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第二部(アレク編)
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※sideアレク
アニーが席に着くと、給仕の者達が食事を運んできた。少し小ぶりなハンバーグが3つ盛り付けてある。アニーの小さくて可愛い手ではこの大きさにしかできなかったのだろうと思うと、自然と顔が笑ってしまう。
食べてみると、ちゃんと美味しかった。お世辞でもなんでもなく、美味しいハンバーグだった。
侯爵家の面々も美味しいと口々に言い合っている。先程のどうしようもない雰囲気が良くなって本当によかったと思いながら食べ進めていると、ふと視線を感じた。
見ると、アニーが不安そうな顔をして私を見ていた。それがまた可愛くて笑顔になる。
「美味しいよ。こんなに美味しいハンバーグが作れるなんて驚いた。食べることができて嬉しく思う」
「アレク様にそう言ってもらえて、私も嬉しいです!」
以前のアニーは料理ができなかった。片腕だった俺の方がまだ包丁をまともに扱えていたくらいだ。
それなのにどうして今のアニーは料理を覚えたのだろう? 何のために? 再び平民になるようなことは無いだろうに。
食事が終わるとティータイムが設けられた。我が公爵家にはこういう和やかな時間はあまり無いので新鮮である。
オスカー殿の素質についての話から、俺の学校生活の話になり、また妙な雰囲気になる。持って回ったような言い回しが出来ないのは騎士ばかりを排出するノヴァック公爵家の伝統だ。それ故にハッキリと言ってもらわないと察することもできない。
正直に何か変なことを言ったかと尋ねると、週に1日の休息日にオスカー殿の訓練に訪れるのは申し訳ないとか何とか……そのためだけに来ているわけじゃないのだから、そんなことは全く気にしないで欲しいのに。
休息日でも元々訓練をしていると言っても、騎士の自分に勉学は必要ないと言っても、誰の表情も晴れない。
俺はアニーに会いに来ているのだから、週に一度の貴重な機会を減らされるわけにいかないと引かない姿勢で話していると、カーラ様の言った『休みたい日は休むということで』という形で落ち着いた。
「本当に負担だと思ってないのですが。でも、そういうお約束でそちらのお気持ちが軽くなるのなら、そのようにしましょう。私も遊びたいという日ができるかもしれませんしね」
俺はそう言って軽く笑った。アニーといつか休息日にデートができるようになればいいな。今の幼いアニーとでは『デート』という言葉に犯罪の匂いが漂うが……。
俺に大変な思いをさせていると勘違いをしている侯爵家の面々の罪悪感を利用させてもらい、アニーに告げる。
「我儘を言っていいのなら、またアドリアーナ嬢の手料理を食べさせて貰いたい」
「えっ……」
「君の手料理を食べて、とても幸せな気持ちになったよ」
「はいっ! アレク様が来てくださった時にはまた作ります! もっと上手になってみせます!」
過去に戻るなど、訳の分からない状態だが、またアニーと会うことが出来て、可愛い君を見られて、さらには手料理まで食べられて。なかなか悪くないと思っている自分もいる。
だけど、人生をまた子供からやり直している君の望む未来に、俺がいないかもしれないと思うと……本当に恐い。俺はこんなにも君を愛しているままなのに。
今の君が俺に向けてくれている好意が、どれほどのもので、いつまで続くのか、不安で堪らない。
アニーが席に着くと、給仕の者達が食事を運んできた。少し小ぶりなハンバーグが3つ盛り付けてある。アニーの小さくて可愛い手ではこの大きさにしかできなかったのだろうと思うと、自然と顔が笑ってしまう。
食べてみると、ちゃんと美味しかった。お世辞でもなんでもなく、美味しいハンバーグだった。
侯爵家の面々も美味しいと口々に言い合っている。先程のどうしようもない雰囲気が良くなって本当によかったと思いながら食べ進めていると、ふと視線を感じた。
見ると、アニーが不安そうな顔をして私を見ていた。それがまた可愛くて笑顔になる。
「美味しいよ。こんなに美味しいハンバーグが作れるなんて驚いた。食べることができて嬉しく思う」
「アレク様にそう言ってもらえて、私も嬉しいです!」
以前のアニーは料理ができなかった。片腕だった俺の方がまだ包丁をまともに扱えていたくらいだ。
それなのにどうして今のアニーは料理を覚えたのだろう? 何のために? 再び平民になるようなことは無いだろうに。
食事が終わるとティータイムが設けられた。我が公爵家にはこういう和やかな時間はあまり無いので新鮮である。
オスカー殿の素質についての話から、俺の学校生活の話になり、また妙な雰囲気になる。持って回ったような言い回しが出来ないのは騎士ばかりを排出するノヴァック公爵家の伝統だ。それ故にハッキリと言ってもらわないと察することもできない。
正直に何か変なことを言ったかと尋ねると、週に1日の休息日にオスカー殿の訓練に訪れるのは申し訳ないとか何とか……そのためだけに来ているわけじゃないのだから、そんなことは全く気にしないで欲しいのに。
休息日でも元々訓練をしていると言っても、騎士の自分に勉学は必要ないと言っても、誰の表情も晴れない。
俺はアニーに会いに来ているのだから、週に一度の貴重な機会を減らされるわけにいかないと引かない姿勢で話していると、カーラ様の言った『休みたい日は休むということで』という形で落ち着いた。
「本当に負担だと思ってないのですが。でも、そういうお約束でそちらのお気持ちが軽くなるのなら、そのようにしましょう。私も遊びたいという日ができるかもしれませんしね」
俺はそう言って軽く笑った。アニーといつか休息日にデートができるようになればいいな。今の幼いアニーとでは『デート』という言葉に犯罪の匂いが漂うが……。
俺に大変な思いをさせていると勘違いをしている侯爵家の面々の罪悪感を利用させてもらい、アニーに告げる。
「我儘を言っていいのなら、またアドリアーナ嬢の手料理を食べさせて貰いたい」
「えっ……」
「君の手料理を食べて、とても幸せな気持ちになったよ」
「はいっ! アレク様が来てくださった時にはまた作ります! もっと上手になってみせます!」
過去に戻るなど、訳の分からない状態だが、またアニーと会うことが出来て、可愛い君を見られて、さらには手料理まで食べられて。なかなか悪くないと思っている自分もいる。
だけど、人生をまた子供からやり直している君の望む未来に、俺がいないかもしれないと思うと……本当に恐い。俺はこんなにも君を愛しているままなのに。
今の君が俺に向けてくれている好意が、どれほどのもので、いつまで続くのか、不安で堪らない。
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