66 / 108
番外編
2
しおりを挟む
「山下さんって、今どうしてる?」
花月を拉致した犯人グループの内の捕まえた二人には、俺が高校生の頃に何かをして恨まれていたらしい。正直、覚えがない。
小学4年で野田の本家に行くことになって、狼のお守りさせられることになったけど、おかげで中高一貫のいいところに通えたし、そこでは割と大人しくしていたはずなんだが。まぁ街中で出会った近くのどうしようもない高校の奴だったら何度か潰したこともあったか。
結局逃げられてしまったもう一人の男の正体は鈴音しか知らないままだし、じじいにも清次さんにも鈴音の知り合いだと報告はしていない。捕まえた二人がそいつに使われたってことにも気付かずに自分らが主犯のつもりでいたし、鈴音と同種の人間を追ったところで時間の無駄だ。
ヘマをした山下のことを守って欲しいと花月に言われたと、鈴音から聞いた時は、やっぱり花月は俺のそばに置いておくべきではないと改めて思った。
今も山下のことを心配して聞いてきてるし。実際、組で山下の手を心配した奴なんざ風見くらいのものだ。風見は風見で、負い目もあったんだろうが。あいつも優しすぎて、ダメだな。
「山下はしばらく料理は無理だろうな。メシは何か買って来させる」
「そういうことを聞いてんじゃねぇって。生活に支障はないのかとか、痛みとか、そういうのが知りたいの」
「風見と一緒にいるから、なんだかんだと風見が世話してんだろ。そのまま一緒に暮らすことにしたらしいし、山下にすりゃあ僥倖というか……何なら怪我してラッキーぐらいには思ってんじゃねぇか」
「どういうこと?」
「山下は風見にベタ惚れだ。……俺から見りゃ風見も大概だがな」
ギョッとした表情の花月も可愛いな、とか余計なことを考える自分も大概だな。自分でも呆れる。
「だから明日からしばらくは俺が大学まで送る。迎えも行けたら行く」
「……は?」
「俺の車には如何にもで乗りたくないとか言い出しそうだから、適当な軽自動車買っておいたぞ。あとお前、次の長期休暇に教習所行け。鳴海がお前の友達と一緒に行けるように申し込みしたらしい。何ていう奴だったか……みなみ、だったか? 免許が取れたら、その軽はお前が自由に使って構わない」
「え、ちょ。車って」
「俺が俺の恋人に車をプレゼントしたって何の問題もねぇだろうが」
不満そうな顔をする花月は、それでも『恋人』というワードを出したせいで文句を言いにくそうにしている。今後は何をする時でもそう言ってやろうと密かに思った。
学費を出した時も、洋服を買ってやる時も、どっかでメシを食う時も、何にせよ金が絡む時には居心地の悪そうな表情をして、必要以上に気にする花月。それが当然だとでかい顔をされるよりはマシなんだろうが、もうちょっと素直に俺に甘えてもいいだろうとも思う。
花月を何不自由なく過ごさせてやるくらい俺にとっては容易なことだし、何より俺みたいな奴はそれで自分の欲も満たされる。
「……恋人に、なったんだよな。俺ら」
「一昨日からな」
「俺のこと……好き?」
不安そうでもあり、期待もしてますって顔。そういや俺は言ってなかったか。
「聞きたいって?」
「ちゃんと言葉で聞かせて欲しい」
じっと俺の目を見つめる花月の頬に手を伸ばした。頭を固定してすかさずキスをする。
「お前への気持ちをあえて言葉にするなら……愛してる、だろうな。好きなんていう言葉では収まんねぇよ」
花月が好き?
そんなもんじゃあ全然足りねぇ。全部、何もかも、髪の毛一本、爪の先まで俺のものにしたい。他の誰かを見るな。俺のためだけに声を出して、笑って、俺だけに触れればいい。
でもそれが叶ったとしたら、きっとそれは花月の姿をした花月じゃない誰か、になるような気がして……俺はやっぱり遠くから眺める花月さえも愛おしいんだと、自分の気持ちの重さに気付かされる。
「……あ、りがとっ」
顔を赤く染めて恥じらう花月が、意を決したみたいにぐっと眉間に皺を寄せて、俺に拙いキスをした。
たったそれだけ。ただ触れるだけのキス。何ならちょっと唇と唇がぶつかっただけ。それでも俺は身動きができなくなるくらい、その下手くそなキスが嬉しかった。
花月を拉致した犯人グループの内の捕まえた二人には、俺が高校生の頃に何かをして恨まれていたらしい。正直、覚えがない。
小学4年で野田の本家に行くことになって、狼のお守りさせられることになったけど、おかげで中高一貫のいいところに通えたし、そこでは割と大人しくしていたはずなんだが。まぁ街中で出会った近くのどうしようもない高校の奴だったら何度か潰したこともあったか。
結局逃げられてしまったもう一人の男の正体は鈴音しか知らないままだし、じじいにも清次さんにも鈴音の知り合いだと報告はしていない。捕まえた二人がそいつに使われたってことにも気付かずに自分らが主犯のつもりでいたし、鈴音と同種の人間を追ったところで時間の無駄だ。
ヘマをした山下のことを守って欲しいと花月に言われたと、鈴音から聞いた時は、やっぱり花月は俺のそばに置いておくべきではないと改めて思った。
今も山下のことを心配して聞いてきてるし。実際、組で山下の手を心配した奴なんざ風見くらいのものだ。風見は風見で、負い目もあったんだろうが。あいつも優しすぎて、ダメだな。
「山下はしばらく料理は無理だろうな。メシは何か買って来させる」
「そういうことを聞いてんじゃねぇって。生活に支障はないのかとか、痛みとか、そういうのが知りたいの」
「風見と一緒にいるから、なんだかんだと風見が世話してんだろ。そのまま一緒に暮らすことにしたらしいし、山下にすりゃあ僥倖というか……何なら怪我してラッキーぐらいには思ってんじゃねぇか」
「どういうこと?」
「山下は風見にベタ惚れだ。……俺から見りゃ風見も大概だがな」
ギョッとした表情の花月も可愛いな、とか余計なことを考える自分も大概だな。自分でも呆れる。
「だから明日からしばらくは俺が大学まで送る。迎えも行けたら行く」
「……は?」
「俺の車には如何にもで乗りたくないとか言い出しそうだから、適当な軽自動車買っておいたぞ。あとお前、次の長期休暇に教習所行け。鳴海がお前の友達と一緒に行けるように申し込みしたらしい。何ていう奴だったか……みなみ、だったか? 免許が取れたら、その軽はお前が自由に使って構わない」
「え、ちょ。車って」
「俺が俺の恋人に車をプレゼントしたって何の問題もねぇだろうが」
不満そうな顔をする花月は、それでも『恋人』というワードを出したせいで文句を言いにくそうにしている。今後は何をする時でもそう言ってやろうと密かに思った。
学費を出した時も、洋服を買ってやる時も、どっかでメシを食う時も、何にせよ金が絡む時には居心地の悪そうな表情をして、必要以上に気にする花月。それが当然だとでかい顔をされるよりはマシなんだろうが、もうちょっと素直に俺に甘えてもいいだろうとも思う。
花月を何不自由なく過ごさせてやるくらい俺にとっては容易なことだし、何より俺みたいな奴はそれで自分の欲も満たされる。
「……恋人に、なったんだよな。俺ら」
「一昨日からな」
「俺のこと……好き?」
不安そうでもあり、期待もしてますって顔。そういや俺は言ってなかったか。
「聞きたいって?」
「ちゃんと言葉で聞かせて欲しい」
じっと俺の目を見つめる花月の頬に手を伸ばした。頭を固定してすかさずキスをする。
「お前への気持ちをあえて言葉にするなら……愛してる、だろうな。好きなんていう言葉では収まんねぇよ」
花月が好き?
そんなもんじゃあ全然足りねぇ。全部、何もかも、髪の毛一本、爪の先まで俺のものにしたい。他の誰かを見るな。俺のためだけに声を出して、笑って、俺だけに触れればいい。
でもそれが叶ったとしたら、きっとそれは花月の姿をした花月じゃない誰か、になるような気がして……俺はやっぱり遠くから眺める花月さえも愛おしいんだと、自分の気持ちの重さに気付かされる。
「……あ、りがとっ」
顔を赤く染めて恥じらう花月が、意を決したみたいにぐっと眉間に皺を寄せて、俺に拙いキスをした。
たったそれだけ。ただ触れるだけのキス。何ならちょっと唇と唇がぶつかっただけ。それでも俺は身動きができなくなるくらい、その下手くそなキスが嬉しかった。
15
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
イケメンに惚れられた俺の話
モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。
こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。
そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。
どんなやつかと思い、会ってみると……
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる