花を愛でる獅子【本編完結】

千環

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番外編

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 正門から少し歩いた所で待たせてあったタクシーに乗り込み、空港へ。そして飛行機に乗って関東へ。時刻は16時過ぎ。今夜はホテルに宿泊して、翌日の朝からテーマパークに行くと言う。軽く観光をしながら伝えられたその計画に期待を膨らませる花月は、心の底から喜んでいるのが傍目にも分かるほどはしゃいでいた。

「……そろそろ時間だな。メシ食いに行くぞ」

「はーい」

「随分素直だな」

「いつも素直だろ」

「どこがだ」

 にこにこ。終始ご機嫌である花月がとんでもなく可愛いと結城は思った。不機嫌だろうと結城にとっては確かに可愛いのだけれど。
 常に何らかの形で花月に触れていたい結城にとって、花月との外出は避けたい行為だ。なぜなら人目があると絶対に触れることを拒絶されるからである。結城と花月が共に暮らす部屋の中であっても、他に人がいれば触れることを少し嫌がる。しかし、今日は違った。肩を抱いても、腰を抱いても笑顔でそれを受け入れている。
 最初は嫌々だった旅行ではあったが、連れて来て良かったと思う結城だった。

「あっ、鈴音さんと狼さんも一緒なんだ! こんばんはー」

「おいーっす。巽さん、こちらご依頼の品でーす」

「おう、悪いな」

「依頼の品って?」

「明日の俺とお前の服」

「おお、持って来てないからどうすんのかと思ってた」

 何から何までぜーんぶ俺チョイスだよーん、と軽い調子で話しているのが、何でも屋の鈴音。仕事上はレオンと名乗っているが、親しい友人には本名を教えている。
 その傍らに立つ見るからに裏社会の人間風な男が野田狼。五代目野田組の若頭であり、六代目最有力候補。五代目の実孫である。結城も十分人相が悪いが、赤髪オールバックのせいもあってか狼はそれを上回る。
 一方の鈴音はと言えば、まるで良く出来た人形のように左右対称の整った顔に、綺麗なグリーンの瞳。淡いブラウンの柔らかい髪。160と少ししか無い小柄で華奢な身体。声を出さなければ男女の判別に困るような美しい外見をしている。
 ヤクザを恐がる花月にしては珍しく、狼には親しみを感じているし、鈴音も同様だ。

 席に着き、オーダーを済ませると、狼がしげしげと結城を見る。一方の結城は居心地が悪そうに舌打ちを一つ。

「巽がそういう格好してんの久々だな。いつも3ピースのジジくせぇスーツばっかだから新鮮だぜ」

「何がジジ臭ぇんだよ。あれが格好いいんだろうが。お前みたいなガキにはまだ分かんねぇんだろうがな」

「俺だってスーツくらい着る」

「お前の着方なんざホストにしか見えねぇよ。みっともないだけだ」

「俺も巽さんに一票~」

 鈴音の一言で、狼の空気がガラッと変わる。それまでは不遜な態度で結城と相対していたが、鈴音が結城に賛同するや否や双眸を崩した。

「えっ、やだやだ! これからは鈴音がかっこいいって思うスーツをかっこいいって思う着方で着るから!」

「別に似合ってないとは言ってねーだろ」

「俺より巽をかっこいいって鈴音が思うのがやだ! 俺が一番がいい!」

「お前、かっこよさで巽さんと張り合おうと思ってんの? つーか、俺がお前をかっこいいと思うと思ってんのも間違えてるからな?」

「えっ」

「お前は俺ん中で可愛いカテゴリだから。かっこいいとかじゃねぇから」

 当たり前だという顔をしている鈴音。今この瞬間に世界が終わったかのような絶望感漂う顔をしている狼。この二人の痴話喧嘩のようなやり取りはこの後もしばらく続くのだが、それはまた別のお話。

 そんなある意味微笑ましいが、傍迷惑な鈴音と狼はさて置き、花月はと言えば鈴音から手渡された洋服を見ていた。以前の花月ならば、二人のやり取りをハラハラしながら聞いていたものだが、もう慣れてしまった今となってはBGMに近い。
 花月自身が着るもの、結城が着るもの、その両方が常日頃の二人が身に付ける洋服とは趣がかなり違っていた。伊達眼鏡まである。凝りすぎだろうと花月は思った。

「あの、鈴音さんが選んだにしても、これってあんまり俺ららしくないっていうか……なんでこれなんですか?」

「巽さんってさ、裏では結構有名人っつーか顔知られてんのね。だからテーマパークで遊ぶなんて、割と危険な行為なわけよ。情報ってのはどっから漏れてるか分かんねーし。最悪刺されるとか撃たれるとかあるかもしんないから、ぱっと見では巽さんって分かんねーように選んだんだ。かづっちゃんもね」

「そんなんだったら俺、遊園地行けなくていいのに。結城が危ないことになったら嫌だし」

 心配そうな目をして、結城を見つめる花月は、未だ嘗てないほどの可愛さだった。結城の表情には表れないが。
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