花を愛でる獅子【本編完結】

千環

文字の大きさ
上 下
63 / 108
番外編

5

しおりを挟む
「年末年始どうすんだ? また地元に帰るんだろ?」

 次の講義がある教室に向かって歩いていると、花月が言うほど興味の無さそうな顔でそう聞いてきた。
 そういやもう年末近いんだなーと思って浮かんだのは鳴海さんのこと。クリスマス、鳴海さんはどこで誰と過ごすのだろうと考えて、頭を掻いた。その拍子にセットが崩れたから即座に直した。何してんだ俺は。

「バイトあるから年明けの4日くらいに帰ろうかと思ってる」

「まじ? もし大晦日一人なんだったら一緒に年越ししねぇ?」

「俺はいいけど花月はいいのか? お父さん一人になっちゃうぞ?」

「あー、何ていうか……そういう時に遊べるような友達もいないのかって、思われたくなくてさ」

「ふーん? じゃあとりあえず俺ん家来る?」

「おー。ありがとう」

 そっけない口調とは裏腹に、嬉しそうに笑うから、実は高確率で断られることを想定してたんだろうと分かった。あー、大晦日の予定が空いててよかった。なんて、俺も思ってしまう。
 そんでふと思い出す。鳴海さんには彼女さん、もしくは奥さんがいるんじゃなかったっけ。

『シャワールームもキッチンもあなたの言う通りにしたでしょう。何が不満なんですか』

 そんなようなことを電話で言ってたはず。
 じゃあ何で、あの時俺にキスなんかした? 『私のものになる覚悟があるなら』連絡してとか、何で言った? ていうか、鳴海さんのものになるってどういうことだよ。俺はてっきり恋人になるってことかと思って、そっちの方向で悩んでたし。
 でもこれって、愛人ってこと?
 俗に言う二号さん? てか鳴海さんって男イケる人? 俺だって本当に男イケんのかって言われたら微妙だけど、でも鳴海さんのことは好きだ。
 鳴海さんがヤクザだからっていう理由で俺は数日悩んでた。正直、キスされたことを意識してから悶えるくらい喜んだ。ただ、将来、弁護士になるって夢があるし、そういう人と関わりを持ってしまうことのリスクをめちゃくちゃ考えた。

 でもそういう次元の話じゃなくない?
 俺の脳内どんだけ甘酸っぱいんだよ。一人で勝手に舞い上がって、恋愛方面に飛び立ってたんだけど。ダサすぎる。

 あーもう! 連絡なんかしないでおこう。
 絶対からかわれたんだ。そうに決まってる。遊び。ギャグ。冗談。
 そうじゃなかったら、おかしいし。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...