勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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第二部(アレク編)

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 その後、アレクとお兄様、お父様で話し合い、アレクがお兄様とニコラスに剣術を教えるのは、週に1回となった。
 アレクが侯爵家から去った後、私も一緒に剣術を習いたいとお父様に言ってみたが、危ない上にお兄様の邪魔になるということで却下された。
 危ないというだけなら食い下がったが、お兄様の邪魔になると言われると何も言えない。夢を叶える邪魔は絶対にしたくないのだ。

 しかしながらアレクの婚約者になるというのも叶えなければならない。訓練の見学をしているだけではアレクとの仲を深めることなどできないだろう。
 どうにか関わりを持てないものか、何か良い手はないものか……と考えながら、邸の中を自室まで歩いているとジェームズに呼び止められた。

「アドリアーナお嬢様? 何か悩み事ですか?」

「大したことじゃないわ。あなたこそ、何か用だった?」

「あ、そうでした。以前、発注しておいたアドリアーナお嬢様の包丁が届きましたよ。早速コックに……」

「それだわ!」

 アレクに美味しい手料理を振る舞う! 訓練後だからお腹が空いているだろうし、夕食をご一緒できればお話もできるし、完璧だわ。

「さぁ行くわよ、ジェームズ!」

 コックのいる厨房に足早に向かう。
 今のところ料理を教われる日は週に2日。運良くアレクが毎週訪れることになった日と被っている。1日は練習に当て、アレクに食べてもらう日にもう一度作れば、失敗も少ないはず。
 これぞ、完璧な作戦ね……!

「お兄様が騎士様から剣の指南を受けられることになったの。それでね、疲れたお兄様が喜んで食べてくれるような物を毎週作りたいわ」

 あくまでお兄様のために頑張る気でいる風に話す。コックのネイサン(これから接する機会が増えるだろうから聞いた)も、オスカー様のためならばと協力を惜しまないと言ってくれた。ちょろい。
 毎週料理を教わる日を打ち合わせして、厨房を出た。



 自室のベッドで大の字になる。令嬢らしからぬ姿を見られぬように、すでにメイドは下がらせてある。

 あとは今度アレクが来てくれた時に、夕食をご一緒しましょうとお誘いすることができれば。……できるかしら。アレクを実際に前にすると、ドキドキしてしまってまともに話せる自信がない。
 4年ほど夫婦だったというのに情けないことだけど、16歳のアレク……素敵だったわ。これほどまでのトキメキは、前の人生でもなかったわ。

 どうしてかしら。アレクが公爵令息然とした綺麗な姿だったから? まだ10代の溌剌さにクラッときたから? それとも私が6歳に戻って気持ちまで若返ったから?
 うん。全部かな。もう全部でしょう。そうでなくちゃこんなにもドキドキしてしまうこの気持ちに説明が付かないもの。

「うぅぅ……!」

 格好良いアレクをまた思い出して、胸が苦しくなり呻き声をもらす。
 大好きだった人の若い頃に会えるって、なんて……幸せなのかしら……!

 ベッドの上をゴロゴロと転がって、足を激しくバタつかせる。そうでもしないと叫びだしそうなのだ。
 あぁ、今夜は眠れるかしら……。
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