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本編
4-2
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※side山下
「お前の右手……腱も神経も切られてた。手術で縫合はしたらしいけど、手術が終わって10時間近く経ってんのに、痛みが無いんなら再手術が必要になるかもしれねぇ。とにかく先生に言って来るから、お前は休んどけ。花月さんのことはそれからだ」
風見さんの言葉が遠くに聞こえた。包帯でグルグル巻きにされた『それ』は、俺の右手やないみたいで……唯一包帯から出とる親指を動かそうとしても、ピクリともせんかった。
「風見さん」
「何だ? 何か欲しい物でもあるか? ついでに……」
「俺の手、このまま動かんかったら何の戦力にもなれませんね。かしらみたいに頭がええ訳でもない。組長みたいに力がある訳でもない。引き鉄すら引けへん役立たず、風見さんのそばにおったかて……」
そう口走ってから、後悔した。
俺の言葉を聞いた風見さんの顔が辛そうに歪む。何ちゅうことを風見さんに言うてしまったんやろう。
風見さんは、俺が結城組に入ったことを自分のせいやとずっと責め続けてはるのに。自分が極道の道に引きずり込んで、俺の人生を狂わせたくらいに思てはるのに。
俺が負傷したことかって、絶対に自分のせいやと思ってるはずや。そんな人に向かって、俺は……。
「悪かった……山下、本当にすまなかった……! 俺がもっと早く、お前を元の生活に戻してたらこんなことには……俺のせいだ。俺が、お前の将来を潰した。何を言っても、何をしても償えるもんじゃねぇ。お前の気が済むなら、俺の両腕切り落としてもいい。だから、どうか再手術を受けて、リハビリしてくれ。辛かったら、俺を殴っても何してもかまわねぇし、お前のために何でもするから……頼むから、自分に価値がないと思わないでくれ」
ああ、どうしよう。何て言うたら風見さんは自分を許しはるんやろう。俺が風見さんのせいやないって言ったかて、説得力が無い。
俺は風見さんに出逢ってなかったら、極道者になろうなんか思いもせんかったやろう。風見さんのそばにおりたいって一心で、風見さんを支えたいってそれだけで、俺は結城組に入ることを選んだ。風見さんが自分が引きずり込んだと思ったって仕方ない。
せやからこそ、俺は強くなろうって誓ったのに。『俺にはこの道が一番向いてたんですよ』って言えるくらいに、力が欲しかったのに。
「俺は、こんなんになっても、風見さんにとって……価値があると思てもらえる人間ですか?」
結局はそういうことや。俺の価値なんか、風見さんの気持ち次第。もし風見さんが俺を必要やと思ってくれるんやったら、俺は死んでも死なん。逆に、風見さんが俺をいらんって言うんやったら、俺は俺なんぞいらん。
依存しとるって分かっとる。せやけど、俺は風見さんが好きで、好きで、どんな形でもいいからそばにおりたくて、俺の気持ちを受け入れてくれんくても構わへんから、風見さんの笑顔を俺は見たいだけなんや。
「当たり前だろ。お前がいるから、俺は前だけ向いていられるんだぞ。俺が心底信用できるのはお前だけだ。だから、手放したくなくて、ずっとそばに置いておきたくて……お前を元の生活に戻してやらなねぇとって分かっていたのに、先延ばしにしてきた。俺の我儘で……」
「俺、めっちゃ嬉しいです」
風見さんの言葉を遮るように、俺は声を出してしまった。まだ喋ってはるのに、それでも口からポロっと出てしまった。
「風見さんのは我儘なんかやないです。言うたでしょ。俺が風見さんのそばにおりたいんです。風見さんのためになるんやったら、こんなケガくらいチャッと治して俺もっと強くなります。せやからもっと俺を必要として下さい。もっと寄りかかって下さい。それは俺にとってはただただ幸せなことですから」
「……本当に、馬鹿野郎だな」
風見さんの顔は見えへん。俯いてはるから。それでも、声で分かる。きっと笑ってくれてる。
「お前の手、治らねぇと困る」
「はい。必ず治します」
「リハビリは俺も手伝うから……それで……」
言い出しにくそうに、俺の顔を見たり、目を逸らしたり、なんかソワソワしてはる風見さん。何それ。めっちゃ可愛いんですけど。
「風見さん?」
「あー……色々、不便だろうし、退院したら、また俺の部屋に住めばいい」
「え。あの、ええんですか? ケツが心配やから俺と住むんは嫌や言わはったやないですか。言うときますけど、俺の気持ちは変わってないですよ」
「……三年も経てば、俺の気は変わる」
「え! あの、それってつまり」
「そういうことだから、早く手を治せ」
「風見さん! ここまできて濁すんはなしです。はっきり答えて下さい! 俺の手が治ったら、俺に抱かれてくれるんですね?」
「おう……お前の手が治ったら、俺はお前に抱かれても、いい」
「同情とかやないですよね? 俺のこと、俺とおんなじ気持ちで、好きになってくれたってことですよね? 俺の恋人になってくれるんですよね?」
「情けない顔すんな。……お前のことは、三年前から好きだった。ただ、俺は男に抱かれる気はなかったし、お前も組に入ってからそういうことは一切言わなかったし、俺から離れたくなった時にお前の足を引っ張りたくはなかったから、伝える気はなかった。でも、お前が俺のそばにいることを幸せだと言ってくれるなら、お前に抱かれてもいい。そう思えるくらいには、俺の気持ちもこの三年で変わった。……お前の方こそ覚悟はいいだろうな? 俺はもう二度とお前を元の生活に戻してやろうなんざ思わねぇぞ」
「はい! 一生付いていきます! 風見さんこそ覚悟して下さいよ。俺めっちゃエロいですからね。三年間も妄想だけで我慢してきたんですから」
「治ったら、な」
風見さんはフッと笑って病室から出て行った。何なんもう! その笑顔だけでやばいねんけど! なんでこんな展開になったん? 嘘やん。めっちゃ幸せすぎる。手とかもう速攻で治したんねん。退院したら同棲やしやばい!
……とか、一通り幸せに浸ったあと思った。花月さんと組長は、今どんな気持ちで過ごしてはんねやろ。花月さん、ちゃんとご飯食べてはるんやろかって。
「お前の右手……腱も神経も切られてた。手術で縫合はしたらしいけど、手術が終わって10時間近く経ってんのに、痛みが無いんなら再手術が必要になるかもしれねぇ。とにかく先生に言って来るから、お前は休んどけ。花月さんのことはそれからだ」
風見さんの言葉が遠くに聞こえた。包帯でグルグル巻きにされた『それ』は、俺の右手やないみたいで……唯一包帯から出とる親指を動かそうとしても、ピクリともせんかった。
「風見さん」
「何だ? 何か欲しい物でもあるか? ついでに……」
「俺の手、このまま動かんかったら何の戦力にもなれませんね。かしらみたいに頭がええ訳でもない。組長みたいに力がある訳でもない。引き鉄すら引けへん役立たず、風見さんのそばにおったかて……」
そう口走ってから、後悔した。
俺の言葉を聞いた風見さんの顔が辛そうに歪む。何ちゅうことを風見さんに言うてしまったんやろう。
風見さんは、俺が結城組に入ったことを自分のせいやとずっと責め続けてはるのに。自分が極道の道に引きずり込んで、俺の人生を狂わせたくらいに思てはるのに。
俺が負傷したことかって、絶対に自分のせいやと思ってるはずや。そんな人に向かって、俺は……。
「悪かった……山下、本当にすまなかった……! 俺がもっと早く、お前を元の生活に戻してたらこんなことには……俺のせいだ。俺が、お前の将来を潰した。何を言っても、何をしても償えるもんじゃねぇ。お前の気が済むなら、俺の両腕切り落としてもいい。だから、どうか再手術を受けて、リハビリしてくれ。辛かったら、俺を殴っても何してもかまわねぇし、お前のために何でもするから……頼むから、自分に価値がないと思わないでくれ」
ああ、どうしよう。何て言うたら風見さんは自分を許しはるんやろう。俺が風見さんのせいやないって言ったかて、説得力が無い。
俺は風見さんに出逢ってなかったら、極道者になろうなんか思いもせんかったやろう。風見さんのそばにおりたいって一心で、風見さんを支えたいってそれだけで、俺は結城組に入ることを選んだ。風見さんが自分が引きずり込んだと思ったって仕方ない。
せやからこそ、俺は強くなろうって誓ったのに。『俺にはこの道が一番向いてたんですよ』って言えるくらいに、力が欲しかったのに。
「俺は、こんなんになっても、風見さんにとって……価値があると思てもらえる人間ですか?」
結局はそういうことや。俺の価値なんか、風見さんの気持ち次第。もし風見さんが俺を必要やと思ってくれるんやったら、俺は死んでも死なん。逆に、風見さんが俺をいらんって言うんやったら、俺は俺なんぞいらん。
依存しとるって分かっとる。せやけど、俺は風見さんが好きで、好きで、どんな形でもいいからそばにおりたくて、俺の気持ちを受け入れてくれんくても構わへんから、風見さんの笑顔を俺は見たいだけなんや。
「当たり前だろ。お前がいるから、俺は前だけ向いていられるんだぞ。俺が心底信用できるのはお前だけだ。だから、手放したくなくて、ずっとそばに置いておきたくて……お前を元の生活に戻してやらなねぇとって分かっていたのに、先延ばしにしてきた。俺の我儘で……」
「俺、めっちゃ嬉しいです」
風見さんの言葉を遮るように、俺は声を出してしまった。まだ喋ってはるのに、それでも口からポロっと出てしまった。
「風見さんのは我儘なんかやないです。言うたでしょ。俺が風見さんのそばにおりたいんです。風見さんのためになるんやったら、こんなケガくらいチャッと治して俺もっと強くなります。せやからもっと俺を必要として下さい。もっと寄りかかって下さい。それは俺にとってはただただ幸せなことですから」
「……本当に、馬鹿野郎だな」
風見さんの顔は見えへん。俯いてはるから。それでも、声で分かる。きっと笑ってくれてる。
「お前の手、治らねぇと困る」
「はい。必ず治します」
「リハビリは俺も手伝うから……それで……」
言い出しにくそうに、俺の顔を見たり、目を逸らしたり、なんかソワソワしてはる風見さん。何それ。めっちゃ可愛いんですけど。
「風見さん?」
「あー……色々、不便だろうし、退院したら、また俺の部屋に住めばいい」
「え。あの、ええんですか? ケツが心配やから俺と住むんは嫌や言わはったやないですか。言うときますけど、俺の気持ちは変わってないですよ」
「……三年も経てば、俺の気は変わる」
「え! あの、それってつまり」
「そういうことだから、早く手を治せ」
「風見さん! ここまできて濁すんはなしです。はっきり答えて下さい! 俺の手が治ったら、俺に抱かれてくれるんですね?」
「おう……お前の手が治ったら、俺はお前に抱かれても、いい」
「同情とかやないですよね? 俺のこと、俺とおんなじ気持ちで、好きになってくれたってことですよね? 俺の恋人になってくれるんですよね?」
「情けない顔すんな。……お前のことは、三年前から好きだった。ただ、俺は男に抱かれる気はなかったし、お前も組に入ってからそういうことは一切言わなかったし、俺から離れたくなった時にお前の足を引っ張りたくはなかったから、伝える気はなかった。でも、お前が俺のそばにいることを幸せだと言ってくれるなら、お前に抱かれてもいい。そう思えるくらいには、俺の気持ちもこの三年で変わった。……お前の方こそ覚悟はいいだろうな? 俺はもう二度とお前を元の生活に戻してやろうなんざ思わねぇぞ」
「はい! 一生付いていきます! 風見さんこそ覚悟して下さいよ。俺めっちゃエロいですからね。三年間も妄想だけで我慢してきたんですから」
「治ったら、な」
風見さんはフッと笑って病室から出て行った。何なんもう! その笑顔だけでやばいねんけど! なんでこんな展開になったん? 嘘やん。めっちゃ幸せすぎる。手とかもう速攻で治したんねん。退院したら同棲やしやばい!
……とか、一通り幸せに浸ったあと思った。花月さんと組長は、今どんな気持ちで過ごしてはんねやろ。花月さん、ちゃんとご飯食べてはるんやろかって。
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