚かな行いをした。そういう風にしか伝えてこなかった。けれど、今アレクに隠してはいけないと思った。これからの3年間に深く関わることだから。

「以前の私がまだ貴族令嬢だった頃は、セレスト殿下の婚約者でした。しかし、私はまともに教育を受けておらず、性格も悪い本当に愚かな娘でした。貴族学校に入学して、セレスト殿下に想い人ができました。私はその令嬢に嫉妬して、罵声を浴びせたり、嫌がらせをしたり、時にはぶったり、水をかけたこともあります。結果、婚約は破棄され、新たにその令嬢が婚約者となり、王族の婚約者を虐げた罪で平民に落とされたのです」

「その令嬢はカワード男爵令嬢だな?」

「そうですが……」

 でも今は同一人物ではないようだし、なんだか肯定するのは気が引ける。違うとも言えないし……参ったわ。

「あれは男を誘惑するのに長けている。セレスト殿下だけでなく、他にも無差別に色目を使っている。特に婚約者のいる男に粉をかけているようだ」

「…………はい?」

 無差別に? どういうこと?
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