花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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番外編

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 憧れの遊園地で遊ぶことよりも、結城の身の安全の方を優先してくれることに喜びを感じつつ、結城は口を開いた。

「俺が今日明日大阪にいることを知ってんのは限られた人間だけだし、こんならしくねぇ格好までしてる。心配しなくても大丈夫だ。それに明日は鈴音に警護も頼んであるしな」

「じゃあ明日は鈴音さんも一緒に遊べるんですか?」

「さすがに俺だってそこまで空気読めねー奴じゃねえよ。遠くからちゃーんと見てっから。だから安心して、二人は二人で楽しんでくれよな」

「え、でもせっかくの遊園地なのに鈴音さんだけ……」

「バカ、仕事だぞ。依頼したことはしっかりやってもらわねぇと困る」

「うん。それに下見と称して何回も遊びに行ったし、全アトラクション制覇もしたからさ。もちろん巽さんの金で。だから明日は真面目に仕事するよ。気遣ってくれてサンキュな」

 楽しかったねー、とにこやかに話す狼を見ながら花月はふと思う。結城よりも狼の方が有名で、つまりは狙われやすいのではないか、と。
 東京に住んでいるのに、東京にある結城組の名前は知らずとも、関西に本拠地を置く野田組の名前は知っていた。結城組は野田組の二次団体で、狼は野田組若頭。結城は野田組若頭補佐。どう考えても狼の方が知られているはず。
 それなのにどうして、狼は遊園地に行けたのだろう。鈴音と一緒だから? と花月は疑問に思った。

「狼さんも変装してたんですか?」

「あ? なんで?」

「結城より、狼さんの方が危険でしょ?」

 何となく空気がおかしくなる。皆一様に微妙な表情だ。言っていいものかどうか、結城に視線で訴えているような感じがする。

「え、何?」

「最近は極道も不景気で難しいっていうだけの話だ」

 結城が何を言っているのか分からない花月。

「は?」

「ただの血筋で若頭になった俺よりも、巽の方を目障りに思ってる人間が多いってことだよ。実質、うちの金を回してんのは巽だからな」

「え」

「おかげで組の外も内も俺を煙たがる奴ばかりだ。いつまでも昔みたいに極道がやっていけると思っているようなバカ共にどう思われようが構わねぇがな」

「っつーか巽さんがタロより狙われる可能性があるって話は確かだけど、そもそもタロには危機感ってもんが足りてねーんだよ。お前が一人フラフラ遊びに行って何回刺されそうになったよ? てか一回刺されてるし。いい加減、巽さんみたいに大人になってほしいぜ」
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