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番外編
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翌朝、少しは眠れてやっぱり家に帰ることにして良かったと思いながらの出勤。でも花月の寝顔だけでも見れていたら精神的には今よりマシな気がする。
早朝会議のあと、役員室で鳴海に見合いのことを聞かれた。こういう時のこいつはいつも以上に鬱陶しい。
「女受けのするシャツとネクタイですか……是非見てみたかったです」
笑いを堪えながら言葉を吐く時のこいつが一番うざい。
「そんな面白いことが起こると知っていたら、私もお供したんですけどね」
「お前にだけはああいう場でそばにいられたくねぇ」
「ま、昨晩は私も恋人と予定があったので、あなたをからかうためだけにそれを蹴りはしませんが」
俺が嫌々見合いなんかをさせられていた裏で、自分は恋人と過ごした自慢か。一回死ね。
……鳴海の恋人。ってことは花月の友達の『みなみ』っていう奴のはず。昨日あいつが泊まるって言った『まもる』って奴がそいつのはず。
「……昨日の晩、会ったのか?」
「会ったというか、うちに呼んで泊まらせましたよ。今日は土曜ですしね」
「泊まった? お前の部屋に?」
「そうですが、それがどうかしましたか?」
「……いや」
つまり、花月が俺に嘘をついたってことか。……俺が帰らないことを知った上で、友達のところに泊まるって嘘まで吐いてどこに行きやがった。
携帯を取り出して花月の番号を呼び出したけど、すぐに留守電になった。何でもいいから蹴り上げたい衝動に駆られるくらいに腹が立つ。
「山下呼べ」
「はい? 何ですか、いきなり」
「いいから呼べ! 何回も言わすんじゃねぇ!」
ブツブツ言いながら山下に電話をする鳴海を睨みながら、昨日の花月の様子を思い出す。でも、いつも通りだったように思う。いつもと変わらない態度で、見送られた。俺が見合いなんかに行くのに。
俺に言えねぇことをする直前に、俺に対して普通の態度が取れるのか。その考えに行き着いた瞬間、俺の足は無意識に自分のデスクを蹴り飛ばしていた。
「昨日、俺が出てから花月はどうしてた」
山下がビクついて目を泳がせとるその面倒な感じにも腹が立つ。何なら一緒について来た風見にも腹が立つ。お前はお前の仕事をしてろよクソが。
「昨日は、友達と遊びに行くと言われてました。近くの駅まで車で送って欲しいと言われたのでお送りして、それだけです」
「遊びにって、どこへだ」
「聞いてません」
「……GPSは」
「すぐ確認します!」
鞄からタブレットを取り出して花月の現在地を調べる山下を心配そうに見ながら、風見が口を開いた。
「花月さんに何かあったんですか?」
俺はその質問に応えなかった。
「昨晩はどちらでお休みになられたんですか? その様子では、花月さんに昨日からお会いになっていないということですよね」
「昨日はうちに帰った」
「ご実家に? 珍しいこともあるものですね。花月さんが事務所に住まわれてからは……ああ、なるほど。ようやく事情が飲み込めました。花月さんから外泊すると言われたんでしょう。だからあなたは会社から距離のある事務所まで戻らずに、ご実家に帰られた。そして、花月さんの居場所を知りたがる理由は、外泊すると言われた先が美波くんの所だったからですね」
応えなかったのに、鳴海に全部言い当てられた。
「美波くんは私といましたからね。さて、花月さんは誰と遊んで、どこに泊まったんでしょうかね」
「…………」
だから今それを知ろうとしてんだろうが。鬱陶しい顔すんじゃねぇよ!
「……組長。花月さんのGPS、全部事務所を指してます」
「ああ? 携帯もか」
「携帯GPSは位置を測定できません」
そういやさっき留守電になったな。電源切ってんのか、電池が切れたか。
「あれだけ仕込んだGPSを全て持たずに出掛けるなんて、わざととしか思えませんね」
「たまたまじゃないですか。中には仕込んでないものも……」
「確かにあるがな。あいつの鞄には全部仕込んである。いつだったか、連れ去られてからは靴にも仕込んだ」
つまり、わざとだ。俺に居場所を知られないようにして、出掛けたんだ。
早朝会議のあと、役員室で鳴海に見合いのことを聞かれた。こういう時のこいつはいつも以上に鬱陶しい。
「女受けのするシャツとネクタイですか……是非見てみたかったです」
笑いを堪えながら言葉を吐く時のこいつが一番うざい。
「そんな面白いことが起こると知っていたら、私もお供したんですけどね」
「お前にだけはああいう場でそばにいられたくねぇ」
「ま、昨晩は私も恋人と予定があったので、あなたをからかうためだけにそれを蹴りはしませんが」
俺が嫌々見合いなんかをさせられていた裏で、自分は恋人と過ごした自慢か。一回死ね。
……鳴海の恋人。ってことは花月の友達の『みなみ』っていう奴のはず。昨日あいつが泊まるって言った『まもる』って奴がそいつのはず。
「……昨日の晩、会ったのか?」
「会ったというか、うちに呼んで泊まらせましたよ。今日は土曜ですしね」
「泊まった? お前の部屋に?」
「そうですが、それがどうかしましたか?」
「……いや」
つまり、花月が俺に嘘をついたってことか。……俺が帰らないことを知った上で、友達のところに泊まるって嘘まで吐いてどこに行きやがった。
携帯を取り出して花月の番号を呼び出したけど、すぐに留守電になった。何でもいいから蹴り上げたい衝動に駆られるくらいに腹が立つ。
「山下呼べ」
「はい? 何ですか、いきなり」
「いいから呼べ! 何回も言わすんじゃねぇ!」
ブツブツ言いながら山下に電話をする鳴海を睨みながら、昨日の花月の様子を思い出す。でも、いつも通りだったように思う。いつもと変わらない態度で、見送られた。俺が見合いなんかに行くのに。
俺に言えねぇことをする直前に、俺に対して普通の態度が取れるのか。その考えに行き着いた瞬間、俺の足は無意識に自分のデスクを蹴り飛ばしていた。
「昨日、俺が出てから花月はどうしてた」
山下がビクついて目を泳がせとるその面倒な感じにも腹が立つ。何なら一緒について来た風見にも腹が立つ。お前はお前の仕事をしてろよクソが。
「昨日は、友達と遊びに行くと言われてました。近くの駅まで車で送って欲しいと言われたのでお送りして、それだけです」
「遊びにって、どこへだ」
「聞いてません」
「……GPSは」
「すぐ確認します!」
鞄からタブレットを取り出して花月の現在地を調べる山下を心配そうに見ながら、風見が口を開いた。
「花月さんに何かあったんですか?」
俺はその質問に応えなかった。
「昨晩はどちらでお休みになられたんですか? その様子では、花月さんに昨日からお会いになっていないということですよね」
「昨日はうちに帰った」
「ご実家に? 珍しいこともあるものですね。花月さんが事務所に住まわれてからは……ああ、なるほど。ようやく事情が飲み込めました。花月さんから外泊すると言われたんでしょう。だからあなたは会社から距離のある事務所まで戻らずに、ご実家に帰られた。そして、花月さんの居場所を知りたがる理由は、外泊すると言われた先が美波くんの所だったからですね」
応えなかったのに、鳴海に全部言い当てられた。
「美波くんは私といましたからね。さて、花月さんは誰と遊んで、どこに泊まったんでしょうかね」
「…………」
だから今それを知ろうとしてんだろうが。鬱陶しい顔すんじゃねぇよ!
「……組長。花月さんのGPS、全部事務所を指してます」
「ああ? 携帯もか」
「携帯GPSは位置を測定できません」
そういやさっき留守電になったな。電源切ってんのか、電池が切れたか。
「あれだけ仕込んだGPSを全て持たずに出掛けるなんて、わざととしか思えませんね」
「たまたまじゃないですか。中には仕込んでないものも……」
「確かにあるがな。あいつの鞄には全部仕込んである。いつだったか、連れ去られてからは靴にも仕込んだ」
つまり、わざとだ。俺に居場所を知られないようにして、出掛けたんだ。
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