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第二部(アレク編)
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4月。
本邸の使用人改革から少しして、本邸も離れのように温かい雰囲気が漂うようになった。以前はジェーンが常に私の侍女として働いていたが、今は3人のメイドが日替わりでやってくれている。
お姉様の侍女と、お兄様の侍従には、それぞれ同い年の子が専属で付くようになった。私はまだ幼いので、ある程度までは日替わりのままで対応するということらしい。
お姉様の侍女は子爵令嬢で、お兄様の侍従は伯爵令息。どちらも貴族ではあるが、困窮している家の次女と三男らしい。侯爵家のお金で貴族学校にも一緒に通うことになっていて、お姉様とお兄様の心強い味方になるようにしっかり教育していくのだとか。
それから、週に3日、シュナイプ伯爵夫人が家庭教師をしてくださることになり、週に1日はダンスを習い、週に1日はカーラお母様と過ごし、空いている日の午後に料理を習うことになった。
料理ができるようになることは、私の理想の未来に必要である。お父様が本邸の使用人改革をしてくださってから、執事となったジェームズに、コックから料理を習いたいとお願いした。
その際、コックに『アドリアーナお嬢様の小さな手でも扱える包丁がないと危険です』と言われたため、それの完成を待っているところだ。
実際に料理を習えるようになるまでは、お兄様と、お兄様の侍従であるニコラスが騎士達の訓練に参加しているのを見学していることが多い。
二度目の人生は、理想の未来に向けてかなり充実している。
そんな訓練を見学していたある日、訓練場にお父様と、青年がやってきた。
私がいるところからでは金色の髪をしていて、お父様より少し背の低い男性ということしか分からない。身なりがとてもいいのでどこか名家の令息だろう。どうしてそんな方が訓練場にお父様と伴って訪れるのか気になったため、可能ならご挨拶させていただこうと近くまで行ってみることにした。
「アッ! アレキサンダー卿!!?」
お兄様の素っ頓狂な声が聞こえてくる。かなり動揺しているらしく、お父様に窘められているようだ。
アレキサンダー卿といえば、お兄様の憧れの騎士様の名だったような。確かノヴァック公爵家の嫡男で、14歳で従騎士となり、つい最近、15歳で正騎士になられたとお兄様が大騒ぎしていた。
そんな方がなぜ侯爵家の訓練場に?
「オスカー・スタングロムと申します! お会いできて光栄でございます!」
お兄様が弾けるような笑顔で挨拶し、進んで握手を求めている。いつもクールぶっているお兄様がはしゃいでいることがありありと見てとれて微笑ましい。
「アレキサンダー・ノヴァックだ。こちらこそ会えて嬉しいよ」
お兄様の発する大きな声でなく、落ち着いた声も聞こえるほどの距離まで近付いた時、お父様が私に気が付いた。
「あぁ、アニーもいたのか。お前もご挨拶させてもらいなさい」
「はい。お初にお目にかかります。アドリアーナ・スタングロムと申します」
公爵令息に対し、深く頭を下げたカーテシーから視線を上げると、そこにいたのは、10代の青年の姿であるが紛れもなく、前の人生での私の夫……アレクだった。
本邸の使用人改革から少しして、本邸も離れのように温かい雰囲気が漂うようになった。以前はジェーンが常に私の侍女として働いていたが、今は3人のメイドが日替わりでやってくれている。
お姉様の侍女と、お兄様の侍従には、それぞれ同い年の子が専属で付くようになった。私はまだ幼いので、ある程度までは日替わりのままで対応するということらしい。
お姉様の侍女は子爵令嬢で、お兄様の侍従は伯爵令息。どちらも貴族ではあるが、困窮している家の次女と三男らしい。侯爵家のお金で貴族学校にも一緒に通うことになっていて、お姉様とお兄様の心強い味方になるようにしっかり教育していくのだとか。
それから、週に3日、シュナイプ伯爵夫人が家庭教師をしてくださることになり、週に1日はダンスを習い、週に1日はカーラお母様と過ごし、空いている日の午後に料理を習うことになった。
料理ができるようになることは、私の理想の未来に必要である。お父様が本邸の使用人改革をしてくださってから、執事となったジェームズに、コックから料理を習いたいとお願いした。
その際、コックに『アドリアーナお嬢様の小さな手でも扱える包丁がないと危険です』と言われたため、それの完成を待っているところだ。
実際に料理を習えるようになるまでは、お兄様と、お兄様の侍従であるニコラスが騎士達の訓練に参加しているのを見学していることが多い。
二度目の人生は、理想の未来に向けてかなり充実している。
そんな訓練を見学していたある日、訓練場にお父様と、青年がやってきた。
私がいるところからでは金色の髪をしていて、お父様より少し背の低い男性ということしか分からない。身なりがとてもいいのでどこか名家の令息だろう。どうしてそんな方が訓練場にお父様と伴って訪れるのか気になったため、可能ならご挨拶させていただこうと近くまで行ってみることにした。
「アッ! アレキサンダー卿!!?」
お兄様の素っ頓狂な声が聞こえてくる。かなり動揺しているらしく、お父様に窘められているようだ。
アレキサンダー卿といえば、お兄様の憧れの騎士様の名だったような。確かノヴァック公爵家の嫡男で、14歳で従騎士となり、つい最近、15歳で正騎士になられたとお兄様が大騒ぎしていた。
そんな方がなぜ侯爵家の訓練場に?
「オスカー・スタングロムと申します! お会いできて光栄でございます!」
お兄様が弾けるような笑顔で挨拶し、進んで握手を求めている。いつもクールぶっているお兄様がはしゃいでいることがありありと見てとれて微笑ましい。
「アレキサンダー・ノヴァックだ。こちらこそ会えて嬉しいよ」
お兄様の発する大きな声でなく、落ち着いた声も聞こえるほどの距離まで近付いた時、お父様が私に気が付いた。
「あぁ、アニーもいたのか。お前もご挨拶させてもらいなさい」
「はい。お初にお目にかかります。アドリアーナ・スタングロムと申します」
公爵令息に対し、深く頭を下げたカーテシーから視線を上げると、そこにいたのは、10代の青年の姿であるが紛れもなく、前の人生での私の夫……アレクだった。
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