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本編
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※side美波
花月が帰ってから数分後。俺の携帯が鳴った。液晶に浮かぶ『鳴海さん』の文字。俺は嬉しいような怖いような複雑な気分になりながら、電話に出た。
「……はい」
「電気も付けずに一時間強、花月さんと過ごしていたらしいですね。何をなさっていたんですか?」
「花月が寝不足で、俺と一緒にだったら寝れるかもって言うから寝ていただけです」
「寝ていた? 一緒に? 同じ布団で、という意味ですか?」
「はい」
「……それはそれは、とてもお友達思いなんですね。美波くんは」
ぞっとした。怒っていることがビリビリと伝わってくるくらい、声のトーンが変わったから。でも怒られたところで、俺がしたことは間違っているとは思わないし、また一緒に寝てくれと言われたら絶対にそうする気でいる。
ていうか、俺だって怒ってるんだ。
「あいつがあんな風になったのは、そちらのせいじゃないんですか。花月は何も言わねぇけど、今は組の事務所には住んでないんでしょう? ちょっと勝手なんじゃないですか。花月の気持ちはお構いなしですか? 見張りだけ付けて裏で干渉はするくせに、手は差し伸べてやれないんですか? 花月が寂しがってるんだから、ヤクザだとか関係なしにそばにいてやったらいいじゃないですか。それができないって言うんなら俺が代わりに花月のそばにいます。それから、鳴海さんには申し訳ないですけど、俺らのこともなかったことにして下さい」
「……本気ですか?」
「俺は口先だけじゃないですから。そちらさんとは違って」
言ってやった。言った先から後悔してるけど、撤回はしねぇぞ。俺は間違ってない。
あんな憔悴しきった花月をずっと見てるくらいだったら、俺は鳴海さんとの貴重な時間も全部かけてでもそばにいてやる。あんな健気な奴、他に知らないんだ。幸せになって欲しいと願って何が悪い!
「分かりました。何とかします。……私もどう動くべきか迷っていましたから」
「本当ですか?」
「二人が話をする場を設けるだけです。私が言えた義理ではないですが、花月さんは結城のそばになんていない方が良いと私は考えています。ですから、今回の結城の決断は間違っていないと思っています」
そんなことを俺によく言えたな。自分は俺と付き合ってるくせに。
「ですが、花月さんが結城のそばにいたいと望まれるのであれば話は別です。ご自分で選ばれるのであれば。ね?」
「……そうですね」
「という訳で明日、迎えをやりますから、16時に正門で。花月さんをちゃんと連れて来て下さいね」
「あ、あしたっ!?」
「ええ、明日です。お友達思いの美波くんは花月さんに頼まれれば何でもするようですから。日を置いてまた浮気をされてはかないませんし」
「浮気なんか!」
「していませんか。そうですか。美波くんは私が自室に人を連れ込んで、二人で一緒に寝たという事実を知っても全く不快にはならないと。そういう訳ですか」
「花月は……」
「花月さんは別? ああ、さらに不快な気分になりました。……明日、覚えておいて下さいね。それでは」
……えーっと。
一方的に通話を切られた携帯を眺める。花月にとっては、良い方向に話が進んだんだと思う。うん。……けど俺は最悪!!
鳴海さんと付き合うようになって、半年。弁護士だと勝手に思い込んでた俺が悪いんだけど、好きになってしまってから相手がヤクザだと知った。
それでも俺の鳴海さんへの気持ちは変わらなかったし、今後も好きだと思う。
花月が鳴海さんの組の組長に気に入られたことを知った時には、驚きを通り越して放心した。
どうしても外せない用事が山下さんにできてしまったとかで、鳴海さんが花月を迎えに来た時、働いてない頭で一生懸命初対面の振りをした。その慌てっぷりを鳴海さんにあとで笑われたっけ。
相手がヤクザだと最初から分かった上で、花月は結城さんを好きになった。そしたらもう一緒にいたらいいだろ。そう思えるくらい、花月は毎日楽しそうで、ガリガリだった身体もちょっとだけふっくらしたりして、俺は正直、嬉しかった。
明日、花月は結城さんに会える。どうなるかは分からない。だけど、花月が楽しそうに過ごせるような結果になればいい。心から、そう思う。
……俺は明日たぶん泣かされるけど。
花月が帰ってから数分後。俺の携帯が鳴った。液晶に浮かぶ『鳴海さん』の文字。俺は嬉しいような怖いような複雑な気分になりながら、電話に出た。
「……はい」
「電気も付けずに一時間強、花月さんと過ごしていたらしいですね。何をなさっていたんですか?」
「花月が寝不足で、俺と一緒にだったら寝れるかもって言うから寝ていただけです」
「寝ていた? 一緒に? 同じ布団で、という意味ですか?」
「はい」
「……それはそれは、とてもお友達思いなんですね。美波くんは」
ぞっとした。怒っていることがビリビリと伝わってくるくらい、声のトーンが変わったから。でも怒られたところで、俺がしたことは間違っているとは思わないし、また一緒に寝てくれと言われたら絶対にそうする気でいる。
ていうか、俺だって怒ってるんだ。
「あいつがあんな風になったのは、そちらのせいじゃないんですか。花月は何も言わねぇけど、今は組の事務所には住んでないんでしょう? ちょっと勝手なんじゃないですか。花月の気持ちはお構いなしですか? 見張りだけ付けて裏で干渉はするくせに、手は差し伸べてやれないんですか? 花月が寂しがってるんだから、ヤクザだとか関係なしにそばにいてやったらいいじゃないですか。それができないって言うんなら俺が代わりに花月のそばにいます。それから、鳴海さんには申し訳ないですけど、俺らのこともなかったことにして下さい」
「……本気ですか?」
「俺は口先だけじゃないですから。そちらさんとは違って」
言ってやった。言った先から後悔してるけど、撤回はしねぇぞ。俺は間違ってない。
あんな憔悴しきった花月をずっと見てるくらいだったら、俺は鳴海さんとの貴重な時間も全部かけてでもそばにいてやる。あんな健気な奴、他に知らないんだ。幸せになって欲しいと願って何が悪い!
「分かりました。何とかします。……私もどう動くべきか迷っていましたから」
「本当ですか?」
「二人が話をする場を設けるだけです。私が言えた義理ではないですが、花月さんは結城のそばになんていない方が良いと私は考えています。ですから、今回の結城の決断は間違っていないと思っています」
そんなことを俺によく言えたな。自分は俺と付き合ってるくせに。
「ですが、花月さんが結城のそばにいたいと望まれるのであれば話は別です。ご自分で選ばれるのであれば。ね?」
「……そうですね」
「という訳で明日、迎えをやりますから、16時に正門で。花月さんをちゃんと連れて来て下さいね」
「あ、あしたっ!?」
「ええ、明日です。お友達思いの美波くんは花月さんに頼まれれば何でもするようですから。日を置いてまた浮気をされてはかないませんし」
「浮気なんか!」
「していませんか。そうですか。美波くんは私が自室に人を連れ込んで、二人で一緒に寝たという事実を知っても全く不快にはならないと。そういう訳ですか」
「花月は……」
「花月さんは別? ああ、さらに不快な気分になりました。……明日、覚えておいて下さいね。それでは」
……えーっと。
一方的に通話を切られた携帯を眺める。花月にとっては、良い方向に話が進んだんだと思う。うん。……けど俺は最悪!!
鳴海さんと付き合うようになって、半年。弁護士だと勝手に思い込んでた俺が悪いんだけど、好きになってしまってから相手がヤクザだと知った。
それでも俺の鳴海さんへの気持ちは変わらなかったし、今後も好きだと思う。
花月が鳴海さんの組の組長に気に入られたことを知った時には、驚きを通り越して放心した。
どうしても外せない用事が山下さんにできてしまったとかで、鳴海さんが花月を迎えに来た時、働いてない頭で一生懸命初対面の振りをした。その慌てっぷりを鳴海さんにあとで笑われたっけ。
相手がヤクザだと最初から分かった上で、花月は結城さんを好きになった。そしたらもう一緒にいたらいいだろ。そう思えるくらい、花月は毎日楽しそうで、ガリガリだった身体もちょっとだけふっくらしたりして、俺は正直、嬉しかった。
明日、花月は結城さんに会える。どうなるかは分からない。だけど、花月が楽しそうに過ごせるような結果になればいい。心から、そう思う。
……俺は明日たぶん泣かされるけど。
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