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番外編
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それから数ヶ月。鳴海さんが月に1、2度食事に誘ってくれるようになって、何でもないようなことを話していく内に好みが共通していることも分かった。好きな映画、好きな音楽、休日の過ごし方、好きな食べ物、苦手な食べ物、小さい子供が苦手で、特に女の子が苦手。
小さな共通点を見つけては、頭に刻み込んだ。忘れないように。
「美波くんの学部って聞いたっけ?」
「法学部です。でも親が取っとけってうるさいんで、教職も取ってます」
「それってすごく大変なんじゃない? バイトなんかしてる場合じゃないくらいに」
「あー、まあでも本当に教師になりたい訳じゃなくて、そっちは免許さえ取っとけば何も言われないしって感じでやってるんで、それほどでもないです。うちの親が両親共に教師やってて、すげーゴリ押してくるんですよ」
「なるほどね。分からなくもないよ。私も父親と同じような仕事をしているから」
「あ、鳴海さんのお仕事って……?」
「知りたい? きっと聞かなきゃよかったって思うよ」
「知りたい、です」
聞かなきゃよかったって思う仕事って何だろう。全く思い付かない。
「私の父は弁護士でね、まあ数年前に第一線からは退いたんだけど。それまでずっととある組の顧問弁護士をやっていた」
ってことはやっぱり鳴海さんも弁護士なんちゃうん。……ん? とある組? 組って……?
「だから私も同じ道に進むものだと物心の付く頃には思っていたし、それに特に不満もなかった。でも中学へ上がるという時に、幼馴染から言われたんだ。『弁護士になれ。でも弁護士になるな』ってね。訳が分からないと思ったのは一瞬で、すぐに察したよ。弁護士になる勉強をした上で、自分の下で働けと言われてるんだとね」
いくら幼馴染でも、人一人の人生を命令して決めるか、普通。
「その幼馴染は、父が顧問弁護士をしていた組の組長の息子で、将来は父親の組を超える組を自分で作るという野望を持っていた。少しすれ違いがあったせいで、親子仲が良くなかったからね。面白そうだと思ったよ。小学6年生と4年生の子供がする話ではないと、今振り返ると思うけどね」
鳴海さんは少し笑いながら、コーヒーカップに手を伸ばして口に含んだ。
「それから、幼馴染は帝王学や経済学を学ぶような特殊な学校に進んで、私は法律を学んだ。そして今、幼馴染は無事に父親から組を引き継ぎ、私はその組にいる。……分かりやすい言い方をすると、私はヤクザだよ」
「…………」
「何て言おうかなって迷ってる?」
「え、あ……えっと」
「私のことを知って、もう会いたくないと思ったならそうすればいい。止めないよ」
そう言って、鳴海さんは立ち上がった。俺はなぜか一緒に立ち上がることができなくて、ただただ鳴海さんの動きを目で追った。
「……えっ」
まともな反応もできないくらい一瞬の間に、鳴海さんの顔が至近距離にあって。気付いたらキスされていた。驚く暇もなくあっさりと離れていく鳴海さんが優しく笑って言う。
「会いたいと思ったら連絡して。私のものになる覚悟があるならね」
鳴海さんが個室から出て行く。その後ろ姿が見えなくなってから、俺の指は勝手に動いた。自分の唇を撫でる。
コーヒーの匂いが微かにした。
小さな共通点を見つけては、頭に刻み込んだ。忘れないように。
「美波くんの学部って聞いたっけ?」
「法学部です。でも親が取っとけってうるさいんで、教職も取ってます」
「それってすごく大変なんじゃない? バイトなんかしてる場合じゃないくらいに」
「あー、まあでも本当に教師になりたい訳じゃなくて、そっちは免許さえ取っとけば何も言われないしって感じでやってるんで、それほどでもないです。うちの親が両親共に教師やってて、すげーゴリ押してくるんですよ」
「なるほどね。分からなくもないよ。私も父親と同じような仕事をしているから」
「あ、鳴海さんのお仕事って……?」
「知りたい? きっと聞かなきゃよかったって思うよ」
「知りたい、です」
聞かなきゃよかったって思う仕事って何だろう。全く思い付かない。
「私の父は弁護士でね、まあ数年前に第一線からは退いたんだけど。それまでずっととある組の顧問弁護士をやっていた」
ってことはやっぱり鳴海さんも弁護士なんちゃうん。……ん? とある組? 組って……?
「だから私も同じ道に進むものだと物心の付く頃には思っていたし、それに特に不満もなかった。でも中学へ上がるという時に、幼馴染から言われたんだ。『弁護士になれ。でも弁護士になるな』ってね。訳が分からないと思ったのは一瞬で、すぐに察したよ。弁護士になる勉強をした上で、自分の下で働けと言われてるんだとね」
いくら幼馴染でも、人一人の人生を命令して決めるか、普通。
「その幼馴染は、父が顧問弁護士をしていた組の組長の息子で、将来は父親の組を超える組を自分で作るという野望を持っていた。少しすれ違いがあったせいで、親子仲が良くなかったからね。面白そうだと思ったよ。小学6年生と4年生の子供がする話ではないと、今振り返ると思うけどね」
鳴海さんは少し笑いながら、コーヒーカップに手を伸ばして口に含んだ。
「それから、幼馴染は帝王学や経済学を学ぶような特殊な学校に進んで、私は法律を学んだ。そして今、幼馴染は無事に父親から組を引き継ぎ、私はその組にいる。……分かりやすい言い方をすると、私はヤクザだよ」
「…………」
「何て言おうかなって迷ってる?」
「え、あ……えっと」
「私のことを知って、もう会いたくないと思ったならそうすればいい。止めないよ」
そう言って、鳴海さんは立ち上がった。俺はなぜか一緒に立ち上がることができなくて、ただただ鳴海さんの動きを目で追った。
「……えっ」
まともな反応もできないくらい一瞬の間に、鳴海さんの顔が至近距離にあって。気付いたらキスされていた。驚く暇もなくあっさりと離れていく鳴海さんが優しく笑って言う。
「会いたいと思ったら連絡して。私のものになる覚悟があるならね」
鳴海さんが個室から出て行く。その後ろ姿が見えなくなってから、俺の指は勝手に動いた。自分の唇を撫でる。
コーヒーの匂いが微かにした。
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