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本編
4-1
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「……花月。今日は来たんだな」
「おはよ」
「昨日はなんで休んだん……っつーかお前携帯どうしたんだよ。昨日何回かかけたのにずっと電源が入ってないって繋がらなかったぞ」
真守が心配そうに俺の顔を観察しながら隣の席に座った。……そうか。結局大学を休んだのは一日だけだったんだな。
大学から帰ろうとして、誘拐されて、数時間監禁された。それから真夜中に母親の家に行った。そのあと、母親の夫……つまりは俺の父親になってくれる人にも会って、色々話した。養子縁組のこととか。今後のこととか。
昨日は、朝から母親に連れ出されて、洋服やら何やら買い物に行った。本当に嬉しそうに俺に接する母親を見て、申し訳なさそうに『今日だけ付き合ってやってもらえるかな』と父親から頼まれた。
前の日に誘拐なんてされていたのが嘘みたいに穏やかで、楽しい時間だった。
「携帯な、やっぱり解約したんだ。だからまた連絡とかあったら頼むわ。ごめんな」
あのスマホ、どうなったんだろう。
バキバキに割れたスマホなんて、誰も拾ってくれてないかな。あとで支援課に行って聞いてみよう。
唯一の結城との繋がり……なんて意味ないか。
「それはいいけど……お前大丈夫か? 顔色すげー悪いぞ」
「あー……ちょっと寝不足で。寝たら治る」
「じゃあいいけど。あんまり無理すんなよ?」
「ありがとな。それより昨日のノート見せてくれ」
母親の家に用意された俺の部屋は、かなり広くて、ベッドも大きくて、静かで、落ち着けなかった。おかげで二晩続けてまともに眠れていない。
あんな空間にいるくらいなら、クローゼットにドラえもん状態で寝た方がよっぽどマシだと思う。
でもそれを実行しないのは、俺が眠れない理由なんて結城がいないという、たったそれだけのことなんじゃないかって。広いとか静かとかそんなんじゃなくて、ただ寂しいからだって思い知りたくないから。
※side山下
「……風見、さん」
「やっと起きたか」
力の抜けたみたいな顔。まるでホッとしたみたいな……って!
「花月さんは!?」
「ご無事だ。捕まりはしたけど、怪我はなかったらしい」
「……よかったあー……!」
花月さんの大学で三人に襲われて……手を刺されて。花月さんを逃がしたはええけど、一人しか足止めすることができんかった。いや、その一人は俺が足止めをしたんやなくて……俺が、そいつに足止めを食らったんや。俺が不甲斐なかったばっかりに、怖い思いをさせてしもた。
「……俺の処分はどうなりますか?」
「お咎めなしだ。花月さんに感謝しろ。お前が責任を負わされないように、お前を守ってくれって組長のご友人に頼んで下さったらしい。あと、お前に『逃げてごめんなさい。守ってくれてありがとう』って伝言と」
違和感を感じた。俺が処分を受けへんようにって、花月さんが考えてくれるんは分かる。そういう人や。結局は守ることができんかった俺に対しても感謝をしてくれるような人。
せやけど、それを誰かに頼むような人ではない。ましてや組長に進言するんやったら尚更、自分で言わはるやろう。
それができへんような状態ってことか?
「花月さん、今どうしてはるんですか?」
「出て行かれたそうだ。どこへかは知らねぇが。ただ『ここよりよっぽどいいとこだ』とだけしか組長は仰らなかった」
「それは……花月さんの意思で?」
「そんなことは、俺らが気にすることじゃねぇよ」
「そんなことって……」
「そんなことより!」
俺の言葉を遮って、風見さんが大きい声を出した。苛立った表情に、俺は何も言えんようになる。
「お前の手、痛みはあるか……?」
そう聞かれて、初めて気が付いた。
ナイフで深く切られたはずの右手の痛みが全くないことに。
「おはよ」
「昨日はなんで休んだん……っつーかお前携帯どうしたんだよ。昨日何回かかけたのにずっと電源が入ってないって繋がらなかったぞ」
真守が心配そうに俺の顔を観察しながら隣の席に座った。……そうか。結局大学を休んだのは一日だけだったんだな。
大学から帰ろうとして、誘拐されて、数時間監禁された。それから真夜中に母親の家に行った。そのあと、母親の夫……つまりは俺の父親になってくれる人にも会って、色々話した。養子縁組のこととか。今後のこととか。
昨日は、朝から母親に連れ出されて、洋服やら何やら買い物に行った。本当に嬉しそうに俺に接する母親を見て、申し訳なさそうに『今日だけ付き合ってやってもらえるかな』と父親から頼まれた。
前の日に誘拐なんてされていたのが嘘みたいに穏やかで、楽しい時間だった。
「携帯な、やっぱり解約したんだ。だからまた連絡とかあったら頼むわ。ごめんな」
あのスマホ、どうなったんだろう。
バキバキに割れたスマホなんて、誰も拾ってくれてないかな。あとで支援課に行って聞いてみよう。
唯一の結城との繋がり……なんて意味ないか。
「それはいいけど……お前大丈夫か? 顔色すげー悪いぞ」
「あー……ちょっと寝不足で。寝たら治る」
「じゃあいいけど。あんまり無理すんなよ?」
「ありがとな。それより昨日のノート見せてくれ」
母親の家に用意された俺の部屋は、かなり広くて、ベッドも大きくて、静かで、落ち着けなかった。おかげで二晩続けてまともに眠れていない。
あんな空間にいるくらいなら、クローゼットにドラえもん状態で寝た方がよっぽどマシだと思う。
でもそれを実行しないのは、俺が眠れない理由なんて結城がいないという、たったそれだけのことなんじゃないかって。広いとか静かとかそんなんじゃなくて、ただ寂しいからだって思い知りたくないから。
※side山下
「……風見、さん」
「やっと起きたか」
力の抜けたみたいな顔。まるでホッとしたみたいな……って!
「花月さんは!?」
「ご無事だ。捕まりはしたけど、怪我はなかったらしい」
「……よかったあー……!」
花月さんの大学で三人に襲われて……手を刺されて。花月さんを逃がしたはええけど、一人しか足止めすることができんかった。いや、その一人は俺が足止めをしたんやなくて……俺が、そいつに足止めを食らったんや。俺が不甲斐なかったばっかりに、怖い思いをさせてしもた。
「……俺の処分はどうなりますか?」
「お咎めなしだ。花月さんに感謝しろ。お前が責任を負わされないように、お前を守ってくれって組長のご友人に頼んで下さったらしい。あと、お前に『逃げてごめんなさい。守ってくれてありがとう』って伝言と」
違和感を感じた。俺が処分を受けへんようにって、花月さんが考えてくれるんは分かる。そういう人や。結局は守ることができんかった俺に対しても感謝をしてくれるような人。
せやけど、それを誰かに頼むような人ではない。ましてや組長に進言するんやったら尚更、自分で言わはるやろう。
それができへんような状態ってことか?
「花月さん、今どうしてはるんですか?」
「出て行かれたそうだ。どこへかは知らねぇが。ただ『ここよりよっぽどいいとこだ』とだけしか組長は仰らなかった」
「それは……花月さんの意思で?」
「そんなことは、俺らが気にすることじゃねぇよ」
「そんなことって……」
「そんなことより!」
俺の言葉を遮って、風見さんが大きい声を出した。苛立った表情に、俺は何も言えんようになる。
「お前の手、痛みはあるか……?」
そう聞かれて、初めて気が付いた。
ナイフで深く切られたはずの右手の痛みが全くないことに。
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