勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

文字の大きさ
上 下
69 / 100
第三部(貴族学校入学編)

3

しおりを挟む
 入学式。二度目である。
 前回の人生では、入学試験がトップだった者がする新入生代表挨拶を任されたのがセレスト第三王子殿下で、その婚約者だった私は鼻高々だった。別に私が優秀なわけじゃないのに。在校生の令嬢の中でスタングロム侯爵家が一番力のある家門であることも私が増長する要因の一つだった。そもそも庶子のくせに。
 とにかく今回の人生では穏やかに、波風を立てず、変に目立たない生徒として過ごす。しかしながら将来ノヴァック公爵夫人になることを考えると、優秀に、華やかに、良い意味で目立ちたいと思う。

 そう。良い塩梅で頑張ろう。

 そんな目標を掲げる私が選んだ本日の戦闘服(ドレス)は、紺と赤を基調としたものである。前回の人生では真っ赤なドレスで入学式に挑んだ。
 前回はただ単に、私に似合う色が赤だと思っていたから。今回は、アレクの瞳の色と私の瞳の色を意識して仕立てた一張羅だからである。
 ドレスも宝石もアレクの瞳の色であるルビーのような紫がかった赤色を使った物が多い。前回の人生では紅色を好んでいたので同じ赤でも印象は違う……はず。そう思いたい。過激令嬢にはならないぞ。

 そんなことをつらつらと考えていると新入生代表が呼ばれた。『セレスト・マウリス・ヘンリー・ヒュリゴ殿下』と長々とそして恭しく。婚約者であったにも関わらず、フルネームなんて忘れてたなぁとぼんやり思う。
 今回の人生では、セレスト第三王子殿下とはそれぞれの姉と兄が夫婦というだけの関係なので、面識があるわけでもなく、今後も関わっていきたいわけでもない。その程度の存在だ。
 私はとにかく、この夏にアレクと無事に婚約して、学校を優秀な成績で卒業して、すぐにアレクと結婚する。それだけ叶えば学校生活には他に何も望まない。

「アドリアーナ様、式が終わりましたので教室へ移動しましょう」

 ぼーっと考え事している内に入学式は終わったらしい。リリーと一緒にホールから出て教室までの道のりを歩いている時だった。

「キャ!」

 という悲鳴と共に、ドンッと肩に衝撃が走った。そして目の前で倒れる女子生徒。
 ……男爵令嬢だ。セレスト第三王子殿下の想い人で、私が虐げていた、あの男爵令嬢の姿がそこにあった。

「大丈夫ですか!?」

 最初に動いたのは私の身を案じたリリーだった。

「……えぇ、問題ないわ」

「まさかぶつかってくるとは思わず。お守りできなくて申し訳ありません」

「大丈夫よ、気にしないで。あなたは大丈夫かしら?」

 倒れて尻もちをついた状態のままでいる男爵令嬢に声を掛ける。名前が全く思い出せないので『あなた』と言う他ない。
 足を止めて様子を窺っている生徒が、私とリリーと男爵令嬢の3人の周りを取り囲むように少しずつ増えてきている。男爵令嬢は何も言わず、俯いて座り込んだままである。

「どうしたんだ」

 生徒が多くいるこの場でもよく通る声が響き、私達を取り囲んでいた人垣が割れた合間を縫って現れたのはセレスト第三王子殿下だった。

「アドリアーナ嬢と……君は、まさか……」

 男爵令嬢を見て驚いたセレスト第三王子殿下の顔を見て、既視感を覚える。既視感というより、この出来事がまさに前回の人生で起こったことと同じであると今更になって気付く。
 そうだ。前回の入学式のあとも男爵令嬢とぶつかって、倒れて座り込んだままの彼女に私は怒鳴ったのだ。『この私にぶつかっておいて謝罪の言葉も無いの!?』と大声で責め立てた。そこにセレスト第三王子殿下が現れて、怪我をしている女性を責めるなんてと非難されて私の立場が悪くなったのだ。

 ……ちょっと待って。まずいわ。今回もそうなるのかもしれないわ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...