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幕間
とある侯爵令息の決意
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ある日、自分に妾腹の子という妹ができた。そしてまたある日、自分が不義の子であることを知った。
妹はいつも母に注意されて、怒って喚いている子供だった。だけど自分より6歳も年下の子供だし、それもしょうがないのかなというくらいの認識で、ただ母が何かを言うたびに鬱陶しいなと思っていた。
母のことが嫌いだった。
執事との爛れた関係を他の使用人が知らないとでも思っているのだろうか。俺の外見が執事と似ていることを使用人達が陰でなんと言っているのか、それを父がどう思っているのか。
俺は、ただ自分の存在が恥ずかしくて、虚しくて、そういうモヤモヤを剣にぶつけるだけの日々を過ごしていた。
ある日、妹が変わった。
それをきっかけに、父から『お前は私の息子だ』と言ってもらえた。その言葉には、血は繋がっていないけれどという意味が含まれていることはお互いに分かっていた。だけどだからこそ、嬉しかったのだ。
家の中も変わった。母も執事もいなくなって、姉も前向きになった。妹の母とも親しくなれた。
そして、憧れの騎士に剣を習えるようにもなった。
別れの日、母に言った。
『私は、スタングロム侯爵となっても、婚姻をいたしません。子を成すつもりもありません。アドリアーナの子を養子にとり、私の後継にします』
俺は不義の子で、スタングロム侯爵家の血が流れていない。そんな俺の子がスタングロム侯爵になることは、到底受け入れられない。俺を息子だと言ってくれる父を素晴らしい人だと思うからこそ、その父の本当の孫に継がせたいと思う。
妹はそんな父によく似ていて、母の子ではない。だから、スタングロム侯爵家の後継は妹の子が一番良いと思っている。
さらに言えば、妹はいつか憧れの騎士と結婚する。その間に生まれた子を後継とすることは、スタングロム侯爵家にとってこの上ないことだと思う。
そしてそれまでの間、スタングロム侯爵家を守ることが、俺の生きる意味なのだろう。
まだ騎士を目指している頃のこと。
第二王子殿下と、その婚約者となった姉を守るために専属騎士にいつかなって欲しいと望まれた時も嬉しかった。夢を叶える理由が増えたと鍛錬にさらに身が入り、16歳で従騎士になり、18歳で正騎士になった。
しかし、第二王子殿下は俺が騎士になる前に臣籍降下されて、お守りする対象ではなくなってしまわれた。
第二王子殿下と姉を直接守ることはできなくなってしまったが、今日も俺は国を守っている。
そんな俺のそばには、もう10年近く侍従として勤めてくれているニコラスがいつもいた。
俺が騎士を目指すならばと一緒に鍛錬に励んでくれた。
『僕は本当の騎士になれないかもしれませんが、オスカー様を守る、オスカー様だけの騎士になりたいです』
子供の頃にそう言っていたニコラスも俺から一年後に正騎士になった。
『必ず追い付きますから。待っていてください』
冷たい印象を受ける淡い水色の瞳が、燃えているようだと感じた。その時抱いた気持ちをどう表現していいか分からない。
ただ、ニコラスがそばにいてくれてよかったと。この先の人生に何も残せるものがない俺だけれど、ニコラスが一緒にいてくれるならそれでいいと思った。
俺はこれから王国騎士として生きて、そしてそばでニコラスが笑っていてくれたら。
……幸せな日々だろう。そう心から思う。
妹はいつも母に注意されて、怒って喚いている子供だった。だけど自分より6歳も年下の子供だし、それもしょうがないのかなというくらいの認識で、ただ母が何かを言うたびに鬱陶しいなと思っていた。
母のことが嫌いだった。
執事との爛れた関係を他の使用人が知らないとでも思っているのだろうか。俺の外見が執事と似ていることを使用人達が陰でなんと言っているのか、それを父がどう思っているのか。
俺は、ただ自分の存在が恥ずかしくて、虚しくて、そういうモヤモヤを剣にぶつけるだけの日々を過ごしていた。
ある日、妹が変わった。
それをきっかけに、父から『お前は私の息子だ』と言ってもらえた。その言葉には、血は繋がっていないけれどという意味が含まれていることはお互いに分かっていた。だけどだからこそ、嬉しかったのだ。
家の中も変わった。母も執事もいなくなって、姉も前向きになった。妹の母とも親しくなれた。
そして、憧れの騎士に剣を習えるようにもなった。
別れの日、母に言った。
『私は、スタングロム侯爵となっても、婚姻をいたしません。子を成すつもりもありません。アドリアーナの子を養子にとり、私の後継にします』
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妹はそんな父によく似ていて、母の子ではない。だから、スタングロム侯爵家の後継は妹の子が一番良いと思っている。
さらに言えば、妹はいつか憧れの騎士と結婚する。その間に生まれた子を後継とすることは、スタングロム侯爵家にとってこの上ないことだと思う。
そしてそれまでの間、スタングロム侯爵家を守ることが、俺の生きる意味なのだろう。
まだ騎士を目指している頃のこと。
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しかし、第二王子殿下は俺が騎士になる前に臣籍降下されて、お守りする対象ではなくなってしまわれた。
第二王子殿下と姉を直接守ることはできなくなってしまったが、今日も俺は国を守っている。
そんな俺のそばには、もう10年近く侍従として勤めてくれているニコラスがいつもいた。
俺が騎士を目指すならばと一緒に鍛錬に励んでくれた。
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『必ず追い付きますから。待っていてください』
冷たい印象を受ける淡い水色の瞳が、燃えているようだと感じた。その時抱いた気持ちをどう表現していいか分からない。
ただ、ニコラスがそばにいてくれてよかったと。この先の人生に何も残せるものがない俺だけれど、ニコラスが一緒にいてくれるならそれでいいと思った。
俺はこれから王国騎士として生きて、そしてそばでニコラスが笑っていてくれたら。
……幸せな日々だろう。そう心から思う。
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