勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

文字の大きさ
上 下
53 / 100
第二部(アレク編)

26

しおりを挟む
 ※sideアレク

 うだうだとしている間にスタングロム侯爵家に行く日になった。アニーに会うのがつらくてオスカー殿の指南を辞めてしまいたい気持ちと、そんな無責任なことはできないという気持ちがせめぎ合って、結論は出ないまま。
 いつものようにアニーとオスカー殿とニコラスがで迎えてくれた時に、アニーから夕食後に二人で話す時間が欲しいと言われた。あぁ、何を言われるのだろう。少し億劫だなと思った。

 夕食後、俺を見送りに行くと言うアニーを侯爵が止めて、それをカーラ様に嗜められて、渋々認めるというよく分からない構図を眺めながら、かつての自分とアニーとチェルシーの生活に思いを馳せた。
 あの幸せだった日々には戻れないのだろうか……。

 暑い季節とはいえ夜は冷えるので、公爵家の馬車の中で話をしようと提案した。馬車の外には御者もいるし、侯爵家のメイドも控えている。ドアを少しだけ開けておけば、密室に二人きりにはならない。……まぁ6歳の女の子相手に何があるというわけでもないと思うが、念のため。

「アレク様、聞きたいことがあるのです」

「あぁ、何でも聞いてくれ」

「ご婚約者はいらっしゃるのですか?」

「まだいないが……それが?」

「アレク様は結婚について、どうお考えですか? いつ頃とか、どんな女性と、とか」

 君が成人したらすぐに、君と結婚したいと言えたなら、どんなにいいだろう。

「結婚について、今は何も口にできることはない。ただまぁ俺と結婚したいという物好きな令嬢はいないな」

 父に似て、女性に全く好感を持たれない強面。剣にばかり夢中になって育ってきたせいか女性の気持ちなど全く察せない。公爵家と縁を結びたい親に連れられて顔を合わせても、俺の風貌に慄く令嬢ばかりだ。

「アレク様は公爵家嫡男で王国騎士様ですし、引くて数多ではないですか?」

「肩書きは立派なものかもしれないが、この顔に、剣術しか頭になくデリカシーの欠片もない男だ。女性には好かれないさ」

「なにをっ? その素敵なお顔が欠点だとでも!? それにデリカシーがないなんて思ったことは一度もないですし、いつだって紳士でいらっしゃいますわ!」

 アニーが本当にそう思ってくれているなら、他の誰にどう思われていようが構わないと本気で思う。

「そう言ってくれるのは嬉しいが、俺が女性に好かれないのは事実だ」

「アレク様は魅力的な方です! 私、アレク様と結婚したいとお父様に言いました!」

「……な、に……俺と?」

 頭が真っ白になる。
 まさか、そんな話になるとは思っていなかった。てっきりアニーは別の男と婚約したいのだとばかり思っていた。

「私はまだ6歳で、成人まで12年もかかってしまいますが、どうか私と婚約をしてくださいませんか?」

「……本気で言っているのか?」

「本気です」

「本当に、俺でいいのか?」

「アレク様がいいのです」

 まず思ったのは、すごく嬉しい、ということ。そして、本当に俺でいいのだろうかと自信の無い自分が頭を擡げる。

「……アニーが、貴族学校へ入った一年目の夏。それまで気持ちが変わらなかったら、婚約しよう」

「それは子供相手に使う断りの常套句では」

「そうじゃない。俺はそれまで婚約をしたり、恋人を作ったりすることはしないと誓う」

「本当ですか? 私の気持ちが変わらなかったら本当に婚約してくださいますか?」

「……本当だ」

 アニーの必死さが嬉しい。今これだけ望んでくれている内に婚約を結んでしまって逃げられなくしてしまおうかという考えを何とか押さえ込み返事をする。
 するとアニーが疑いの眼差しで見てくるので、人の気も知らないでと少し恨めしい気がしてくる。

「こんな口約束で済ませようとするのは君のためだ。今後、俺なんかよりもっといい男にいくらでも出会うだろうから、そうなれば……」

「アレク様より素敵な男性なんておりませんわ!」

「それならそれで、君が貴族学校に入学した最初の夏に正式に婚約しよう」

「そのお言葉、絶対に忘れないでくださいませ」

「……忘れるものか」

 君が無かったことにしましょうと言わないことをただただ願う。
 俺はこれから、俺と結婚することを君が周りから羨ましがられるような男になる。公爵令息として、騎士として、紳士として、立派な男になってみせる。

 ……この顔は、どうしようもないけれど。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

らんか
恋愛
 あれ?    何で私が悪役令嬢に転生してるの?  えっ!   しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!  国外追放かぁ。  娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。  そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。  愛し子って、私が!?  普通はヒロインの役目じゃないの!?  

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか

鳳ナナ
恋愛
第二王子カイルの婚約者、公爵令嬢スカーレットは舞踏会の最中突然婚約破棄を言い渡される。 王子が溺愛する見知らぬ男爵令嬢テレネッツァに嫌がらせをしたと言いがかりを付けられた上、 大勢の取り巻きに糾弾され、すべての罪を被れとまで言われた彼女は、ついに我慢することをやめた。 「この場を去る前に、最後に一つだけお願いしてもよろしいでしょうか」 乱れ飛ぶ罵声、弾け飛ぶイケメン── 手のひらはドリルのように回転し、舞踏会は血に染まった。

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

処理中です...