34 / 98
第二部(アレク編)
7
しおりを挟む
食事が終わって、食後のお茶をいただきながら、お父様からアレクに話しかけ始めた。
「たった一日で聞くことではないかもしれないが、門外漢の戯言と思い許してほしい。オスカーは王国騎士になる素質はあると思うかい?」
「そうですね……例えば14歳で従騎士に、というのは今のオスカー殿の実力からすると難しいとは思います。ただこのまま真剣に鍛錬を続けたならば、いつか正騎士になるのも夢ではないと感じました」
「本来14歳で従騎士になるなど滅多にないものだ。10代でなれたら優秀だろう。……ところで、アレキサンダー卿。学校はどうしているんだい?」
「もちろん通っていますよ。元々貴族学校では午前に共通科目、午後に専門科目を習いますが、騎士になると専門が剣術と決められて、午後は騎士として従事することになります。週に1日の休息日を除いて従事しますので、5日間は午後のみ、1日は丸一日、訓練や警邏、時には遠征に行くこともあります」
えっ、大変そう。というのが正直な感想。しかもつまりは、その唯一の休息日にわざわざお兄様の指南に来てくださっているということになる。
それに気付いたのは私だけでなく、この場にいる全員が察していて、気まずい視線をアレクに向けていた。
「え? 何かおかしなことを申しましたか?」
侯爵家の面々の内心に全く気付いていないアレク。そんな抜けたところも可愛いけれど、公爵令息としては如何なものか?
「いや……そんな多忙な日々を送っているとは知らず、毎週休息日にオスカーの訓練をなどと、申し訳ないことをしてしまったと思ってだね……」
「とんでもない! どうせ休息日だろうと私は元々訓練をしていました。騎士を志す者の手伝いができるのなら、苦でも何でもありません」
「しかし、学校の勉学の方にも時間を割く必要があるんじゃないか?」
「私は騎士ですので、勉学などできなくても困りません」
お兄様の顔がどんどん曇っていく。うん、分かる。心苦しいわよね。でも、来ていただかなくていいとも言いたくないのよね。すごく分かる。
気まずい空気の中、カーラお母様が口を開いた。
「あの、アレキサンダー卿が休まれたい時は遠慮なさらずにお休みになっていただくということにすれば宜しいのではないですか? ご負担にならないようお願いするということで……」
「アレキサンダー卿に指南していただけることは望外の喜びですが、卿のご負担になるのは嫌です」
「いや、本当に負担だと思ってないのですが。でも、そういうお約束でそちらのお気持ちが軽くなるのなら、そのようにしましょう。私も遊びたいという日ができるかもしれませんしね」
そう言って『ハハハ』と笑ったアレクが、すっと真面目な顔になって私の方を見た。
「我儘を言っていいのなら、またアドリアーナ嬢の手料理を食べさせて貰いたい」
「えっ……」
「君の手料理を食べて、とても幸せな気持ちになったよ」
ふわりと微笑むその顔が、夫だったアレクに被る。思わず涙が出そうになって、きつく目を閉じて俯いた。
「はいっ! アレク様が来てくださった時にはまた作ります! もっと上手になってみせます!」
なんて嬉しい言葉だろう。
幸せな気持ちにさせられたなんて……アレクのためなら、何だってできる気がする。
「たった一日で聞くことではないかもしれないが、門外漢の戯言と思い許してほしい。オスカーは王国騎士になる素質はあると思うかい?」
「そうですね……例えば14歳で従騎士に、というのは今のオスカー殿の実力からすると難しいとは思います。ただこのまま真剣に鍛錬を続けたならば、いつか正騎士になるのも夢ではないと感じました」
「本来14歳で従騎士になるなど滅多にないものだ。10代でなれたら優秀だろう。……ところで、アレキサンダー卿。学校はどうしているんだい?」
「もちろん通っていますよ。元々貴族学校では午前に共通科目、午後に専門科目を習いますが、騎士になると専門が剣術と決められて、午後は騎士として従事することになります。週に1日の休息日を除いて従事しますので、5日間は午後のみ、1日は丸一日、訓練や警邏、時には遠征に行くこともあります」
えっ、大変そう。というのが正直な感想。しかもつまりは、その唯一の休息日にわざわざお兄様の指南に来てくださっているということになる。
それに気付いたのは私だけでなく、この場にいる全員が察していて、気まずい視線をアレクに向けていた。
「え? 何かおかしなことを申しましたか?」
侯爵家の面々の内心に全く気付いていないアレク。そんな抜けたところも可愛いけれど、公爵令息としては如何なものか?
「いや……そんな多忙な日々を送っているとは知らず、毎週休息日にオスカーの訓練をなどと、申し訳ないことをしてしまったと思ってだね……」
「とんでもない! どうせ休息日だろうと私は元々訓練をしていました。騎士を志す者の手伝いができるのなら、苦でも何でもありません」
「しかし、学校の勉学の方にも時間を割く必要があるんじゃないか?」
「私は騎士ですので、勉学などできなくても困りません」
お兄様の顔がどんどん曇っていく。うん、分かる。心苦しいわよね。でも、来ていただかなくていいとも言いたくないのよね。すごく分かる。
気まずい空気の中、カーラお母様が口を開いた。
「あの、アレキサンダー卿が休まれたい時は遠慮なさらずにお休みになっていただくということにすれば宜しいのではないですか? ご負担にならないようお願いするということで……」
「アレキサンダー卿に指南していただけることは望外の喜びですが、卿のご負担になるのは嫌です」
「いや、本当に負担だと思ってないのですが。でも、そういうお約束でそちらのお気持ちが軽くなるのなら、そのようにしましょう。私も遊びたいという日ができるかもしれませんしね」
そう言って『ハハハ』と笑ったアレクが、すっと真面目な顔になって私の方を見た。
「我儘を言っていいのなら、またアドリアーナ嬢の手料理を食べさせて貰いたい」
「えっ……」
「君の手料理を食べて、とても幸せな気持ちになったよ」
ふわりと微笑むその顔が、夫だったアレクに被る。思わず涙が出そうになって、きつく目を閉じて俯いた。
「はいっ! アレク様が来てくださった時にはまた作ります! もっと上手になってみせます!」
なんて嬉しい言葉だろう。
幸せな気持ちにさせられたなんて……アレクのためなら、何だってできる気がする。
64
お気に入りに追加
925
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の現場に遭遇した悪役公爵令嬢の父親は激怒する
白バリン
ファンタジー
田中哲朗は日本で働く一児の父であり、定年も近づいていた人間である。
ある日、部下や娘が最近ハマっている乙女ゲームの内容を教えてもらった。
理解のできないことが多かったが、悪役令嬢が9歳と17歳の時に婚約破棄されるという内容が妙に耳に残った。
「娘が婚約破棄なんてされたらたまらんよなあ」と妻と話していた。
翌日、田中はまさに悪役公爵令嬢の父親としてゲームの世界に入ってしまった。
数日後、天使のような9歳の愛娘アリーシャが一方的に断罪され婚約破棄を宣言される現場に遭遇する。
それでも気丈に振る舞う娘への酷い仕打ちに我慢ならず、娘をあざけり笑った者たちをみな許さないと強く決意した。
田中は奮闘し、ゲームのガバガバ設定を逆手にとってヒロインよりも先取りして地球の科学技術を導入し、時代を一挙に進めさせる。
やがて訪れるであろう二度目の婚約破棄にどう回避して立ち向かうか、そして娘を泣かせた者たちへの復讐はどのような形で果たされるのか。
他サイトでも公開中
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
この国の王族に嫁ぐのは断固拒否します
鍋
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢?
そんなの分からないけど、こんな性事情は受け入れられません。
ヒロインに王子様は譲ります。
私は好きな人を見つけます。
一章 17話完結 毎日12時に更新します。
二章 7話完結 毎日12時に更新します。
婚約破棄された貧乏令嬢ですが、意外と有能なの知っていますか?~有能なので王子に求婚されちゃうかも!?~
榎夜
恋愛
「貧乏令嬢となんて誰が結婚するんだよ!」
そう言っていましたが、隣に他の令嬢を連れている時点でおかしいですわよね?
まぁ、私は貴方が居なくなったところで困りませんが.......貴方はどうなんでしょうね?
令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜
三月べに
ファンタジー
令嬢に転生してよかった〜!!!
素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。
少女漫画や小説大好き人間だった前世。
転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。
そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが?
【連載再開しました! 二章 冒険編。】
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
転生したら使用人の扱いでした~冷たい家族に背を向け、魔法で未来を切り拓く~
沙羅杏樹
恋愛
前世の記憶がある16歳のエリーナ・レイヴンは、貴族の家に生まれながら、家族から冷遇され使用人同然の扱いを受けて育った。しかし、彼女の中には誰も知らない秘密が眠っていた。
ある日、森で迷い、穴に落ちてしまったエリーナは、王国騎士団所属のリュシアンに救われる。彼の助けを得て、エリーナは持って生まれた魔法の才能を開花させていく。
魔法学院への入学を果たしたエリーナだが、そこで待っていたのは、クラスメイトたちの冷たい視線だった。しかし、エリーナは決して諦めない。友人たちとの絆を深め、自らの力を信じ、着実に成長していく。
そんな中、エリーナの出生の秘密が明らかになる。その事実を知った時、エリーナの中に眠っていた真の力が目覚める。
果たしてエリーナは、リュシアンや仲間たちと共に、迫り来る脅威から王国を守り抜くことができるのか。そして、自らの出生の謎を解き明かし、本当の幸せを掴むことができるのか。
転生要素は薄いかもしれません。
最後まで執筆済み。完結は保障します。
前に書いた小説を加筆修正しながらアップしています。見落としがないようにしていますが、修正されてない箇所があるかもしれません。
長編+戦闘描写を書いたのが初めてだったため、修正がおいつきません⋯⋯拙すぎてやばいところが多々あります⋯⋯。
カクヨム様にも投稿しています。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる