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第三部(貴族学校入学編)

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「セレスト殿下とサラ殿下の護衛に王国騎士が付いているから、その男爵令嬢のことは騎士団長である俺の耳にも入ってる。それにまぁ初日にアドリアーナに喧嘩ふっかけてきやがったろう? あれで俺とアレキサンダーの逆鱗に触れたってわけだな」

「騎士団の中で要注意人物であると情報共有をしているんだ」

 お義父様とアレクがそう口々に言うと、ウィリアムが王国騎士様の知らないであろうことも自分から伝えていると言う。
 以前の人生とは私の立場が違うから、カワード男爵令嬢の扱いも違っている。以前はカワード男爵令嬢は誰からも信用されて、守られていた。だけど今は、要注意人物。……ユウカ嬢が大胆な行動をし過ぎているというのもあるかもしれないけれど。

「とにかく、ウィリアムとリリーの婚約はササッと整えてしまいましょう。アドリアーナの侍女が学内でおかしな扱いを受けているなんて、腹立たしいわ」

 この場で許されてもいないのに喋ることはできないリリーが神妙な顔でこくこくと頷いている。お義母様の言葉が何だか解せないのは私だけなのだろうか。

「それこそアッシェ子爵家が反対するわけもないだろう。儀礼として求婚状はスタングロム侯爵家を通じてすでに送ってあるし、返事さえ来ればすぐに婚約を公にすればいい。早馬であと数日もあれば戻るだろ。パーティーには十分間に合う」

 アッシェ子爵家は王都に邸を持たないため、領地まで書状を持って行って、また戻って来なければならない。ウィリアムがどのように伝えたのかは知らないが、義両親の行動の早さに驚かされる。

「リリーはアドリアーナの侍女としてずっとそばにいたいからウィリアムとの結婚を受け入れたと聞いているけれど」

「は、……はい」

 え。ウィリアム? 言う? それ、言う? さすがに寛容なお義母様だって可愛い息子がそんな利用されたみたいになるのは不愉快なんじゃないかしら? なんで言ったの? という顔をウィリアムに向ける。ウィリアムは素知らぬ顔だ。

「それって侍女であらなければいけないのかしら? 義姉妹になるのだし、侍女でなくてもそばにいられるじゃない」

「え?」

 その発想はなかった! という顔をしている。確かにそうである。なにも侍女としてでなくても、立場的に自然に一緒にいられる。私もその方が嬉しいかもしれない。

「アレキサンダーと結婚して、アドリアーナがこの邸に住んだら、アドリアーナ専属の侍女を三人は付けるわ。それらに指導をしてくれるだけで十分よ? だから、あなたとウィリアムはそうね……アドリアーナがこの邸に来てから半年後くらいに結婚すればいいんじゃないかしら。その半年間はあなたもここに住みなさいな。ウィリアムとの新居はこの近くの邸を購入してもいいし、この敷地内に建ててもいいし、あまり使っていない別棟を改装してもいいわ」

「あ、ありがとうございます!」

 リリーが感動に震えている。その隣でウィリアムが窓の外を指差して『だったらあの建物潰して新築したい』と言っている。お義母様が提案した選択肢のどれでもないじゃないの。
 それをお義父様が『あぁ、あそこは日当たりが良いし、いいんじゃないか。先々代が愛人を住まわせてたらしいが、もう長いこと使われてないしな』と言う。アレク様も一緒になって『そんな縁起の悪そうな建物は潰してしまえ。ウィリアム達の好きに建てるといい』と言っている。このウィリアム大好き父子、いつもこの調子である。

「ウィリアムはあの通りの子でしょ? どんな子なら夫婦として上手くやっていけるのかしらって思っていたんだけど、リリーなら安心だわ。あなた、ウィリアムに初めて会った時もウィリアムのことなんてどうでもよさそうな顔だったものね」

「ウィリアム様はとても美しい容姿でいらっしゃるとは思いますが、私はあまりその辺に興味がなく……アドリアーナ様を美しく飾り立てることは大好きなのですが」

「そう。今後はあなた自身も美しく飾らなきゃね」

「……必要とあらばそういたします」

「そうね、まずはダンスパーティーのドレスから。ウィリアムの色を入れたドレスを急ぎ作らせるわ。今すぐマダムを呼んでちょうだい」

 公爵家の家令がすっと現れて、そしてすっと去っていった。少しすれば公爵家御用達の仕立て屋が来るだろう。
 その間にアレクと話せるかしらと思いアレクの顔を見ると、何も言わずとも頷いてくれた。
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