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本編
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「こんなに残して……もう食えねぇのか? どんどん顔色も悪くなっていってるし、どうした?」
真守が心配そうに俺の方を見ている。それを他人事みたいに感じてしまう俺って何なんだろう。
食欲はない。まともに食べれる物は冷たいうどんくらいで、あの家でも夕食だけはどうにかこうにか食べるけど結局あとで吐いてしまう。夜もしっかり眠れたことがない。
ああもうどうしよう。結城に会いたい。結城に触れられたい。あの腕に抱きしめられて、結城の匂いに包まれたら、きっと眠れる。あの部屋で、山下さんが作ってくれたご飯だったらきっと食べられる。
結城のところに帰りたい。だけど、結城はもう俺のことなんかいらねぇだろ?
「……花月?」
「なあ、俺そんな顔色悪い?」
「ぱっと見で分かるくらいな。顔もげっそりしてるし。お前が連絡もなしに大学休んだ日から、どんどん悪くなっていってるぞ。何かあったんだろ?」
「……寝不足なんだ」
「眠れねぇのか?」
「まともに寝れた感じはないなぁ。たまにふっと気を失ったみたいに寝てる時はある」
「もう三週間は経つぞ。その間まともに眠ることも食べることもできないのか?」
「うん……正直しんどい」
夜ベッドに入って、目を閉じると、俺を見る冷たい目をした結城の顔が浮かぶ。それが嫌で目を開けると、もう目の前にはない結城の寝顔を思い出す。何にも考えたくなくて本を読んでいたら、朝が来る。そんな感じ。
「真守。頼みがあんだけど」
「何? 俺にできることだったら何でも」
「俺と一緒に寝てくれ」
「……は?」
ちょっと考えるような顔をしたあと、分かったと頷いてくれた。
講義が全部終わってから、真守が一人で暮らしている部屋にお邪魔した。早速二人でベッドに入る。シングルベッドだから狭い。でもでっかいベッドに一人で寝るより居心地がいい気がする。
仰向けに寝転ぶ真守の隣で、真守の方を向いて横向きに寝転ぶ俺。何となく、隣に人がいるっていう温かさに安心感を覚えて、俺は自然と目を閉じた。
「眠れそうか?」
真守の声と一緒に、ゴソゴソと体勢を変える気配を感じた。目を開けて見ると、真守は俺の方を向いて横になって、肘を立てて頭を支える格好になっていて、俺と目が合うとフッと笑った。
「目は瞑ってろ」
ふわっと髪を撫でられる感覚に涙が出そうになって、俺はギュッと目を瞑った。
こんな風に真守に撫でられても、やっぱり俺の脳裏に浮かぶのは結城で。俺が頼んで一緒に寝てくれているのに、これが結城だったらなんて考えてしまう。
何でこんなにも好きになってしまったんだろう。一緒に過ごしたのなんて、せいぜい二ヶ月ちょっと。それでも、結城の代わりなんかどこにも見つかないくらい大切な存在になった。
ヤクザでもいい。人殺しでもいい。何でもいいから、結城に愛されたい。優しくされたい。あの鋭い目で見つめて、甘い声で俺の名前を呼んで欲しい。
そんなことを考えている内に、いつの間にか寝ていたらしい。真守の部屋に来てから一時間も経っていないけど、あれ以来、初めてまともに眠れた。何となく頭もスッキリしたような気がする。
「……ん。あ、俺が寝てた。ごめん」
「俺も寝てたから。ありがとう。久々にちゃんと寝れたよ」
「本当か? まだ全然時間経ってねぇけど」
「うん。でも楽になった」
「じゃあいいけど。こんなことで寝れるんなら、また来いよ。いつでも添い寝してやるから」
冗談に聞こえるように言ってるけど、本当に俺を気遣って言ってくれていることが表情で分かる。もう今年でハタチになる男が一人で眠れないことを笑うこともなく受け入れて、添い寝してやると言ってくれる友達が他にいるだろうか。
「ありがとうな。また頼む」
真守が心配そうに俺の方を見ている。それを他人事みたいに感じてしまう俺って何なんだろう。
食欲はない。まともに食べれる物は冷たいうどんくらいで、あの家でも夕食だけはどうにかこうにか食べるけど結局あとで吐いてしまう。夜もしっかり眠れたことがない。
ああもうどうしよう。結城に会いたい。結城に触れられたい。あの腕に抱きしめられて、結城の匂いに包まれたら、きっと眠れる。あの部屋で、山下さんが作ってくれたご飯だったらきっと食べられる。
結城のところに帰りたい。だけど、結城はもう俺のことなんかいらねぇだろ?
「……花月?」
「なあ、俺そんな顔色悪い?」
「ぱっと見で分かるくらいな。顔もげっそりしてるし。お前が連絡もなしに大学休んだ日から、どんどん悪くなっていってるぞ。何かあったんだろ?」
「……寝不足なんだ」
「眠れねぇのか?」
「まともに寝れた感じはないなぁ。たまにふっと気を失ったみたいに寝てる時はある」
「もう三週間は経つぞ。その間まともに眠ることも食べることもできないのか?」
「うん……正直しんどい」
夜ベッドに入って、目を閉じると、俺を見る冷たい目をした結城の顔が浮かぶ。それが嫌で目を開けると、もう目の前にはない結城の寝顔を思い出す。何にも考えたくなくて本を読んでいたら、朝が来る。そんな感じ。
「真守。頼みがあんだけど」
「何? 俺にできることだったら何でも」
「俺と一緒に寝てくれ」
「……は?」
ちょっと考えるような顔をしたあと、分かったと頷いてくれた。
講義が全部終わってから、真守が一人で暮らしている部屋にお邪魔した。早速二人でベッドに入る。シングルベッドだから狭い。でもでっかいベッドに一人で寝るより居心地がいい気がする。
仰向けに寝転ぶ真守の隣で、真守の方を向いて横向きに寝転ぶ俺。何となく、隣に人がいるっていう温かさに安心感を覚えて、俺は自然と目を閉じた。
「眠れそうか?」
真守の声と一緒に、ゴソゴソと体勢を変える気配を感じた。目を開けて見ると、真守は俺の方を向いて横になって、肘を立てて頭を支える格好になっていて、俺と目が合うとフッと笑った。
「目は瞑ってろ」
ふわっと髪を撫でられる感覚に涙が出そうになって、俺はギュッと目を瞑った。
こんな風に真守に撫でられても、やっぱり俺の脳裏に浮かぶのは結城で。俺が頼んで一緒に寝てくれているのに、これが結城だったらなんて考えてしまう。
何でこんなにも好きになってしまったんだろう。一緒に過ごしたのなんて、せいぜい二ヶ月ちょっと。それでも、結城の代わりなんかどこにも見つかないくらい大切な存在になった。
ヤクザでもいい。人殺しでもいい。何でもいいから、結城に愛されたい。優しくされたい。あの鋭い目で見つめて、甘い声で俺の名前を呼んで欲しい。
そんなことを考えている内に、いつの間にか寝ていたらしい。真守の部屋に来てから一時間も経っていないけど、あれ以来、初めてまともに眠れた。何となく頭もスッキリしたような気がする。
「……ん。あ、俺が寝てた。ごめん」
「俺も寝てたから。ありがとう。久々にちゃんと寝れたよ」
「本当か? まだ全然時間経ってねぇけど」
「うん。でも楽になった」
「じゃあいいけど。こんなことで寝れるんなら、また来いよ。いつでも添い寝してやるから」
冗談に聞こえるように言ってるけど、本当に俺を気遣って言ってくれていることが表情で分かる。もう今年でハタチになる男が一人で眠れないことを笑うこともなく受け入れて、添い寝してやると言ってくれる友達が他にいるだろうか。
「ありがとうな。また頼む」
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