勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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第一部(侯爵家編)

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 自室に戻ると、お茶の用意だけお願いして、昼食の時間までは本を読んで過ごすだけだからとジェーンを下がらせた。ジェーンを下がらせておくことを当たり前にするのも、これから自由に行動する時間を確保するのに役立つだろう。

 さぁ。と気合を入れて料理について書かれている本を開く。
 初歩と銘打っているくせに、いきなり料理を作る工程から書かれている。私のように全く経験がない人間にはレベルが高すぎる……と出鼻を挫かれながらも、何とか読み進める。が、当然だけれど目が滑る。

 そもそも料理ってどうしたら始められるのかしら? 前の人生では野菜の皮むきからやってみなさいと言われたけれど、野菜と包丁を手にした途端『ストーッップ!!!』と静止が入って、結局それ以降包丁を持たせてもらえなかったわ。
 お鍋に食材と適正な調味料を入れて煮込む、くらいはできそうな気がするけれど、まずは食材を適当な大きさにしないことには始まらないものね? やはり包丁を持つところから始まるはず……。
 この料理にはどんな調味料がどれだけ入っていて、どれくらいの時間を掛けて作られているのかなどの知識は本で得ることができた。包丁のスキルさえ身に付けば、本を見ながらならば何かが作れる……かもしれない。
 一度、離れで料理をしてみたいと言ってみましょう。やってみれば意外とできるかもしれないわ。

 そんなことを考えながら、午前中を過ごし、昼食を食べた。いつも通りのピリッとした空気の中で。
 料理本から料理の大変さを知ったことで、昼食をいつも以上に味わって食べることができた。それが仕事とはいえ、コックには感謝をしなければ。
 また給仕にお礼を伝えてと言って、食堂から出た。

 午後からはお兄様の剣の訓練だ。
 昼食後、しばらくすると訓練着を着たお兄様が部屋まで迎えに来てくれた。訓練場まで歩きながら、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。

「お兄様には侍女はいないのですか?」

「鬱陶しいから必要な時だけ呼ぶことにしてる」

 そういうのも有りなんだ……と思いながら後ろを歩くジェーンを見るとバツの悪そうな顔をしていた。やはりジュディスお母様から私を見張っておくようにとか言われているのかしら。

「あなたもそうしてくれる? 次は夕食前に声を掛けてくれる時でいいわ」

「ですが、私は奥様よりアドリアーナお嬢様のお世話を命じ……」

「下がれと言われたら下がれ」

「……はい」

 下がるまいとしていたジェーンだったが、お兄様に言われて引き下がった。

「アドリアーナ」

「はい?」

「もしこのことで母上から何か言われたら俺が下がらせたと言えばいい」

 お母様からジェーンを下がらせたことで何か言われたら、ということよね?

「ふふ、ありがとうございます。でも、そこでお兄様の名を出したりすればきっと余計に怒られますわ。もう何を言われようと気にしませんから、お兄様も気になさらないでください」

「……そうか」

 少し落ち込んでしまったようなお兄様が気になったけれど、すぐに訓練場に着いてしまったため、それ以上話をすることはできなかった。
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