花を愛でる獅子【本編完結】

千環

文字の大きさ
上 下
101 / 108
番外編

2

しおりを挟む
 見合いというものは総じてくだらない。周りの人間が盛り上がるだけで、当の本人は嫌々来てやっているだけ。まあ今回に限っては、じじいの顔を立てて、それなりの態度で挑んでやるがな。
 誰が指定したのか分からないが、片道9時間もかけて関西のホテルにまで来てやった時点で、俺にしては譲歩し過ぎなくらいだと自分で思う。
 こういうホテルに連れて来たら、花月はきっとおどおどしながら俺にくっ付いて歩くんだろうな、と思ったら笑えた。いきなり鼻で笑った俺に、護衛のためについて来た周りの奴らがビビっている気配がする。

 鳴海に言われた通り、一旦ロビーのラウンジに向かう。おそらく、野田の人間とそこで落ち合うことになっているのだろう。
 そして明らかに堅気ではない雰囲気の集団を見つけた。あの顔触れは……侠心会か?

「……何で清次さんが来てんだ。じじいは?」

「馬鹿野郎おめぇ、親父が直々に付き添ってやるわけねぇだろぃ。兄貴の俺で我慢しやがれ」

「清次さんなんが不満なんじゃねぇよ。あのクソじじいの頼みだからわざわざ関西にまでこの俺が出向いてやってんのに、連絡も寄越さねぇ上に顔も出さねぇのはどういうつもりだって言ってんだよ」

「何でぃ。そういうことなら親父から伝言預かってるぜぃ」

「……伝言?」

「相手さんにもう一度会いたいと思わせろ、とさ」

「はぁ? 相手の女にか?」

「親父からおめぇのシャツとネクタイを買って行くように言われたから、女受けしそうなやつ選んできてやったぜぃ」

 手渡されたもの見て絶句する。ピンクのステッチが入ったシャツに、黄色のネクタイとチャラチャラしたデザインのネクタイピン……。どんな顔してこれを身に付けろっつーんだよ! ふざっけんなクソが!!

「髪型もセットし直せよ。爽やかな感じにな!」

 爽やかと俺を結び付けんな。無理だろ。俺がどう足掻いても爽やかにはならねぇだろうが。なりたくもないがな! これっぽっちも!
 この場にいないクソじじいに苛立ちながら、清次さんからクソみてぇなシャツとネクタイをひったくるように受け取る。清次さんが用意したという部屋で着替えて、髪も少し整え直した。
 鏡に映る自分に死ぬほど嫌悪感を覚える。こんな格好、誰にも見られたくないと心の底から思う。



 ホテルのレストランで見合いが始まった。見合いというよりは、食事会という方が適当か。
 相手の女はハタチそこそこの小娘。まあ27の俺や、25の狼と見合いさせようとするのだから当たり前なのだが。笑いもしねぇし、話もまともに出来ない女。こんなんだったら花月とここでメシを食いたい。
 目をキラキラさせて、どれもこれも美味い美味いと言いながら頬張る花月が目に浮かぶ。……ああ、ちょうどあそこに座っている女2人の片方がそんな感じだな。

「…………」

 あの女、見れば見るほど花月に似ている気がする。特に口元が……本人かというくらいに似ている。喋る時の口の動きも、咀嚼する時の癖も、花月そのものだ。
 でも女だ。目元も似ているようだが違う。大体、ここは関西だし。他人の空似って現実にあるんだなと納得する。
 このつまらねぇ食事会も、あの女を見ていたらちょっとは気が紛れそうだ。

「結城さん、恋人はおらへんのですか?」

 じじいの言う『小さい銀行』は、蓋を開けてみれば、立派な都市銀行。それも、野田の敵対勢力とズブズブのクソ銀行の頭取。
 じじいも、このタヌキ親父も、どういう腹か知らねぇが、めんどくさい探り合いに俺を巻き込むな。

「私のような人間とは、よほどのもの好きじゃないと付き合おうなんて思わないでしょう」

「そんなことないやろう。君はシュッとしてイケメンやし」

「女性に好かれる風貌じゃ無いことは自覚してますよ」

 花月が一度、俺のことを『野獣みたい』と言ったことを思い出す。『顔が怖い』とも。でもしばらくしたら『無駄にかっこいい』とも言ってたか。結局どっちだよ。俺の顔は好きなのか、嫌いなのか。
 俺のどこを好いてくれて、そばにいることを選んでくれたのか、今の俺には分からない。例えば、顔とかそんな些細なものでも花月が良いと思ってくれるんだったら、ただただ嬉しい。

「そしたら今は恋人はおらへんのやね?」

「付き合っている女性はいません」

 満足そうな顔をしているタヌキ親父。付き合っている女はいなくても、男はいるんだがな。嘘は言っていない。

「でも、ああ、こんなことを言うと似合わないと笑われるんですが……忘れられない人が、いるんです。まあ、まだまだ子供だった頃の、それも片思いなんですけどね」

 女が驚いた顔を隠しもせず俺の方を見た。俺みたいな奴がこういう話をすると女は結構興味を示す。俺が女相手に使う鉄板ネタ。

「……今も、想い続けたはるんですか?」

 釣れた。ちょろ過ぎる。
 俺は女に対して、その質問を肯定していると思わせる笑顔を作った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】嘘はBLの始まり

紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。 突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった! 衝撃のBLドラマと現実が同時進行! 俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡ ※番外編を追加しました!(1/3)  4話追加しますのでよろしくお願いします。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】神様はそれを無視できない

遊佐ミチル
BL
痩せぎすで片目眼帯。週三程度で働くのがせいっぱいの佐伯尚(29)は、誰が見ても人生詰んでいる青年だ。当然、恋人がいたことは無く、その手の経験も無い。 長年恨んできた相手に復讐することが唯一の生きがいだった。 住んでいたアパートの退去期限となる日を復讐決行日と決め、あと十日に迫ったある日、昨夜の記憶が無い状態で目覚める。 足は血だらけ。喉はカラカラ。コンビニのATMに出向くと爪に火を灯すように溜めてきた貯金はなぜか三桁。これでは復讐の武器購入や交通費だってままならない。 途方に暮れていると、昨夜尚を介抱したという浴衣姿の男が現れて、尚はこの男に江東区の月島にある橋の付近っで酔い潰れていて男に自宅に連れ帰ってもらい、キスまでねだったらしい。嘘だと言い張ると、男はその証拠をバッチリ録音していて、消して欲しいなら、尚の不幸を買い取らせろと言い始める。 男の名は時雨。 職業:不幸買い取りセンターという質屋の店主。 見た目:頭のおかしいイケメン。 彼曰く本物の神様らしい……。

愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う

柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。  大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。  その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。  そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。  ……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

処理中です...