85 / 108
番外編
一人でおでかけ
しおりを挟む
半年以上かけて、無事に自動車の普通免許を取得できた花月。今日は初めて、一人で車に乗ってお出掛け。行き先は、実母の屋敷だ。
結城と暮らすことを伝えた日。たまには遊びに来るようにと言われ、花月は頷いた。しかし、実際に会いに行く気はなかった。それが花月なりのケジメのつもりだった。
数日前、結城組の事務所に花月宛の手紙が届いた。差出人は不明だったため、花月の手元に届いたのは山下が中身を確かめてからだったが。
山下に急かされながら手紙を読んだ。差出人は実母。内容は『妊娠をした』というものだった。
「花月さん! おはようございます!」
組が所有する車の整備士が大きな声で挨拶をした。彼は組員というわけではなく、車の整備を専門に結城個人に雇われている。おかげで、恐いという印象を受けない。いつまで経っても組員を恐がって馴染めずにいる花月だが、彼は別だった。柔らかい印象を受ける話し方も一因かもしれない。
「おはようございます。航平さん」
「ご実家に行かれるの、今日でしたよね。花月さんのラパン、今日は特別綺麗に洗車しておきましたよ」
「毎日何台も洗車して大変ですね。ありがとうございます。……あれ? 今日は自分で運転して行ったのかな?」
いつも停まっている場所に、結城の愛車が無いことに気が付いた。いかにもな黒いレクサスが結城の愛車だ。
「あ、組長ですか? 今日は風見さんの運転で出られましたよ」
「そういうこともあるんですね。あいつが自分の車を運転させるのなんか珍しくないです?」
「そうですね。鳴海さんと風見さん以外には俺も見たことありませんよ」
「へー! やっぱ風見さんって結城に信頼されてるんだな」
実際、結城が信頼している人間はただの二人。鳴海と風見だけだ。他の人間には裏切られることもあるだろうという前提が常にある。
何よりも大切な花月の世話役を山下に任せたのは、山下が風見を裏切ることはないと知っているからだ。結城のために動かなくても、風見のためなら動く。山下がそういう人間であることを結城は知っている。
「運転、気を付けて下さいね。お一人で運転されるの初めてですよね?」
「大丈夫だと思うんですけど……そんな遠いわけじゃないし」
「カーナビは車を動かす前に設定して下さいね。絶対に運転中に操作しちゃダメですよ」
「そんな余裕ないですって」
航平から車のキーを受け取り、運転席に乗車した。まずはシートベルトをする。カーナビの目的地を実母の屋敷に設定してハンドルを握った。ギアをドライブに入れて、ブレーキペダルから足を離す。航平が帽子を取って、頭を下げている姿を視界の端に捉えて、苦笑する。
俺に対して、そんなに礼儀正しくする必要はないのに、と。妙に恭しく接してくるせいで、余計に組員のことが恐いと感じる花月だった。
結城と暮らすことを伝えた日。たまには遊びに来るようにと言われ、花月は頷いた。しかし、実際に会いに行く気はなかった。それが花月なりのケジメのつもりだった。
数日前、結城組の事務所に花月宛の手紙が届いた。差出人は不明だったため、花月の手元に届いたのは山下が中身を確かめてからだったが。
山下に急かされながら手紙を読んだ。差出人は実母。内容は『妊娠をした』というものだった。
「花月さん! おはようございます!」
組が所有する車の整備士が大きな声で挨拶をした。彼は組員というわけではなく、車の整備を専門に結城個人に雇われている。おかげで、恐いという印象を受けない。いつまで経っても組員を恐がって馴染めずにいる花月だが、彼は別だった。柔らかい印象を受ける話し方も一因かもしれない。
「おはようございます。航平さん」
「ご実家に行かれるの、今日でしたよね。花月さんのラパン、今日は特別綺麗に洗車しておきましたよ」
「毎日何台も洗車して大変ですね。ありがとうございます。……あれ? 今日は自分で運転して行ったのかな?」
いつも停まっている場所に、結城の愛車が無いことに気が付いた。いかにもな黒いレクサスが結城の愛車だ。
「あ、組長ですか? 今日は風見さんの運転で出られましたよ」
「そういうこともあるんですね。あいつが自分の車を運転させるのなんか珍しくないです?」
「そうですね。鳴海さんと風見さん以外には俺も見たことありませんよ」
「へー! やっぱ風見さんって結城に信頼されてるんだな」
実際、結城が信頼している人間はただの二人。鳴海と風見だけだ。他の人間には裏切られることもあるだろうという前提が常にある。
何よりも大切な花月の世話役を山下に任せたのは、山下が風見を裏切ることはないと知っているからだ。結城のために動かなくても、風見のためなら動く。山下がそういう人間であることを結城は知っている。
「運転、気を付けて下さいね。お一人で運転されるの初めてですよね?」
「大丈夫だと思うんですけど……そんな遠いわけじゃないし」
「カーナビは車を動かす前に設定して下さいね。絶対に運転中に操作しちゃダメですよ」
「そんな余裕ないですって」
航平から車のキーを受け取り、運転席に乗車した。まずはシートベルトをする。カーナビの目的地を実母の屋敷に設定してハンドルを握った。ギアをドライブに入れて、ブレーキペダルから足を離す。航平が帽子を取って、頭を下げている姿を視界の端に捉えて、苦笑する。
俺に対して、そんなに礼儀正しくする必要はないのに、と。妙に恭しく接してくるせいで、余計に組員のことが恐いと感じる花月だった。
13
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる