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第二部(アレク編)
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※sideアレク
「好きだと思う女と結婚しようと努力できるだけでも幸せだと僕は思うがな」
「それは……そうだ。殿下に対してこんな相談をして申し訳なかった」
「いや、お前の信頼を失った訳じゃないと知れたからいいんだ。お前までオーキッド側につくと言ったらどうしようかと思ったよ」
「それはない。そもそもオーキッド殿下が王位を望んでないことは殿下も分かっているだろう?」
「本人はそうだが、実際国王に相応しい資質を持っているのはオーキッドだ。あいつが持っていなくて俺が持っているものなんて、正妃の息子だということと、数ヶ月早く生まれたということくらいさ。臣下達もそれをよく分かってるから第二王子派なんてものがあるんだろ」
「殿下の民を思う気持ちは誰にも負けていない。そして俺はそれが一番大切なことだと思う」
実際、アズール殿下が戴冠されてからの10年ほどを平民として暮らしていたが、子供が増えたのは暮らしが豊かになった証拠だ。平民だったからこそ殿下の治世は良かったのだと身をもって知っている。
もちろんオーキッド殿下であってもいい世になるだろうが、俺個人がアズール殿下の方が好きなのだ。不器用で正直なアズール殿下が。
「……やっぱり俺のために俺の騎士になれ。お前以外は考えられない」
「俺も専属になるとしたらアズール殿下しか考えられないんだが」
「今は恋にうつつを抜かしていると」
「言い方をどうにかしてくれ」
ハハハ、と殿下が笑って、ハァ、とため息をついた。
「来週にある茶会の護衛にはついてくれるんだろ?」
「あぁ、その任は受けている」
「……憂鬱だ。選択肢がフォーサイス公爵令嬢かスタングロム侯爵令嬢だけだぞ。あぁ、俺も恋にうつつを抜かしてみたいものだ」
「フォーサイス公爵令嬢は気さくで付き合いやすい女性だし、スタングロム侯爵令嬢は可愛らしい女性だぞ」
「フォーサイス公爵令嬢はともかく、スタングロム侯爵令嬢を知っているのか?」
「スタングロム侯爵令息に剣の指南をしているんだ。訓練後に夕食をご一緒するから何度か話したことがある」
「おい、まさか結婚したい令嬢って」
「違うぞ。いやスタングロム侯爵令嬢か。あ、いや違うんだ」
「おいおいまさかお前……妹の方か!? セレストやウィリアムと同い年だろうが!」
「誤解するな! 決して幼女に興奮する性質ではない! 彼女が彼女だから好きなだけで、不釣り合いだからこそ悩んでいるんだ!!」
信じられないというのが顔に書いてあるようだ。心底引かれている。そりゃ確かに10歳下の弟と同い年の女の子だと思えば引いてしまう気持ちも分かる。
だけどアニーはただの6歳の女の子じゃないんだよ。つい最近まで妻だったんだ。言えないけど。
「まぁその話は置いておこう。それにしても、その妹が……」
「アドリアーナ嬢だ」
「……アドリアーナ嬢が、セレストの婚約者にならなくてよかったな。つい最近までは候補者筆頭だったらしいんだが」
殿下の話を聞きながら、まさかアニーの前の人生での婚約者は、セレスト殿下だったのだろうかと考える。
「つい最近、帝国から求婚状が届いてな。第一皇女の婿としてセレストを望んでいると」
「それは……すごいな」
「そうだろう? あの帝国からそんな提案があるなんて、有り難いことだ。『第三王子を差し出すだけで友好関係が続くなら安いものだ』と父王がほざいたほどだ。言い方は気に食わないが、間違いない」
「受けるんだろう?」
「断れる訳がない。兄として出来ることといえば、第一皇女殿下が良い子であることを願うくらいだな」
「そうだな……」
「ま、俺の婚約者も良い子であることを願ってくれ。おそらくはフォーサイス公爵令嬢になる」
「スタングロム侯爵令嬢は?」
「最近侯爵夫人を領地に戻しただろう。その件でチェンバレン公爵とスタングロム侯爵が一度やり合ってる。まぁ関係が悪くなるほどではないと聞いたんだが……敢えてスタングロム侯爵令嬢にする理由もない。フォーサイス公爵令嬢の方が後ろ盾を得るには堅いと判断した」
「そうか。フォーサイス公爵令嬢も美人で賢い女性だ。話してみると分かるさ」
「お前言うならそうなんだろう」
まぁ、そうだな。俺のような見てくれは悪いし、女性の扱いも分からない男と普通に接してくれる時点で、胆力があって優しいということだ。
少しでも母上の要素を受け継いでいれば、ここまで人相が悪くならずに済んだだろうに。母上にそっくりのウィリアムが少し羨ましい。
「好きだと思う女と結婚しようと努力できるだけでも幸せだと僕は思うがな」
「それは……そうだ。殿下に対してこんな相談をして申し訳なかった」
「いや、お前の信頼を失った訳じゃないと知れたからいいんだ。お前までオーキッド側につくと言ったらどうしようかと思ったよ」
「それはない。そもそもオーキッド殿下が王位を望んでないことは殿下も分かっているだろう?」
「本人はそうだが、実際国王に相応しい資質を持っているのはオーキッドだ。あいつが持っていなくて俺が持っているものなんて、正妃の息子だということと、数ヶ月早く生まれたということくらいさ。臣下達もそれをよく分かってるから第二王子派なんてものがあるんだろ」
「殿下の民を思う気持ちは誰にも負けていない。そして俺はそれが一番大切なことだと思う」
実際、アズール殿下が戴冠されてからの10年ほどを平民として暮らしていたが、子供が増えたのは暮らしが豊かになった証拠だ。平民だったからこそ殿下の治世は良かったのだと身をもって知っている。
もちろんオーキッド殿下であってもいい世になるだろうが、俺個人がアズール殿下の方が好きなのだ。不器用で正直なアズール殿下が。
「……やっぱり俺のために俺の騎士になれ。お前以外は考えられない」
「俺も専属になるとしたらアズール殿下しか考えられないんだが」
「今は恋にうつつを抜かしていると」
「言い方をどうにかしてくれ」
ハハハ、と殿下が笑って、ハァ、とため息をついた。
「来週にある茶会の護衛にはついてくれるんだろ?」
「あぁ、その任は受けている」
「……憂鬱だ。選択肢がフォーサイス公爵令嬢かスタングロム侯爵令嬢だけだぞ。あぁ、俺も恋にうつつを抜かしてみたいものだ」
「フォーサイス公爵令嬢は気さくで付き合いやすい女性だし、スタングロム侯爵令嬢は可愛らしい女性だぞ」
「フォーサイス公爵令嬢はともかく、スタングロム侯爵令嬢を知っているのか?」
「スタングロム侯爵令息に剣の指南をしているんだ。訓練後に夕食をご一緒するから何度か話したことがある」
「おい、まさか結婚したい令嬢って」
「違うぞ。いやスタングロム侯爵令嬢か。あ、いや違うんだ」
「おいおいまさかお前……妹の方か!? セレストやウィリアムと同い年だろうが!」
「誤解するな! 決して幼女に興奮する性質ではない! 彼女が彼女だから好きなだけで、不釣り合いだからこそ悩んでいるんだ!!」
信じられないというのが顔に書いてあるようだ。心底引かれている。そりゃ確かに10歳下の弟と同い年の女の子だと思えば引いてしまう気持ちも分かる。
だけどアニーはただの6歳の女の子じゃないんだよ。つい最近まで妻だったんだ。言えないけど。
「まぁその話は置いておこう。それにしても、その妹が……」
「アドリアーナ嬢だ」
「……アドリアーナ嬢が、セレストの婚約者にならなくてよかったな。つい最近までは候補者筆頭だったらしいんだが」
殿下の話を聞きながら、まさかアニーの前の人生での婚約者は、セレスト殿下だったのだろうかと考える。
「つい最近、帝国から求婚状が届いてな。第一皇女の婿としてセレストを望んでいると」
「それは……すごいな」
「そうだろう? あの帝国からそんな提案があるなんて、有り難いことだ。『第三王子を差し出すだけで友好関係が続くなら安いものだ』と父王がほざいたほどだ。言い方は気に食わないが、間違いない」
「受けるんだろう?」
「断れる訳がない。兄として出来ることといえば、第一皇女殿下が良い子であることを願うくらいだな」
「そうだな……」
「ま、俺の婚約者も良い子であることを願ってくれ。おそらくはフォーサイス公爵令嬢になる」
「スタングロム侯爵令嬢は?」
「最近侯爵夫人を領地に戻しただろう。その件でチェンバレン公爵とスタングロム侯爵が一度やり合ってる。まぁ関係が悪くなるほどではないと聞いたんだが……敢えてスタングロム侯爵令嬢にする理由もない。フォーサイス公爵令嬢の方が後ろ盾を得るには堅いと判断した」
「そうか。フォーサイス公爵令嬢も美人で賢い女性だ。話してみると分かるさ」
「お前言うならそうなんだろう」
まぁ、そうだな。俺のような見てくれは悪いし、女性の扱いも分からない男と普通に接してくれる時点で、胆力があって優しいということだ。
少しでも母上の要素を受け継いでいれば、ここまで人相が悪くならずに済んだだろうに。母上にそっくりのウィリアムが少し羨ましい。
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