勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

文字の大きさ
上 下
28 / 100
第二部(アレク編)

1

しおりを挟む
 4月。
 本邸の使用人改革から少しして、本邸も離れのように温かい雰囲気が漂うようになった。以前はジェーンが常に私の侍女として働いていたが、今は3人のメイドが日替わりでやってくれている。

 お姉様の侍女と、お兄様の侍従には、それぞれ同い年の子が専属で付くようになった。私はまだ幼いので、ある程度までは日替わりのままで対応するということらしい。
 お姉様の侍女は子爵令嬢で、お兄様の侍従は伯爵令息。どちらも貴族ではあるが、困窮している家の次女と三男らしい。侯爵家のお金で貴族学校にも一緒に通うことになっていて、お姉様とお兄様の心強い味方になるようにしっかり教育していくのだとか。

 それから、週に3日、シュナイプ伯爵夫人が家庭教師をしてくださることになり、週に1日はダンスを習い、週に1日はカーラお母様と過ごし、空いている日の午後に料理を習うことになった。
 料理ができるようになることは、私の理想の未来に必要である。お父様が本邸の使用人改革をしてくださってから、執事となったジェームズに、コックから料理を習いたいとお願いした。
 その際、コックに『アドリアーナお嬢様の小さな手でも扱える包丁がないと危険です』と言われたため、それの完成を待っているところだ。

 実際に料理を習えるようになるまでは、お兄様と、お兄様の侍従であるニコラスが騎士達の訓練に参加しているのを見学していることが多い。
 二度目の人生は、理想の未来に向けてかなり充実している。



 そんな訓練を見学していたある日、訓練場にお父様と、青年がやってきた。
 私がいるところからでは金色の髪をしていて、お父様より少し背の低い男性ということしか分からない。身なりがとてもいいのでどこか名家の令息だろう。どうしてそんな方が訓練場にお父様と伴って訪れるのか気になったため、可能ならご挨拶させていただこうと近くまで行ってみることにした。

「アッ! アレキサンダー卿!!?」

 お兄様の素っ頓狂な声が聞こえてくる。かなり動揺しているらしく、お父様に窘められているようだ。

 アレキサンダー卿といえば、お兄様の憧れの騎士様の名だったような。確かノヴァック公爵家の嫡男で、14歳で従騎士となり、つい最近、15歳で正騎士になられたとお兄様が大騒ぎしていた。
 そんな方がなぜ侯爵家の訓練場に?

「オスカー・スタングロムと申します! お会いできて光栄でございます!」

 お兄様が弾けるような笑顔で挨拶し、進んで握手を求めている。いつもクールぶっているお兄様がはしゃいでいることがありありと見てとれて微笑ましい。

「アレキサンダー・ノヴァックだ。こちらこそ会えて嬉しいよ」

 お兄様の発する大きな声でなく、落ち着いた声も聞こえるほどの距離まで近付いた時、お父様が私に気が付いた。

「あぁ、アニーもいたのか。お前もご挨拶させてもらいなさい」

「はい。お初にお目にかかります。アドリアーナ・スタングロムと申します」

 公爵令息に対し、深く頭を下げたカーテシーから視線を上げると、そこにいたのは、10代の青年の姿であるが紛れもなく、前の人生での私の夫……アレクだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!

らんか
恋愛
 あれ?    何で私が悪役令嬢に転生してるの?  えっ!   しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!  国外追放かぁ。  娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。  そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。  愛し子って、私が!?  普通はヒロインの役目じゃないの!?  

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね

星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』 悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。 地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……? * この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。 * 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...