花を愛でる獅子【本編完結】

千環

文字の大きさ
上 下
103 / 108
番外編

4

しおりを挟む
 翌朝、少しは眠れてやっぱり家に帰ることにして良かったと思いながらの出勤。でも花月の寝顔だけでも見れていたら精神的には今よりマシな気がする。
 早朝会議のあと、役員室で鳴海に見合いのことを聞かれた。こういう時のこいつはいつも以上に鬱陶しい。

「女受けのするシャツとネクタイですか……是非見てみたかったです」

 笑いを堪えながら言葉を吐く時のこいつが一番うざい。

「そんな面白いことが起こると知っていたら、私もお供したんですけどね」

「お前にだけはああいう場でそばにいられたくねぇ」

「ま、昨晩は私も恋人と予定があったので、あなたをからかうためだけにそれを蹴りはしませんが」

 俺が嫌々見合いなんかをさせられていた裏で、自分は恋人と過ごした自慢か。一回死ね。
 ……鳴海の恋人。ってことは花月の友達の『みなみ』っていう奴のはず。昨日あいつが泊まるって言った『まもる』って奴がそいつのはず。

「……昨日の晩、会ったのか?」

「会ったというか、うちに呼んで泊まらせましたよ。今日は土曜ですしね」

「泊まった? お前の部屋に?」

「そうですが、それがどうかしましたか?」

「……いや」

 つまり、花月が俺に嘘をついたってことか。……俺が帰らないことを知った上で、友達のところに泊まるって嘘まで吐いてどこに行きやがった。
 携帯を取り出して花月の番号を呼び出したけど、すぐに留守電になった。何でもいいから蹴り上げたい衝動に駆られるくらいに腹が立つ。

「山下呼べ」

「はい? 何ですか、いきなり」

「いいから呼べ! 何回も言わすんじゃねぇ!」

 ブツブツ言いながら山下に電話をする鳴海を睨みながら、昨日の花月の様子を思い出す。でも、いつも通りだったように思う。いつもと変わらない態度で、見送られた。俺が見合いなんかに行くのに。
 俺に言えねぇことをする直前に、俺に対して普通の態度が取れるのか。その考えに行き着いた瞬間、俺の足は無意識に自分のデスクを蹴り飛ばしていた。



「昨日、俺が出てから花月はどうしてた」

 山下がビクついて目を泳がせとるその面倒な感じにも腹が立つ。何なら一緒について来た風見にも腹が立つ。お前はお前の仕事をしてろよクソが。

「昨日は、友達と遊びに行くと言われてました。近くの駅まで車で送って欲しいと言われたのでお送りして、それだけです」

「遊びにって、どこへだ」

「聞いてません」

「……GPSは」

「すぐ確認します!」

 鞄からタブレットを取り出して花月の現在地を調べる山下を心配そうに見ながら、風見が口を開いた。

「花月さんに何かあったんですか?」

 俺はその質問に応えなかった。

「昨晩はどちらでお休みになられたんですか? その様子では、花月さんに昨日からお会いになっていないということですよね」

「昨日はうちに帰った」

「ご実家に? 珍しいこともあるものですね。花月さんが事務所に住まわれてからは……ああ、なるほど。ようやく事情が飲み込めました。花月さんから外泊すると言われたんでしょう。だからあなたは会社から距離のある事務所まで戻らずに、ご実家に帰られた。そして、花月さんの居場所を知りたがる理由は、外泊すると言われた先が美波くんの所だったからですね」

 応えなかったのに、鳴海に全部言い当てられた。

「美波くんは私といましたからね。さて、花月さんは誰と遊んで、どこに泊まったんでしょうかね」

「…………」

 だから今それを知ろうとしてんだろうが。鬱陶しい顔すんじゃねぇよ!

「……組長。花月さんのGPS、全部事務所を指してます」

「ああ? 携帯もか」

「携帯GPSは位置を測定できません」

 そういやさっき留守電になったな。電源切ってんのか、電池が切れたか。

「あれだけ仕込んだGPSを全て持たずに出掛けるなんて、わざととしか思えませんね」

「たまたまじゃないですか。中には仕込んでないものも……」

「確かにあるがな。あいつの鞄には全部仕込んである。いつだったか、連れ去られてからは靴にも仕込んだ」

 つまり、わざとだ。俺に居場所を知られないようにして、出掛けたんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...