花を愛でる獅子【本編完結】

番外編

3

「花づ……！」

「……ん？」

　ピチャ……と微かに聞こえた音に我を失いそうになる。クリームの付いた指を、花月が咥えて舐めたのだ。予想外のことに固まる結城。花月に掴まれた手を振り払うことすらできない。

「結城……チューしよ？」

　そう言って花月自ら結城の足に跨る。少し長い結城の前髪を掻き上げるようにしながら両腕を後頭部に回す仕草は、完全に挑発するようなそれだった。

「……勘弁してくれ……」

「チュー、して？」

「あとで文句言っても俺は知らねぇからな」

「ンっ！」

　細い腰と首を身動きが出来ないくらいにがっちりと掴み、結城は花月にキスをした。『キス』などという甘いものではない。肉食動物が草食動物を捕食するかのように荒々しい。
　花月の身体から力が抜けてしまったことを確認するや否や、子供を抱っこするようにして花月を抱いて立ち上がった。そして、シャンパンのボトルを素早く掴み取り、ソファへ移動する。

　シャンパンが零れないように親指で栓をして、花月を優しく寝かせる。されるがままになっているが、花月のとろんとした目は結城を捉えたままだ。これからされるであろうことを期待するかのような視線に、結城は煽られる。

「……もっと……」

　小さな声だったが、確かにそう聞こえた。
　手にしていたシャンパンをボトルに直接口を付けて飲む。この程度の量で結城が酔うことはない。だが、このまま舌を絡めれば、間接的に花月がアルコールを摂取することになる。もはや自身を止めることが出来ないくらいに興奮している結城にとって、花月が正気に戻ることは避けたい事態だった。

　少しずつシャンパンを飲ませるように、何度も何度も深く口付ける。結城は内心迷っていた。このまま行為を続けていいものかと。しかし、手が意思を持っているかのように着々と花月の服を脱がしにかかる。そして、花月も抵抗しない。

「……ヤバイ……だめだろこれは……」

　無意識に漏れる結城の独り言も虚しく、花月はもう上半身が裸同然。白い肌に吸い付けられるように脇腹をなぞれば『ンッ……』と甘い声が聞こえる始末。

「クソ……まじでやっちまうぞ。このバカは」

　誘ったのは、花月。お酒を飲んでいるとはいえ、誘ったのは……花月。目を閉じて、そう自身に言い聞かせるように何度か頭の中で唱える。

　そして、目を開いて絶句した。

「……は？」

　花月の頬を軽く叩いてみる。

「…………これは、ねぇだろ」

　寝ていた。スヤスヤと。それはもう気持ち良さそうに。

「……ハァ……あー！　くそ！」

　花月の上から退いて、残ったシャンパンを飲み干す。うな垂れた結城が最後に漏らしたのは、意外にも……。

「助かった……」

　という一言だった。