花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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番外編

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 見合いというものは総じてくだらない。周りの人間が盛り上がるだけで、当の本人は嫌々来てやっているだけ。まあ今回に限っては、じじいの顔を立てて、それなりの態度で挑んでやるがな。
 誰が指定したのか分からないが、片道9時間もかけて関西のホテルにまで来てやった時点で、俺にしては譲歩し過ぎなくらいだと自分で思う。
 こういうホテルに連れて来たら、花月はきっとおどおどしながら俺にくっ付いて歩くんだろうな、と思ったら笑えた。いきなり鼻で笑った俺に、護衛のためについて来た周りの奴らがビビっている気配がする。

 鳴海に言われた通り、一旦ロビーのラウンジに向かう。おそらく、野田の人間とそこで落ち合うことになっているのだろう。
 そして明らかに堅気ではない雰囲気の集団を見つけた。あの顔触れは……侠心会か?

「……何で清次さんが来てんだ。じじいは?」

「馬鹿野郎おめぇ、親父が直々に付き添ってやるわけねぇだろぃ。兄貴の俺で我慢しやがれ」

「清次さんなんが不満なんじゃねぇよ。あのクソじじいの頼みだからわざわざ関西にまでこの俺が出向いてやってんのに、連絡も寄越さねぇ上に顔も出さねぇのはどういうつもりだって言ってんだよ」

「何でぃ。そういうことなら親父から伝言預かってるぜぃ」

「……伝言?」

「相手さんにもう一度会いたいと思わせろ、とさ」

「はぁ? 相手の女にか?」

「親父からおめぇのシャツとネクタイを買って行くように言われたから、女受けしそうなやつ選んできてやったぜぃ」

 手渡されたもの見て絶句する。ピンクのステッチが入ったシャツに、黄色のネクタイとチャラチャラしたデザインのネクタイピン……。どんな顔してこれを身に付けろっつーんだよ! ふざっけんなクソが!!

「髪型もセットし直せよ。爽やかな感じにな!」

 爽やかと俺を結び付けんな。無理だろ。俺がどう足掻いても爽やかにはならねぇだろうが。なりたくもないがな! これっぽっちも!
 この場にいないクソじじいに苛立ちながら、清次さんからクソみてぇなシャツとネクタイをひったくるように受け取る。清次さんが用意したという部屋で着替えて、髪も少し整え直した。
 鏡に映る自分に死ぬほど嫌悪感を覚える。こんな格好、誰にも見られたくないと心の底から思う。



 ホテルのレストランで見合いが始まった。見合いというよりは、食事会という方が適当か。
 相手の女はハタチそこそこの小娘。まあ27の俺や、25の狼と見合いさせようとするのだから当たり前なのだが。笑いもしねぇし、話もまともに出来ない女。こんなんだったら花月とここでメシを食いたい。
 目をキラキラさせて、どれもこれも美味い美味いと言いながら頬張る花月が目に浮かぶ。……ああ、ちょうどあそこに座っている女2人の片方がそんな感じだな。

「…………」

 あの女、見れば見るほど花月に似ている気がする。特に口元が……本人かというくらいに似ている。喋る時の口の動きも、咀嚼する時の癖も、花月そのものだ。
 でも女だ。目元も似ているようだが違う。大体、ここは関西だし。他人の空似って現実にあるんだなと納得する。
 このつまらねぇ食事会も、あの女を見ていたらちょっとは気が紛れそうだ。

「結城さん、恋人はおらへんのですか?」

 じじいの言う『小さい銀行』は、蓋を開けてみれば、立派な都市銀行。それも、野田の敵対勢力とズブズブのクソ銀行の頭取。
 じじいも、このタヌキ親父も、どういう腹か知らねぇが、めんどくさい探り合いに俺を巻き込むな。

「私のような人間とは、よほどのもの好きじゃないと付き合おうなんて思わないでしょう」

「そんなことないやろう。君はシュッとしてイケメンやし」

「女性に好かれる風貌じゃ無いことは自覚してますよ」

 花月が一度、俺のことを『野獣みたい』と言ったことを思い出す。『顔が怖い』とも。でもしばらくしたら『無駄にかっこいい』とも言ってたか。結局どっちだよ。俺の顔は好きなのか、嫌いなのか。
 俺のどこを好いてくれて、そばにいることを選んでくれたのか、今の俺には分からない。例えば、顔とかそんな些細なものでも花月が良いと思ってくれるんだったら、ただただ嬉しい。

「そしたら今は恋人はおらへんのやね?」

「付き合っている女性はいません」

 満足そうな顔をしているタヌキ親父。付き合っている女はいなくても、男はいるんだがな。嘘は言っていない。

「でも、ああ、こんなことを言うと似合わないと笑われるんですが……忘れられない人が、いるんです。まあ、まだまだ子供だった頃の、それも片思いなんですけどね」

 女が驚いた顔を隠しもせず俺の方を見た。俺みたいな奴がこういう話をすると女は結構興味を示す。俺が女相手に使う鉄板ネタ。

「……今も、想い続けたはるんですか?」

 釣れた。ちょろ過ぎる。
 俺は女に対して、その質問を肯定していると思わせる笑顔を作った。
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